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== 歴史的推移  ==
== 歴史的推移  ==


 1997年、[[wikipedia: Tyrosine kinase | チロシンキナーゼ]][[wikipedia: Src | Src]]に結合するタンパク質が探索され、当時未知のタンパク質であった、disabled-1 homolog 1 (Dab1)([[wikipedia:ja:ショウジョウバエ]]で同定されていたdisabled-1遺伝子と相同性があった為命名)が同定された<ref name="ref1"><pubmed>9009273</pubmed></ref>。Dab1は N末端領域に[[wikipedia:Phosphotyrosine-binding domain | Phosphotyrosine-binding domain (PTB)ドメイン]]を持つアダプタータンパク質で、Srcによりリン酸化されることが明らかになった<ref name="ref1" />。dab1ノックアウトマウスが作成された所、大脳新皮質、海馬、小脳において神経細胞の配置異常が観察された<ref><pubmed>9338785</pubmed></ref>。この表現型は1951年に報告され、その原因遺伝子reelinが1995年に明らかにされた、リーラー(reeler)マウスの表現型(リーラーフェノタイプ)<ref>'''Two new mutants trembler and reeler, with neurological actionss in the house mouse'''<br>J. Genet..: 1951, 51, 192-201[http://link.springer.com/article/10.1007%2FBF02996215 論文掲載サイト]</ref>と酷似していた。さらに、リーラーフェノタイプ示すことが知られていた[[wikipedia:Yotari | ''yotari''マウス]]と[[wikipedia:Scrambler | ''scrambler''マウス]]の原因遺伝子がdab1であることが明らかになり<ref><pubmed>9338784</pubmed></ref>、dab1とreelinとの関連性が示唆された。実際、reelerマウスでは、(1)Dab1のmRNA量は変化しないが、タンパク質量が上昇していること、<ref name=rice><pubmed>9716537</pubmed></ref>、(2)Reelinは脳表層に分布するカハールレティウス(Cajal-Retzius)細胞に主に発現が観察されるが、Dab1はそれに隣接する神経細胞に発現が観察され、相補的な発現パターンになっていること<ref name=rice />、(3)Reelin刺激によりDab1のチロシンリン酸化が観察されること<ref><pubmed>10090720</pubmed></ref>等から、Dab1はReelinシグナルを細胞内で伝達する役割を果たしているのではないかと推定された。
 1997年、[[wikipedia: Tyrosine kinase | チロシンキナーゼ]][[wikipedia: Src | Src]]に結合するタンパク質が探索され、当時未知のタンパク質であった、disabled-1 homolog 1 (Dab1)([[wikipedia:ja:ショウジョウバエ | ショウジョウバエ]]で同定されていたdisabled-1遺伝子と相同性があった為命名)が同定された<ref name="ref1"><pubmed>9009273</pubmed></ref>。Dab1は N末端領域に[[wikipedia:Phosphotyrosine-binding domain | Phosphotyrosine-binding domain (PTB)ドメイン]]を持つアダプタータンパク質で、Srcによりリン酸化されることが明らかになった<ref name="ref1" />。dab1ノックアウトマウスが作成された所、大脳新皮質、海馬、小脳において神経細胞の配置異常が観察された<ref><pubmed>9338785</pubmed></ref>。この表現型は1951年に報告され、その原因遺伝子reelinが1995年に明らかにされた、リーラー(reeler)マウスの表現型(リーラーフェノタイプ)<ref>'''Two new mutants trembler and reeler, with neurological actionss in the house mouse'''<br>J. Genet..: 1951, 51, 192-201[http://link.springer.com/article/10.1007%2FBF02996215 論文掲載サイト]</ref>と酷似していた。さらに、リーラーフェノタイプ示すことが知られていた[[wikipedia:Yotari | ''yotari''マウス]]と[[wikipedia:Scrambler | ''scrambler''マウス]]の原因遺伝子がdab1であることが明らかになり<ref><pubmed>9338784</pubmed></ref>、dab1とreelinとの関連性が示唆された。実際、reelerマウスでは、(1)Dab1のmRNA量は変化しないが、タンパク質量が上昇していること、<ref name=rice><pubmed>9716537</pubmed></ref>、(2)Reelinは脳表層に分布するカハールレティウス(Cajal-Retzius)細胞に主に発現が観察されるが、Dab1はそれに隣接する神経細胞に発現が観察され、相補的な発現パターンになっていること<ref name=rice />、(3)Reelin刺激によりDab1のチロシンリン酸化が観察されること<ref><pubmed>10090720</pubmed></ref>等から、Dab1はReelinシグナルを細胞内で伝達する役割を果たしているのではないかと推定された。


