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同義語:転写調節因子
同義語:転写調節因子


 転写制御因子は、[[wikipedia:ja:ゲノム|ゲノム]] [[wikipedia:ja:DNA|DNA]]上の特定の塩基配列に結合し、[[wikipedia:ja:RNAポリメラーゼ|RNAポリメラーゼ]]による転写を促進あるいは抑制する[[wikipedia:ja:タンパク質|タンパク質]]の一群である<ref name=ref1> Tetsuichiro Saito<br>Transcription factor. Encyclopedia of Neuroscience<br> Springer-Verlag Gmbh Berlin Heidelberg: 2009</ref>。DNAに結合するドメインと他のタンパク質などと相互作用し転写制御に関わるドメインを有する。構造上の特徴により、いくつかのファミリーに分類される<ref name=ref1 />。転写制御因子は[[wikipedia:ja:リン酸化|リン酸化]]などの様々な調節を受け、個体発生から脳高次機能までの多くの過程を制御する<ref name=ref2><pubmed>11823631</pubmed></ref><ref name=ref3><pubmed>23498934</pubmed></ref>。転写制御因子をコードすると推測される遺伝子は、[[wikipedia:ja:ヒトゲノム|ヒトゲノム]]において約2000個存在する<ref><pubmed>15193307</pubmed></ref><ref><pubmed>19274049</pubmed></ref>。
 転写制御因子は、[[wikipedia:ja:ゲノム|ゲノム]] [[wikipedia:ja:DNA|DNA]]上の特定の塩基配列に結合し、[[wikipedia:ja:RNAポリメラーゼ|RNAポリメラーゼ]]による[[wikipedia:ja:転写|転写]]を促進あるいは抑制するタンパク質の一群である<ref name=ref1> Tetsuichiro Saito<br>Transcription factor. Encyclopedia of Neuroscience<br> Springer-Verlag Gmbh Berlin Heidelberg: 2009</ref>。DNAに結合するドメインと他のタンパク質などと相互作用し転写制御に関わるドメインを有する。構造上の特徴により、いくつかのファミリーに分類される<ref name=ref1 />。転写制御因子は[[リン酸化]]などの様々な調節を受け、個体発生から脳高次機能までの多くの過程を制御する<ref name=ref2><pubmed>11823631</pubmed></ref><ref name=ref3><pubmed>23498934</pubmed></ref>。転写制御因子をコードすると推測される遺伝子は、[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]ゲノムにおいて約2000個存在する<ref><pubmed>15193307</pubmed></ref><ref><pubmed>19274049</pubmed></ref>。


