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[[ファイル:fig1hh.jpg|right|thumb|350px|'''図1.アドヘレンス・ジャンクションにおけるカドヘリン・カテニン複合体の模式図''']] | [[ファイル:fig1hh.jpg|right|thumb|350px|'''図1.アドヘレンス・ジャンクションにおけるカドヘリン・カテニン複合体の模式図''']] | ||
[[ファイル:fig2hh.jpg|right|thumb|350px|'''図2.カテニン分子群の主な機能''']] | [[ファイル:fig2hh.jpg|right|thumb|350px|'''図2.カテニン分子群の主な機能''']] | ||
[[ファイル:Fig3_catenin_structure_HH02.jpg|right|thumb|350px|''' | [[ファイル:Fig3_catenin_structure_HH02.jpg|right|thumb|350px|'''図3.カテニン分子群のタンパク質一次構造''']] | ||
==カテニンとは== | ==カテニンとは== | ||
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β–カテニンとp120-カテニンとに相当する分子は、上述した小沢らによるカテニン分子群の発見とは独立してほぼ同時に異なる研究者による異なる研究の中からも発見された経緯がある。[[ショウジョウバエ]]の[[アルマジロ]]遺伝子は胚の[[体節]]形成に異常を示す変異体のスクリーニングから発見され、[[Wntシグナル]]伝達系の[[転写制御因子]]として核内においても機能することが知られていた。のちに[[哺乳類]]のカドヘリン・カテニン複合体中のβ–カテニンがアルマジロ遺伝子のオーソログであることが判明し、脊椎動物のβ–カテニンにも発生における遺伝子発現において重要な役割があることがわかった<ref name=ref4><pubmed> 22617422 </pubmed></ref>。 | β–カテニンとp120-カテニンとに相当する分子は、上述した小沢らによるカテニン分子群の発見とは独立してほぼ同時に異なる研究者による異なる研究の中からも発見された経緯がある。[[ショウジョウバエ]]の[[アルマジロ]]遺伝子は胚の[[体節]]形成に異常を示す変異体のスクリーニングから発見され、[[Wntシグナル]]伝達系の[[転写制御因子]]として核内においても機能することが知られていた。のちに[[哺乳類]]のカドヘリン・カテニン複合体中のβ–カテニンがアルマジロ遺伝子のオーソログであることが判明し、脊椎動物のβ–カテニンにも発生における遺伝子発現において重要な役割があることがわかった<ref name=ref4><pubmed> 22617422 </pubmed></ref>。 | ||
p120-カテニンは、[[src]]による形質転換特異的にみられるチロシン残基のリン酸化をうける分子としてReynoldsらによって同定されており、アクチン細胞骨格動態への影響が見られていたこともあり、細胞/細胞外基質間接着との関連性についての解析も展開されていった<ref name=ref5><pubmed> 17175391 </pubmed></ref> | p120-カテニンは、[[src]]による形質転換特異的にみられるチロシン残基のリン酸化をうける分子としてReynoldsらによって同定されており、アクチン細胞骨格動態への影響が見られていたこともあり、細胞/細胞外基質間接着との関連性についての解析も展開されていった<ref name=ref5><pubmed> 17175391 </pubmed></ref>。そのような流れの中で、細胞接着だけでなく、発生・再生における遺伝子発現制御因子としての重要性が示されている(図2)。タンパク質の一次構造レベルでは、β–カテニンとp120-カテニンはアルマジロ反復配列を有するタンパク質として類似性を示し、その配列はさまざまな因子の結合領域として働く(図3)<ref name=ref2><pubmed> 20164302 </pubmed></ref>。このようにカテニン分子は細胞間接着という共通の機能を担う一方で、分子としての性質は多様であり、その性質が各々のカテニン分子の多機能性を生み出していると考えられている。 | ||
