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英語名:source monitoring | 英語名:source monitoring | ||
ソース・モニタリングとは、ある特定の記憶について、その[[記憶]]がいつどこでどのように得られたかという情報源についての記憶・認識である<ref name=ref1><pubmed> 8346328 </pubmed></ref>。記憶の情報源は間違って判断されることも多く、そのことを[[ | ソース・モニタリングとは、ある特定の記憶について、その[[記憶]]がいつどこでどのように得られたかという情報源についての記憶・認識である<ref name=ref1><pubmed> 8346328 </pubmed></ref>。記憶の情報源は間違って判断されることも多く、そのことを[[ソース・モニタリング・エラー]]と呼ぶ。このエラーは、情報源の[[符号化]]の限界または情報源を特定する際の何らかの妨害によって、正常な[[知覚]]処理過程または参照過程が妨げられるために生じる。[[うつ]]状態や[[ストレス]]レベルの高い状態、または関連する脳の領野の損傷などがソース・モニタリング・エラーの原因と考えられている。 | ||
== 概要 == | == 概要 == | ||
ソース・モニタリングの基本的な考え方は、人は記憶についての情報源を特定するようなタグやラベルをそのまま直接引き出しているのではなく、記憶を引き出す際の意思決定過程で記憶についてのある種の記録が活性化され、評価されて特定の情報源と関連づけされるというものである。そのためソース・モニタリングの精度は、その記憶についての記録をどれほどうまく活性化できるかに大きく依存する。もしある出来事の最中に何かがその出来事についての詳細の符号化を妨げれば、後にその記憶に関連する情報を完全に想起することができないためエラーが生じる。一方、ある記憶表象の特徴が他の特徴とはっきりと区別され、より鮮明に記憶されていればエラーは少なくなる。 | |||
ソース・モニタリングは、特徴を符号化しある出来事についての一貫した表象を形成するためにそれらの特徴を統合し、内的・外的な手がかりを用いてその統合された特徴を復元・呼び起こし、フレキシブルな基準をもとに文脈からそれらを評価し、その情報源の帰属について決定を行うという過程を含む。 | |||
=== 2つの処理過程 === | === 2つの処理過程 === | ||
ソース・モニタリングが行われる処理過程には、自動的に無意識に行われる[[ヒューリスティック処理]]と、逐次的で意図的な[[システマティック処理]]の2つの過程が存在すると考えられている<ref name=ref1 /> <ref>'''D S Lindsay, M K Johnson'''<br>Recognition memory and source monitoring.<br>''Psychological Bulletin,'':1991, 29(3), 203–205</ref>。 | |||
==== ヒューリスティック処理 ==== | ==== ヒューリスティック処理 ==== | ||
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== 神経基盤 == | == 神経基盤 == | ||
[[前頭野]] | [[前頭野]]とソース・モニタリング・エラーの関連を示唆する観測がいくつかある。このエラーは[[健忘症]]の患者や高齢者、器質性脳疾患患者に見られる。ソース・モニタリングにとって重要な前頭野では多くのプロセスが生じており、その中には特徴や構造を統合し戦略的な想起を行う海馬と関連する回路も含まれている。情報の符号化や想起時に物理的、認知的に特徴を統合しまとめるのを推進する過程は記憶の情報源をたどるのにとても重要である<ref name=ref1 />。 | ||
=== fMRI研究 === | === fMRI研究 === | ||
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==== 側頭葉内側部==== | ==== 側頭葉内側部==== | ||
[[側頭葉内側部]]([[Medial Temporal Lobes]];MTL)は[[歯状回]]、[[海馬]]、[[鉤状回]]、[[内嗅皮質]]、[[扁桃体]]を含んだ領域で、一般に[[エピソード記憶]] | [[側頭葉内側部]]([[Medial Temporal Lobes]];MTL)は[[歯状回]]、[[海馬]]、[[鉤状回]]、[[内嗅皮質]]、[[扁桃体]]を含んだ領域で、一般に[[エピソード記憶]]と関係していると考えられている。ソース・モニタリングにとって大事なのは特徴や特徴群を統合する過程であるが、これらの過程は、回想・親近性といった記憶と関連する感情とともに、とくに海馬や[[海馬傍回]]で生じると考えられている。