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統合失調症関連遺伝子
統合失調症関連遺伝子
(英:Schizophrenia susceptibility gene)
(Schizophrenia susceptibility gene)


統合失調症は、思春期・青年期に発症し、幻覚・妄想などの陽性症状、意欲低下・感情鈍麻などの陰性症状、認知機能障害などが認められる症候群である。患者の多くは慢性の経過をたどるが、有病率は1%と決して稀な疾患ではない。罹患すると個人のQOL低下のみならず、社会的損失の大きい疾患であるが、その原因は不明なままである。しかし、疫学的研究から、統合失調症の病態生理には、遺伝的要因が関与することが確認されており、その証左に従って、現在にわたるまで多くの分子遺伝学的研究が施行されてきた。古くは連鎖解析から始まり、いくつかの領域で有意な連鎖が報告されたが、複数の民族で一致する領域はほとんど見いだされなかった。これはリスクの効果量(effect size)が小さいために、見逃されている可能性が示唆される。唯一の成功例と考えられる報告は、スコットランドの大家系に1番染色体と11番染色体の転座であり、Disrupted-In-Schizophrenia 1(DISC1)がその部位に位置することが判明した。しかし、この転座を持つ患者でも、必ずしも統合失調症になるわけではなく、躁うつ病やうつ病など気分障害を罹患する場合も多く、「統合失調症」特異的リスクとは断言出来ない。また、一般集団に対するDISC1のリスクを後述する関連解析で検討した結果、この遺伝子は統合失調症と関連は現在のところ認められていない。


このように、連鎖解析では困難ではないかと行き詰まりを見せる中、統合失調症関連遺伝子を同定するための方法論は、1)ヒトゲノム計画により遺伝子配列の概要が判明したこと、また3)民族ごとのhaplotype mappingを目指した国際HapMap計画が開始されたことで状況が一変する。すなわち、方法論が、関連解析へと完全にシフトしていった。この時代では、連鎖解析では理論上同定不可能な小さなeffect sizeを持つリスクを同定するべく、機能的な関連を想定した“候補”を疾患との関連を検討する「候補遺伝子関連研究」が主流となる。ここでは、ドパミン系、セロトニン系などの神経伝達物質に関わる遺伝子や、神経発達障害仮説に関与する遺伝子が候補として選出された。
はじめに
しかし、それでも「確定的」といえる統合失調症感受性遺伝子の同定には至らず、方法論は次のステップである「ゲノムワイド関連研究(GWAS)」へとさらにシフトする。GWASは、既知の候補遺伝子に関連を見いださない一方、思いもよらないリスク遺伝子の同定に成功している。2008年にWellcome Trust Case-Control Consortiumのサンプルを利用した報告がNature Geneticsに掲載され、ZNF804Aが有意水準のベンチマークであるgenome-wide significanceを超えていた。機能は現在まで明確ではないが、その後サンプル数を拡大した解析でP=10-11レベルで関連性を報告している。その後10個以上のGWASが報告されたが、その中でもISC、MGS、S-GENEが行った3報の論文は、2009年にNature誌に掲載され、大きなインパクトを与えた。特に、ISCは、Polygenic Component analysisという新しい方法論を提唱し、一つのデータセットから定義された緩い基準(P<0.5など)の「リスクアレル」が、独立したデータセットの統合失調症で有意に重複していることを示した。さらに、双極性障害でもその「リスク」は重複していることも報告し、統合失調症と双極性障害の遺伝学的共通性を示唆する証左として着目される。
その後、多くのグループが共同して設立されたPsychiatric GWAS Consortium (PGC)は、メガ解析を行い、7個の領域でgenome-wide significanceを超える統合失調症関連遺伝子を報告している。major histocompatibility complex (MHC)領域は、リスクとして代表的な領域であるが、この領域が高い連鎖不平衡を示すという特性から、リスク遺伝子を絞り込むことは困難である。一方、PGCの結果でトップに位置づけられた新規遺伝子は、MIR137をコードする領域であり、P=1.6x10-11であった。MIR137は、発現を制御するmicro RNAであり、特に、神経発達や成熟に関与する遺伝子の調整因子であることが判明している。