==種類== | ==種類== | ||
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| colspan="3" | データベース上での遺伝子、タンパク質情報 | | colspan="3" | データベース上での遺伝子、タンパク質情報 | ||
| rowspan="2" | タンパク質立体構造<br>([[w:Protein Data Bank|Protein Data Bank]] Europeより) | | rowspan="2" | タンパク質立体構造<br>([[w:Protein Data Bank|Protein Data Bank]] Europeより) | ||
| rowspan="2" | | | rowspan="2" | 組織におけるタンパク質発現([[w:UniGene|UniGene]]より) | ||
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|- style="background-color:#ddf" | |- style="background-color:#ddf" | ||
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|} | |} | ||
それぞれのカテニン分子のタンパク質発現については、[[UniGene]]の中のEST(expressed sequence tag)を用いて調べたmRNA相対発現量のプロファイルにおいてゼロと報告されているもののみについて発現がみとめられないと記載したことに留意していただきたい。 | |||
==α–カテニン== | ==α–カテニン== | ||
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===構造=== | ===構造=== | ||
α– | α–カテニンは、β-カテニンやγ-カテニンに共通してみられるアルマジロ反復配列をもたないといったタンパク質一次構造レベルにおける他のカテニンとの類似性は持ち合わせていない<ref name=ref6><pubmed> 22084304 </pubmed></ref>。アクチン結合タンパク質である[[ビンキュリン]]と塩基配列において相同性(約30%程度)を示す3つの領域(VH1, VH2, VH3)を含んでいる<ref name=ref7><pubmed> 1904011 </pubmed></ref>。最もN末に位置するVH1では、β-カテニンと結合し、VH3はアクチン線維との結合に必要である。また、VH2には、ビンキュリンや[[アファディン]]といった他のアクチン結合タンパク質との結合、加えてビンキュリンの結合阻害領域も存在し、VH2の構造変化がVH2におけるタンパク質結合の制御に重要であると示唆されている。α–カテニンの立体構造については、VH1やVH2といった断片についてはα–カテニン単体やビンキュリンとの結合状態などの条件において精度よい[[X線結晶構造解析]]が行われている<ref name=ref8><pubmed> 23589308 </pubmed></ref>。全長については[[αE–カテニン]]や[[αN–カテニン]]どちらにおいても十分に高い分解能での結晶構造が得られていないものの、近年においても精力的に解析が続けられている<ref name=ref8><pubmed> 23589308 </pubmed></ref>。全長の構造が理解できれば、α–カテニン分子全体としての構造変化の制御についての理解がより進むと期待される。 | ||
===発現=== | ===発現=== | ||
αE– | αE–カテニンは、[[wikipedia:ja:扁桃腺|扁桃腺]]での発現は認められていないが、体全身にわたる多くの組織に発現している。αN–カテニンは[[中枢神経系]]には特異的に発現している。発生中の中枢神経系では、[[神経前駆細胞]]にはαE–カテニンが発現しているが、それが神経細胞に[[分化]]するとαE–カテニンの発現は見られなくなり、αN–カテニンが発現するようになる<ref name=ref9><pubmed> 1638632 </pubmed></ref>。 UniGeneのデータを参考にすると、αT–カテニンは[[wikipedia:ja:心臓|心臓]]だけでなく[[wikipedia:ja:結合組織|結合組織]]や脳において高い発現が示されている。細胞レベルではα–カテニンは、細胞質タンパク質として存在するが、主には膜タンパク質であるカドヘリンと細胞質タンパク質β–カテニンとともに複合体を形成することにより、隣接する細胞に接触している[[細胞膜]]への局在が顕著である。 | ||
