「前補足運動野」の版間の差分

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== 皮質-皮質間投射及び皮質下との線維連絡 ==
== 皮質-皮質間投射及び皮質下との線維連絡 ==


 前補足運動野と[[補足運動野]]は皮質-皮質間投射のパターンが大きく異なる<ref name="Luppino1993"><pubmed>7507940</pubmed></ref>。前補足運動野には[[前頭前野]]背外側部(Brodmannの46野)から密な直接入力があり、その他にも8b野、及び[[前頭眼窩野]]の11,12野からも入力を受け取っている。対照的に補足運動野と前頭前野との線維連絡は乏しい。他の皮質運動野との線維連絡も前補足運動野と補足運動野は異なる。先ずどちらの領野にも背側及び腹側[[運動前野]](PMd及びPMv)からの入力があるが、前補足運動野への入力はPMd, PMvの吻側部(PMdr及びPMvr)からの入力が主であるのに対して、補足運動野へはPMd, PMvの尾側部(PMdc及びPMvc)からの入力が優勢である。[[帯状皮質運動野]]からの入力も両領野は異なり、前補足運動野は吻側帯状皮質運動野(CMAr)から、補足運動野は尾側帯状皮質運動野(CMAc)からそれぞれ入力を受け取る。[[一次運動野]]との関係では、補足運動野は一次運動野と密な双方向性の線維連絡を持つ一方、前補足運動野は一次運動野とは線維連絡を持たない。頭頂葉との関係についてみると、前補足運動野、補足運動野はそれぞれ下、上頭頂皮質(それぞれBrodmann分類の7a, 5野)からの入力を受ける。<br> 皮質下との線維連絡にも両領野間に違いが見られる。前補足運動野、補足運動野への[[視床]]からの入力はそれぞれVApc, VLo核が主な入力源である<ref><pubmed>8856718</pubmed></ref><br>。[[線条体]]に対しては補足運動野が被殻に投射するのに対して、前補足運動野は被殻と尾状核の中間部に投射する<ref><pubmed>10375694</pubmed></ref>。又、[[脊髄]]に対しては補足運動野からは脊髄への直接投射があるのに対して前補足運動野からは皮質脊髄への投射はない。<br> 上記の入出力パターンの違いは多くの場合絶対的なものではない。即ち前補足運動野・補足運動野と入出力関係を持つ領域は完全には分離しておらず、ある程度の重なりが見られる。しかしその中で最も顕著な違いは前頭前野、一次運動野・脊髄との関係で、前頭前野は前補足運動野に投射するのに対して、補足運動野には投射しない<ref name="Luppino1993" />。また補足運動野は一次運動野・脊髄に直接投射しているのに対して、前補足運動野からは電気刺激による運動の誘発のしにくさから予想されるように、一次運動野・脊髄への投射はない<ref name="Matsuzaka1992" /><ref name="Luppino1993" />。  
 前補足運動野と[[補足運動野]]は皮質-皮質間投射のパターンが大きく異なる<ref name="Luppino1993"><pubmed>7507940</pubmed></ref>。前補足運動野には[[前頭前野]]背外側部(Brodmannの46野)から密な直接入力があり、その他にも8b野、及び[[前頭眼窩野]]の11,12野からも入力を受け取っている。対照的に補足運動野と前頭前野との線維連絡は乏しい。他の皮質運動野との線維連絡も前補足運動野と補足運動野は異なる。先ずどちらの領野にも背側及び腹側[[運動前野]](PMd及びPMv)からの入力があるが、前補足運動野への入力はPMd, PMvの吻側部(PMdr及びPMvr)からの入力が主であるのに対して、補足運動野へはPMd, PMvの尾側部(PMdc及びPMvc)からの入力が優勢である。[[帯状皮質運動野]]からの入力も両領野は異なり、前補足運動野は吻側帯状皮質運動野(CMAr)から、補足運動野は尾側帯状皮質運動野(CMAc)からそれぞれ双方向性に結合している    <ref name="Luppino1993"/><ref><pubmed>12761828</pubmed></ref>。[[一次運動野]]との関係では、補足運動野は一次運動野と密な双方向性の線維連絡を持つ一方、前補足運動野は一次運動野とは線維連絡を持たない。頭頂葉との関係についてみると、前補足運動野、補足運動野はそれぞれ下、上頭頂皮質(それぞれBrodmann分類の7a, 5野)からの入力を受ける。<br> 皮質下との線維連絡にも両領野間に違いが見られる。前補足運動野、補足運動野への[[視床]]からの入力はそれぞれVApc, VLo核が主な入力源である<ref><pubmed>8856718</pubmed></ref>。[[線条体]]に対しては補足運動野が被殻に投射するのに対して、前補足運動野は被殻と尾状核の中間部に投射する他、[[視床下核]]に対しても両領域は空間的に異なる部位に投射する<ref><pubmed>10375694</pubmed></ref>。又、[[脊髄]]に対しては補足運動野からは脊髄への直接投射があるのに対して前補足運動野からは皮質脊髄への投射はない。<br> 上記の入出力パターンの違いは多くの場合絶対的なものではない。即ち前補足運動野・補足運動野と入出力関係を持つ領域は完全には分離しておらず、ある程度の重なりが見られる。しかしその中で最も顕著な違いは前頭前野、一次運動野・脊髄との関係で、前頭前野は前補足運動野に投射するのに対して、補足運動野には投射しない<ref name="Luppino1993" />。また補足運動野は一次運動野・脊髄に直接投射しているのに対して、前補足運動野からは電気刺激による運動の誘発のしにくさから予想されるように、一次運動野・脊髄への投射はない<ref name="Matsuzaka1992" /><ref name="Luppino1993" />。  


