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==ヒトにおける物体認知の発達 == | ==ヒトにおける物体認知の発達 == | ||
===物体注視時間と探索行動=== | |||
ヒトの生後ごく初期における物体認知能力は、対象をどれだけ長く見ているかという注視時間を指標とすることが多い。最もシンプルな手続きは選好注視法である。一対の刺激を提示し、それぞれの刺激を注視する時間に偏りが生じるかを調べる。どちらかの刺激をより長く注視していたならば、二つの刺激を弁別できたとみなされる。別の方法として馴化・脱馴化法があり、これは上述した動物実験のものと同じ実験パラダイムである。すなわち、何らかの刺激を複数回提示し、注視時間が短くなったところで(馴化成立)、新たな刺激を提示する。この時、注視時間の増加(脱馴化)が見られたならば、最初の刺激と後に提示された刺激を弁別できたとみなされる。このような方法によって、まだ言語獲得以前の子どもにおいて物体そのものの認知や物体の空間的特性や物理的特性の認知が測定することができる。探索行動を指標として認知機能を測定した研究もあるが、注視か探索かという指標の違いによって、測定された認知の発現年齢が一致しないことが指摘されてきた。 | ヒトの生後ごく初期における物体認知能力は、対象をどれだけ長く見ているかという注視時間を指標とすることが多い。最もシンプルな手続きは選好注視法である。一対の刺激を提示し、それぞれの刺激を注視する時間に偏りが生じるかを調べる。どちらかの刺激をより長く注視していたならば、二つの刺激を弁別できたとみなされる。別の方法として馴化・脱馴化法があり、これは上述した動物実験のものと同じ実験パラダイムである。すなわち、何らかの刺激を複数回提示し、注視時間が短くなったところで(馴化成立)、新たな刺激を提示する。この時、注視時間の増加(脱馴化)が見られたならば、最初の刺激と後に提示された刺激を弁別できたとみなされる。このような方法によって、まだ言語獲得以前の子どもにおいて物体そのものの認知や物体の空間的特性や物理的特性の認知が測定することができる。探索行動を指標として認知機能を測定した研究もあるが、注視か探索かという指標の違いによって、測定された認知の発現年齢が一致しないことが指摘されてきた。 | ||
===物体の永続性=== | |||
上述した注視と探索の不一致の例として永続性の概念についての一連の研究がある。物体認知発達心理学者であるPiaget(1896年-1980年)は、ヒトの誕生から2年間の期間を感覚運動段階と呼び、この期間に乳幼児は自己の運動と外界に存在する物体との関係を学習していくと考えた。その代表的な認知として物体の永続性(object permanence)が挙げられる。永続性とは物体が見えなくなっても存在し続けることの認知であり、隠された物体の探索行動が生じる場合に永続性が確立されたとみなされる。この物体探索行動は発達とともに段階的に変化していく。誕生から2カ月までは物体が視界から消えても反応しない。4カ月から8カ月の乳児では物体が視界から消えると驚く反応を見せるものの探索行動は生じない。しかし、8カ月から12ケ月の乳児では、布や衝立で隠された物体を積極的に探索するようになる。したがって、物体の永続性の概念の獲得には1年程度を要するのであると考えられた。ところが、注視時間を指標とする別の実験「跳ね橋実験」(Baillargeon, 1987)<ref>'''R Baillargeon'''<br>Object permanence in 3 l/2- and 4 l/2-month-old Infants.<br>''Developmental Psychology'':1987,23,655-664</ref>では、物体の永続性の認知そのものは3.5カ月で獲得されることが示された。この実験では、物体とそれに向かって移動する衝立の映像が“ありえる条件”と“ありえない条件”の2条件で提示され、それぞれに対する注視時間が測定された。“ありえる条件”では、衝立が物体にぶつかって止まるのに対して、“ありえない条件”では衝立が物体を通り越して移動を続ける。3.5カ月齢の乳児において“ありえない条件”での注視時間が“ありえる条件”よりも長くなったことから、3.5カ月ですでに物体が存在し続けるという永続性の認知が可能であることを示している。 | |||
===探索エラー=== | |||
以上のように、物体の永続性の認知と消えた物体に対する探索行動の発現の時期は必ずしも対応するわけでない。また、物体探索行動が開始されたとしても、しばしば探索エラーが生じる。Piagetは9月齢前後の乳児では、物体が目の前で衝立Aから衝立Bの後ろに移動しても、衝立Aの後ろを探し続ける「A-not-Bエラー」が生じることを指摘した。Diamondによるサルの前頭皮質損傷や研究やヒトの前頭皮質損傷患者を対象とした一連の研究により、「A-not-Bエラー」は前頭前野の未成熟によると考えられている。 | |||
==神経基盤 == | ==神経基盤 == |
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