[[DRMパラダイム]]([[Deese-Roediger-McDermott paradigm]]<ref name=ref8>'''H L Roediger III, K B McDermott'''<br>Creating False Memories: Remembering Words not Presented in Lists<br>''Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition,'':1995, 21(4), 803–814</ref>) などにおいて、海馬は、「覚えている」かをテストするときの方が「知っている」かをテストするときより、また既出かどうかを正しく同定できたアイテムを符号化するときの方が間違って符号化するときよりも活動が活発になることが知られている<ref name=Davachi><pubmed> 17097284 </pubmed></ref>。これはアイテムを符号化し記憶している最中に、海馬が記憶特徴と複雑なエピソード記憶を結びつけるのに関わっていることを示している。 | ||
海馬の周辺に存在する海馬傍回は海馬とは異なり、新しいアイテムを既出だとしてしまう不正解やフォールス・アラームのときに活動が活発になるが、既出のアイテムをミスしてしまうときには活発にはならない。また、同じドメイン(言葉-言葉、顔-顔など)に類するアイテムをまとめるときには海馬傍回の活動が活発になっていることなどから、海馬傍回は同じドメインに所属する特徴の関連づけに関わっていると考えられる<ref name=Davachi /><ref><pubmed> 17270487 </pubmed></ref>。 | 海馬の周辺に存在する海馬傍回は海馬とは異なり、新しいアイテムを既出だとしてしまう不正解やフォールス・アラームのときに活動が活発になるが、既出のアイテムをミスしてしまうときには活発にはならない。また、同じドメイン(言葉-言葉、顔-顔など)に類するアイテムをまとめるときには海馬傍回の活動が活発になっていることなどから、海馬傍回は同じドメインに所属する特徴の関連づけに関わっていると考えられる<ref name=Davachi /><ref><pubmed> 17270487 </pubmed></ref>。 | ||
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=== Old-new recognition === | === Old-new recognition === | ||
認識記憶を検査するのに用いられる測定法。被験者はアイテムが新しいか古いかをyesかnoで答える。この時、エラーはソース・モニタリングで生じるのと同様の認識プロセスで生じる。対象がとても似ているときや、情報源を想起するのが難しい環境(気が散る、ストレスなど)、または何らかの理由で判断過程が機能していないときにエラーが頻繁に生じる<ref name=ref1 />。 | |||
=== Remember-know === | === Remember-know === | ||
"覚えているか"対"知っているか" | "覚えているか"対"知っているか"は記憶のawarenessを評価する手続きである。覚えている場合にはその経験は追体験することができ、詳細が容易に浮かんでくる。単に知っている場合には追体験することは出来ないが親近感がわくため、誤った情報源の候補と自信を持って結びつけてしまうことが多くなる。どちらの判断を行う場合にもソース・モニタリング・エラーに陥りやすい。また、DRMパラダイムなどの特定の環境下では、誤って"覚えている"という判断されることが多くなる<ref name=ref8 />。 | ||
=== False fame === | === False fame === | ||
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false fame 実験では、まず非著名人の名前のリストが提示され、その後、先に提示した非著名人と新たな非著名人と著名人の名前が提示される。課題は著名人の名前を選ぶことだが、その際先に提示した非著名人が誤って選ばれることが多い<ref name=ref9>'''L L Jacoby, C Kelly, J Brown'''<br>Becoming Famous Overnight: Limits on the Ability to Avoid Unconscious Influences of the Past<br>''Journal of Personality and Social Psychology,'': 56(3), 326–338</ref>。 | false fame 実験では、まず非著名人の名前のリストが提示され、その後、先に提示した非著名人と新たな非著名人と著名人の名前が提示される。課題は著名人の名前を選ぶことだが、その際先に提示した非著名人が誤って選ばれることが多い<ref name=ref9>'''L L Jacoby, C Kelly, J Brown'''<br>Becoming Famous Overnight: Limits on the Ability to Avoid Unconscious Influences of the Past<br>''Journal of Personality and Social Psychology,'': 56(3), 326–338</ref>。 | ||
