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==性機能不全とは== | ==性機能不全とは== | ||
性機能不全とは性反応の各過程における心理的生理的変化の障害である。[[ | 性機能不全とは性反応の各過程における心理的生理的変化の障害である。[[性反応]]は従来、[[欲求相]]、[[興奮相]]、[[オルガズム相]]、[[解消相]]に分けられ、それぞれの相ごとに障害が分類されていた。しかし、2013年に米国精神医学会より発行された[[The Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition]]([[DSM-5]])においては、女性では性反応の障害は各相をまたがったり、反応が直線的ではなく循環的な場合もあることなどより、各相ごとには障害は分類されていない。具体的疾患名としては、[[射精遅延]]、[[勃起障害]]、[[女性オルガズム障害]]、[[女性の性的関心/興奮障害]]、[[性器・骨盤痛/挿入障害]]、[[男性の性的欲求低下障害]]、[[早漏]]などがある。 | ||
== 射精遅延 == | == 射精遅延 == | ||
delayed ejaculation | |||
射精遅延とは、パートナーとの性的活動において、本人が遅い[[wj:射精|射精]]を望んでいないのに、ある特定の状況ないしはすべての状況の、ほとんどの場合に(約75%以上の割合)、 | |||
#射精の著明な遅延、ないし、 | |||
#射精の著明な欠如ないし減少<br> | |||
のどちらかがあることである。 | |||
2に相当する概念は、日本の医学界においては「[[腟内射精障害]]」として疾患概念が議論されている。すなわち、自慰では射精が可能だが、[[wj:性交|性交]]時、[[wj:腟内|腟内]]においては射精な困難なものたちがおり、その原因としては、手を使わずペニスを布団などにこすりつける、強いグリップでペニスを握るなどの不適切な自慰の方法が指摘されさている。 | |||
「遅延」に関しては、具体的に「何分以上」などの定義はない。射精までの時間がどれくらいが正常なのか、どのくらいの時間だと受け入れがたい長さなのかという点については、医学的合意がないからである。 | 「遅延」に関しては、具体的に「何分以上」などの定義はない。射精までの時間がどれくらいが正常なのか、どのくらいの時間だと受け入れがたい長さなのかという点については、医学的合意がないからである。 | ||
== 勃起障害 == | == 勃起障害 == | ||
erectile disorder | |||
勃起障害を指す言葉として、近年「ED」が広く使われるようになったが、これは「Erectile Disorder」ではなく「Erectile Dysfunction」の略語である。「Erectile | 勃起障害を指す言葉として、近年「ED」が広く使われるようになったが、これは「Erectile Disorder」ではなく「Erectile Dysfunction」の略語である。「Erectile Dysfunction」は[[wj:泌尿器|泌尿器]]科領域で使われる用語であり、勃起の機能面の障害に重点を置き「Dysfunction」を用いている。いっぽうで、DSMでは[[精神疾患]]の一つとしての立場から、他の精神疾患と同様に「Disorder」を用いている。 | ||
勃起障害は、性的活動において、ある特定の状況ないしはすべての状況の、ほとんどの場合に(約75% | 勃起障害は、性的活動において、ある特定の状況ないしはすべての状況の、ほとんどの場合に(約75%以上の割合)、 | ||
#勃起を得ることの著明な障害、ないし、 | |||
#性的活動を完了するまでに勃起を維持することの著明な障害、ないし、 | |||
#勃起の硬度の著明な減少<br> | |||
のいずれか一つ以上があることである。また診断基準として、他の性機能不全疾患と同様に、6カ月以上症状が持続すること、が必要である。6か月以内の短期の症状では診断は下されない。 | |||
== 女性オルガズム障害 == | == 女性オルガズム障害 == | ||
female orgasmic disorder | |||
女性オルガズム障害は、性的活動において、ある特定の状況ないしはすべての状況の、ほとんどの場合に(約75% | 女性オルガズム障害は、性的活動において、ある特定の状況ないしはすべての状況の、ほとんどの場合に(約75%以上の割合)、 | ||
#オルガズムを得ることの著明な遅延、または著明な頻度の減少、または欠如、ないし、 | |||
#オルガズム感覚の著明な減少<br> | |||
のいずれか一つ以上があることである。 | |||
多くの女性は[[wj:クリトリス|クリトリス]]への刺激によってはオルガズムに達しやすいが、腟ペニス性交で達するものは多くはない。そのため、自慰行為ではオルガズムに達するが、性交では達しないものは、診断基準は満たさない。またオルガズムに達するのは十分な性的刺激がなされていない場合もあるため、診断上考慮する必要がある。 | |||
