「最初期遺伝子」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
編集の要約なし
7行目: 7行目:
== 最初期遺伝子とは ==
== 最初期遺伝子とは ==


 最初期遺伝子は\、増殖シグナルや分化シグナル等などが細胞へ伝わると、既に細胞内に存在する因子のみを用いて速やかに、且つ、一過的に転写が引き起こされる遺伝子群の総称である。[[wikipedia:ja:シクロヘキシミド|シクロヘキシミド]]や[[wikipedia:ja:アニソマイシン|アニソマイシン]]等の薬剤によって新規タンパク質合成を阻害していてもmRNAの発現誘導が起こることが定義となる。
 最初期遺伝子は、増殖シグナルや分化シグナル等などが細胞へ伝わると、既に細胞内に存在する因子のみを用いて速やかに、且つ、一過的に転写が引き起こされる遺伝子群の総称である。[[wikipedia:ja:シクロヘキシミド|シクロヘキシミド]]や[[wikipedia:ja:アニソマイシン|アニソマイシン]]等の薬剤によって新規タンパク質合成を阻害していてもmRNAの発現誘導が起こることが定義となる。


 元来[[wikipedia:ja:ウイルス|ウイルス]]の感染初期において、ホスト細胞に存在する転写因子を利用して最初に発現されるウイルス由来遺伝子を指す言葉であったが、現在では細胞外からの刺激に対して最初に応答して発現誘導される内因性の遺伝子を表す言葉として使われるようになった。
 元来[[wikipedia:ja:ウイルス|ウイルス]]の感染初期において、ホスト細胞に存在する転写因子を利用して最初に発現されるウイルス由来遺伝子を指す言葉であったが、現在では細胞外からの刺激に対して最初に応答して発現誘導される内因性の遺伝子を表す言葉として使われるようになった。
17行目: 17行目:
 最初期遺伝子群のうち、特に神経系で発現誘導される最初期遺伝子の一部をカテゴリー・機能別にリストアップした。  
 最初期遺伝子群のうち、特に神経系で発現誘導される最初期遺伝子の一部をカテゴリー・機能別にリストアップした。  


=== 転写因子  ===
{| border="1"
 
|+'''表 主な神経系の最初期遺伝子群'''
{| width="498" cellspacing="1" cellpadding="1" border="1"
|-
| colspan="2" |'''転写因子'''
|-
|-
| c-fos、[[FosB]]、[[Fra-1]]、[[Fra-2]]、[[C-jun]]、[[JunB]]  
| c-fos、[[FosB]]、[[Fra-1]]、[[Fra-2]]、[[c-jun]]、[[JunB]]  
| [[BZIPタンパク質]]に属する転写因子
| [[bZIPタンパク質]]に属する転写因子
|-
|-
| [[Egr1]](別名[[Zif268]]、[[Krox24]]、[[NGFI-A]])、[[Egr2]]、[[Egr3]]  
| [[Egr1]](別名[[Zif268]]、[[Krox24]]、[[NGFI-A]])、[[Egr2]]、[[Egr3]]  
| [[Zincフィンガー]]タンパク質に属する転写因子
| [[Zincフィンガー]]タンパク質に属する転写因子
|}
=== 細胞外分泌因子  ===
{| width="498" cellspacing="1" cellpadding="1" border="1"
|-
|-
| [[Bdnf]]、[[Activinb A]]  
| colspan="2" |'''細胞外分泌因子'''
|-
| [[脳由来神経栄養因子]]、[[Activinb A]] (編集コメント:ご確認下さい)
| [[成長因子]]
| [[成長因子]]
|-
|-
| [[TPA]]  
| [[組織プラスミノーゲンアクチベーター]] ([[TPA]])
| [[wikipedia:ja:タンパク質分解酵素|タンパク質分解酵素]]
| [[wikipedia:ja:タンパク質分解酵素|タンパク質分解酵素]]
|}
|-
 
| colspan="2" |'''細胞内シグナル伝達'''
=== 細胞内シグナル伝達  ===
 
{| width="498" cellspacing="1" cellpadding="1" border="1"
|-
|-
| [[Rheb]]  
| [[Rheb]]  
51行目: 46行目:
| [[Cox-2]]  
| [[Cox-2]]  
| [[誘導型シクロオキシゲナーゼ]]
| [[誘導型シクロオキシゲナーゼ]]
|}
|-
 
| colspan="2" |'''シナプス関連タンパク質'''
=== シナプス関連タンパク質  ===
 
{| width="498" cellspacing="1" cellpadding="1" border="1"
|-
|-
| Arc/[[Arg3.1]]  
| Arc/[[Arg3.1]]  
| [[AMPA型受容体]]調節因子
| [[AMPA型グルタミン酸受容体]]調節因子
|-
|-
| homer1a/vesl-1s  
| homer1a/vesl-1s  
| 誘導型EVHタンパク質
| 誘導型EVHドメインタンパク質
|-
|-
| [[Narp]]  
| [[Narp]]  
| 神経型[[ペントラキシン]]
| 神経型[[ペントラキシン]]
|}
|}