 2000年になり、ApoER2とVLDLRのダブルノックアウトマウスが、リーラーフェノタイプになること<ref name=ref2><pubmed>10380922</pubmed></ref>が明らかになり、さらに生化学的結合実験等により、ApoER2とVLDLRがReelinの[[wikipedia:ja:受容体 | レセプター]]であることが示された<ref><pubmed>10571241</pubmed></ref><ref><pubmed>10571240</pubmed></ref>。またApoER2とVLDLRの細胞内ドメインのNPxYモチーフにDab1のPTBドメインを介して結合出来る事が示され、Dab1はReelinシグナルをApoER2、VLDLRを介して受け取る事が示唆された<ref name=ref2 />。また同年、活性化型Srcによってチロシンリン酸化を受ける可能性のある5つのチロシンが同定され、この5つのチロシンリン酸化部位全てをフェニルアラニンに変異させた[[wikipedia:Gene knockin |ノックインマウス]]が、リーラーフェノタイプになる事が示された<ref name=5F><pubmed>10959835</pubmed></ref>。この実験結果により、Dab1のチロシンリン酸化はReelinシグナルにとって必須であることが示された。  
 2000年になり、ApoER2とVLDLRのダブルノックアウトマウスが、リーラーフェノタイプになること<ref name=ref2><pubmed>10380922</pubmed></ref>が明らかになり、さらに生化学的結合実験等により、ApoER2とVLDLRがReelinの[[wikipedia:ja:受容体 | レセプター]]であることが示された<ref><pubmed>10571241</pubmed></ref><ref><pubmed>10571240</pubmed></ref>。またApoER2とVLDLRの細胞内ドメインのNPxYモチーフにDab1のPTBドメインを介して結合出来る事が示され、Dab1はReelinシグナルをApoER2、VLDLRを介して受け取る事が示唆された<ref name=ref2 />。また同年、活性化型Srcによってチロシンリン酸化を受ける可能性のある5つのチロシンが同定され、この5つのチロシンリン酸化部位全てをフェニルアラニンに変異させた[[wikipedia:Gene knockin |ノックインマウス]]が、リーラーフェノタイプになる事が示された<ref name=5F><pubmed>10959835</pubmed></ref>。この実験結果により、Dab1のチロシンリン酸化はReelinシグナルにとって必須であることが示された。  
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 2003年以降、チロシンリン酸化されたDab1に結合する様々なタンパク質が報告され、現在までに[[wikipedia:ja:PI3キナーゼ | Phosphoinositide 3-kinase (PI3K)]]<ref><pubmed>12882964</pubmed></ref>、[[wikipedia:SOCS3 | SOCS3]]<ref><pubmed>17974915</pubmed></ref>、[[wikipedia:NCK2 | Nck<math>\beta</math>]]<ref><pubmed>14517291</pubmed></ref>、[[wikipedia:PAFAH1B1 | Lis1]]<ref><pubmed>14578885</pubmed></ref>、[[wikipedia:Src family kinase | Src family kinase]]<ref name="ref1" /><ref><pubmed>18981215</pubmed></ref>、Crkファミリータンパク質(Crk、CrkL)<ref name=crk><pubmed>15062102</pubmed></ref><ref><pubmed>15316068</pubmed></ref><ref><pubmed>15110774</pubmed></ref>がDab1のチロシンリン酸化依存的に結合することが報告されている。このうちCrkとCrkLダブルノックアウトマウス<ref><pubmed>19074029</pubmed></ref>、C3Gの[[wikipedia:ja:ジーントラップ法 | ジーントラップ]]系統マウス<ref><pubmed>18506028</pubmed></ref>、及びSrcと[[wikipedia:FYN | Fyn]]のダブルノックアウトマウス<ref><pubmed>16162939</pubmed></ref>においてはリーラーフェノタイプ様の異常が生じることが報告されている。  
 2003年以降、チロシンリン酸化されたDab1に結合する様々なタンパク質が報告され、現在までに[[wikipedia:ja:PI3キナーゼ | Phosphoinositide 3-kinase (PI3K)]]<ref><pubmed>12882964</pubmed></ref>、[[wikipedia:SOCS3 | SOCS3]]<ref><pubmed>17974915</pubmed></ref>、[[wikipedia:NCK2 | Nck<math>\beta</math>]]<ref><pubmed>14517291</pubmed></ref>、[[wikipedia:PAFAH1B1 | Lis1]]<ref><pubmed>14578885</pubmed></ref>、[[wikipedia:Src family kinase | Src family kinase]]<ref name="ref1" /><ref><pubmed>18981215</pubmed></ref>、Crkファミリータンパク質(Crk、CrkL)<ref name=crk><pubmed>15062102</pubmed></ref><ref><pubmed>15316068</pubmed></ref><ref><pubmed>15110774</pubmed></ref>がDab1のチロシンリン酸化依存的に結合することが報告されている。このうちCrkとCrkLダブルノックアウトマウス<ref><pubmed>19074029</pubmed></ref>、C3Gの[[wikipedia:ja:ジーントラップ法 | ジーントラップ]]系統マウス<ref><pubmed>18506028</pubmed></ref>、及びSrcと[[wikipedia:FYN | Fyn]]のダブルノックアウトマウス<ref><pubmed>16162939</pubmed></ref>においてはリーラーフェノタイプ様の異常が生じることが報告されている。  


