「ソース・モニタリング」の版間の差分

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<font size="+1">佐藤 弘美、[http://researchmap.jp/yukoyy 四本 裕子]</font><br>
''東京大学 総合文化研究科''<br>
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2012年10月18日 原稿完成日:2012年11月7日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/atsushiiriki 入來 篤史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
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英語名:source monitoring  
英語名:source monitoring  


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 ソース・モニタリングとは、ある特定の記憶について、その[[記憶]]がいつどこでどのように得られたかという情報源についての記憶・認識である<ref name=ref1><pubmed> 8346328 </pubmed></ref>。記憶の情報源は間違って判断されることも多く、そのことを[[ソース・モニタリング・エラー]]と呼ぶ。このエラーは、情報源の[[符号化]]の限界または情報源を特定する際の何らかの妨害によって、正常な[[知覚]]処理過程または参照過程が妨げられるために生じる。[[うつ]]状態や[[ストレス]]レベルの高い状態、または関連する脳の領野の損傷などがソース・モニタリング・エラーの原因と考えられている。  
 ソース・モニタリングとは、ある特定の記憶について、その[[記憶]]がいつどこでどのように得られたかという情報源についての記憶・認識である<ref name=ref1><pubmed> 8346328 </pubmed></ref>。記憶の情報源は間違って判断されることも多く、そのことを[[ソース・モニタリング・エラー]]と呼ぶ。このエラーは、情報源の[[符号化]]の限界または情報源を特定する際の何らかの妨害によって、正常な[[知覚]]処理過程または参照過程が妨げられるために生じる。[[うつ]]状態や[[ストレス]]レベルの高い状態、または関連する脳の領野の損傷などがソース・モニタリング・エラーの原因と考えられている。  
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== 概要 ==
== 概要 ==
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=== 2つの処理過程  ===
=== 2つの処理過程  ===


 ソース・モニタリングが行われる処理過程には、自動的に無意識に行われる[[ヒューリスティック処理]]と、逐次的で意図的な[[システマティック処理]]の2つの過程が存在すると考えられている<ref name=ref1 /> <ref>'''D S Lindsay, M K Johnson'''<br>Recognition memory and source monitoring.<br>''Psychological Bulletin,'':1991, 29(3), 203–205</ref>。  
 ソース・モニタリングが行われる処理過程には、自動的に[[無意識]]に行われる[[ヒューリスティック処理]]と、逐次的で意図的な[[システマティック処理]]の2つの過程が存在すると考えられている<ref name=ref1 /> <ref>'''D S Lindsay, M K Johnson'''<br>Recognition memory and source monitoring.<br>''Psychological Bulletin,'':1991, 29(3), 203–205</ref>。  


==== ヒューリスティック処理 ====
==== ヒューリスティック処理 ====
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 これらのMTLと回想や親近性を結びつける研究の多くは「誤った情報源の判断は親近性を反映している」という仮定を前提にしているが、この想定自体が正しいかは議論の余地が残る。さらに、記憶の想起中にfMRIでMTLの活動を記録するには技術的に難しい点もあるため、回想や親近性といった感情的なものとMTLの関係はさらに詳しく見ていく必要がある。
 これらのMTLと回想や親近性を結びつける研究の多くは「誤った情報源の判断は親近性を反映している」という仮定を前提にしているが、この想定自体が正しいかは議論の余地が残る。さらに、記憶の想起中にfMRIでMTLの活動を記録するには技術的に難しい点もあるため、回想や親近性といった感情的なものとMTLの関係はさらに詳しく見ていく必要がある。


c.f. DRMパラダイム:学習時に実際には呈示されない単語であるルアー項目(例えば、太陽) の連想語(例えば、月、光)をから成り立つリスト(以下DRMリスト)を呈示する。そしてテスト時には学習項目とルアー項目、その他の未学習項目からなるDRMリストを用いて再認判断を求める。すると、ルアー項目は他の未学習項目と比較して高い確率で再認される。
c.f. DRMパラダイム:学習時に実際には呈示されない単語であるルアー項目(例えば、太陽) の連想語(例えば、月、光)をから成り立つリスト(以下DRMリスト)を呈示する。そして[[テスト]]時には学習項目とルアー項目、その他の未学習項目からなるDRMリストを用いて再認判断を求める。すると、ルアー項目は他の未学習項目と比較して高い確率で再認される。


==== 前頭前野====  
==== 前頭前野====  


 [[前頭前野]](Prefrontal Cortex: PFC)は、記憶(とくにエピソード記憶)の想起・符号化の両方に関わっていると考えられている。以前より、前頭前野におけるエピソード記憶の処理は左右半球で機能が非対称だと考えられてきた(hemispheric encoding/retrival asymmetry [HERA] model<ref><pubmed> 8134342 </pubmed></ref>)。近年では、[[想起]]と符号化の左右半球での非対称性についてより詳しい分析がなされている。たとえば、右の前頭前野がヒューリスティックな評価処理を、左の前頭前野、または左右両方の前頭前野がシステマティック処理を担っているとする見解<ref><pubmed> 21227255 </pubmed></ref>、左半球が記憶の想起と生成に、右半球が記憶のモニタリングに関わっているとする見解(production-monitoring hypothesis<ref><pubmed> 12676062 </pubmed></ref>)がある。どちらもより分化していない情報は右半球でモニタされ、システマティックな想起は左半球で行われているとする点は共通しているが、異なる点もあり、左右半球の非対称性については未だ議論の余地が残っている。また、[[前頭前野背外側部]](dorsolateral PFC)と[[前頭前野外側部]](lateral anterior PFC)は情報源を記憶する際に、特徴によらずさまざまなカテゴリ一般の処理に関係しているのに対し、[[前頭前野腹外側部]](ventrolateral PFC)はより特定の特徴に特化した処理を行っていると考えられている<ref><pubmed> 18787230 </pubmed></ref>。
 [[前頭前野]](Prefrontal Cortex: PFC)は、記憶(とくにエピソード記憶)の想起・符号化の両方に関わっていると考えられている。以前より、前頭前野におけるエピソード記憶の処理は左右半球で機能が非対称だと考えられてきた(hemispheric encoding/retrival asymmetry [HERA] model<ref><pubmed> 8134342 </pubmed></ref>)。近年では、[[想起]]と符号化の左右半球での非対称性についてより詳しい分析がなされている。たとえば、右の前頭前野がヒューリスティックな評価処理を、左の前頭前野、または左右両方の前頭前野がシステマティック処理を担っているとする見解<ref><pubmed> 21227255 </pubmed></ref>、左半球が記憶の想起と生成に、右半球が記憶のモニタリングに関わっているとする見解(production-monitoring hypothesis<ref><pubmed> 12676062 </pubmed></ref>)がある。どちらもより[[分化]]していない情報は右半球でモニタされ、システマティックな想起は左半球で行われているとする点は共通しているが、異なる点もあり、左右半球の非対称性については未だ議論の余地が残っている。また、[[前頭前野背外側部]](dorsolateral PFC)と[[前頭前野外側部]](lateral anterior PFC)は情報源を記憶する際に、特徴によらずさまざまなカテゴリ一般の処理に関係しているのに対し、[[前頭前野腹外側部]](ventrolateral PFC)はより特定の特徴に特化した処理を行っていると考えられている<ref><pubmed> 18787230 </pubmed></ref>。


==== 頭頂葉と後頭葉====   
==== 頭頂葉と後頭葉====   
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<references/>
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(執筆者:佐藤弘美・四本裕子 担当編集委員:入來篤史)

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