===機能=== | ===機能=== | ||
上述したように、α–カテニンはカドヘリン接着活性に必須な機能をもつ。α–カテニンがβ–カテニンとアクチン線維とに結合するので、アドへレンス・ジャンクションにおいてカドヘリン・カテニン複合体とアクチン線維との結合を担うと考えられている<ref name=ref9><pubmed> 1638632 </pubmed></ref><ref name=ref10><pubmed> 9700171 </pubmed></ref>。α–カテニンが発現していなければ、カドヘリンが発現していても、[[接着分子]]としてのカドヘリンは実質的に機能せず、アドへレンス・ジャンクションも形成されない。 | 上述したように、α–カテニンはカドヘリン接着活性に必須な機能をもつ。α–カテニンがβ–カテニンとアクチン線維とに結合するので、アドへレンス・ジャンクションにおいてカドヘリン・カテニン複合体とアクチン線維との結合を担うと考えられている<ref name=ref9><pubmed> 1638632 </pubmed></ref><ref name=ref10><pubmed> 9700171 </pubmed></ref>。α–カテニンが発現していなければ、カドヘリンが発現していても、[[接着分子]]としてのカドヘリンは実質的に機能せず、アドへレンス・ジャンクションも形成されない。 | ||
α–カテニンはβ–カテニンとはN末端で結合し、C末端ではアクチン線維と結合する。このC末端のアクチン線維結合領域の重要性は、ショウジョウバエの形態形成<ref name=ref11><pubmed> 23417122 </pubmed></ref> | α–カテニンはβ–カテニンとはN末端で結合し、C末端ではアクチン線維と結合する。このC末端のアクチン線維結合領域の重要性は、ショウジョウバエの形態形成<ref name=ref11><pubmed> 23417122 </pubmed></ref>や[[マウス]]の発生<ref name=ref11><pubmed> 9023354 </pubmed></ref>において示されている。α–カテニンはビンキュリン、[[エプリン]]、[[ZO-1]]、[[αアクチニン]]などのアクチン結合タンパク質とも結合するので、それらの結合を介して間接的にアクチン線維を連結している可能性もある<ref name=ref6><pubmed> 22084304 </pubmed></ref>。 | ||
さらに、α–カテニンは、アドヘレンス・ジャンクションにおいて細胞間の張力を感知・伝達する分子であることが示され、動的なアドへレンス・ジャンクション形成に重要であると考えられる<ref name=ref12><pubmed> 20453849 </pubmed></ref>。 | さらに、α–カテニンは、アドヘレンス・ジャンクションにおいて細胞間の張力を感知・伝達する分子であることが示され、動的なアドへレンス・ジャンクション形成に重要であると考えられる<ref name=ref12><pubmed> 20453849 </pubmed></ref>。 | ||
また、αE–カテニンは、細胞間接着の機能とは別に、[[細胞増殖]] | また、αE–カテニンは、細胞間接着の機能とは別に、[[細胞増殖]]を負に制御することが知られている。細胞増殖の接触阻止に対する調節に重要な[[Hippoシグナル伝達]]においては、転写制御を通じて増殖を抑制する<ref name=ref13><pubmed> 22075429 </pubmed></ref>。後述するように中枢神経系では、αN–カテニンが神経回路形成を担うシナプス形成や安定性に必要である。[[大脳皮質]]における細胞増殖、[[神経突起]]の伸長の制御を行っているという報告もある<ref name=ref14><pubmed> 22535893 </pubmed></ref>。 | ||
126行目: | 126行目: | ||
===構造=== | ===構造=== | ||