==転写制御因子とは==
==転写制御因子とは==
 遺伝子の転写は、RNAポリメラーゼがDNAを鋳型として相補的な[[wikipedia:ja: RNA|RNA]]を5’から3’の方向へ合成する反応である。転写においてRNAポリメラーゼの他に必要とされるタンパク質を転写因子 (transcription factor) という。その中で、転写制御因子はDNAに結合し、転写を調節するタンパク質であり、転写を促進するものを転写活性化因子、抑えるものを転写抑制因子という<ref name=ref1 />。一方、DNAに直接結合せず、転写制御因子とRNAポリメラーゼなどとの仲介役として転写を調節するタンパク質複合体はメディエーターである。メディエーターの機能は多岐に渡り、転写を活性化するコアクチベーターや、転写を抑制するコリプレッサーとして働く<ref name=ref4><pubmed>15680973</pubmed></ref><ref name=ref5><pubmed>20940737</pubmed></ref>。メディエーター以外にも、コアクチベーターやコリプレッサーと呼ばれる因子があり、[[wikipedia:ja:ヒストン|ヒストン]]の[[アセチル化]]や[[メチル化]]などを介して、[[wikipedia:ja: クロマチン|クロマチン]]の状態を制御する<ref name=ref5 /><ref name=ref8><pubmed>21321607</pubmed></ref>。DNA上で転写の活性化に働く領域は[[エンハンサー]]、転写を抑制する領域がサイレンサーであり、それぞれ複数の転写制御因子が結合することが多い<ref name=ref15><pubmed>12853946</pubmed></ref><ref name=ref6><pubmed>21358745</pubmed></ref><ref name=ref7><pubmed>22868264</pubmed></ref>。
 遺伝子の転写は、[[wikipedia:ja:RNA|RNA]]ポリメラーゼがDNAを鋳型として相補的な[[wikipedia:ja: RNA|RNA]]を5’から3’の方向へ合成する反応である。転写においてRNAポリメラーゼの他に必要とされるタンパク質を転写因子 (transcription factor) という。その中で、転写制御因子はDNAに結合し、転写を調節するタンパク質であり、転写を促進するものを転写活性化因子、抑えるものを転写抑制因子という<ref name=ref1 />。一方、DNAに直接結合せず、転写制御因子とRNAポリメラーゼなどとの仲介役として転写を調節するタンパク質複合体は[[メディエーター]]である。メディエーターの機能は多岐に渡り、転写を活性化する[[コアクチベーター]]や、転写を抑制する[[コリプレッサー]]として働く<ref name=ref4><pubmed>15680973</pubmed></ref><ref name=ref5><pubmed>20940737</pubmed></ref>。メディエーター以外にも、コアクチベーターやコリプレッサーと呼ばれる因子があり、[[ヒストン]]の[[アセチル化]]や[[メチル化]]などを介して、[[クロマチン]]の状態を制御する<ref name=ref5 /><ref name=ref8><pubmed>21321607</pubmed></ref>。DNA上で転写の活性化に働く領域は[[エンハンサー]]、転写を抑制する領域が[[サイレンサー]]であり、それぞれ複数の転写制御因子が結合することが多い<ref name=ref15><pubmed>12853946</pubmed></ref><ref name=ref6><pubmed>21358745</pubmed></ref><ref name=ref7><pubmed>22868264</pubmed></ref>。


==転写制御機構==
==転写制御機構==
 in vitroの解析により、転写は[[wikipedia:ja:TATAボックス| TATAボックス]]などのコアプロモーター上で[[wikipedia:ja:TATA結合タンパク質|TATA結合タンパク質]] (TATA-binding protein; TBP) やTAFs (TBP-associated factors) などの[[wikipedia:ja:基本転写因子|基本転写因子]]がRNAポリメラーゼと[[wikipedia:ja:転写開始前複合体|転写開始前複合体]]を形成することにより開始されることが示されている<ref name=ref4 /><ref name=ref15 /><ref name=ref16><pubmed>20628347</pubmed></ref>。これらの因子のみによる転写は基本転写と呼ばれる。生体内では、様々な転写制御因子が働き、その組み合わせにより遺伝子の転写量が組織や発生の時期で異なる<ref name=ref2 /><ref name=ref3 /><ref name=ref7 />。
 In vitroの解析により、転写は[[wikipedia:ja:TATAボックス| TATAボックス]]などの[[wikipedia:ja:コアプロモーター|コアプロモーター]]上で[[TATA結合タンパク質]] (TATA-binding protein; TBP) や[[TBP-associated factors]]([[TAFs]])などの[[基本転写因子]]がRNAポリメラーゼと[[wikipedia:ja:転写開始前複合体|転写開始前複合体]]を形成することにより開始されることが示されている<ref name=ref4 /><ref name=ref15 /><ref name=ref16><pubmed>20628347</pubmed></ref>。これらの因子のみによる転写は基本転写と呼ばれる。生体内では、様々な転写制御因子が働き、その組み合わせにより遺伝子の転写量が組織や発生の時期で異なる<ref name=ref2 /><ref name=ref3 /><ref name=ref7 />。


