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背側縫線核・内側縫線核からの投射線維はともに視床下部内を上行する内側前脳束(medial forebrain bundle, MFB)の一部となって前脳領域に投射する。霊長類では約25%の線維は有髄で<ref name=ref3 />, 背側縫線核から内包を通って皮質へ投射する経路が最大のものである。縫線核からの投射先は、ドパミン系のそれに比べると広汎で脳のほとんどの部位に投射しているが、一定の規則性はあり、例えば核の吻側の細胞は脳の吻側に、外側の細胞は外側に投射する。 | 背側縫線核・内側縫線核からの投射線維はともに視床下部内を上行する内側前脳束(medial forebrain bundle, MFB)の一部となって前脳領域に投射する。霊長類では約25%の線維は有髄で<ref name=ref3 />, 背側縫線核から内包を通って皮質へ投射する経路が最大のものである。縫線核からの投射先は、ドパミン系のそれに比べると広汎で脳のほとんどの部位に投射しているが、一定の規則性はあり、例えば核の吻側の細胞は脳の吻側に、外側の細胞は外側に投射する。 | ||
縫線核細胞の前頭への投射線維の形態学的特徴や投射先はその起源核によって異なる | 縫線核細胞の前頭への投射線維の形態学的特徴や投射先はその起源核によって異なる<ref name=ref4><pubmed> 16157378</pubmed></ref>。背側縫線核からの投射線維は小さな結節状構造varicosityを 持つ細い軸索が広汎に微細に分岐し、小型の多形性のsynaptic bouton を有し、大脳基底核や前頭皮質、外側中隔核、扁桃体、腹側海馬に投射する。内側縫線核からの投射線維は比較的太く結節状構造は有さず、分岐は短く細く、大きい球形のsynaptic bouton を有し、背側海馬や内側中隔核、視床下部に投射する。この形態学的差異はアンフェタミン誘導体である神経毒 PCA(parachloroamphetamine) やMDMA (3,4-methylenedioxymethamphetamine, 通称‘ecstasy’)に対するぜい弱性とも関連がある可能性があり、投与後、内側縫線核からの投射線維は保存されている一方背側縫線核からの投射線維は障害される<ref name=ref5><pubmed>3323265</pubmed></ref>。神経毒への感受性の差は、投射先のserotonin transporter (SERT)の分布の差とも関連があり、背側縫線核から微細な投射を受ける側坐核のほとんどの部位はSERT濃度が高く、内側縫線核から球状のシナプス投射を受ける尾側の側坐核shellではSERT濃度が非常に低い。 | ||
一つの縫線核ニューロンからは複数の領域に枝分かれして投射するいわゆるcollateral projectionが報告されている。例えば、線条体と黒質、中隔野と嗅内野、前頭葉と側坐核、扁桃体中心核と視床下部室傍核、外側膝状体と上丘などがあるがその機能的意義は不明である。 | 一つの縫線核ニューロンからは複数の領域に枝分かれして投射するいわゆるcollateral projectionが報告されている。例えば、線条体と黒質、中隔野と嗅内野、前頭葉と側坐核、扁桃体中心核と視床下部室傍核、外側膝状体と上丘などがあるがその機能的意義は不明である。 | ||
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背側縫線核のうちVentromedial cluster(腹内側部)は主に前頭葉皮質、Lateral wings(外側部)は主に線条体に投射する。その他、背側縫線核からは黒質網様体・淡蒼球・扁桃体・腹側海馬・視床下部への投射がある。 | 背側縫線核のうちVentromedial cluster(腹内側部)は主に前頭葉皮質、Lateral wings(外側部)は主に線条体に投射する。その他、背側縫線核からは黒質網様体・淡蒼球・扁桃体・腹側海馬・視床下部への投射がある。 | ||
線条体への投射は側坐核を含めた腹側に特に強い。黒質網様体・緻密部への投射も存在し、特に黒質網様体への投射は背側縫線核からの投射が最も強い。扁桃体ではすべての領域への投射があり、作用はおおむね抑制性である | 線条体への投射は側坐核を含めた腹側に特に強い。黒質網様体・緻密部への投射も存在し、特に黒質網様体への投射は背側縫線核からの投射が最も強い。扁桃体ではすべての領域への投射があり、作用はおおむね抑制性である<ref name=ref6><pubmed>137766</pubmed></ref>。 | ||
すべての皮質領域への投射があるが、その強度は感覚野>運動野であり、感覚野内では視覚・聴覚野>体性感覚野である。サルでは視覚野と海馬以外の領野ではbeaded axonはⅠ層、微細なaxon はⅡ-Ⅴ層に投射する傾向にある。背側縫線核からの各領域への投射は荒いトポグラフィカルな投射形式を持つ。運動野や前頭前野へ投射する細胞群に比べて視覚野へ投射する細胞は外側に分布する傾向にある。 | すべての皮質領域への投射があるが、その強度は感覚野>運動野であり、感覚野内では視覚・聴覚野>体性感覚野である。サルでは視覚野と海馬以外の領野ではbeaded axonはⅠ層、微細なaxon はⅡ-Ⅴ層に投射する傾向にある。背側縫線核からの各領域への投射は荒いトポグラフィカルな投射形式を持つ。運動野や前頭前野へ投射する細胞群に比べて視覚野へ投射する細胞は外側に分布する傾向にある。 | ||
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==縫線核への入力== | ==縫線核への入力== | ||