 2004年には、dab1欠損マウスの[[wikipedia:Dentate gyrus | 海馬歯状回]]の[[wikipedia:Granule cell | 顆粒細胞]]の樹状突起が野生型に比べて突起の数が減少していること<ref name=Niu><pubmed>14715136</pubmed></ref>、dab1欠損マウス由来の培養海馬神経細胞の樹状突起が短くなり、枝分かれの数も減少すること<ref name=Niu />が報告された。また、2006年、Dab1のノックダウン実験により、神経細胞の樹状突起形成が阻害されること<ref><pubmed>16467525</pubmed></ref>、生後、時期特異的にdab1にノックアウトした場合、海馬の樹状突起形成が阻害される<ref><pubmed>18477607</pubmed></ref>ことが、報告され、dab1は神経細胞の移動過程以外にも、神経細胞の樹状突起の発達にも関与することが示唆された。
 2004年には、dab1欠損マウスの[[wikipedia:Dentate gyrus | 海馬歯状回]]の[[wikipedia:Granule cell | 顆粒細胞]]の樹状突起が野生型に比べて突起の数が減少していること<ref name=Niu><pubmed>14715136</pubmed></ref>、dab1欠損マウス由来の培養海馬神経細胞の樹状突起が短くなり、枝分かれの数も減少すること<ref name=Niu />が報告された。また、2006年、Dab1のノックダウン実験により、神経細胞の樹状突起形成が阻害されること<ref name=dab1KD><pubmed>16467525</pubmed></ref>、生後、時期特異的にdab1にノックアウトした場合、海馬の樹状突起形成が阻害される<ref name=matsuki><pubmed>18477607</pubmed></ref>ことが、報告され、dab1は神経細胞の移動過程以外にも、樹状突起の発達にも関与することが示唆された。


 2011年から現在にかけて、Dab1の下流分子としてN-cadherin<ref name=ncad><pubmed>21315259</pubmed></ref><ref name=integrin><pubmed>21516100</pubmed></ref>と Integrin<math>\alpha</math>5<math>\beta</math>1<ref><pubmed>23083738</pubmed></ref>が神経細胞の移動を制御している可能性が示唆されている。これまでの観察で、培養神経細胞のReelin刺激が、Dab1リン酸化を介してCrk-C3G-Rap1パスウェイを活性化すること<ref name=crk />が報告されていたことから、Rap1のエフェクター分子が調べられた。その結果、Reelin-Dab1シグナルはN-cadherinを介して神経細胞の[[神経細胞移動 | ロコモーション]]と呼ばれる移動過程<ref name=ncad />を、Integrin <math>\alpha</math>5<math>\beta</math>1を介して[[神経細胞移動 | ターミナルトランスロケーション]]と呼ばれる移動過程に関与している<ref name=integrin />可能性が示唆された。  
 2011年から現在にかけて、Dab1の下流分子としてN-cadherin<ref name=ncad><pubmed>21315259</pubmed></ref><ref name=integrin><pubmed>21516100</pubmed></ref>と Integrin<math>\alpha</math>5<math>\beta</math>1<ref><pubmed>23083738</pubmed></ref>が神経細胞の移動を制御している可能性が示唆されている。これまでの観察で、培養神経細胞のReelin刺激が、Dab1リン酸化を介してCrk-C3G-Rap1パスウェイを活性化すること<ref name=crk />が報告されていたことから、Rap1のエフェクター分子が調べられた。その結果、Reelin-Dab1シグナルはN-cadherinを介して神経細胞の[[神経細胞移動 | ロコモーション]]と呼ばれる移動過程<ref name=ncad />を、Integrin <math>\alpha</math>5<math>\beta</math>1を介して[[神経細胞移動 | ターミナルトランスロケーション]]と呼ばれる移動過程に関与している<ref name=integrin />可能性が示唆された。  
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[[Image:Fig1 Dab1 primary structure.png|thumb|500px|<b>図1 Dab1のドメイン構造</b>]]  
[[Image:Fig1 Dab1 primary structure.png|thumb|500px|<b>図1 Dab1のドメイン構造</b>]]  