β–カテニンの一次構造についてはショウジョウバエのアルマジロで見つかった42アミノ酸残基の繰り返し配列(アルマジロ反復配列)が分子のN末端とC末端を除いた大部分を占める。この反復配列のほぼその全体にカドヘリンの細胞質領域の細胞膜より遠い部分が結合する。β– | β–カテニンの一次構造についてはショウジョウバエのアルマジロで見つかった42アミノ酸残基の繰り返し配列(アルマジロ反復配列)が分子のN末端とC末端を除いた大部分を占める。この反復配列のほぼその全体にカドヘリンの細胞質領域の細胞膜より遠い部分が結合する。β–カテニンタンパク質の立体構造はアルマジロ反復配列の領域だけでなく、[[ゼブラフィッシュ]]において全長で近年、解かれた<ref name=ref15><pubmed> 18334222 </pubmed></ref>。 | ||
プラコグロビンはβ–カテニンの機能を相補しうるが、特徴としてそのN末端部分を介してデスモソームカドヘリンの細胞質部分に結合する。プラコグロビンもβ–カテニンと同様にその中央部分にアルマジロ反復配列をもち、その領域はデスモプラーキンと呼ばれる[[中間径フィラメント]] | E–カドヘリンは、細胞質領域の細胞膜より遠い部分を介して、β–カテニンのアルマジロ配列のほぼ全体に結合する<ref name=ref16><pubmed> 15112230 </pubmed></ref>。α–カテニンとは、そのアルマジロ反復配列のもっともN末よりの部分で結合する<ref name=ref16><pubmed> 15112230 </pubmed></ref>。他にも、アルマジロ反復配列領域では、[[転写因子]]であるTCF/LEFに結合することで、[[WNT|Wnt]]シグナル伝達における転写制御に、また、APC、Axinもその反復配列へ結合することで、β–カテニンの分解に関与している。また、アルマジロ反復配列よりもN末側の領域と[[GSK3]]βとの結合も存在し、β–カテニンの分解促進に重要であると考えられている。 | ||
プラコグロビンはβ–カテニンの機能を相補しうるが、特徴としてそのN末端部分を介してデスモソームカドヘリンの細胞質部分に結合する。プラコグロビンもβ–カテニンと同様にその中央部分にアルマジロ反復配列をもち、その領域はデスモプラーキンと呼ばれる[[中間径フィラメント]]結合タンパク質との結合サイトをもつ。このデスモプラーキンとの結合はデスモソームと中間径線維との連結役として機能していると考えられている<ref name=ref17><pubmed> 17854763 </pubmed></ref>。 | |||
===発現=== | ===発現=== | ||
UniGeneのESTプロファイルによると、β–カテニンは一般的に体全身の多くの組織において発現が認められているが、脂肪組織や副甲状腺、扁桃腺といって一部の組織では発現が確認されていない。細胞レベルにおいては、β–カテニンは、α– | UniGeneのESTプロファイルによると、β–カテニンは一般的に体全身の多くの組織において発現が認められているが、脂肪組織や副甲状腺、扁桃腺といって一部の組織では発現が確認されていない。細胞レベルにおいては、β–カテニンは、α–カテニンと同様、細胞質タンパク質であるため、細胞質に一様な局在も示すが、カドヘリンを介した膜への局在が主である。[[Wnt]]シグナルの活性化状態では、β–カテニンは核への局在が見られるようになる。 | ||
プラコグロビン(γ–カテニン)も、β–カテニンと同様に多くの組織では発現が確認されているが、副腎や、耳、唾液腺、脾臓、へその緒、血管といった一部の組織には発現が確認されていない。細胞レベルでは、デスモソームへの局在が顕著である。 | プラコグロビン(γ–カテニン)も、β–カテニンと同様に多くの組織では発現が確認されているが、副腎や、耳、唾液腺、脾臓、へその緒、血管といった一部の組織には発現が確認されていない。細胞レベルでは、デスモソームへの局在が顕著である。 | ||
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β–カテニンにはカドヘリン・カテニン複合体中のメンバーとしての細胞間接着への必須な役割と、Wnt/β–カテニンシグナルの転写制御因子としての役割とがある。 | β–カテニンにはカドヘリン・カテニン複合体中のメンバーとしての細胞間接着への必須な役割と、Wnt/β–カテニンシグナルの転写制御因子としての役割とがある。 | ||
