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==実験動物と動物実験について== | ==実験動物と動物実験について== | ||
===実験動物=== | ===実験動物=== | ||
[[実験動物]]とは、学術的研究や病気の診断、治療法の開発等の科学上の目的のために、維持、繁殖、供給される動物のことであり、動物実験に利用される。動物実験では、いくつかの群を比較しその違いが優位であることを統計学的に示す必要があり、1つの群には複数の動物を使用する。しかし、同じ群に含まれる動物に個体差がある場合は同じ群の中で個々の動物の実験結果に差異が生じ、群同士の比較を行った際に、その結果が群の違いによるものであるかどうかの判別が不可能となる。そのため再現性の高い動物実験の結果を得るためには、実験動物の遺伝的背景をコントロールする場合がある。遺伝的背景のコントロールの違いによりマウスやラットでは近交系とクローズドコロニーの二つに大別される。近交系は兄妹交配を20世代以上継続して維持している系統であり、理論上、遺伝子組成の中のホモ接合性は | [[実験動物]]とは、学術的研究や病気の診断、治療法の開発等の科学上の目的のために、維持、繁殖、供給される動物のことであり、動物実験に利用される。動物実験では、いくつかの群を比較しその違いが優位であることを統計学的に示す必要があり、1つの群には複数の動物を使用する。しかし、同じ群に含まれる動物に個体差がある場合は同じ群の中で個々の動物の実験結果に差異が生じ、群同士の比較を行った際に、その結果が群の違いによるものであるかどうかの判別が不可能となる。そのため再現性の高い動物実験の結果を得るためには、実験動物の遺伝的背景をコントロールする場合がある。遺伝的背景のコントロールの違いによりマウスやラットでは近交系とクローズドコロニーの二つに大別される。近交系は兄妹交配を20世代以上継続して維持している系統であり、理論上、遺伝子組成の中のホモ接合性は 99%以上となり系統内のすべての個体はほぼ同じゲノム配列をもつ。近交系を用いた遺伝子機能解析では再現性の高い実験が可能であり、遺伝子改変動物の背景系統として近交系は広く利用されている。クローズドコロニーは5年以上外部からの個体の導入がなく、一定の集団内のみで繁殖を続けている動物群であり、集団内での遺伝的な隔たりが生じないように、世代ごとの計画的なランダム交配により維持されている系統である。各個体の遺伝的性質にはばらつきはあるが、系統としては固有の遺伝的性質を示すため、個体としてではなく群として扱う薬物の検定試験などに適している。マウスやラットでは遺伝的背景のコントロールの違いにより多くの系統が樹立されており、動物実験に供される系統の選択がその後の実験結果や精度に大きく影響するので、系統の選択は非常に大切である。この一方でマウスやラット以外の実験動物、例えばサル類(コモンマーモセット、カニクイザル、アカゲザルなど)などでは遺伝的背景のコントロールは殆んどされていない。 | ||
実験動物の飼育環境も動物実験の成績に大きな影響を与えるためそのコントロールは非常に大切である。飼育環境を均一にするためには特に、環境因子(温度、湿度、換気など)、栄養因子(飼料、飲料水など)、生物因子([[wikipedia:ja:感染性微生物|感染性微生物]]など)への注意が必要である。これらのコントロールが正確に行われているかどうかを確認するためには、定期的に一部の動物を用いて遺伝的モニタリングや微生物モニタリングを行う必要がある。 | 実験動物の飼育環境も動物実験の成績に大きな影響を与えるためそのコントロールは非常に大切である。飼育環境を均一にするためには特に、環境因子(温度、湿度、換気など)、栄養因子(飼料、飲料水など)、生物因子([[wikipedia:ja:感染性微生物|感染性微生物]]など)への注意が必要である。これらのコントロールが正確に行われているかどうかを確認するためには、定期的に一部の動物を用いて遺伝的モニタリングや微生物モニタリングを行う必要がある。 | ||
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[[wikipedia:ja:鳥類|鳥類]]は鳴くことで音声コミュニケーションをとっていると考えられており、その中でもキンカチョウは、幼鳥は親鳥の鳴き声をもとに発声練習をしてさえずりを学習することが調べられており、音声コミュニケーションでの社会性行動やさえずりの学習能力に関するモデル動物として有用であると考えられている。 | [[wikipedia:ja:鳥類|鳥類]]は鳴くことで音声コミュニケーションをとっていると考えられており、その中でもキンカチョウは、幼鳥は親鳥の鳴き声をもとに発声練習をしてさえずりを学習することが調べられており、音声コミュニケーションでの社会性行動やさえずりの学習能力に関するモデル動物として有用であると考えられている。 | ||