縫線核には前頭葉を中心とした皮質と辺縁系に属する皮質下領域からの投射があり、一定のトポグラフィを保っている。皮質では前頭眼窩皮質(orbital cortex), 帯状回皮質(cingulate cortex), 下辺縁皮質(infralimbic cortex), 島皮質(insular cortices)、内側前頭野 (medial prefrontal cortex)からの投射がある。内側前頭野から背側・内側縫線核のセロトニン細胞への投射は、直接投射と、縫線核内のGABAニューロンを介した抑制性の投射がある( | 縫線核には前頭葉を中心とした皮質と辺縁系に属する皮質下領域からの投射があり、一定のトポグラフィを保っている。皮質では前頭眼窩皮質(orbital cortex), 帯状回皮質(cingulate cortex), 下辺縁皮質(infralimbic cortex), 島皮質(insular cortices)、内側前頭野 (medial prefrontal cortex)からの投射がある。内側前頭野から背側・内側縫線核のセロトニン細胞への投射は、直接投射と、縫線核内のGABAニューロンを介した抑制性の投射がある(<ref name=ref7><pubmed>6466989</pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed>9722144</pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed> 12542664</pubmed></ref>)。 | ||
皮質下領域では扁桃体(amygdala)、黒質網状体(substantia nigra reticulata , SNr)、黒質緻密部(substantia nigra compacta , SNc)、腹側淡蒼球(ventral pallidum), 視索前野(preoptic area)、前障(calustrum)、分界条床核(the bed nucleus of the stria terminalis, BNST)、不確帯(zona incerta)、視床下部(hypothalamus)、外側手綱核(lateral habenula nucleus)、青班核(Locus coeluleus)からのものがある。特に外側手綱核からの投射は強力で、fasciculus retroflexusを介した入力である。その効果は抑制または興奮と見解が異なる。外側手綱核の破壊で、嫌悪刺激に応じて増加するセロトニンの分泌が抑制される | 皮質下領域では扁桃体(amygdala)、黒質網状体(substantia nigra reticulata , SNr)、黒質緻密部(substantia nigra compacta , SNc)、腹側淡蒼球(ventral pallidum), 視索前野(preoptic area)、前障(calustrum)、分界条床核(the bed nucleus of the stria terminalis, BNST)、不確帯(zona incerta)、視床下部(hypothalamus)、外側手綱核(lateral habenula nucleus)、青班核(Locus coeluleus)からのものがある。特に外側手綱核からの投射は強力で、fasciculus retroflexusを介した入力である。その効果は抑制または興奮と見解が異なる。外側手綱核の破壊で、嫌悪刺激に応じて増加するセロトニンの分泌が抑制される<ref name=ref10><pubmed>11602236</pubmed></ref>。 | ||
===化学的特徴=== | ===化学的特徴=== | ||
セロトニン細胞の大半が縫線核に存在し、特に背側縫線核の多くの細胞はセロトニン細胞である。核内の細胞に占めるセロトニン細胞の割合は報告にもよるが、ラットの約30%, ネコのmedium-sized neuronの70 %, ヒトでは70 % | セロトニン細胞の大半が縫線核に存在し、特に背側縫線核の多くの細胞はセロトニン細胞である。核内の細胞に占めるセロトニン細胞の割合は報告にもよるが、ラットの約30%, ネコのmedium-sized neuronの70 %, ヒトでは70 %<ref name=ref11><pubmed>1720227</pubmed></ref>がセロトニン細胞であると報告されている。吻側核群のほうがこの割合は高い。その他GABA・ドパミン・ノルアドレナリン, nitric oxide・さまざまなペプチドやアセチルコリンなどを含む細胞がある。 | ||
個々の縫線核細胞の化学的特性とその機能を明らかにするためには、細胞の発火パターンなどの電気生理学的な特性から細胞の化学的特性が推測できたら便利である。しかしこれまでのところ信頼できる電気生理学的な特性は特定されていない。例えば、活動電位の形状が幅広で、基底の発火頻度が低頻度(<3Hz)かつ発火パターンがメトロノームのように一定のものはセロトニン細胞であるとされたが、最近の研究結果では否定的である。例えば低頻度発火の縫線核細胞のうち半数はセロトニン細胞ではなく、高頻度発火の細胞のうち20%はセロトニン細胞であった | 個々の縫線核細胞の化学的特性とその機能を明らかにするためには、細胞の発火パターンなどの電気生理学的な特性から細胞の化学的特性が推測できたら便利である。しかしこれまでのところ信頼できる電気生理学的な特性は特定されていない。例えば、活動電位の形状が幅広で、基底の発火頻度が低頻度(<3Hz)かつ発火パターンがメトロノームのように一定のものはセロトニン細胞であるとされたが、最近の研究結果では否定的である。例えば低頻度発火の縫線核細胞のうち半数はセロトニン細胞ではなく、高頻度発火の細胞のうち20%はセロトニン細胞であった<ref name=ref12><pubmed>14596860</pubmed></ref> <ref name=ref13><pubmed>16418294</pubmed></ref>。