細胞間接着におけるβ–カテニンの役割は、カドヘリンとα–カテニンとの連結にある<ref name=ref4><pubmed> 22617422 </pubmed></ref>。α–カテニンの結合は生化学的に確認されており、E–カドヘリンとともにアドへレンス・ジャンクションに局在するという細胞レベルの知見からも支持されている<ref name=ref16><pubmed> 15112230 </pubmed></ref>。F9細胞ではβ–カテニンをノックアウトしてもプラコグロビン(γ–カテニンとも呼ばれる)の発現が増加し、カドヘリンによる接着能は維持されるが、プラコグロビンもあわせてノックアウトするとその接着能は失われることが示されている<ref name=ref18><pubmed> 16357441 </pubmed></ref>。しかし、カドヘリンが発現していない細胞に、カドヘリンとα–カテニンとを融合したタンパク質を発現させれば、β–カテニンが存在しなくてもカドヘリンの機能は発揮される<ref name=ref19><pubmed> 7929566 </pubmed></ref>。 これらは、細胞間接着においてプラコグロビンがβ–カテニンの機能を補完する役割を担っており、またβ–カテニンの機能は、α–カテニンをカドヘリンに結合させることであることを示している。細胞接着においてプラコグロビンの特徴はデスモソ-ムカドヘリンと[[細胞骨格]] | 細胞間接着におけるβ–カテニンの役割は、カドヘリンとα–カテニンとの連結にある<ref name=ref4><pubmed> 22617422 </pubmed></ref>。α–カテニンの結合は生化学的に確認されており、E–カドヘリンとともにアドへレンス・ジャンクションに局在するという細胞レベルの知見からも支持されている<ref name=ref16><pubmed> 15112230 </pubmed></ref>。F9細胞ではβ–カテニンをノックアウトしてもプラコグロビン(γ–カテニンとも呼ばれる)の発現が増加し、カドヘリンによる接着能は維持されるが、プラコグロビンもあわせてノックアウトするとその接着能は失われることが示されている<ref name=ref18><pubmed> 16357441 </pubmed></ref>。しかし、カドヘリンが発現していない細胞に、カドヘリンとα–カテニンとを融合したタンパク質を発現させれば、β–カテニンが存在しなくてもカドヘリンの機能は発揮される<ref name=ref19><pubmed> 7929566 </pubmed></ref>。 これらは、細胞間接着においてプラコグロビンがβ–カテニンの機能を補完する役割を担っており、またβ–カテニンの機能は、α–カテニンをカドヘリンに結合させることであることを示している。細胞接着においてプラコグロビンの特徴はデスモソ-ムカドヘリンと[[細胞骨格]]の一つである中間径フィラメントの結合タンパク質であるプラモプラーキンの両方と同時に結合し、デスモソームの構造体として機能する点である。プラコグロビンのC末端領域の欠損した培養細胞では、細胞のラテラル面でのデスモソームの融合が見られ、結果としてデスモソームのサイズの増大が起こる。また、プラコグロビンは、アドへレンス・ジャンクションとデスモソーム間の分子のクロストークの制御に寄与していることが示唆されている。プラコグロビンのノックアウト[[マウス]]の心筋組織ではアドへレンス・ジャンクションの構成因子とデスモソームの構成因子とが混在してラテラル面に局在するようになってしまう<ref name=ref20><pubmed> 19262118 </pubmed></ref>。 | ||
β–カテニンは、発生における遺伝子発現の制御にも重要な役割がある。Wntシグナルがない状態では、細胞質のβ–カテニン(カドヘリン・カテニン複合体中のものとは別である)はGSK3βによりリン酸化され、それを標的としたユビキチン化により、[[プロテアソーム]]によるタンパク質分解をうけることで、その量が低く保たれている。WntシグナルがやってくればGSK3βによるリン酸化が抑制され、β–カテニンは核内へ移行し、TCF/LEFと複合体を形成し、[[細胞周期]]関連因子や体軸決定因子などの標的遺伝子を活性化する<ref name=ref4><pubmed> 22617422 </pubmed></ref>。これは、ウニの発生を初めとし無脊椎動物、脊椎動物両方において報告されている<ref name=ref4><pubmed> 22617422 </pubmed></ref>。