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同義語:外線条皮質、有線外皮質、後頭連合野、V2、V3、V4、MT | 同義語:外線条皮質、有線外皮質、後頭連合野、V2、V3、V4、MT | ||
視覚前野(しかくぜんや)は哺乳類の大脳新皮質の視覚野の一部で、後頭葉の視覚連合野(後頭連合野)、ブロードマンの18、1[[9野]]に相当する。さらにV2、V3、V3a、V4、V5/MT、V6等の機能的領野に区分される。第一次視覚野(V1、1[[7野]])より主な入力を受けて視覚情報処理を専らとする。各領野のニューロンは受容野を持ち、レチノトピーの性質を示して、片半球の領野が反対側の半視野を表す。これらの領野は階層的な結合関係を持ち、上の階層ほど受容野が大きく、より複雑な刺激特徴や大局的な情報を抽出表現する。主に2つの視覚経路に分かれており、腹側視覚路はV2、V4を介して下側頭葉(側頭連合野)に出力し、物体の形状や物体表面の性質(明るさ、色、模様)を表し、視覚対象の認識や形状の表象に寄与する。背側皮質視覚路はV2、V3、V5、V6を介して後頭頂葉([[頭頂連合野]])に出力し、3次元的な空間配置、空間の構造、動きを表して、眼や腕の運動制御に寄与する。 | |||
==視覚前野とは== | ==視覚前野とは== | ||
哺乳類の大脳新皮質の[[視覚野]]の一部で、[[後頭葉]]の視覚連合野(後頭連合野)、あるいは後頭葉から[[一次視覚野]](V1)を除いた部分。細胞構築学的には[[ブロードマンの脳地図]] | 哺乳類の大脳新皮質の[[視覚野]]の一部で、[[後頭葉]]の視覚連合野(後頭連合野)、あるいは後頭葉から[[一次視覚野]](V1)を除いた部分。細胞構築学的には[[ブロードマンの脳地図]]の[[18野]],19野に相当する。1[[8野]]を前有線皮質(傍有線野、prestriate cortex)、19野を周有線皮質(周線条野、後頭眼野、parastriate cortex)、視覚前野を外線条皮質(有線外皮質、extrastriate cortex, circumstriate cortex)と呼ぶ。1960年代以降,ニューロンの発火活や神経投射の研究により、応答特性、受容野の大きさや位置、ニューロン間の結合関係に着目した機能的な領野の区分がネコやサルで盛んになった。また免疫組織化学的な染色法の研究も進んだ。1980年代以降、fMRIや光計測等の発達により視野地図の広がりの可視化(イメージング)が進んだ。当初、一次視覚野(V1)に隣接する領域を広く視覚前野、視覚連合野と称した。現在ではV2、V3、V4、MT、V6等の機能的な領野が同定され、個別の領野として扱われることが多い。機能的な領野区分はマカクザル(アカゲザル、ニホンザルなど)で最も進んでいるが、細部や高次領域(V3、V4、V6)については意見の相違がある。動物種によっても区分法や名称が異なる。 | ||
==機能的な領野の区分== | ==機能的な領野の区分== | ||
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視覚前野の特徴として、ニューロンは(古典的)[[受容野]]より視覚入力を受け、[[レチノトピー]](網膜部位の再現)の性質を示す。片半球の1つの機能的な領野は反対側の視野を映す一枚のトポグラフィックな[[視野地図]]を持つ。 | 視覚前野の特徴として、ニューロンは(古典的)[[受容野]]より視覚入力を受け、[[レチノトピー]](網膜部位の再現)の性質を示す。片半球の1つの機能的な領野は反対側の視野を映す一枚のトポグラフィックな[[視野地図]]を持つ。 | ||
マカクザルのV2、V3、V4はV1の前方に帯状に広がり、[[大脳皮質]]の腹側の領域が反対側の視野の上半分(上視野)を表し、背側の領域が視野の下半分(下視野)を表す。月状溝(lunate sulcus)の終端部付近はV1、V2、V4の中心視野(fovea)を表すが、境界は定かでない。V2、V3は大部分が月状溝内部にある。V3は腹側と背側の2つの領域に分かれる。領野の境界は視野の垂直子午線(vertical meridian)ないし水平子午線(horizontal meridian)を表す。垂直子午線付近のニューロンは脳梁を介する反対側の半球から入力を受け、両側の視野にまたがる受容野を持つ。MTは上側頭溝(superior temporal sulcus, STS)内部に、V6は頭頂後頭溝内部にあり、上視野と下視野が連続した一枚の視野地図を持つ。 | |||
ヒトでは、非侵襲的な計測法([[fMRI]])の発展により、視野地図のイメージングによる領野区分が進んだ。マカクザルと共通な領野(ホモログ)が同定されているが、V3、V4、V6等の高次領域については異論が多い。 | ヒトでは、非侵襲的な計測法([[fMRI]])の発展により、視野地図のイメージングによる領野区分が進んだ。マカクザルと共通な領野(ホモログ)が同定されているが、V3、V4、V6等の高次領域については異論が多い。 | ||
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===大局的な情報=== | ===大局的な情報=== | ||
視覚前野の様々な階層で、ニューロンは刺激全体が示す大局的な性質に選択性を示す。その反応は、受容野内に呈示されている視覚刺激の物理特性よりも、むしろ[[知覚]]される刺激の“見え”に近い。 | |||