前世の記憶のような普通でない出来事を信じる人たちが、ソース・モニタリング・エラーに陥りやすいとする研究がいくつか行われている。このような人は普通でない出来事を信じていない人よりもfalse fame課題でエラーを犯しやすい。前世の記憶においては、ある記憶の情報源が前世の記憶に貢献している。つまり、他人の話や映画、本、夢、想像上のシナリオが誤って前世から来た記憶だと認識される<ref name=ref10><pubmed> 16574433 </pubmed></ref>。 | |||
=== Cryptomnesia === | === Cryptomnesia === | ||
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=== 統合失調症 === | === 統合失調症 === | ||
ソース・モニタリング・エラーは健常者よりも[[統合失調症]]の人に多く生じることがわかっている。これはおそらく遺伝子の表現型により生じる傾向で、この傾向は敵対心と関連している。研究によると、統合失調症においてソース・モニタリングが困難なのは自分で作り出したものの情報源をコードすることができないため、また新しいものと以前に提示されたものの情報源を区別しにくいためであると考えられている。また、内的な刺激を現実の出来事だと知覚してしまいがちなためだとの見解もある<ref name=ref12><pubmed> 9356560 </pubmed></ref>。患者はどこからが自分で作り出した思考かをモニタすることが出来ず、[[autonetic agnosia]]([[想起失認]]:自分で生み出した内的な出来事を識別できないこと)に陥りやすい<ref name=ref13><pubmed> 10473317 </pubmed></ref>。 | |||
=== 加齢の影響 === | === 加齢の影響 === | ||
ソース・モニタリング・エラーに対する年齢の影響を調べるために多くの研究がなされている<ref><pubmed> 18808253 </pubmed></ref>。ソース・モニタリング・エラーは高齢者や幼い子供によく見られる<ref><pubmed> 2803602 </pubmed></ref>。 | |||
ソース・モニタリング・エラーが幼児で頻繁に起こるのは、彼らは現実と想像上の考えを分離することが苦手であるからだと考えられている。高齢者は目撃証言の際、記憶の情報源を特定するのに間違いを犯しがちである。これらは現実性モニタリングに問題があるためだと考えられてきた。内的な記憶が感覚情報を多分に含んでいれば、その記憶は外部から想起されたものだとして誤って認識されることが多くなる<ref><pubmed> 2803603 </pubmed></ref>。 | |||
== 今後の展望 == | == 今後の展望 == | ||
これまで盛んに行われてきた神経イメージング法を用いた研究は、ソース・モニタリングが脳のどのような領域でどのように行われているかについての知見を深めてきた。しかし、これらの研究はいまだ現象学的体験としての記憶がどのようなものかについてを解明するにいたっていない。記憶と関連する脳領域だけでなく、主観的経験と関連する領域がどこであり、記憶とどのように関係しているかが体系的に整理されることが期待される。 | |||
最近では、「親近性」と「回想」という、近いけれども異なった感覚を呼び起こす2つの概念が、現象学的経験への理解を深めるのに重要な概念として期待されている<ref name=Mitchell /> | 最近では、「親近性」と「回想」という、近いけれども異なった感覚を呼び起こす2つの概念が、現象学的経験への理解を深めるのに重要な概念として期待されている<ref name=Mitchell />。回想については多くの研究が進められ、どのようなプロセスにより回想の感覚が強められるかなどかなりのことが明らかとなってきている一方、親近性はより複雑な処理から生じる感覚であるため、多くのことがわかっていない。これらの概念を理解することでソース・モニタリングについてのより深い知見が得られると考えられる。 | ||
== 関連項目 == | == 関連項目 == | ||
*[[メタ認知]] | |||
*[[想起・誤想起(記憶)]] | |||
== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
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(執筆者:佐藤弘美・四本裕子 担当編集委員:入來篤史) |