神経系においても、シナプス形成と可塑性や神経幹細胞の未分化状態の維持など多岐にわたる寄与が報告されている<ref>'''Elkouby, Y. M., Frank, D. '''<br>Wnt/beta-Catenin Signaling in Vertebrate Posterior Neural Development<br>''Developmental Biology (San Rafael (CA))'':2010</ref><ref name=ref21><pubmed> 23377854 </pubmed></ref>。また、プロコグロビンも先に挙げたTCF/LEFと結合でき、核内への局在がみられる状況では、Wnt/β–カテニンシグナル伝達の抑制が同時にみられていることから、実際にはプロコグロビンはβ–カテニンと相互排他的にTCF/LEFへ結合しうり、その結果としてWnt/β–カテニンシグナル伝達の制御を実現していると解釈できる。 | β–カテニンは、発生における遺伝子発現の制御にも重要な役割がある。Wntシグナルがない状態では、細胞質のβ–カテニン(カドヘリン・カテニン複合体中のものとは別である)はGSK3βによりリン酸化され、それを標的としたユビキチン化により、[[プロテアソーム]]によるタンパク質分解をうけることで、その量が低く保たれている。WntシグナルがやってくればGSK3βによるリン酸化が抑制され、β–カテニンは核内へ移行し、TCF/LEFと複合体を形成し、[[細胞周期]]関連因子や体軸決定因子などの標的遺伝子を活性化する<ref name=ref4><pubmed> 22617422 </pubmed></ref>。これは、ウニの発生を初めとし無脊椎動物、脊椎動物両方において報告されている<ref name=ref4><pubmed> 22617422 </pubmed></ref>。神経系においても、シナプス形成と可塑性や神経幹細胞の未分化状態の維持など多岐にわたる寄与が報告されている<ref>'''Elkouby, Y. M., Frank, D. '''<br>Wnt/beta-Catenin Signaling in Vertebrate Posterior Neural Development<br>''Developmental Biology (San Rafael (CA))'':2010</ref><ref name=ref21><pubmed> 23377854 </pubmed></ref>。また、プロコグロビンも先に挙げたTCF/LEFと結合でき、核内への局在がみられる状況では、Wnt/β–カテニンシグナル伝達の抑制が同時にみられていることから、実際にはプロコグロビンはβ–カテニンと相互排他的にTCF/LEFへ結合しうり、その結果としてWnt/β–カテニンシグナル伝達の制御を実現していると解釈できる。 | ||
==p120–カテニン== | ==p120–カテニン== | ||
p120–カテニンとδ–カテニンがこのグループに属する(p120– | p120–カテニンとδ–カテニンがこのグループに属する(p120–カテニンファミリーにはその他複数のタンパク質があるが、ここでは比較的研究歴史の長い2つのカテニンについてのみ紹介する。それ以外のタンパク質については総説<ref name=ref5><pubmed> 17175391 </pubmed></ref><ref name=ref22><pubmed> 15489912 </pubmed></ref>を参照していただきたい。)。([[PSD-95]]やGRIPとも相互作用すると思います。これらの点についても御願い致します) | ||
===構造=== | ===構造=== | ||
p120– | p120–カテニンファミリータンパク質の中央領域に見られる10個のアルマジロ反復配列は、カドヘリンの細胞膜に近接した細胞質領域と結合する<ref name=ref22><pubmed> 15489912 </pubmed></ref>。p120–カテニンのアルマジロ反復配列に隣接するN末端側の領域は、スレオニン残基のリン酸化サイトが複数存在している。そのさらに隣に位置するN末端にはcoild-coil配列が存在している。加えて、δ–カテニンは、そのC末領域にPDZタンパク質との結合領域を有す。その一例として、グルタミン酸受容体結合タンパク質GRIPやシナプス後膜直下に形成されるシナプス後部肥厚(Postsynaptic density: PSD)に局在化するPSD–95などがそこに結合する<ref name=ref14><pubmed> 22535893 </pubmed></ref>。 | ||
