16,040
回編集
細編集の要約なし |
細編集の要約なし |
||
1行目: | 1行目: | ||
英:Signal Transducers and Activator of Transcription 3、英略語:STAT3 | 英:Signal Transducers and Activator of Transcription 3、英略語:STAT3 | ||
[シグナル伝達]]と[[wikipedia:ja:転写|転写]]活性化を行うことで、[[分化]]や生存、[[増殖]]などを調節するタンパク質の一群、Signal Transducers and Activator of Transcription (STAT) | [シグナル伝達]]と[[wikipedia:ja:転写|転写]]活性化を行うことで、[[分化]]や生存、[[増殖]]などを調節するタンパク質の一群、Signal Transducers and Activator of Transcription (STAT) ファミリー分子の一つ。STAT3は非活性化状態時では[[細胞質]]に局在するが、活性化した[[Janus kinase]]([[JAK]])によって[[チロシンリン酸化]]を受け、核内移行し標的遺伝子を活性化する[[転写因子]]として働く。この活性化経路は[[JAK/STAT経路]]と呼ばれている<ref><pubmed> 15225360 </pubmed></ref>。 | ||
[[ | ==ファミリー== | ||
これまでSTATファミリー分子としては、[[STAT1]]、[[STAT2]]、STAT3、[[STAT4]]、[[STAT5A]]、[[STAT5B]]、[[STAT6]]の7種類が報告されている<ref><pubmed> 8608586 </pubmed></ref><ref><pubmed> 9418183 </pubmed></ref>。 | |||
==構造== | |||
[[Image:2.jpg|thumb|350px|'''図2.STAT3の構造'''<br>SH2ドメインは信号伝達鎖内のリン酸化チロシン残基を認識、結合する機能を持つ。コイルド-コイルドメインは4つのα-ヘリックスから成り、STAT3がSH2ドメインを介して信号伝達鎖と結合し、活性化されるために必須な領域として知られる。核局在化シグナル(NLS)は細胞質内で二量体化したSTAT3が核内に輸送されるために必要な配列である。DNA結合ドメインは活性化STAT3が標的DNA配列に結合する役割を有する。]] | [[Image:2.jpg|thumb|350px|'''図2.STAT3の構造'''<br>SH2ドメインは信号伝達鎖内のリン酸化チロシン残基を認識、結合する機能を持つ。コイルド-コイルドメインは4つのα-ヘリックスから成り、STAT3がSH2ドメインを介して信号伝達鎖と結合し、活性化されるために必須な領域として知られる。核局在化シグナル(NLS)は細胞質内で二量体化したSTAT3が核内に輸送されるために必要な配列である。DNA結合ドメインは活性化STAT3が標的DNA配列に結合する役割を有する。]] | ||
STAT3はマウスでは770アミノ酸残基から構成される。SH2ドメインは信号伝達鎖内のリン酸化チロシン残基を認識、結合する機能を持つ。コイルド-コイルドメインは4つのα-ヘリックスから成り、STAT3がSH2ドメインを介して信号伝達鎖と結合し、活性化されるために必須な領域として知られる。核局在化シグナル(NLS)は細胞質内で二量体化したSTAT3が核内に輸送されるために必要な配列である。DNA結合ドメインは活性化STAT3が標的DNA配列に結合する役割を有する。またリン酸化を受けることでSTAT3の活性に関わる705番目のチロシン残基と727番目のセリン残基を有する。 チロシンリン酸化されたSTAT3分子はホモ二量体あるいは異なるSTATファミリー分子間でヘテロ二量体を形成する。図2には例として、マウスSTAT3の構造を示した。 | |||
==発現== | |||
(編集コメント:組織発現、細胞内発現について御記述いただければ幸いです。) | |||
[http://mouse.brain-map.org/experiment/show/2637 STAT3]は | |||