 マウスでは[[wikipedia:ja選択的スプライシング | 選択的スプライシング]]により13種のスプライスバリアントが存在することが報告されている<ref><pubmed>22586277</pubmed></ref>が、発達過程の中枢神経系では555アミノ酸を持つスプライスバリアント、Dab1 p80が最も多く発現している<ref name="ref1" />。Dab1(p80)はN末端側にPTBドメイン、続く領域にチロシンリン酸化部位を持つ細胞内タンパク質である(図1)。PTBドメインは、細胞内ドメインにNPxYモチーフを持つ膜タンパク質と結合する。これまでに、ApoER2<ref name=ref2 />、VLDLR<ref name=ref2 />、マウス[[wikipedia:PCDH18 | Pcdh18]]<ref><pubmed>11716507</pubmed></ref>、[[wikipedia:Amyloid precursor protein | Amyloid precursor protein (APP)]]<ref name=app><pubmed>10373567</pubmed></ref>、[[wikipedia:APLP1 | Amyloid-like protein 1 (APLP1)]]<ref name=app><pubmed>10460257</pubmed></ref>、 [[wikipedia:APLP2 | Amyloid-like protein 2 (APLP2)]]<ref name=app />との結合が報告されている。これらの結合にはNPxYモチーフのチロシン残基のリン酸化は必要としない。PTBドメインには[[wikipedia:Pleckstrin homology domain | plekstrin homology (PH)ドメイン]]様構造が含まれており、リン脂質([[wikipedia:Phosphatidylinositol 4-phosphate | Phosphatidylinositol 4-phosphate]]と[[wikipedia:Phosphatidylinositol 4,5-bisphosphate | Phosphatidylinositol 4,5-bisphosphate)に結合することが出来る<ref name=app />。また、PTBドメインのN末端側には[[wikipedia:Nuclear localization sequence | 核移行シグナル(Nuclear localization Signal: NLS)]]、PTBドメインのC末端側に二つの[[wikipedia:Nuclear export signal | 核外移行シグナル(Nuclear Export Signal: NES)]]を持っており、核と細胞質間を移行する能力を有している<ref><pubmed>17062576</pubmed></ref>。PTBドメインのC末端側、分子の中程にチロシンリン酸化を受ける部位が5カ所(Y185、Y198、Y200、Y220、Y232)同定されており<ref name=5F />、このうちの4つがシグナルの伝達に重要な役割を果たしている事が明らかにされている<ref name=feng><pubmed>18981215</pubmed></ref><ref><pubmed>19796633</pubmed></ref>。4つのチロシンリン酸化サイトは配列の相同性からYQXI配列を持つ2つ(Y185、Y198)とYXVP配列を持つ二つ(Y220、Y232)に分けられる。 神経細胞の移動に関しては、YQXI配列を持つY185とY198の間、およびYXVP配列を持つY220とY232の間で冗長性を持つ。一方、両方の[[wikipedia:ja:対立遺伝子 | 対立遺伝子]]にY185・Y198変異を持つマウスと、Y220・Y232に変異を持つマウスではそれぞれリーラーフェノタイプを示す。一方、片方の対立遺伝子でY185・Y198に変異を持ち、もう片方の対立遺伝子でY220・Y232に変異を持つ変異マウスではリーラーフェノタイプを示さないことから、Y185・Y198とY220・Y232はそれぞれ独立の機能を持ち、さらに相互依存する関係であることが示されている<ref name=feng />。Y200の生理的役割は不明である。  
