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細 (ページの作成:「英語名:hippocampus 海馬は大脳側頭葉の内側部で側脳室下角底部に位置し、エピソード記憶等の顕在性記憶の形成に不可欠な...」) |
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== 海馬と記憶 == | == 海馬と記憶 == | ||
[[image:海馬1.png|thumb|300px|'''図1.記憶回路の神経結合を示す概念図'''<br>青は大脳皮質領域、ピンクは皮質下領域の出力先、橙色は皮質下領域からの入力路]] | |||
大脳皮質側頭葉の内側部に位置する嗅周皮質、嗅内野、海馬体(海馬台、アンモン角、歯状回)、海馬の後方皮質(前海馬台、傍海馬台)および脳梁膨大後皮質は記憶の形成に関与する。大脳皮質連合野で分析された種々の情報は、嗅周皮質と嗅内野で混合され、嗅内野から貫通線維束として海馬体に入る(図1)。これらの情報は海馬体の内部回路により信号処理され、脳弓によって皮質下構造(視床前核、視床下部、乳頭体、中隔側坐核)へ出力されるとともに、複数の投射経路によって嗅内野へ帰還する。そして、嗅内野から大脳皮質へ信号が運ばれ、記憶として貯蔵されると考えられる。海馬の中に入ってきた信号は、すでに視覚、聴覚といった感覚種(modality)が曖昧な超感覚種の信号という。 | 大脳皮質側頭葉の内側部に位置する嗅周皮質、嗅内野、海馬体(海馬台、アンモン角、歯状回)、海馬の後方皮質(前海馬台、傍海馬台)および脳梁膨大後皮質は記憶の形成に関与する。大脳皮質連合野で分析された種々の情報は、嗅周皮質と嗅内野で混合され、嗅内野から貫通線維束として海馬体に入る(図1)。これらの情報は海馬体の内部回路により信号処理され、脳弓によって皮質下構造(視床前核、視床下部、乳頭体、中隔側坐核)へ出力されるとともに、複数の投射経路によって嗅内野へ帰還する。そして、嗅内野から大脳皮質へ信号が運ばれ、記憶として貯蔵されると考えられる。海馬の中に入ってきた信号は、すでに視覚、聴覚といった感覚種(modality)が曖昧な超感覚種の信号という。 | ||
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=== 海馬体の入力線維 === | === 海馬体の入力線維 === | ||
[[image:海馬2.png|thumb|300px|'''図2.内側嗅内野からの貫通線維束の終止部位(焦茶色)''']] | |||
海馬体への入力路としては、1)嗅内野からの貫通線維束、2)内側中隔核、乳頭体上核、青斑核、縫線核から上行してくる脳弓、および3)反対側CA3と歯状回門からの交連線維が通る腹側海馬交連がある。貫通線維束は大脳皮質から記憶の源情報を運び、交連線維は海馬内情報処理回路の一部を担い、上行性入力は海馬体内部回路の活動を修飾する。皮質性の貫通線維束とCA3線維はグルタメート、内側中隔核線維はアセチルコリンと GABA、乳頭体上核線維はドーパミン、青斑核線維はアドレナリン、縫線核線維はセロトニン、そして、反対側の歯状回多形細胞からの線維はGABAを伝達物質としている。 | 海馬体への入力路としては、1)嗅内野からの貫通線維束、2)内側中隔核、乳頭体上核、青斑核、縫線核から上行してくる脳弓、および3)反対側CA3と歯状回門からの交連線維が通る腹側海馬交連がある。貫通線維束は大脳皮質から記憶の源情報を運び、交連線維は海馬内情報処理回路の一部を担い、上行性入力は海馬体内部回路の活動を修飾する。皮質性の貫通線維束とCA3線維はグルタメート、内側中隔核線維はアセチルコリンと GABA、乳頭体上核線維はドーパミン、青斑核線維はアドレナリン、縫線核線維はセロトニン、そして、反対側の歯状回多形細胞からの線維はGABAを伝達物質としている。 | ||
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=== 海馬体の内部回路=== | === 海馬体の内部回路=== | ||