= 機能  =
= 機能  =


 前補足運動野の機能については領域が確立されてからの歴史が浅いこともあり、解明の途上である。又、従来補足運動野の破壊症状として考えられていた症例には前補足運動野や帯状皮質運動野の損傷を伴うケースも含まれていると考えられ、これまでの内側領野損傷に伴う高次運動障害の症例報告については見直しが必要である。現在までに脳機能イメージング、ニューロン活動記録などの手法によって前補足運動野は随意運動制御において隣接する補足運動野よりも高度な側面に関わっている事が示唆されている。ここではそのうち代表的なものについて触れる。
 前補足運動野の機能については領域が確立されてからの歴史が浅いこともあり、解明の途上である。又、従来補足運動野の破壊症状として考えられていた症例には前補足運動野や帯状皮質運動野の損傷を伴うケースも含まれていると考えられ、これまでの内側領野損傷に伴う高次運動障害の症例報告については見直しが必要である。現在までに脳機能イメージング、ニューロン活動記録などの手法によって前補足運動野は随意運動制御において隣接する補足運動野よりも高度な側面に関わっている事が示唆されている<ref><pubmed>8670662</pubmed></ref>。ここではそのうち代表的なものについて触れる。


== 運動の準備<br>  ==
== 運動の準備<br>  ==
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== ルーチン化した行動の切り替え<br>  ==
== ルーチン化した行動の切り替え<br>  ==


 日常生活において習慣化・ルーチン化した動作は半ば無意識のうちに自動的に実行される。例えば年が明けて間もない頃、日付を書こうとして何気なく去年の年を書いてしまうといった経験は誰にでもあろう。それに対して、状況の変化に応じて適切な動作を選択・実行するためには、状況がどのように変化したかという認知、変化した状況においてどのような行動が適切かという判断、その結果選んだ行動の実行というより意識的な一連のプロセスを必要とする。こうした柔軟な[[行動の切り替え]]には高次皮質運動野の中でも特に前補足運動野や吻側帯状皮質運動野の関与が示唆されており、これらの領域からは動物がルーチン化した運動を行っているときには活動せず、運動を切り替える時に限って活動するニューロンが発見されている<ref><pubmed>8899607</pubmed></ref><ref><pubmed>8710933</pubmed></ref><ref name=Nakamura1998><pubmed>9819272</pubmed></ref><ref><pubmed>17237780</pubmed></ref>。一方こうしたニューロンは[[補足運動野]]、尾側帯状皮質運動野では乏しく[[一次運動野]]では見つかっていない。前述のように前補足運動野は[[前頭前野]]から豊富な入力を受け取っているが、前頭前野はその破壊症状から個体が状況の変化に柔軟に応じた行動を取るのに重要な役割を果たしている事が示唆されており、適応行動にこれらの領域からなるネットワークが関与していると見られる<ref><pubmed>11976394</pubmed></ref>。  
 日常生活において習慣化・ルーチン化した動作は半ば無意識のうちに自動的に実行される。例えば年が明けて間もない頃、日付を書こうとして何気なく去年の年を書いてしまうといった経験は誰にでもあろう。それに対して、状況の変化に応じて適切な動作を選択・実行するためには、状況がどのように変化したかという[[認知]]、変化した状況においてどのような行動が適切かという判断、その結果選んだ行動の実行というより意識的な一連のプロセスを必要とする。こうした柔軟な[[行動の切り替え]]には[[高次運動関連領野]]の中でも特に前補足運動野や吻側帯状皮質運動野の関与が示唆されており、これらの領域からは動物がルーチン化した運動を行っているときには活動せず、運動を切り替える時に限って活動するニューロンが発見されている<ref><pubmed>8899607</pubmed></ref><ref><pubmed>8710933</pubmed></ref><ref name=Nakamura1998><pubmed>9819272</pubmed></ref><ref><pubmed>17237780</pubmed></ref>。一方こうしたニューロンは[[補足運動野]]、尾側帯状皮質運動野では乏しく[[一次運動野]]では見つかっていない。前述のように前補足運動野は[[前頭前野]]から豊富な入力を受け取っているが、前頭前野はその破壊症状から個体が状況の変化に柔軟に応じた行動を取るのに重要な役割を果たしている事が示唆されており、適応行動にこれらの領域からなるネットワークが関与していると見られる<ref><pubmed>11976394</pubmed></ref>。  


== 手続き学習procedural learning<br>  ==
== 手続き学習procedural learning<br>  ==
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