 マウスでは[[wikipedia:ja選択的スプライシング | 選択的スプライシング]]により13種のスプライスバリアントが存在することが報告されている<ref><pubmed>22586277</pubmed></ref>が、発達過程の中枢神経系では555アミノ酸を持つスプライスバリアント、Dab1 p80が最も多く発現している<ref name="ref1" />。Dab1(p80)はN末端側にPTBドメイン、続く領域にチロシンリン酸化部位を持つ細胞内タンパク質である(図1)。PTBドメインは、細胞内ドメインにNPxYモチーフを持つ膜タンパク質と結合する。これまでに、ApoER2<ref name=ref2 />、VLDLR<ref name=ref2 />、マウス[[wikipedia:PCDH18 | Pcdh18]]<ref><pubmed>11716507</pubmed></ref>、[[wikipedia:Amyloid precursor protein | Amyloid precursor protein (APP)]]<ref name=app><pubmed>10373567</pubmed></ref>、[[wikipedia:APLP1 | Amyloid-like protein 1 (APLP1)]]<ref name=app><pubmed>10460257</pubmed></ref>、 [[wikipedia:APLP2 | Amyloid-like protein 2 (APLP2)]]<ref name=app />との結合が報告されている。これらの結合にはNPxYモチーフのチロシン残基のリン酸化は必要としない。PTBドメインには[[wikipedia:Pleckstrin homology domain | plekstrin homology (PH)ドメイン]]様構造が含まれており、リン脂質([[wikipedia:Phosphatidylinositol 4-phosphate | Phosphatidylinositol 4-phosphate]]と[[wikipedia:Phosphatidylinositol 4,5-bisphosphate | Phosphatidylinositol 4,5-bisphosphate]])に結合することが出来る<ref name=app />。また、PTBドメインのN末端側には[[wikipedia:Nuclear localization sequence | 核移行シグナル(Nuclear localization Signal: NLS)]]、PTBドメインのC末端側に二つの[[wikipedia:Nuclear export signal | 核外移行シグナル(Nuclear Export Signal: NES)]]を持っており、核と細胞質間を移行する能力を有している<ref><pubmed>17062576</pubmed></ref>。PTBドメインのC末端側、分子の中程にチロシンリン酸化を受ける部位が5カ所(Y185、Y198、Y200、Y220、Y232)同定されており<ref name=5F />、このうちの4つがシグナルの伝達に重要な役割を果たしている事が明らかにされている<ref name=feng><pubmed>18981215</pubmed></ref><ref><pubmed>19796633</pubmed></ref>。4つのチロシンリン酸化サイトは配列の相同性からYQXI配列を持つ2つ(Y185、Y198)とYXVP配列を持つ二つ(Y220、Y232)に分けられる。 神経細胞の移動に関しては、YQXI配列を持つY185とY198の間、およびYXVP配列を持つY220とY232の間で冗長性を持つ。一方、両方の[[wikipedia:ja:対立遺伝子 | 対立遺伝子]]にY185・Y198変異を持つマウスと、Y220・Y232に変異を持つマウスではそれぞれリーラーフェノタイプを示す。一方、片方の対立遺伝子でY185・Y198に変異を持ち、もう片方の対立遺伝子でY220・Y232に変異を持つ変異マウスではリーラーフェノタイプを示さないことから、Y185・Y198とY220・Y232はそれぞれ独立の機能を持ち、さらに相互依存する関係であることが示されている<ref name=feng />。Y200の生理的役割は不明である。  