== 女性の性的関心/興奮障害 == | == 女性の性的関心/興奮障害 == | ||
female sexual interest /arousal disorder | |||
「女性の性的関心/興奮障害」は[[DSM-5]]における性機能不全疾患分類の主要な変更点の一つである。従来は欲求相の障害である「性的欲求低下障害」と興奮相の障害である「女性の性的興奮の障害」と二つの疾患であったのが、DSM-5では、この二つの疾患は統合され、「女性の性的関心/興奮障害」とひとつの疾患単位となった。これは女性においては、男性とは異なり、欲求相と興奮相は明確に区分されるものではなく、その境界はあいまいで、多くの場合は重なり合うこと、あるいは互いに影響を及ぼしあうこと、また性的欲求低下と女性の性的興奮の障害も、多くの場合併存することが指摘されてきたからである。 | 「女性の性的関心/興奮障害」は[[DSM-5]]における性機能不全疾患分類の主要な変更点の一つである。従来は欲求相の障害である「性的欲求低下障害」と興奮相の障害である「女性の性的興奮の障害」と二つの疾患であったのが、DSM-5では、この二つの疾患は統合され、「女性の性的関心/興奮障害」とひとつの疾患単位となった。これは女性においては、男性とは異なり、欲求相と興奮相は明確に区分されるものではなく、その境界はあいまいで、多くの場合は重なり合うこと、あるいは互いに影響を及ぼしあうこと、また性的欲求低下と女性の性的興奮の障害も、多くの場合併存することが指摘されてきたからである。 | ||
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#性行為において、ある特定の状況ないしはすべての状況の、ほとんどの場合に(約75%以上の割合)、性器ないし性器以外の感覚の欠如ないし減少 | #性行為において、ある特定の状況ないしはすべての状況の、ほとんどの場合に(約75%以上の割合)、性器ないし性器以外の感覚の欠如ないし減少 | ||
診断において留意すべきものとして、二者間の性欲の不一致がある。たとえば、パートナーが毎日セックスを求めるが、本人は週に1度程度のセックスを望むような場合である。このような場合には診断は下されない。 | |||
また、鑑別すべき概念として「アセクシュアル(asexual)」がある。これは、異性を性愛の対象とする異性愛、同性を性愛の対象とする同性愛、両性を性愛の対象とする両性愛、などの[[wj:性指向|性指向]]とは異なり、同性、異性のいずれにも性愛的欲求を持たないものを言う。アセクシュアルに関しては、精神医学的研究やエビデンスは乏しいが、現在のところ、[[wj:同性愛|同性愛]]や[[wj:両性愛|両性愛]]を[[wj:ゲイ|ゲイ]]、[[wj:レズビアン|レズビアン]]、[[wj:バイセクシュアル|バイセクシュアル]]と呼ぶように、精神疾患や性的異常ではなく、多様なセクシュアリティの一つとして捉えられている。そのため、本人がアセクシュアルとしてのアイデンティティを持っていれば、女性の性的関心/興奮障害とは診断されない。 | |||
== 性器・骨盤痛/挿入障害 == | == 性器・骨盤痛/挿入障害 == | ||
Genito-Pelvic Pain/Penetration Disorder | Genito-Pelvic Pain/Penetration Disorder | ||
性器・骨盤痛/挿入障害もDSM- | 性器・骨盤痛/挿入障害もDSM-5における性機能不全疾患分類の主要な変更点の一つである。従来は[[性交疼痛障害]]である「[[性交疼痛症]]」と「[[腟けいれん]]」と二つの疾患であったのが、DSM-5では、この二つの疾患は統合され、「性器・骨盤痛/挿入障害」という、ひとつの疾患単位となったのである。ひとつにされた理由としては、実際上、二つの疾患の鑑別は困難だったからである。腟けいれんにおいては、腟れん縮の存在を確認する必要があったが、診察場面での確認は困難であった)。すなわち、性交時に腟への挿入が困難なものは、婦人科的診察場面においても、診察器具を腟に挿入することは困難だからである。また、腟けいれんでは、痛みへの恐怖や挿入への恐怖も、多くの場合同時に見られたのである。これらのことより、二つの疾患は、多くは重なり合うものとして認識されるようになり、DSM-5ではひとつの疾患単位に統合された。こ | ||
診断基準は、以下の項目のうち1つ以上が持続的ないし反復的に存在することである。 | 診断基準は、以下の項目のうち1つ以上が持続的ないし反復的に存在することである。 | ||
#性交中の腟への挿入が困難 | #性交中の腟への挿入が困難 | ||
#腟への挿入中ないし挿入しようとしたときの、性器や骨盤の著明な痛み | #腟への挿入中ないし挿入しようとしたときの、性器や骨盤の著明な痛み | ||
#腟挿入の前・中・後における性器や骨盤の痛みに関する著明な恐怖や不安 | #腟挿入の前・中・後における性器や骨盤の痛みに関する著明な恐怖や不安 | ||
# | #腟挿入をしようとしたときの[[wj:骨盤底筋肉群|骨盤底筋肉群]]の著明な緊張 | ||
== 男性の性的欲求低下障害 == | == 男性の性的欲求低下障害 == |