  [[ファイル:TF0730.jpg|frame|right|'''図1 転写活性化機構''' <br>
  [[ファイル:TF0730.jpg|frame|right|'''図1 転写活性化機構''' <br>
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===転写活性化の機構===
===転写活性化の機構===
 転写の活性化は、転写の開始と伸長で起こる。活性化の例として、エンハンサーに結合した転写活性化因子が基本転写因子と相互作用し、[[wikipedia:ja:プロモーター|プロモーター]]における転写開始前複合体の形成を促進することが知られている<ref name=ref1 /><ref name=ref15 /><ref name=ref16 />。一方、メディエーターは、転写制御因子の転写活性化ドメインとRNAポリメラーゼの双方に結合し、転写開始前複合体の形成を促し、コアクチベーターとして働く<ref name=ref4 /><ref name=ref5 /><ref name=ref17><pubmed>20299225</pubmed></ref> (図1)。
 転写の活性化は、転写の開始と伸長で起こる。活性化の例として、エンハンサーに結合した転写活性化因子が基本転写因子と相互作用し、プロモーターにおける転写開始前複合体の形成を促進することが知られている<ref name=ref1 /><ref name=ref15 /><ref name=ref16 />。一方、メディエーターは、転写制御因子の転写活性化ドメインとRNAポリメラーゼの双方に結合し、転写開始前複合体の形成を促し、コアクチベーターとして働く<ref name=ref4 /><ref name=ref5 /><ref name=ref17><pubmed>20299225</pubmed></ref> (図1)。


 真核細胞のDNAはヒストンに巻きつき、[[wikipedia:ja: ヌクレオソーム|ヌクレオソーム]]を形成する。ヌクレオソーム構造を弛緩させ、転写制御因子などをDNAに作用しやすくし、転写を活性化する因子もコアクチベーターと呼ばれる。コアクチベーターのCBP (CREB-binding protein) は、ヒストンをアセチル化し、ヒストンとDNA間の親和性を弱める<ref name=ref8 />。ヒストンリモデリング因子の[[wikipedia:SWI/SNF|SWI/SNF]](switch/sucrose nonfermentable) は、[[wikipedia:ja:ATP|ATP]]の[[wikipedia:ja:加水分解|加水分解]]で生じるエネルギーを用いてクロマチン構造を変化させる<ref><pubmed>21358755</pubmed></ref>。
 [[wikipedia:ja:真核細胞|真核細胞]]のDNAはヒストンに巻きつき、[[wikipedia:ja: ヌクレオソーム|ヌクレオソーム]]を形成する。ヌクレオソーム構造を弛緩させ、転写制御因子などをDNAに作用しやすくし、転写を活性化する因子もコアクチベーターと呼ばれる。コアクチベーターの[[CREB-binding protein]]([[CBP]])は、ヒストンをアセチル化し、ヒストンとDNA間の親和性を弱める<ref name=ref8 />[[ヒストンリモデリング因子]]の[[switch/sucrose nonfermentable]]([[SWI/SNF]])は、[[wikipedia:ja:ATP|ATP]]の[[wikipedia:ja:加水分解|加水分解]]で生じるエネルギーを用いてクロマチン構造を変化させる<ref><pubmed>21358755</pubmed></ref>。


 RNAポリメラーゼは数十塩基程度の短いRNAを転写後、DSIF (DRB-sensitivity inducing factor) やNELF (negative elongation factor) などの伸長阻害因子の働きにより転写を休止する<ref name=ref9><pubmed>22986266</pubmed></ref>。Mycなどの転写制御因子は、[[wikipedia:ja:プロテインキナーゼ|プロテインキナーゼ]]P-TEFb (positive transcription elongation factor b) の作用を介して転写の休止を解除し、RNA伸長を再開させることが知られている<ref name=ref9 />。
 RNAポリメラーゼは数十塩基程度の短いRNAを転写後、[[DRB-sensitivity inducing factor]]([[DSIF]])や[[negative elongation factor]]([[NELF]])などの伸長阻害因子の働きにより転写を休止する<ref name=ref9><pubmed>22986266</pubmed></ref>。Mycなどの転写制御因子は、[[プロテインキナーゼ]][[positive transcription elongation factor b]]([[P-TEFb]])の作用を介して転写の休止を解除し、RNA伸長を再開させることが知られている<ref name=ref9 />。