== サブファミリー  ==
== サブファミリー  ==


 [[wikipeida:ja:哺乳類 | 哺乳類]]では[[wikipedia:DAB2 | Dab2]]が存在しており、細胞表面分子の[[wikipedia:Protein turnover | ターンオーバー]]、[[wikipedia:ja:エンドサイトーシス | エンドサイトーシス]]等に関与していると考えられている。  
 [[wikipedia:ja:哺乳類 | 哺乳類]]では[[wikipedia:DAB2 | Dab2]]が存在しており、細胞表面分子の[[wikipedia:Protein turnover | ターンオーバー]]、[[wikipedia:ja:エンドサイトーシス | エンドサイトーシス]]等に関与していると考えられている。  


== 発現様式  ==
== 発現様式  ==
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 dab1欠損により引き起こされるこれらの神経細胞の移動障害が、dab1が欠損した細胞自身の障害によるものなのか、あるいは、dab1を欠損した周囲の細胞によって引き起こされた二次的な原因によるものなのか、あるいは両方なのか、Dab1の機能を解明する上で、焦点となった。この問題を解決するため、野生型Dab1を持つ細胞とDab1を欠損した細胞の[[wikipedia:Chimera (genetics) | キメラマウス]]が作成された<ref><pubmed>11698592</ref></pubmed>。その結果、野生型のDab1を持つ細胞群がDab1を欠損した細胞群の上に配置されるような大脳新皮質(スーパーコルテックス)が形成される一方、少数の野生型細胞がDab1欠損細胞群中に取り込まれることが示された。この結果より、Dab1欠損による細胞の移動障害は主には細胞内因性の障害によって引き起こされているが、一部は周囲の細胞の障害にも影響されていることが示唆された。また、dab1を欠損したyotariマウスにdab1を''in utero'' [[wikipedia:ja:電気穿孔法 | エレクトロポレーション法]]により、導入してやることにより、Dab1をレスキューした場合においてもdab1を導入された神経細胞はDab1を欠損した神経細胞を追い越して、脳表層まで到達し、プレプレートスプリッティングも引き起こす<ref><pubmed>19796633</pubmed></ref>ことから、dab1欠損による移動障害が主には細胞内在性に引き起こされていることが示唆されている。  
 dab1欠損により引き起こされるこれらの神経細胞の移動障害が、dab1が欠損した細胞自身の障害によるものなのか、あるいは、dab1を欠損した周囲の細胞によって引き起こされた二次的な原因によるものなのか、あるいは両方なのか、Dab1の機能を解明する上で、焦点となった。この問題を解決するため、野生型Dab1を持つ細胞とDab1を欠損した細胞の[[wikipedia:Chimera (genetics) | キメラマウス]]が作成された<ref><pubmed>11698592</ref></pubmed>。その結果、野生型のDab1を持つ細胞群がDab1を欠損した細胞群の上に配置されるような大脳新皮質(スーパーコルテックス)が形成される一方、少数の野生型細胞がDab1欠損細胞群中に取り込まれることが示された。この結果より、Dab1欠損による細胞の移動障害は主には細胞内因性の障害によって引き起こされているが、一部は周囲の細胞の障害にも影響されていることが示唆された。また、dab1を欠損したyotariマウスにdab1を''in utero'' [[wikipedia:ja:電気穿孔法 | エレクトロポレーション法]]により、導入してやることにより、Dab1をレスキューした場合においてもdab1を導入された神経細胞はDab1を欠損した神経細胞を追い越して、脳表層まで到達し、プレプレートスプリッティングも引き起こす<ref><pubmed>19796633</pubmed></ref>ことから、dab1欠損による移動障害が主には細胞内在性に引き起こされていることが示唆されている。  