slow-wave sleepの際発火頻度が低下しないセロトニン細胞は22%にも及んだ<ref name=ref14><pubmed>16613874</pubmed></ref>。また、自己受容体である5-HT1A受容体はセロトニン細胞のみでなく非セロトニン細胞にも存在すること、5-HT1A作用薬に対する縫線核細胞の反応は一様でないことから<ref name=ref15><pubmed>7932189</pubmed></ref>、5-HT1A作用薬により発火が抑制される細胞はセロトニン細胞であるという薬理学的な同定も十分とはいえない<ref name=ref16><pubmed>12573710</pubmed></ref>。 | ||
一方でセロトニン細胞の発火パターンの違いは機能の違いを反映している可能性がある。低頻度・regularな発火パターンを示すセロトニン細胞は海馬のθリズムとの同期は認められないが、高頻度・バースト状の発火パターンを示すセロトニン細胞は海馬のθリズムと同期が認められ、記憶の形成などにかかわっている可能性がある | 一方でセロトニン細胞の発火パターンの違いは機能の違いを反映している可能性がある。低頻度・regularな発火パターンを示すセロトニン細胞は海馬のθリズムとの同期は認められないが、高頻度・バースト状の発火パターンを示すセロトニン細胞は海馬のθリズムと同期が認められ、記憶の形成などにかかわっている可能性がある<ref name=ref13 />。 | ||
==機能== | ==機能== | ||
52行目: | 52行目: | ||
=== 尾側核群 === | === 尾側核群 === | ||
尾側核群からは脳幹や脊髄に強い投射があり、これらの投射源の大半(>85%)はセロトニン細胞である(Bowker 1987)。NRP, NRO の電気刺激、セロトニンによる刺激は腰神経や横隔神経細胞に興奮性に働く。単一の細胞が複数の運動に反応すること、反応形式が持続的(tonic)であることから、運動全般のgain setterであるという考えがある | 尾側核群からは脳幹や脊髄に強い投射があり、これらの投射源の大半(>85%)はセロトニン細胞である(Bowker 1987)。NRP, NRO の電気刺激、セロトニンによる刺激は腰神経や横隔神経細胞に興奮性に働く。単一の細胞が複数の運動に反応すること、反応形式が持続的(tonic)であることから、運動全般のgain setterであるという考えがある<ref name=ref18><pubmed>7623157</pubmed></ref>。 | ||
====歩行==== | ====歩行==== | ||
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====ストレス反応==== | ====ストレス反応==== | ||
縫線核群はストレス、特に回避できないストレス負荷時に応答し | 縫線核群はストレス、特に回避できないストレス負荷時に応答し<ref name=ref19><pubmed>15893820</pubmed></ref>、背側縫線核やその投射先である扁桃体や中心灰白質でセロトニン放出が増加し、ストレス反応を修飾する<ref name=ref20><pubmed>9630480</pubmed></ref>。このメカニズムには手綱核から縫線核群への投射や前頭葉内側部から縫線核への投射が関与しており、この系を破壊すると回避可能か否かによる行動の差が減弱する<ref name=ref10 />。ストレス反応において中心的な役割を果たす視床下部・下垂体・副腎系と縫線核群との相互関係も重要で、背側縫線核に見られるCRF (corticotropin-releasing factor)陽性の細胞はセロトニン細胞でもある<ref name=ref21><pubmed>12589373</pubmed></ref>。セロトニン細胞は大きさがホルモンによって影響を受ける。ステロイドホルモンの一つである糖質コルチコイドの量が減少すると細胞サイズが小さくなる。その他、エストロゲン、テストステロン、コレステロール、インターロイキンなどが細胞の大きさに影響を及ぼす。縫線核群からは視索上核へも強い投射があるが、これは視床下部からのCRFの投射を介して、視床下部・下垂体・副腎系を亢進させる。従って、 縫線核からのセロトニン投射は神経伝達物質としてのみならず神経内分泌系の一部としても理解されなければいけない。 | ||
====報酬==== | ====報酬==== | ||
背側縫線核における報酬関連の応答も報告されている。報酬の遅延 | 背側縫線核における報酬関連の応答も報告されている。報酬の遅延<ref name=ref22><pubmed>21070390</pubmed></ref>、期待または得られた報酬量に応じた持続的な発火<ref name=ref23><pubmed>18480289</pubmed></ref>が報告されている。他にも背側縫線核細胞の活動は多様で、認知行動課題の様々な因子に反応する<ref name=ref24><pubmed>19710375</pubmed></ref>。 | ||
== 関連項目 == | == 関連項目 == | ||
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== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
<references /> | <references /> | ||
(執筆者:中村加枝 担当編集委員:岡本仁) | (執筆者:中村加枝 担当編集委員:岡本仁) |