===転写抑制の機構===
===転写抑制の機構===
 転写抑制では、サイレンサーに結合した転写抑制因子がTLE/Grg (transducin-like Enhancer of split/groucho-related gene) やNcoR / SMRT (nuclear receptor corepressor/silencing mediator for retinoic and thyroid receptors) などのコリプレッサーを介して[[wikipedia:ja:ヒストンデアセチラーゼ|ヒストンデアセチラーゼ]]を引き寄せ、ヒストンのアセチル基を除去することによりヌクレオソームを安定化させ遺伝子を不活化する<ref><pubmed>18721877</pubmed></ref><ref><pubmed>21049000</pubmed></ref>。また、ヒストンメチルトランスフェラーゼを引き寄せ、ヒストンの特定の部位を[[wikipedia:ja:メチル化|メチル化]]し、転写が起きないクロマチン状態を維持することにより抑制する場合もある<ref name=ref5 /><ref name=ref8 />。
 転写抑制では、サイレンサーに結合した転写抑制因子が[[transducin-like Enhancer of split]]/[[groucho-related gene]]([[TLE]]/[[Grg]])や[[nuclear receptor corepressor]]/[[silencing mediator for retinoic and thyroid receptors]]([[NcoR]]/[[SMRT]])などのコリプレッサーを介して[[ヒストンデアセチラーゼ]]を引き寄せ、ヒストンのアセチル基を除去することによりヌクレオソームを安定化させ遺伝子を不活化する<ref><pubmed>18721877</pubmed></ref><ref><pubmed>21049000</pubmed></ref>。また、[[ヒストンメチルトランスフェラーゼ]]を引き寄せ、ヒストンの特定の部位をメチル化し、転写が起きないクロマチン状態を維持することにより抑制する場合もある<ref name=ref5 /><ref name=ref8 />。


 転写抑制因子のNRSF/REST (neuron-restrictive silencer factor/RE1-silencing transcription factor) は、サイレンサー中の塩基配列NRSE/RE1 (neural restrictive silencer element/repressor element 1) に結合し、コリプレッサーを介したヒストンデアセチラーゼやヒストンメチルトランスフェラーゼの作用により、[[神経細胞]]で働く''SCG10 (superior cervical ganglia 10)'' などの遺伝子の転写を非神経細胞で抑える<ref><pubmed>16150588</pubmed></ref>。
 転写抑制因子の[[neuron-restrictive silencer factor]]/[[RE1-silencing transcription factor]]([[NRSF]]/[[REST]])は、サイレンサー中の塩基配列[[neural restrictive silencer element]]/[[repressor element 1]]([[NRSE]]/[[RE1]])に結合し、コリプレッサーを介したヒストンデアセチラーゼやヒストンメチルトランスフェラーゼの作用により、神経細胞で働く''[[superior cervical ganglia 10]]([[SCG10]])'' などの遺伝子の転写を非神経細胞で抑える<ref><pubmed>16150588</pubmed></ref>。


 CDK8 (Cyclin dependent kinase 8) などのコリプレッサーは、転写制御因子をリン酸化し分解を促進したり、基本転写因子をリン酸化し転写開始前複合体の形成を阻害する<ref name=ref5 /><ref name=ref17 />。
 [[Cyclin dependent kinase 8]]([[CDK8]])などのコリプレッサーは、転写制御因子をリン酸化し分解を促進したり、基本転写因子をリン酸化し転写開始前複合体の形成を阻害する<ref name=ref5 /><ref name=ref17 />。


==転写制御配列==
==転写制御配列==

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