====主観的輪郭==== | ====主観的輪郭==== | ||
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===注意や予測(期待)=== | ===注意や予測(期待)=== | ||
我々の視覚情報処理は視覚情報以外の能動的な修飾作用を受けている([[空間的注意]]、[[選択的注意]] | 我々の視覚情報処理は視覚情報以外の能動的な修飾作用を受けている([[空間的注意]]、[[選択的注意]]を参照)。サルを訓練して、特定の場所、刺激物体、色や形などの刺激属性に注意を向けさせた状態で記録すると反応の増強(ゲイン)、刺激選択性の向上(応答特性)、受容野の縮小や[[移動]](空間特性)が観察される<ref><pubmed>7605061</pubmed></ref><ref><pubmed>12217174</pubmed></ref>。顕著な作用がMT<ref><pubmed>8700227</pubmed></ref><ref><pubmed>10376597</pubmed></ref><ref><pubmed>10460265</pubmed></ref><ref><pubmed>10200212</pubmed></ref>やV4<ref><pubmed>4023713</pubmed></ref><ref><pubmed>9096154</pubmed></ref><ref><pubmed>9870971</pubmed></ref><ref><pubmed>10896165</pubmed></ref>で見られる一方で、V1、V2ではそうした修飾作用が弱かった<ref><pubmed>9120566</pubmed></ref><ref><pubmed>10024360</pubmed></ref>。V4では注意を向けさせると電気活動の同期性が高まることが報告されている<ref><pubmed>11222864</pubmed></ref>。ヒトでも同様の作用が報告されている<ref><pubmed>9756472</pubmed></ref>。 | ||
==知覚の神経メカニズム== | ==知覚の神経メカニズム== | ||
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===V3野=== | ===V3野=== | ||
18野の一部。背側部(V3d)と腹側部(V3v)に2分される。合わせて一つのV3とする説<ref name=ref7><pubmed>4978525</pubmed></ref><ref><pubmed>11832231</pubmed></ref>と,異なる領野とする説<ref><pubmed>811327</pubmed></ref>がある。V3vはVP野(腹側後部領域,ventral posterior area)とも言う<ref><pubmed>9114244</pubmed></ref><ref><pubmed>3782504</pubmed></ref><ref><pubmed>3716214</pubmed></ref><ref name=ref1 />。V2(狭線条部、線条間部)から入力を受け、下側頭葉に投射する。視野の下半分を表す。色選択性を示し、腹側視覚路に属する。一方、V3dはV2(広線条部) とV1(4b層)から入力を受け、V3a,V4,V5, | 18野の一部。背側部(V3d)と腹側部(V3v)に2分される。合わせて一つのV3とする説<ref name=ref7><pubmed>4978525</pubmed></ref><ref><pubmed>11832231</pubmed></ref>と,異なる領野とする説<ref><pubmed>811327</pubmed></ref>がある。V3vはVP野(腹側後部領域,ventral posterior area)とも言う<ref><pubmed>9114244</pubmed></ref><ref><pubmed>3782504</pubmed></ref><ref><pubmed>3716214</pubmed></ref><ref name=ref1 />。V2(狭線条部、線条間部)から入力を受け、下側頭葉に投射する。視野の下半分を表す。色選択性を示し、腹側視覚路に属する。一方、V3dはV2(広線条部) とV1(4b層)から入力を受け、V3a,V4,V5,V6と後頭頂葉に出力する。視野の上半分を表す。[[ミエリン]]染色で濃く染まり、輝度や奥行きに選択性を示すが、色には選択性を示さない。背側皮質視覚路に属する。広域的な動きや奥行き方向の傾き、テクスチャの充填(欠損部の補完)<ref><pubmed>7477262</pubmed></ref>に関わる。 | ||