== 発現誘導機構 ==
== 発現誘導機構 ==


 最初期遺伝子が刺激後速やかに転写誘導されるメカニズムの詳細はそれぞれの遺伝子によって異なるが、いくつかの最初期遺伝子の上流制御領域の解析により共通点が次第に明らかになりつつある。神経細胞においては、[[NMDA型グルタミン酸受容体]]や[[電位依存性カルシウムチャネル]]を介して細胞外から流入したカルシウムイオンが[[カルシウム・カルモジュリン依存的キナーゼ]]([[CaMKs]])や[[MAPキナーゼ]]([[MAPK]])などのキナーゼ経路を活性化させ、その結果、非誘導型の転写因子である[[cAMP-responsive element binding protein]][[CREB]])や[[Serum response factor]][[SRF]])、[[myocyte enhancer factor-2]] ([[MEF2]])などのリン酸化スイッチによって活性化されることで最初期遺伝子の転写が開始される<ref name="ref5"><pubmed>19116276</pubmed></ref>。また、[[カルシウム依存的タンパク質フォスファターゼ]]([[PP2B]])である[[カルシニューリン]]による脱リン酸化スイッチによる転写開始機構も示唆されている。さらに、上記の転写因子と複合体を形成する補活性化因子([[CBP]]、[[p300]]、[[ElK]]、[[CRTC]]、[[MKL]]等)の重要性も明らかになってきた<ref name="ref2" />。  
 最初期遺伝子が刺激後速やかに転写誘導されるメカニズムの詳細はそれぞれの遺伝子によって異なるが、いくつかの最初期遺伝子の上流制御領域の解析により共通点が次第に明らかになりつつある。神経細胞においては、[[NMDA型グルタミン酸受容体]]や[[電位依存性カルシウムチャネル]]を介して細胞外から流入したカルシウムイオンが[[カルシウム・カルモジュリン依存的キナーゼ]]([[CaMKs]])や[[MAPキナーゼ]]([[MAPK]])などのキナーゼ経路を活性化させ、その結果、非誘導型の転写因子である[[サイクリックAMP応答配列結合タンパク質]]([[cAMP-responsive element binding protein]], [[CREB]])や[[血清応答因子]]([[Serum response factor]], [[SRF]])、[[myocyte enhancer factor-2]] ([[MEF2]])などのリン酸化スイッチによって活性化されることで最初期遺伝子の転写が開始される<ref name="ref5"><pubmed>19116276</pubmed></ref>。また、[[カルシウム依存的タンパク質フォスファターゼ]]([[PP2B]])である[[カルシニューリン]]による脱リン酸化スイッチによる転写開始機構も示唆されている。さらに、上記の転写因子と複合体を形成する補活性化因子([[CBP]]、[[p300]]、[[ElK]]、[[CRTC]]、[[MKL]]等)の重要性も明らかになってきた<ref name="ref2" />。  


 また、最初期遺伝子の転写は刺激後遅くとも数分以内の非常に早い時間から始まることが知られているが、この早い転写開始に関しては、基底状態において[[wikipedia:ja:転写開始点下流|転写開始点下流]]に結合して待機(ポーズ)している[[wikipedia:ja:RNAポリメラーゼII複合体|RNAポリメラーゼII複合体]]の待機状態が刺激によって解除されるという機構が提唱されている<ref name="ref6"><pubmed>21623364</pubmed></ref>。  
 また、最初期遺伝子の転写は刺激後遅くとも数分以内の非常に早い時間から始まることが知られているが、この早い転写開始に関しては、基底状態において[[wikipedia:ja:転写開始点下流|転写開始点下流]]に結合して待機(ポーズ)している[[wikipedia:ja:RNAポリメラーゼII複合体|RNAポリメラーゼII複合体]]の待機状態が刺激によって解除されるという機構が提唱されている<ref name="ref6"><pubmed>21623364</pubmed></ref>。  
76行目: 69行目:


 最初期遺伝子産物は多種であり機能も多様であるため、個々の遺伝子機能についてはここでは割愛する。刺激によって誘導される最初期遺伝子発現の意義・機能は、
 最初期遺伝子産物は多種であり機能も多様であるため、個々の遺伝子機能についてはここでは割愛する。刺激によって誘導される最初期遺伝子発現の意義・機能は、
#刺激に対応した細胞特性や性質の変化を引き起こすためのタンパク質(転写因子やシナプス関連タンパク等)の新規発現および 
 
#その変化を維持するための材料(細胞骨格関連タンパク質など)の補充である<br>と考えられる。いくつかの最初期遺伝子欠損マウスにおいてはシナプスの[[長期増強]]や[[長期抑圧]]等のシナプス可塑性の障害、また、[[長期記憶]]の形成障害が報告されており、最初期遺伝子の脳の高次機能への関与が示されている<ref name="ref7"><pubmed>14622575</pubmed></ref> <ref name="ref8"><pubmed>17088210</pubmed></ref>。  
#刺激に対応した細胞特性や性質の変化を引き起こすためのタンパク質(転写因子やシナプス関連タンパク等)の新規発現 
#その変化を維持するための材料(細胞骨格関連タンパク質など)の補充
 
 と考えられる。いくつかの最初期遺伝子欠損マウスにおいてはシナプスの[[長期増強]]や[[長期抑圧]]等のシナプス可塑性の障害、また、[[長期記憶]]の形成障害が報告されており、最初期遺伝子の脳の高次機能への関与が示されている<ref name="ref7"><pubmed>14622575</pubmed></ref> <ref name="ref8"><pubmed>17088210</pubmed></ref>。  


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==

案内メニュー