脳神経に直接処置を加えて調べる[[長期増強]]などの電気生理学的実験や記憶や情動などの高次脳機能や運動機能を調べる行動学的実験などでは、マウス、ラット、マカク属サルなどがよく用いられている。特に遺伝操作ができるマウスでは行動解析実験の実験方法や実験機器等が確立されているものが多くあり、実際に動物の行動を観察することで、脳機能に関する様々な情報を得ることが可能である。行動解析実験機器としては、学習・記憶能力を調べる[[モーリス水迷]]路、[[バーンズ円形迷路]]や[[恐怖条件づけ]]実験装置、[[運動協調性]]を調べる[[ローターロッド]]試験、[[不安様行動]]を調べる[[高架式十字迷路]]や[[明暗往来実験]]装置、[[ | 脳神経に直接処置を加えて調べる[[長期増強]]などの電気生理学的実験や記憶や情動などの高次脳機能や運動機能を調べる行動学的実験などでは、マウス、ラット、マカク属サルなどがよく用いられている。特に遺伝操作ができるマウスでは行動解析実験の実験方法や実験機器等が確立されているものが多くあり、実際に動物の行動を観察することで、脳機能に関する様々な情報を得ることが可能である。行動解析実験機器としては、学習・記憶能力を調べる[[モーリス水迷]]路、[[バーンズ円形迷路]]や[[恐怖条件づけ]]実験装置、[[運動協調性]]を調べる[[ローターロッド]]試験、[[不安様行動]]を調べる[[高架式十字迷路]]や[[明暗往来実験]]装置、[[うつ病]]様行動を評価する[[強制水泳]]実験装置や[[テールサスペンションテスト]]装置、[[総合失調症]]を評価する[[プレパルスインヒビション]]テスト装置、概日リズムの評価を行う[[回転かご走行試験]]装置などがある。 | ||
ヒトの病気に類似した疾患を呈する実験動物は疾患モデル動物とよばれる。疾患モデル動物の原因遺伝子の特定とその機能解析は、疾患モデル動物の有用性に大きく関わる。疾患モデル動物への遺伝学的アプローチ法には、[[フォワードジェネティクス]]([[順行性遺伝学]])と[[リバースジェネティクス]]([[逆行性遺伝学]])のふたつの方法がある。 | ヒトの病気に類似した疾患を呈する実験動物は疾患モデル動物とよばれる。疾患モデル動物の原因遺伝子の特定とその機能解析は、疾患モデル動物の有用性に大きく関わる。疾患モデル動物への遺伝学的アプローチ法には、[[フォワードジェネティクス]]([[順行性遺伝学]])と[[リバースジェネティクス]]([[逆行性遺伝学]])のふたつの方法がある。 | ||
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神経疾患モデル | 神経疾患モデル | ||
*ショウジョウバエの眼筋咽頭型筋ジストロフィモデル<ref name=ref047><pubmed> | *ショウジョウバエの眼筋咽頭型筋ジストロフィモデル<ref name=ref047><pubmed>16642034</pubmed></ref> | ||
*ショウジョウバエとゼブラフィッシュの筋ジストロフィモデル<ref name=ref048><pubmed> | *ショウジョウバエとゼブラフィッシュの筋ジストロフィモデル<ref name=ref048><pubmed>25859781</pubmed></ref> | ||
*マウスのヒトアルツハイマー病を反映したアルツハイマー病モデル<ref name=ref049><pubmed>24728269</pubmed></ref> | *マウスのヒトアルツハイマー病を反映したアルツハイマー病モデル<ref name=ref049><pubmed>24728269</pubmed></ref> | ||
精神疾患モデル | 精神疾患モデル | ||
*ショウジョウバエの脆弱X症候群モデル<ref name=ref050><pubmed>12176363</pubmed></ref> | *ショウジョウバエの脆弱X症候群モデル<ref name=ref050><pubmed>12176363</pubmed></ref> | ||
* | *マウスの自閉症モデル<ref name=ref51><pubmed>17848915</pubmed></ref> <ref name=ref52><pubmed>19563756</pubmed></ref> <ref name=ref53><pubmed>22914087</pubmed></ref> | ||
*マウスの双極性障害モデル<ref name=ref54><pubmed>15925701</pubmed></ref> <ref name=ref55><pubmed>16619054</pubmed></ref> <ref name=ref56><pubmed>24817844</pubmed></ref> | |||
*マウスの総合失調症モデル<ref name=ref57><pubmed>10481908</pubmed></ref> <ref name=ref58><pubmed>19244511</pubmed></ref> <ref name=ref59><pubmed>23389689</pubmed></ref> | |||
今後も詳細な病態メカニズムの解析、検査方法や治療法の開発のためにモデル動物は利用されていくことが期待される。しかしながらヒトとモデル動物の生理・代謝機能は、ある一部分は共通であるが、他の部分は共通しておらず、その程度はそれぞれの疾患で異なっていると考えられる。そのためモデル動物に対しては、共通している部分はヒトへの外挿ができるモデル部分として考え活用し、共通していない部分についてはその原因を調べることにより疾患への抵抗性をもたらすメカニズムなどの重要な示唆が得られる可能性があることを考えながら解析を進めることが有益である。 | |||
==関連項目== | ==関連項目== |