また、GWASは、copy number variation (CNV)が統合失調症と関連することも報告している。特に、1q21.1deletion、NRXN1 deletiion、VIPR2 duplication、15q13.3 deletion、16p11.2 duplication、22q11.21 deletionなどの領域は、統合失調症患者でCNVが統計的有意に多く認められており、この領域に位置する遺伝子もまた、統合失調症候補遺伝子として有望であると言える。
統合失調症は、思春期・青年期に発症し、幻覚・妄想などの陽性症状、意欲低下・感情鈍麻などの陰性症状、認知機能障害などが認められる症候群である。有病率は1%と頻度は高く、いわゆる「ありふれた疾患」の一つである。患者の多くは慢性の経過をたどり、罹患すると個人のQOL低下は著しい。加えて、社会的損失の大きい疾患にもかかわらず、その原因は未だ不明なままである。
遺伝疫学的研究から、統合失調症の病態生理には、遺伝的要因が関与することが確認されており、現在にわたるまで多くの分子遺伝学的研究が施行されてきた。古くは連鎖解析に始まり、いくつかの領域で有意な連鎖が報告されてはきたが、複数の民族で一致する領域はほとんど見いだされなかった。これはリスクの効果量(effect size)が小さいために、見逃されている可能性が示唆される。唯一の成功例と考えられる報告は、スコットランドの大家系に1番染色体と11番染色体の転座であり、Disrupted-In-Schizophrenia 1(DISC1)がその部位に位置することが判明された<ref><pubmed> 10814723 </pubmed></ref>。しかし、この転座を持つ患者でも、必ずしも統合失調症を発症するわけではなく、躁うつ病やうつ病など気分障害を罹患する場合も多いため、「統合失調症」特異的リスクとは断言出来ない。


候補遺伝子関連解析からゲノムワイド関連解析へ
このように、連鎖解析では困難ではないかと行き詰まりを見せる中、統合失調症関連遺伝子を同定するための方法論は、1)ヒトゲノム計画により遺伝子配列の概要が判明したこと、また3)民族ごとのhaplotype mappingを目指した国際HapMap計画が開始されたことで状況が一変する。すなわち、方法論が、関連解析へと完全にシフトしていった。この時代には、連鎖解析では理論上同定不可能な小さなeffect sizeを持つリスクを同定するべく、機能的な関連を想定した“候補”を疾患との関連を検討する「候補遺伝子関連解析」が主流となる。ここでは、ドパミン系、セロトニン系などの神経伝達物質に関わる遺伝子や、神経発達障害仮説に関与する遺伝子が候補として選出された。
しかし、それでも「確定的」といえる統合失調症感受性遺伝子の同定には至らず、方法論は次のステップである「ゲノムワイド関連解析(GWAS)」へとさらにシフトする。GWASは、既知の候補遺伝子に関連を見いださない一方、思いもよらないリスク遺伝子の同定に成功している。2008年にWellcome Trust Case-Control Consortiumのサンプルを利用した報告がNature Geneticsに掲載され<ref><pubmed> 18677311 </pubmed></ref>、ZNF804Aが有意水準のベンチマークであるgenome-wide significanceを超えていた。機能は現在まで明確ではないが、その後サンプル数を拡大した解析でP=10-11レベルで関連性を報告している<ref><pubmed> 20368704 </pubmed></ref>。その後10個以上のGWASが報告されたが、その中でもISC<ref><pubmed> 19571811 </pubmed></ref>、MGS <ref><pubmed> 19571809 </pubmed></ref>、S-GENE<ref><pubmed> 19571808 </pubmed></ref>が行った3報の論文は、2009年にNature誌に掲載され、大きなインパクトを与えた。特に、ISCは、Polygenic Component analysisという新しい方法論を提唱し、一つのデータセットから定義された緩い基準(P<0.5など)の「リスクアレル」が、独立したデータセットの統合失調症で有意に重複していることを示した。さらに、双極性障害でもその「リスク」は重複していることも報告し、統合失調症と双極性障害の遺伝学的共通性を示唆する証左として着目される。
その後、多くのグループが共同して設立されたPsychiatric GWAS Consortium (PGC)は、メガ解析を行い、7個の領域でgenome-wide significanceを超える統合失調症関連遺伝子を報告している<ref><pubmed> 21926974 </pubmed></ref>。major histocompatibility complex (MHC)領域は、リスクとして代表的な領域であるが、この領域が高い連鎖不平衡を示すという特性から、リスク遺伝子を絞り込むことは困難である。一方、PGCの結果でトップに位置づけられた新規遺伝子は、MIR137をコードする領域であり、P=1.6x10-11であった。MIR137は、発現を制御するmicro RNAであり、特に、神経発達や成熟に関与する遺伝子の調整因子であることが判明している。
CNV(Copy Number Variation)の関与
また、GWASは、copy number Variation (CNV)が統合失調症と関連することも報告している。特に、1q21.1deletion、NRXN1 deletiion、VIPR2 duplication、15q13.3 deletion、16p11.2 duplication、22q11.21 deletionなどの領域は、統合失調症患者でCNVが統計的有意に多く認められており、この領域に位置する遺伝子もまた、統合失調症候補遺伝子として有望であると言える<ref><pubmed> 21285140 </pubmed></ref>。
おわりに
今後は、Whole-genome/exome resequencingなどパーソナルゲノム解析へシフトして行くと考えられる。しかし、現在までのところ、小規模のサンプル数を用いた報告しかなされておらず、真のリスクとなる稀な変異の評価は困難なままである。
今後は、Whole-genome/exome resequencingなどパーソナルゲノム解析へシフトして行くと考えられる。しかし、現在までのところ、小規模のサンプル数を用いた報告しかなされておらず、真のリスクとなる稀な変異の評価は困難なままである。
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