「カテニン」の版間の差分

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===構造===
===構造===
 &alpha;–カテニンは、β-カテニンやγ-カテニンに共通してみられるアルマジロ反復配列をもたないといったタンパク質一次構造レベルにおける他のカテニンとの類似性は持ち合わせていない<ref name=ref6><pubmed> 22084304 </pubmed></ref>。アクチン結合タンパク質である[[ビンキュリン]]と塩基配列において相同性(約30%程度)を示す3つの領域(VH1, VH2, VH3)を含んでいる<ref name=ref7><pubmed> 1904011 </pubmed></ref>。最もN末に位置するVH1では、β-カテニンと結合し、VH3はアクチン線維との結合に必要である。また、VH2には、ビンキュリンや[[アファディン]]といった他のアクチン結合タンパク質との結合、加えてビンキュリンの結合阻害領域も存在し、VH2の構造変化がVH2におけるタンパク質結合の制御に重要であると示唆されている。&alpha;–カテニンの立体構造については、VH1やVH2といった断片については&alpha;–カテニン単体やビンキュリンとの結合状態などの条件において精度よい[[X線結晶構造解析]]が行われている<ref name=ref8><pubmed> 23589308 </pubmed></ref>。全長については&alpha;E–カテニンや&alpha;N–カテニンどちらにおいても十分に高い分解能での結晶構造が得られていないものの、近年においても精力的に解析が続けられている<ref name=ref8><pubmed> 23589308 </pubmed></ref>。全長の構造が理解できれば、&alpha;–カテニン分子全体としての構造変化の制御についての理解がより進むと期待される。
 &alpha;–カテニンは、タンパク質一次構造レベルにおける他のカテニンとの類似性は持ち合わせていない<ref name=ref6><pubmed> 22084304 </pubmed></ref>。アクチン結合タンパク質である[[ビンキュリン]]と塩基配列において相同性(約30%程度)を示す3つの領域(VH1, VH2, VH3)を含んでいる<ref name=ref7><pubmed> 1904011 </pubmed></ref>。最もN末に位置するVH1でβ-カテニン、VH3はアクチン線維との結合する。また、VH2には、ビンキュリンや[[アファディン]]といった他のアクチン結合タンパク質との結合、加えてビンキュリンの結合阻害領域も存在し、VH2の構造変化がVH2におけるタンパク質結合の制御に重要であると示唆されている。&alpha;–カテニンの立体構造については、VH1やVH2といった断片については&alpha;–カテニン単体やビンキュリンとの結合状態などの条件において精度よい[[X線結晶構造解析]]が行われている<ref name=ref8><pubmed> 23589308 </pubmed></ref>。全長については&alpha;E–カテニンや&alpha;N–カテニンどちらにおいても十分に高い分解能での結晶構造が得られていないものの、近年においても精力的に解析が続けられている<ref name=ref8><pubmed> 23589308 </pubmed></ref>。全長の構造が理解できれば、&alpha;–カテニン分子全体としての構造変化の制御についての理解がより進むと期待される。


===発現===
===発現===
 カテニンの発現は、多くの組織で認められるものと組織特異的なものとがあり(表)、細胞レベルでは通常、カドヘリンと同様の分布を示す。カテニンはカドヘリンの細胞質領域と結合してカドヘリン・カテニン複合体を作るが、カテニンが結合しうるカドヘリンはE–, N–, VE–カドヘリン等のクラッシックカドヘリンのみである<ref name=ref3><pubmed> 19401831 </pubmed></ref>。
 カテニンの発現は、多くの組織で認められるものと組織特異的なものとがあり(表)、細胞レベルでは通常、カドヘリンと同様の分布を示す。カテニンはカドヘリンの細胞質領域と結合してカドヘリン・カテニン複合体を作るが、カテニンが結合しうるカドヘリンはE–, N–, VE–カドヘリン等の[[カドヘリン#クラシックカドヘリン|クラッシックカドヘリン]]のみである<ref name=ref3><pubmed> 19401831 </pubmed></ref>。


