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暗所で微弱光を感知するのに特化した桿体視細胞に対して錐体視細胞は明所で機能する。通常動物は複数の錐体視細胞を持っており、それぞれ波長感度の異なる錐体視物質を持つことによって色覚を可能にしている。例えばヒトは赤色光、緑色光、青色光を受容する3種類の錐体視物質を持っていて3色光色覚([[wikipedia:Trichromacy|Trichromacy]])を実現している。このように錐体視物質は波長感度でグループ分けすることができるが、このグループは分子系統的なグループ分けとおよそ一致していて、錐体視物質は波長感度によって多様化したことが知られている。桿体視物質は緑色光を受容する錐体視物質から分岐し、暗所での光受容に特化した。明所で働く錐体視細胞の応答は桿体視細胞に比べて応答が速いが感度が低いのが特徴である。このように視細胞の特徴的な応答特性は光受容を担う視物質やシグナル分子の分子特性の違いに起因すると考えられている。 | 暗所で微弱光を感知するのに特化した桿体視細胞に対して錐体視細胞は明所で機能する。通常動物は複数の錐体視細胞を持っており、それぞれ波長感度の異なる錐体視物質を持つことによって色覚を可能にしている。例えばヒトは赤色光、緑色光、青色光を受容する3種類の錐体視物質を持っていて3色光色覚([[wikipedia:Trichromacy|Trichromacy]])を実現している。このように錐体視物質は波長感度でグループ分けすることができるが、このグループは分子系統的なグループ分けとおよそ一致していて、錐体視物質は波長感度によって多様化したことが知られている。桿体視物質は緑色光を受容する錐体視物質から分岐し、暗所での光受容に特化した。明所で働く錐体視細胞の応答は桿体視細胞に比べて応答が速いが感度が低いのが特徴である。このように視細胞の特徴的な応答特性は光受容を担う視物質やシグナル分子の分子特性の違いに起因すると考えられている。 | ||
=== | ===無脊椎動物の視物質=== | ||
頭足類(イカ・タコなど)や節足動物などの無脊椎動物も高度な眼を持っていて発達した視覚を有する。しかし無脊椎動物と脊椎動物はそれぞれ視覚に違うタイプのオプシンを使っている。無脊椎動物の視物質は分子系統的に脊椎動物の視物質とは遠縁であり無脊椎動物の視物質は脊椎動物のものと違う分子特性を持っている。例えば脊椎動物の視物質はGtと共有するが無脊椎動物の視物質はGqと共役する。そのため無脊椎動物では光応答に対して視細胞のチャネルが開き脱分極する。無脊椎動物の視物質もロドプシンと呼ばれているが脊椎動物のものと区別するため生物名を加えるのが慣例である。(例えばイカロドプシン、ショウジョウバエロドプシンなど) | |||
===オプシン類=== | |||
1990年代以降クローニング技術やゲノム解析などの発達によってさまざまなロドプシン類似光受容タンパク質が同定されてきている。なかでも[[ピノプシン]]の発見は特筆される<ref><pubmed> 7969427 </pubmed></ref>。それまでに発見されていたロドプシン類はいわゆる「視覚」に関与する受容体であったが、[[松果体]]に存在するピノプシンは視覚以外の機能に関与する受容体であったからである。この発見以降、「視覚オプシン(visual opsin)」、「非視覚オプシン(non-visual opsin)」という言葉が使われるようになった。最近では1000種類以上のロドプシン様遺伝子が報告されており、これらはGタンパク質共役型受容体(G Protein Coupled Receptor: GPCR)の一員であることが知られている。 | |||
===[[メラノプシン]]=== | |||
網膜には桿体・錐体視細胞以外の細胞にも光受容能のあるものが報告されている。中でも網膜神経節細胞の内因性光感受性神経節細胞([[wikipedia:Photosensitive_ganglion_cell|intrinsically photosensitive Retinal Ganglion Cell]])が注目されている。ipRGCはマウスで概日時計の光同調や瞳の瞳孔反射などの非視覚機能を制御していることが示されている。ipRGCはその内因性の光感受性の他に視細胞からの入力によっても応答できることが知られている。近年はさらにipRGCから視細胞に逆行するシグナル回路があることが示唆されていて、ipRGCが視覚機能を一部調節をしていること考えられている。ipRGCで光受容を担うのは青色光を受容するメラノプシン(メラノプシンという名はカエルのメラニン細胞で初めて同定されたことに由来する)と呼ばれる新規のオプシンで興味深いことにメラノプシンは脊椎動物よりも無脊椎動物の視物質に近縁であることが知られている。メラノプシンは視細胞が脱感作するような長時間の光照射や強度の光照射で機能すると考えられる。 | |||
=== GPCRとロドプシン === | === GPCRとロドプシン === | ||
GPCRは[[ペプチド]]、[[ホルモン]]、[[匂い]]物質などのさまざまな[[wikipedia:JA:化学物質|化学物質]]を受容し、Gタンパク質を介する細胞内シグナル伝達機構を駆動する受容体である。GPCRによる外界からのシグナル受容はほとんどの細胞で観測され、細胞間のコミュニケーションを担う上でも非常に重要な受容体である。また、マウスやヒトではゲノム中で最も大きなタンパク質ファミリーであることが知られている。ロドプシン類はGPCRのメンバーであるが、分子内に内在性のリガンド(11-シス型のレチナール)を含んでいることが特徴である。 | GPCRは[[ペプチド]]、[[ホルモン]]、[[匂い]]物質などのさまざまな[[wikipedia:JA:化学物質|化学物質]]を受容し、Gタンパク質を介する細胞内シグナル伝達機構を駆動する受容体である。GPCRによる外界からのシグナル受容はほとんどの細胞で観測され、細胞間のコミュニケーションを担う上でも非常に重要な受容体である。また、マウスやヒトではゲノム中で最も大きなタンパク質ファミリーであることが知られている。ロドプシン類はGPCRのメンバーであるが、分子内に内在性のリガンド(11-シス型のレチナール)を含んでいることが特徴である。 | ||
ロドプシンはGPCRファミリー1の代表的な受容体として知られている。 実際ファミリー1のGPCRはrhodopsin-like GPCRとも呼ばれている。近年の[[wikipedia:JA:結晶構造解析|結晶構造解析]]の結果、ロドプシンの立体構造、特に膜貫通領域の構造は、他のGPCRのそれらと酷似していることが証明された。しかし、非常に多様化しているGPCRのなかでロドプシンは必ずしも典型的なGPCRというわけではない。ロドプシンは11-シスレチナールを内在性のリガンドとしてもともと結合している。11-シスレチナールは、発色団として、また、逆作動薬として働き、これはロドプシンのみの特徴である。 | ロドプシンはGPCRファミリー1の代表的な受容体として知られている。 実際ファミリー1のGPCRはrhodopsin-like GPCRとも呼ばれている。近年の[[wikipedia:JA:結晶構造解析|結晶構造解析]]の結果、ロドプシンの立体構造、特に膜貫通領域の構造は、他のGPCRのそれらと酷似していることが証明された。しかし、非常に多様化しているGPCRのなかでロドプシンは必ずしも典型的なGPCRというわけではない。ロドプシンは11-シスレチナールを内在性のリガンドとしてもともと結合している。11-シスレチナールは、発色団として、また、逆作動薬として働き、これはロドプシンのみの特徴である。 |
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