V2とV4の間の領域を3次視覚皮質複合体と言う。ヒトでよく発達しており、サルとの違いが顕著な領域である。V3AはV3d前方に隣接し、別の視野地図をもつ領野である。V1,V2,V3dより入力を受け、MT,MST,LIPへ出力する。サルでは、V3dに比べて速度や奥行きに選択性を示すニューロンが少なく、ドットパターンよりも線刺激に強く反応する。注意の効果が顕著に見られる<ref><pubmed>10938295</pubmed></ref>。視線の向きによらずに、頭部の向きを基準とする方向に選択性を示すものがある<ref><pubmed>8385201</pubmed></ref>。ヒトでは、むしろV3dよりもV3Aの方が運動刺激によく反応し、V3Aに[[経頭蓋電気刺激]](TMS)を与えると速度の知覚が障害される<ref><pubmed>18596160</pubmed></ref>。さらに別な領域(V3B)も存在する<ref><pubmed>9593930</pubmed></ref><ref><pubmed>11322977</pubmed></ref>。 | V2とV4の間の領域を3次視覚皮質複合体と言う。ヒトでよく発達しており、サルとの違いが顕著な領域である。V3AはV3d前方に隣接し、別の視野地図をもつ領野である。V1,V2,V3dより入力を受け、MT,MST,LIPへ出力する。サルでは、V3dに比べて速度や奥行きに選択性を示すニューロンが少なく、ドットパターンよりも線刺激に強く反応する。注意の効果が顕著に見られる<ref><pubmed>10938295</pubmed></ref>。視線の向きによらずに、頭部の向きを基準とする方向に選択性を示すものがある<ref><pubmed>8385201</pubmed></ref>。ヒトでは、むしろV3dよりもV3Aの方が運動刺激によく反応し、V3Aに[[経頭蓋電気刺激]](TMS)を与えると速度の知覚が障害される<ref><pubmed>18596160</pubmed></ref>。さらに別な領域(V3B)も存在する<ref><pubmed>9593930</pubmed></ref><ref><pubmed>11322977</pubmed></ref>。 | ||
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===V4野=== | ===V4野=== | ||
新世界ザルの背外側野(DL)に相当する。V2(狭線条部、線条間部)、V3、V3aから強い入力を受け,下側頭葉 (TEO、TE)、上側頭溝(MT、MST、FST、V4t)、頭頂葉(DP、VIP、LIP、PIP、MST) | 新世界ザルの背外側野(DL)に相当する。V2(狭線条部、線条間部)、V3、V3aから強い入力を受け,下側頭葉 (TEO、TE)、上側頭溝(MT、MST、FST、V4t)、頭頂葉(DP、VIP、LIP、PIP、MST)、[[前頭葉]](FEF)へ出力する。V1、V2、V3にフィードバック投射を返す。中心視の領域がV2の主な投射先であり、V1からも入力を受ける。周辺視の領域はV3,V5から強い入力を受け、上側頭溝や頭頂葉からも広く入力を受ける。背側視覚路に属する。ヒトのV4の区分には諸説がある<ref><pubmed>17978030</pubmed></ref><ref name=ref3><pubmed>12217168</pubmed></ref>。 | ||
1970年代に色に選択的な領域として同定された際には、色恒常性を示すことから色表現の中枢とされた<ref name=ref7 /></ref><ref><pubmed>4196224</pubmed></ref>。1980年代になると輪郭線の形状に選択性を示すことが明らかにされた<ref><pubmed>418173</pubmed></ref><ref name=ref6 /><ref><pubmed>3803497</pubmed></ref>。近年、色と形のサブ領域(グロブ)に分かれることが示されている<ref><pubmed>21076422</pubmed></ref><ref><pubmed>17988638</pubmed></ref>。曲線の曲率と傾き<ref><pubmed>10561421</pubmed></ref><ref name=ref2 />、縞模様の空間周波数成分と傾き、輪郭線の形状に複雑な応答特性を示す。3次元方向の線の傾き<ref><pubmed>15987762</pubmed></ref>、受容野内外の相対的な奥行き(fine stereopsis)<ref><pubmed>3559704</pubmed></ref>に選択性を示す。大局的な選択性を示す(色恒常性、負相関ステレオグラム)。注意により強い修飾を受ける。 | 1970年代に色に選択的な領域として同定された際には、色恒常性を示すことから色表現の中枢とされた<ref name=ref7 /></ref><ref><pubmed>4196224</pubmed></ref>。1980年代になると輪郭線の形状に選択性を示すことが明らかにされた<ref><pubmed>418173</pubmed></ref><ref name=ref6 /><ref><pubmed>3803497</pubmed></ref>。近年、色と形のサブ領域(グロブ)に分かれることが示されている<ref><pubmed>21076422</pubmed></ref><ref><pubmed>17988638</pubmed></ref>。曲線の曲率と傾き<ref><pubmed>10561421</pubmed></ref><ref name=ref2 />、縞模様の空間周波数成分と傾き、輪郭線の形状に複雑な応答特性を示す。3次元方向の線の傾き<ref><pubmed>15987762</pubmed></ref>、受容野内外の相対的な奥行き(fine stereopsis)<ref><pubmed>3559704</pubmed></ref>に選択性を示す。大局的な選択性を示す(色恒常性、負相関ステレオグラム)。注意により強い修飾を受ける。 |