Caenorhabditis elegans

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塚田 祐基森 郁恵
名古屋大学 理学(系)研究科(研究院)
DOI:10.14931/bsd.1044 原稿受付日:2012年1月16日 原稿完成日:2013年1月25日

担当編集委員:村上 富士夫(大阪大学 大学院生命機能研究科)


Caenorhabditis elegans
C. elegans 成虫
Scientific classification
Kingdom: Animalia
Phylum: Nematoda
Class: Secernentea
Order: Rhabditida
Family: Rhabditidae
Genus: Caenorhabditis
Species: C. elegans
Binomial name
Caenorhabditis elegans
Maupas, 1900[1]

学名:Caenorhabditis elegans 略名:C. elegans

 モデル生物として様々な研究分野で広く使われている多細胞生物である。成虫の体長は約1mmで、受精から成虫に至るまで全ての細胞系譜が分かっている。雌雄同体(hermaphrodite)の神経細胞は302個と全て同定されており、電子顕微鏡の解析によりシナプスギャップジャンクションの有無を含め、全神経細胞の接続地図が明らかとなっている[2]。多細胞生物として初めて全ゲノム配列が解読された種でもある。

線虫とは

図1. Caenorhabditis elegansの細胞系譜
Wikipediaより

 神経科学に限らず、モデル生物として様々な研究分野で広く使われている多細胞生物である。成虫の体長は約1mmで、受精から成虫に至るまで全ての細胞系譜が分かっている(図1)。雌雄同体(hermaphrodite)の神経細胞は302個と全て同定されており、電子顕微鏡の解析によりシナプスやギャップジャンクションの有無を含め、全神経細胞の接続地図が明らかとなっている[2]。多細胞生物として初めて全ゲノム配列が解読された種でもある。ゲノム情報、解剖学的な情報、他様々な研究に有用な情報がデータベースに整理されインターネットから簡単に取得できる(#外部リンク参照)。

 以下の性質から実験室での取り扱いが簡便である。

  • 寒天上で大腸菌をえさとして簡便に培養ができる。
  • ライフサイクルが比較的短く、産まれてから約4日で産卵できるようになる。
  • 雌雄同体は自家受精をして産卵するが、雄と雌雄同体の交配も可能。
  • 冷凍保存が可能である。
  • 体が透明で体内の観察がしやすい。特に微分干渉顕微鏡蛍光顕微鏡との相性がよい。

神経科学における役割

 全ての神経細胞が同定されており、神経細胞同士の接続関係が完全に分かっている唯一の生物である。この神経地図を利用した神経科学研究を行うことができる。緑色蛍光タンパク質GFP)を多細胞生物で初めて人工的に発現させた生物であり、そのことが示すように蛍光タンパク質を使った研究と相性がよい。そのため神経発生における研究が行いやすい。近年は遺伝的にコードされたカルシウムセンサーを使った神経活動の測定や、チャネルロドプシンなど様々なオプシン遺伝子を使った光遺伝学も盛んに利用されており、個々の神経細胞の機能や、神経回路としての働きを解明することに役だっている。非常に単純な神経回路を持ちながらも、化学走性温度走性などの行動を示し、記憶学習についての研究が行える。

神経細胞の特徴

 全ての神経細胞についての形態、位置、接続関係、細胞系譜などの情報はデータベースに整理されており、インターネットを通して自由に参照することができる。頭部に神経細胞が密集している部位があり、リング状に神経繊維が束になったナーブリングと呼ばれる構造を持つ。ゲノム情報から電位依存性ナトリウムチャネルを持たないことが示唆されており、マウスなどの神経細胞と違い、スパイク様に数ms単位で変化する電位変化は観察されない(ただしこれについては議論がある[3])。細胞の大きさが小さく(〜10μm程度)、体表面を覆っているキューティクルが比較的硬いため、電気生理学的手法はマウスなどと比べると技術的に難しいが、それでもいくつかの研究室で神経細胞に対する電気生理的手法が確立されている。

 神経活動の測定においては、透明な体を活かして、蛍光プローブを用いたカルシウムイメージングなどの測定方法が広く利用されている。特定の細胞に選択的に遺伝子発現するプロモーターを利用することで非侵襲に特定の細胞の活動を計測することができる。他生物では一般的に抑制性を示すGABA依存性神経細胞で、興奮性を示すものが知られている。

行動

 分子遺伝学が強力なツールとして使えるため、以下のような特定の行動を引き起こす分子機構について詳細に研究されており、関連する遺伝子や細胞が多く同定されている。

  • 化学走性、温度走性などの特定の刺激に対する誘引、忌避行動、刺激に対する学習、複数刺激に対する情報の統合
  • 機械的な刺激、(高温などの異常な刺激における)痛覚による応答行動
  • 産卵、生殖における行動(特に雄の行動)

研究者コミュニティ

 線虫を扱う研究者コミュニティは比較的体系立っている。これは1960年代に線虫をモデル生物にしようと提唱したシドニー・ブレナーとその同僚、弟子たちの成功と、研究者間の細かな情報交換を大切にする文化に依る。現在UCLAにて隔年で行われるinternational C. elegans meetingでは、神経科学や発生生物学などの分野を問わず世界中の線虫研究者が集まり、1500人規模の大会となっている。情報交換は学術論文に限らず、上述した詳細なデータベースやオンライン教科書が整備されている。Worm Breeder's Gazetteという冊子は線虫研究者コミュニティの特徴を表している。これは飼育方法や細かな実験のコツなどを共有するための冊子で、学術論文に載る前のデータや、実験方法などが掲載される。しばらく発行を停止していたが、2009年からオンラインで復活した。実験材料の共有として、線虫株の管理センターも整備されている。

外部リンク

参考文献

  1. Maupas, Émile
    Modes et formes de reproduction des nematodes.
    Archives de Zoologie Expérimentale et Générale: 1900, 8; 463-624
  2. 2.0 2.1 J G White, E Southgate, J N Thomson, S Brenner

    The structure of the nervous system of the nematode Caenorhabditis elegans.
    Philos. Trans. R. Soc. Lond., B, Biol. Sci.: 1986, 314(1165);1-340 [PubMed:22462104] [WorldCat.org]

  3. Shawn R Lockery, Miriam B Goodman

    The quest for action potentials in C. elegans neurons hits a plateau.
    Nat. Neurosci.: 2009, 12(4);377-8 [PubMed:19322241] [WorldCat.org] [DOI]