 では、Dab1の欠損により、何が一次的に障害されているのか?、この問題を解明する為に、周囲の細胞が正常な環境下で、一部の神経細胞でのみDab1の機能を阻害し、dab1の欠損によりどんな移動障害が引き起こされるのかが詳細に観察された。大脳新皮質の神経細胞は誕生時期の違いにより、異なる移動過程を経ることが知られている<ref><pubmed></pubmed></ref>。早生まれの神経細胞は脳室帯(ventricular zone)で誕生した後、もともと脳の表層にアンカリングしてあった、突起を用いて細胞体を引き上げるsomal translocationと呼ばれる形式で、移動する。一方、遅生まれの神経細胞は脳室帯で誕生した後、[[脳室下帯(subventricular zone)]]の直上で多極性の形態([[多極性細胞]])をとり、突起を出したり縮めたりしながら多極性移動([[multipolar migration]])と呼ばれる移動を行い、その後、紡錘形の形態にトランスフォームして脳表面にロコモーションと呼ばれる方式で移動する。さらに、脳表面付近では神経細胞の進行方向に長く伸びた[[先導突起(leading process)]]と呼ばれる突起を辺縁帯(marginal zone)付近まで伸ばし、核を引き上げる様に移動するターミナルトランスロケーションと呼ばれる移動様式により移動を行う。''in utero''エレクトロポレーションによってdab1のノックダウンが行われた結果、dab1が[[wikipedia:ja:遺伝子ノックダウン | ノックダウン]]された神経細胞は脳の表層近くまで移動するが、移動の最終過程であるターミナルトランスロケーションと樹状突起の発達が障害されていることが示された。この実験結果ではターミナルトランスロケーションも阻害されていることから、樹状突起形成の発達障害はその二次的な影響との可能性も考えられるが、海馬において生後3日からに次期特異的にdab1をノックアウトした場合に、樹状突起形成に異常が生じること、dab1ノックアウトマウスから得られた神経細胞を培養した場合にも樹状突起の形成に障害が生じることから、dab1には樹状突起形成を促進する働きがあることが示唆された。また、dab1のコンディショナルノックアウトマウスを用いた実験では、早生まれの細胞ではsomal translocationが阻害され、遅生まれの細胞ではteriminal translocationが阻害されていることが示された。また、Dab1のチロシンリン酸化非依存的にDab1に結合する分子として、Notch、Dab2IP、N-WASP、mPcdh18、APP、APLP1、 APLP2、が知られている。
 では、Dab1の欠損により、何が一次的に障害されているのか?、この問題を解明する為に、周囲の細胞が正常な環境下で、一部の神経細胞でのみDab1の機能を阻害し、dab1の欠損によりどんな移動障害が引き起こされるのかが詳細に観察された。大脳新皮質の神経細胞は誕生時期の違いにより、異なる移動過程を経ることが知られている<ref><pubmed>20182622</pubmed></ref>。早生まれの神経細胞は脳室帯(ventricular zone)で誕生した後、もともと脳の表層にアンカリングしてあった突起を用いて細胞体を引き上げる、somal translocationと呼ばれる形式で、移動する<ref><pubmed>11567613</pubmed></ref>。一方、遅生まれの神経細胞は脳室帯で誕生した後、[[脳室下帯(subventricular zone)]]の直上で[[多極性の形態(多極性細胞)]]をとり、突起を出したり縮めたりしながら多極性移動([[multipolar migration]])と呼ばれる移動を行い、その後、紡錘形の形態にトランスフォームして脳表面にロコモーションと呼ばれる方式で移動する<ref><pubmed>14602813</pubmed></ref>。さらに、脳表面付近では神経細胞の進行方向に長く伸びた[[先導突起(leading process)]]と呼ばれる突起を辺縁帯(marginal zone)付近まで伸ばし、核を引き上げる様に移動するターミナルトランスロケーションと呼ばれる移動様式により移動を行う。''in utero''エレクトロポレーションによってdab1のノックダウンが行われた結果、dab1が[[wikipedia:ja:遺伝子ノックダウン | ノックダウン]]された神経細胞は脳の表層近くまで移動するが、移動の最終過程であるターミナルトランスロケーションと樹状突起の発達が障害されていることが示された<ref name=dab1KD />。この実験結果ではターミナルトランスロケーションも阻害されていることから、樹状突起形成の発達障害はその二次的な影響との可能性も考えられるが、海馬において生後3日からに次期特異的にdab1をノックアウトした場合に、樹状突起形成に異常が生じること<ref name=matsuki />、dab1ノックアウトマウスから得られた神経細胞を培養した場合にも樹状突起の形成に障害が生じること<ref name=Niu />から、dab1には樹状突起形成を促進する働きがあることが示唆された。また、dab1のコンディショナルノックアウトマウスを用いた実験では、早生まれの細胞ではsomal translocationが阻害され、遅生まれの細胞ではteriminal translocationが阻害されていることが示された。


[[Image:Dab1 signaling pathway.png|thumb|700px|<b>図3 大脳新皮質層形成時におけるDab1を介するシグナル伝達系の模式図</b>]]  
[[Image:Dab1 signaling pathway.png|thumb|700px|<b>図3 大脳新皮質層形成時におけるDab1を介するシグナル伝達系の模式図</b>]]  


 一方Dab1が神経細胞移動を制御する分子メカニズムについてはN-cadherinとIntegrinが関与していることが実験的に示唆されている。大脳新皮質神経細胞のReelin刺激により、Dab1のチロシンリン酸化が起こり、ここにCrkを介するC3Gの活性化、続くRap1の活性化が起こることが培養細胞を用いた実験により知られていた為、Rap1のエフェクターとして既に知られていたN-cadherinの関与が調べられた。実験では、Rap1の不活性化因子であるRap1GAPを強制発現させることにより、Rap1を不活性化した。これにより、神経細胞の移動が障害され、皮質板に侵入する神経細胞の割合が減少する。Rap1はN-cadherinの細胞内から細胞表面への輸送に関わっていることが知られていたことから、Rap1GAPとN-cadherinを同時に発現させた所、Rap1GAPによる神経細胞の移動障害が抑制されることが示唆された。この結果により、間接的ではあるが、Reelin-Dab1シグナルがRap1を介してN-cadherinの細胞表面への輸送制御を行うことにより、神経細胞移動を制御している可能性が示唆された。  
 