===発現=== | ===発現=== | ||
160行目: | 162行目: | ||
====δ–カテニン==== | ====δ–カテニン==== | ||
マウスの脳組織における免疫沈降実験から、δ–カテニンはN–カドヘリンとβ–カテニンと結合することが確認され、樹状突起のシナプスに強く観察される。シナプスにおいてカドヘリン・カテニン複合体の一員として機能することが予想される<ref name=ref32><pubmed> 9971746 </pubmed></ref>。また、ラット神経組織の初代培養細胞では、δ–カテニンはGSK3β、β–カテニンと複合体を形成し、β–カテニンの分解を促進させる機能も有する<ref name=ref33><pubmed> 20623542 </pubmed></ref>。 また、シナプス後方細胞では、[[グルタミン酸]] | マウスの脳組織における免疫沈降実験から、δ–カテニンはN–カドヘリンとβ–カテニンと結合することが確認され、樹状突起のシナプスに強く観察される。シナプスにおいてカドヘリン・カテニン複合体の一員として機能することが予想される<ref name=ref32><pubmed> 9971746 </pubmed></ref>。また、ラット神経組織の初代培養細胞では、δ–カテニンはGSK3β、β–カテニンと複合体を形成し、β–カテニンの分解を促進させる機能も有する<ref name=ref33><pubmed> 20623542 </pubmed></ref>。 また、シナプス後方細胞では、[[グルタミン酸]]受容体結合タンパク質GRIPやシナプスシナプス後部肥厚部分に局在化するPDS–95との結合が報告されているが、成熟したシナプスにおいてのみδ–カテニンはそれらと局在化する。一方で、シナプスの形成初期では、δ–カテニンの代わりにp120–カテニンがシナプス構造部分に局在する。このようにシナプスの形成過程の中で時期特異的に異なるカテニンが働いて、シグナル伝達の制御をしうる成熟したシナプスが構築されると考えられる<ref name=ref34><pubmed> 15752981 </pubmed></ref>。 | ||
==脳におけるカテニンの機能== | ==脳におけるカテニンの機能== | ||
188行目: | 190行目: | ||
p120–カテニンは、多くのがん組織での発現が上昇していることが、UniGeneで示されているが、細胞膜にいるE–カドヘリンの量の減少を介して、もしくは細胞接着とは独立した機能を介して起こるのかはまだわかっていない<ref name=ref22><pubmed> 15489912 </pubmed></ref>。 | p120–カテニンは、多くのがん組織での発現が上昇していることが、UniGeneで示されているが、細胞膜にいるE–カドヘリンの量の減少を介して、もしくは細胞接着とは独立した機能を介して起こるのかはまだわかっていない<ref name=ref22><pubmed> 15489912 </pubmed></ref>。 | ||
ヒトのプラコグロビン遺伝子、JUPの変異は、アミノ酸残基の挿入や欠損といった異なる様式の変異がいくつかの疾患患者で発見された。その一つは、掌蹠角皮症患者において、JUP遺伝子内でアミノ酸残基の欠損によるフレームシフトが起こっており、そのタンパク質として完成することができていないことが、ウェスタンブロットにより示されている。もうひとつの例として、催不整脈性の右室心筋症(皮膚への異常は伴わない)を患った人を含むドイツ人の家族において、プラコグロビン遺伝子の変異が見つけられた。その変異は、プラコグロビンのN末端から39番目の場所に余計に[[セリン]]残基が挿入されているものだと予想され、さらにこの変異がある病理組織の電子顕微鏡像では、デスモソームのサイズや数の減少が見つかった。プラコグロビン遺伝子内の挿入変異により、デスモソームの構造の制御がうまくいっていない可能性が示唆された他、Wntシグナルを介した経路の制御を阻害している可能性などが他のいくつかの研究結果をもって議論されている。 | |||
==関連項目== | ==関連項目== |