[[image:海馬3.png|thumb|300px|'''図3.海馬体各領域の連続する結合と出力先を示す図'''<br>文献8より改変]] | |||
[[image:海馬4.png|thumb|300px|'''図4.CA1, CA3錐体細胞の樹状突起分布'''<br>文献11より改変]] | |||
[[image:海馬5.png|thumb|300px|'''図5.CA3領域への各種入力の分布勾配を示す図''']] | |||
[[image:海馬6.png|thumb|300px|'''図6.CA3からCA1へのシャッファー側枝の分布を示す図'''<br>文献7より改変]] | |||
他の皮質領域と同様に、海馬体にも興奮性の結合と抑制性の結合が存在する。興奮性ニューロンの概数は、SDラットで、歯状回顆粒細胞が100万、CA3錐体細胞が33万、CA1錐体細胞が42万、海馬台錐体細胞が13万という。ヒトでは歯状回顆粒細胞が880万、CA3錐体細胞が232万、CA1錐体細胞が472万である。抑制性細胞の数はよくわかっていない。 | 他の皮質領域と同様に、海馬体にも興奮性の結合と抑制性の結合が存在する。興奮性ニューロンの概数は、SDラットで、歯状回顆粒細胞が100万、CA3錐体細胞が33万、CA1錐体細胞が42万、海馬台錐体細胞が13万という。ヒトでは歯状回顆粒細胞が880万、CA3錐体細胞が232万、CA1錐体細胞が472万である。抑制性細胞の数はよくわかっていない。 | ||
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=== 海馬体の出力=== | === 海馬体の出力=== | ||
[[image:海馬7.png|thumb|300px|'''図7.出力から見た海馬体の層構造と内部結合'''<br>文献8より改変]] | |||
歯状回細胞、およびアンモン角錐体細胞の出力は皮質性投射であるのに対し、海馬台錐体細胞は皮質性投射に加えて皮質下(線条体、視床、視床下部、乳頭体)に投射する(図3,7)。海馬台錐体細胞層には、皮質下に投射する中隔側坐核(線条体)投射細胞、乳頭体内側核投射細胞、視床腹側前核投射細胞が、錐体細胞層の表層から深層へと層状に分布しており、大脳皮質V・VI層に見られる皮質下投射細胞の深浅配列順序と同じである(文献12)。 | 歯状回細胞、およびアンモン角錐体細胞の出力は皮質性投射であるのに対し、海馬台錐体細胞は皮質性投射に加えて皮質下(線条体、視床、視床下部、乳頭体)に投射する(図3,7)。海馬台錐体細胞層には、皮質下に投射する中隔側坐核(線条体)投射細胞、乳頭体内側核投射細胞、視床腹側前核投射細胞が、錐体細胞層の表層から深層へと層状に分布しており、大脳皮質V・VI層に見られる皮質下投射細胞の深浅配列順序と同じである(文献12)。 | ||
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5) 石塚典生:海馬の細胞構築と神経結合 神経進歩 38:5-22 (1994) | 5) 石塚典生:海馬の細胞構築と神経結合 神経進歩 38:5-22 (1994) | ||
6) 石塚典生:海馬の構造と線維連絡. 脳と神経 50:881-892 (1998). | 6) 石塚典生:海馬の構造と線維連絡. 脳と神経 50:881-892 (1998). | ||
7) 石塚典生:記憶のしくみ 解剖学的面から. CLINICAL | 7) 石塚典生:記憶のしくみ 解剖学的面から. CLINICAL NEUROSCIENCE 16:130-134 (1998). | ||
8) 石塚典生:大脳辺縁系の神経結合と細胞構築 神経進歩 50:7-17 (2006) | 8) 石塚典生:大脳辺縁系の神経結合と細胞構築 神経進歩 50:7-17 (2006) | ||
9) 石塚典生:海馬領域における縦走性線維投射. BRAIN and NERVE 60:737-745 (2008). | 9) 石塚典生:海馬領域における縦走性線維投射. BRAIN and NERVE 60:737-745 (2008). |