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===検査結果にもとづく診断の現状 === | ===検査結果にもとづく診断の現状 === | ||
統合失調症患者の脳構造や脳機能を健常群と比較し、判別を行った研究では、80~85%という正判別率の報告が多い。診断基準にもとづいて明確に統合失調症と診断できる患者を対象とし、詳細な検査方法にもとづくデータに入念な解析を行い、健常者との判別を検討した場合にそうした数字であり、他の精神疾患との判別となると数字はかなり低くなる<ref> | 統合失調症患者の脳構造や脳機能を健常群と比較し、判別を行った研究では、80~85%という正判別率の報告が多い。診断基準にもとづいて明確に統合失調症と診断できる患者を対象とし、詳細な検査方法にもとづくデータに入念な解析を行い、健常者との判別を検討した場合にそうした数字であり、他の精神疾患との判別となると数字はかなり低くなる<ref>注: そうした結果となる理由として、統合失調症という疾患概念が一つの実体に対応しているわけではないこと([[統合失調症#疾患概念|疾患概念]].)、縦断的に病態が進展していると考えられること([[統合失調症#経過についての縦断診断|経過についての縦断診断]])、に加えて、精神疾患の研究で得られる[[wj:バイオマーカー|バイオマーカー]]にいくつかの意味がありうることが挙げられる。病態における意義という点からは概念的に、精神疾患への素因を反映する「[[素因指標]]」、精神疾患の発症や罹患を反映する「[[発症指標]]」、発症後の症状の程度を示す「[[状態指標]]」、疾患としての病状の重症度を反映する「[[病状指標]]」に分けることができる。ひとつのバイオマーカーが複数の指標の意義をもつことがあり、一般的には、素因指標と発症指標、状態指標と病状指標はおおむね類似の病態を反映するという仮定のもとに、それぞれtrait markerとstate markerの用語を対応させることが多い。しかし、素因指標と発症指標を同等に取り扱うと非発症者を発症者と混同することになり、また状態指標と病状指標を区別しないと治療による改善可能性についての判断に影響する可能性がある。</ref>。 | ||
==病態生理== | ==病態生理== | ||
===病態生理のさまざまなレベル=== | ===病態生理のさまざまなレベル=== | ||
統合失調症で認められるバイオマーカーの健常者からの隔たりの程度は、およそ「認知機能>神経生理機能>脳機能画像>脳構造画像」の順であり、臨床症状に近いものほど変化が大きい。異なる研究領域で得られた effect size を比較することには統計学的な問題があるが,[[wj:メタ解析|メタ解析]]における effect size は,認知機能障害(言語性記憶1.41,注意機能1.16)>神経生理指標(MMN成分振幅 0.99,P300 成分振幅 0.85)>脳機能画像([[前頭葉]]賦活 0.81,前頭葉安静 0.65)>脳構造画像(右[[海馬]] 0.58,左[[上側頭回]] 0.55)となる。 | |||
===脳構造=== | ===脳構造=== | ||
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===神経生理=== | ===神経生理=== | ||
[[事象関連電位]]と呼ばれる[[脳波]]で臨床神経生理についての病態を検討すると、[[P50]]成分や[[プレパルスインヒビション]] (pre-pulse inhibition; PPI) | [[事象関連電位]]と呼ばれる[[脳波]]で臨床神経生理についての病態を検討すると、[[P50]]成分や[[プレパルスインヒビション]] (pre-pulse inhibition; PPI)のような刺激のフィルタ機能を反映する指標は、リスク期から所見が認められ、発症後もあまり変化がない。これと対照的に、刺激のある程度高次な処理を反映するMMN(mismatch negativity)成分は、慢性期になって初めて所見として認められるようになる。この両者の中間の変化を示すのがP300成分やN100成分であり、前駆期になって明らかとなる所見が慢性期になって進行する。 | ||
このように、事象関連電位の所見は「P50成分・PPI → P300成分・N100成分 → MMN成分」という順で進行する。それぞれの成分が表わす意味を考えると、これは機能の障害が「フィルタ機能 → 感覚処理 → 高次処理」という順で進むことを示している。そうした機能を担う脳部位として、「[[視床]] → [[感覚野]] → [[連合野]] | このように、事象関連電位の所見は「P50成分・PPI → P300成分・N100成分 → MMN成分」という順で進行する。それぞれの成分が表わす意味を考えると、これは機能の障害が「フィルタ機能 → 感覚処理 → 高次処理」という順で進むことを示している。そうした機能を担う脳部位として、「[[視床]] → [[感覚野]] → [[連合野]]」という順が想定できる。統合失調症の病態生理の進展をおおまかに表わしたものと考えられ、「素因として視床の障害にもとづくフィルタ機能の障害があり、そこに感覚野における障害が加わることで発症に至り、さらに連合野における障害が進展することで慢性化へと到る」という進展を推測することができる。 | ||
===情報処理=== | ===情報処理=== | ||
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臨床的には、すべての統合失調症患者に抗精神病薬が有効なわけではなく、少なくとも一部の患者には効果がかなり薄い。そのことからは、ドーパミン系の過活性という病態を伴わない患者が少なくとも一部はいることが想定される。 | 臨床的には、すべての統合失調症患者に抗精神病薬が有効なわけではなく、少なくとも一部の患者には効果がかなり薄い。そのことからは、ドーパミン系の過活性という病態を伴わない患者が少なくとも一部はいることが想定される。 | ||
=== | ===ゲノム=== | ||
最近のゲノムワイド関連研究で、統合失調症の遺伝的危険因子として108個の座位が同定された<ref><pubmed> 25056061 </pubmed></ref>。この中には、ドーパミンD2受容体やグルタミン酸神経伝達に関わる遺伝子群が含まれていたことが注目されるが、いずれの遺伝子の影響もオッズ比2未満の弱いものである。一方、22q11欠失を含むコピー数変異がオッズ比10以上の強い危険因子となることが報告されている。また、染色体異常と連鎖する家系の検討から、DISC1(disrupted in schizophrenia 1)が、デノボ変異の研究からは、SETD1A(KMT2F)などが注目されている。 | |||
臨床的に均質とは想定されない統合失調症という疾患概念を対象として行ったにもかかわらず、ゲノム研究により神経細胞、特に[[シナプス]]に関連した遺伝子の関与が示唆されていることは、統合失調症の病因・病態として神経細胞なかでもシナプスの役割が大きいことを示すとともに、臨床的に定義された統合失調症という疾患概念がある程度は妥当であることを示している。 | |||
そのなかで、統合失調症に関連するとされる遺伝子には、他の精神疾患と共通する遺伝子が多いことも指摘されている。このことは、統合失調症などの精神疾患の病因・病態が精神疾患に共通する疾患非特異的な過程と、個別の精神疾患ごとの疾患特異的な過程とで重層的に構成されていることを示していると理解することができる。 | |||
==治療== | ==治療== |