 一方Dab1が神経細胞移動を制御する分子メカニズムについてはN-cadherin<ref name=ncad />とIntegrin<ref name=integrin />が関与していることが実験的に示唆されている。大脳新皮質神経細胞のReelin刺激により、Dab1のチロシンリン酸化が起こり、ここにCrkを介するC3Gの活性化、続くRap1の活性化が起こることが培養細胞を用いた実験により知られていた為、Rap1のエフェクターとして既に知られていたN-cadherinの関与が調べられた。実験では、Rap1の不活性化因子であるRap1GAPを強制発現させることにより、Rap1を不活性化した。これにより、神経細胞の移動が障害され、皮質板に侵入する神経細胞の割合が減少する。Rap1はN-cadherinの細胞内から細胞表面への輸送に関わっていることが知られていたことから、Rap1GAPとN-cadherinを同時に発現させた所、Rap1GAPによる神経細胞の移動障害が抑制されることが示唆された。この結果により、間接的ではあるが、Reelin-Dab1シグナルがRap1を介してN-cadherinの細胞表面への輸送制御を行うことにより、神経細胞移動を制御している可能性が示唆された。  


 一方、Rap1の阻害タンパク質SpaIをin utero electroporationにより発現させた場合、発現量が多い場合、多極性移動からロコモーションへの変換を阻害し、弱い場合は原皮質帯(primitive cortical zone、PCZ)と呼ばれる部位への神経細胞の移動を阻害することから、Rap1は神経細胞の移動を多くのステップで制御している可能性が示された。のneuN陰性の活性化型Integrin beta 1を認識する抗体がターミナルトランスロケーションが起る原皮質帯(primitive cortical zone、PCZ)と呼ばれる部位に多いこと、reelerマウスやyotariマウスではIntegrin beta1の活性化が観察されないこと、Integrinのリガンドであるfibronectinが辺縁帯に多いこと等から、IntegrinがReelin-dab1シグナル依存性にターミナルトランスロケーションを制御する分子の候補となった。Reelin刺激した神経細胞はfibronectinに対する接着性が上昇すること等から、Rap1の下流分子として知られていた  
 一方、Rap1の阻害タンパク質SpaIをin utero electroporationにより発現させた場合、発現量が多い場合、多極性移動からロコモーションへの変換を阻害し、弱い場合は原皮質帯(primitive cortical zone、PCZ)と呼ばれる部位への神経細胞の移動を阻害することから、Rap1は神経細胞の移動を多くのステップで制御している可能性が示された。のneuN陰性の活性化型Integrin beta 1を認識する抗体がターミナルトランスロケーションが起る原皮質帯(primitive cortical zone、PCZ)と呼ばれる部位に多いこと、reelerマウスやyotariマウスではIntegrin beta1の活性化が観察されないこと、Integrinのリガンドであるfibronectinが辺縁帯に多いこと等から、IntegrinがReelin-dab1シグナル依存性にターミナルトランスロケーションを制御する分子の候補となった。Reelin刺激した神経細胞はfibronectinに対する接着性が上昇すること等から、Rap1の下流分子として知られていた  


 しかしながら、N-cadhelinをリーラーマウスに導入しただけでは、神経細胞の移動がレスキューされないし、また、Integrin beta1のノックアウトマウスやコンディショナルノックアウトマウスではリーラーフェノタイプにはならないことから、これらの働きは部分的であるか、このような実験条件では完全にはレスキューできないことが示唆されている。  
 しかしながら、N-cadhelinをリーラーマウスに導入しただけでは、神経細胞の移動がレスキューされないし、また、Integrin beta1のノックアウトマウスやコンディショナルノックアウトマウスではリーラーフェノタイプにはならないことから、これらの働きは部分的であるか、このような実験条件では完全にはレスキューできないことが示唆されている。  
また、Dab1のチロシンリン酸化非依存的にDab1に結合する分子として、Notch、Dab2IP、N-WASPが知られている。特にNotchは


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