 &alpha;E–カテニンは、[[wikipedia:ja:扁桃腺|扁桃腺]]での発現は認められていないが、体全身にわたる多くの組織に発現している。&alpha;N–カテニンは[[中枢神経系]]には特異的に発現している。発生中の中枢神経系では、[[神経前駆細胞]]には&alpha;E–カテニンが発現しているが、それが神経細胞に[[分化]]すると&alpha;E–カテニンの発現は見られなくなり、&alpha;N–カテニンが発現するようになる<ref name=ref9><pubmed> 1638632 </pubmed></ref>。 &alpha;T–カテニンは[[wj:心臓|心臓]]だけでなく[[wj:結合組織|結合組織]]や脳において高い発現が示されている。細胞レベルでは&alpha;–カテニンは、細胞質タンパク質として存在するが、主には膜タンパク質であるカドヘリンと細胞質タンパク質&beta;–カテニンとともに複合体を形成することにより、隣接する細胞に接触している[[細胞膜]]への局在が顕著である。
 &alpha;E–カテニンは、[[wikipedia:ja:扁桃腺|扁桃腺]]での発現は認められていないが、体全身にわたる多くの組織に発現している。&alpha;N–カテニンは[[中枢神経系]]には特異的に発現している。発生中の中枢神経系では、[[神経前駆細胞]]には&alpha;E–カテニンが発現しているが、それが神経細胞に[[分化]]すると&alpha;E–カテニンの発現は見られなくなり、&alpha;N–カテニンが発現するようになる<ref name=ref9><pubmed> 1638632 </pubmed></ref>。 &alpha;T–カテニンは[[wj:心臓|心臓]]だけでなく[[wj:結合組織|結合組織]]や脳において高い発現が示されている。細胞レベルでは&alpha;–カテニンは、細胞質タンパク質として存在するが、主には膜タンパク質であるカドヘリンと細胞質タンパク質&beta;–カテニンとともに複合体を形成することにより、隣接する細胞に接触している[[細胞膜]]への局在が顕著である。
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 &alpha;–カテニンは&beta;–カテニンとはN末端で結合し、C末端ではアクチン線維と結合する。このC末端のアクチン線維結合領域の重要性は、ショウジョウバエの形態形成<ref name=ref11><pubmed> 23417122 </pubmed></ref>や[[マウス]]の発生<ref name=ref11><pubmed> 9023354 </pubmed></ref>において示されている。&alpha;–カテニンはビンキュリン、[[エプリン]]、[[ZO-1]]、[[αアクチニン]]などのアクチン結合タンパク質とも結合するので、それらの結合を介して間接的にアクチン線維を連結している可能性もある<ref name=ref6><pubmed> 22084304 </pubmed></ref>。  
 &alpha;–カテニンは&beta;–カテニンとはN末端で結合し、C末端ではアクチン線維と結合する。このC末端のアクチン線維結合領域の重要性は、ショウジョウバエの形態形成<ref name=ref11><pubmed> 23417122 </pubmed></ref>や[[マウス]]の発生<ref name=ref11><pubmed> 9023354 </pubmed></ref>において示されている。&alpha;–カテニンはビンキュリン、[[エプリン]]、[[ZO-1]]、[[αアクチニン]]などのアクチン結合タンパク質とも結合するので、それらの結合を介して間接的にアクチン線維を連結している可能性もある<ref name=ref6><pubmed> 22084304 </pubmed></ref>。  
 さらに、&alpha;–カテニンは、接着結合において細胞間の張力を感知・伝達する分子であることが示され、動的な接着結合形成に重要であると考えられる<ref name=ref12><pubmed> 20453849 </pubmed></ref>。  
 さらに、&alpha;–カテニンは、接着結合において細胞間の張力を感知・伝達する分子であることが示され、動的な接着結合形成に重要であると考えられる<ref name=ref12><pubmed> 20453849 </pubmed></ref>。  


 また、&alpha;E–カテニンは、細胞間接着の機能とは別に、[[細胞増殖]]を負に制御することが知られている。細胞増殖の接触阻止に対する調節に重要な[[Hippoシグナル伝達]]においては、転写制御を通じて増殖を抑制する<ref name=ref13><pubmed> 22075429 </pubmed></ref>。後述するように中枢神経系では、&alpha;N–カテニンが神経回路形成を担う[[シナプス形成]]や安定性に必要である。[[大脳皮質]]における[[細胞増殖]]、[[神経突起]]の伸長の制御を行っているという報告もある<ref name=ref14><pubmed> 22535893 </pubmed></ref>。
 また、&alpha;E–カテニンは、細胞間接着の機能とは別に、[[細胞増殖]]を負に制御することが知られている。細胞増殖の接触阻止に対する調節に重要な[[Hippoシグナル伝達]]においては、転写制御を通じて増殖を抑制する<ref name=ref13><pubmed> 22075429 </pubmed></ref>。後述するように中枢神経系では、&alpha;N–カテニンが神経回路形成を担う[[シナプス形成]]や安定性に必要である。[[大脳皮質]]における[[細胞増殖]]、[[神経突起]]の伸長の制御を行っているという報告もある<ref name=ref14><pubmed> 22535893 </pubmed></ref>。


==&beta;–カテニン、プラコグロビン==
==&beta;–カテニン、プラコグロビン==

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