[[Image:1.jpg|thumb|350px|'''図1.IL-6ファミリーサイトカイン群と受容体'''<br>IL-6ファミリーサイトカインはそれぞれに特異的な受容体に結合し、共通信号伝達鎖gp130を含んだ受容体複合体を形成する。IL-6受容体(IL-6R)、IL-11R、CNTFRは可溶性の形態(sIL-6R、sIL-11R、sCNTFR)でも受容体複合体形成を可能とする。IL-6、IL-11はgp130同士のホモ二量体、LIF、CNTF、CT-1はgp130/LIFRとのヘテロ二量体形成を誘導する。CT-1受容体(CT-1R)はCT-1の結合によりgp130/LIFRとのヘテロ二量体を形成する。OSMはOSMRまたはLIFRとgp130とのヘテロ二量体化を誘導する。]] | |||
[[Image:3.jpg|thumb|350px|'''図3.IL-6ファミリーサイトカインシグナルによるGFAP遺伝子の発現'''<br>IL-6ファミリーのシグナルによりSTAT3がリン酸化を受け、活性化される。活性化されたSTAT3はSTAT3同士でホモ二量体または他のSTATとヘテロ二量体を形成し、核内に移行後、GFAPプロモーター中のSTAT3認識配列に結合し、転写を誘導する。IL-6ファミリーに属する全てのサイトカインはSTAT3を活性化し、GFAPの転写を誘導することが明らかになっている。ここではLIFによるものを示した。]] | [[Image:3.jpg|thumb|350px|'''図3.IL-6ファミリーサイトカインシグナルによるGFAP遺伝子の発現'''<br>IL-6ファミリーのシグナルによりSTAT3がリン酸化を受け、活性化される。活性化されたSTAT3はSTAT3同士でホモ二量体または他のSTATとヘテロ二量体を形成し、核内に移行後、GFAPプロモーター中のSTAT3認識配列に結合し、転写を誘導する。IL-6ファミリーに属する全てのサイトカインはSTAT3を活性化し、GFAPの転写を誘導することが明らかになっている。ここではLIFによるものを示した。]] | ||
== | ==活性化機構== | ||
[[wikipedia:ja:免疫|免疫]]系に作用する[[wikipedia:ja:サイトカイン|サイトカイン]]として同定された[[インターロイキン-6]] ([[interleukin-6]], [[IL-6]]) は、信号伝達に必須な[[受容体]]コンポーネントとして[[wikipedia:ja:膜タンパク質|膜タンパク質]]glycoprotein 130 ([[gp130]]) を共通に利用するIL-6ファミリーサイトカインの一つである。IL-6ファミリーサイトカインには他にも、[[インターロイキン-11]]IL-11、[[オンコスタチンM]] ([[oncostatin M]], [[OSM]])、[[白血病抑制因子]] ([[Leukemia Inhibitory Factor]], [[LIF]])、[[カルジオトロピン-1]] ([[cardiotrophin-1]], [[CT-1]])、[[毛様体由来神経栄養因子]] ([[Ciliary Neurotrophic Factor]], [[CNTF]]) などが含まれる<ref name="ref4"><pubmed> 11820727 </pubmed></ref>。IL-6ファミリーサイトカインは、[[細胞膜]]上のサイトカイン特異的受容体と結合することで、IL-6ファミリーサイトカインに共通かつ必須の信号伝達因子であるgp130を含む信号伝達鎖の二量体化を引き起こす(図1)。 | |||
その後、信号伝達鎖の細胞内領域に会合するJAKチロシンキナーゼが活性化され、信号伝達鎖の細胞内領域中のチロシン残基をリン酸化する。リン酸化されたチロシン残基に、転写因子STAT3が自身の[[Src homology 2]] ([[SH2]]) ドメインを介して会合、近接したJAKにより705番目の[[wikipedia:ja:チロシン|チロシン]]残基が[[リン酸化]]を受けることで活性化する<ref><pubmed> 9685167 </pubmed></ref>。 | |||
チロシンリン酸化されたSTAT3分子はホモ二量体あるいは異なるSTATファミリー分子間でヘテロ二量体を形成し核へ移行した後、標的遺伝子の転写を誘導する。JAK/STAT3経路はIL-6ファミリーや[[insulin-like growth factor-1]] ([[IGF-1]]) など複数のサイトカインや増殖因子の刺激により活性化することが知られている<ref name="ref1"><pubmed> 10486560 </pubmed></ref><ref name="ref2"><pubmed> 22772901 </pubmed></ref><ref name="ref3"><pubmed> 15998644 </pubmed></ref>。 | |||
== | == 神経系での機能== | ||
===アストロサイト分化誘導 === | ===アストロサイト分化誘導 === |