16,039
回編集
細 (→段階的治療) |
細編集の要約なし |
||
10行目: | 10行目: | ||
英:dissociative disorders 独:dissoziative Störungen 仏:troubles dissociatifs | 英:dissociative disorders 独:dissoziative Störungen 仏:troubles dissociatifs | ||
{{box|text= | (<u>編集部コメント:複数形が正しいでしょうか?</u>) | ||
Janet | |||
}} | {{box|text= Janet Pは夢遊病状態をヒステリーの解離(<u>編集部コメント:夢遊病状態は、症状以降出てきませんが、重要でしょうか?ヒステリーの解離とは?</u>)として典型的であると考え、外傷(<u>編集部コメント:心的外傷?</u>)による人格の統合(<u>編集部コメント:人格の統合とは?</u>)の失敗の結果であるとした。現代の解離理論はこうしたJanetの考えに基づいている。DSM-5は解離症の特徴を「意識、記憶、同一性、情動、知覚、身体表象、運動制御、行動の正常な統合における破綻(disruption)および/または不連続(discontinuity)」としている。下位分類としては、解離性健忘、離人感・現実感消失症、解離性同一症、他の特定の解離症、特定されない解離症などがある。症候は離人感や体外離脱体験などの離隔、健忘や人格交代などの区画化、精神病様症状(その多くは侵入体験)と3つに分けられる。解離症には外傷(<u>編集部コメント:心的外傷?肉体的外傷?</u>)や虐待の既往が高頻度にみられる。とりわけ解離性同一症(DID)ではその頻度が高く、北米の報告では約80~90%が性的虐待、約70%が身体的虐待を受けている。治療の基本的枠組みとしては段階的治療がある。第1段階の安心・安全と症状低減から第2段階の外傷記憶の統合へ、さらに第3段階の人格の統合とリハビリテーションへと、患者の安定度に合わせて進めることが必要である。}} | ||
(<u>編集部コメント:抄録、イントロともにまず解離症というはどのような状態か、平易な言葉で御記述ください。</u>) | |||
==歴史== | ==歴史== | ||
22行目: | 24行目: | ||
[[DSM-Ⅳ]]-TRでは解離を「[[意識]]、[[記憶]]、[[同一性]]、または周囲の[[知覚]]についての、通常は統合されている機能の破綻(disruption)」<ref name=ref1>American Psychiatric Association Diagnostic and statistical manual of mental disorders (4th ed.), Text Revision (DSM-IV-TR)<br>Washington, DC, 1994<br>('''高橋三郎、大野裕、染矢俊幸訳'''<br>DSM-Ⅳ-TR精神疾患の診断・統計マニュアル 新訂版<br>''医学書院''、2004)</ref>と定義していたが、[[DSM-5]]は、解離症群の特徴を「意識、記憶、同一性、[[情動]]、知覚、[[身体表象]]、[[運動制御]]、行動の正常な統合における破綻(disruption)および/または不連続(discontinuity)」としている<ref name=ref2>American Psychiatric Association Diagnostic and statistical manual of mental disorders (5th ed.)<br> Washington, DC, 2013<br>('''高橋三郎、大野 裕監訳'''<br>DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル<br>医学書院、2014)</ref>。[[ICD-10]]では、運動機能や[[感覚]]の喪失、[[けいれん]]などの身体症状も解離症状に含め、解離性(転換性)障害は[[転換性障害]]を含んでより広い概念となっている。またDSM-5の日本語版では、それまでの解離性障害が解離症にすることが提案され、従来の解離性障害と併記されている。以下では解離症と表記するが、特にDSM-5以前の解離性障害ないしはその下位分類に言及するときは解離性障害とする。 | [[DSM-Ⅳ]]-TRでは解離を「[[意識]]、[[記憶]]、[[同一性]]、または周囲の[[知覚]]についての、通常は統合されている機能の破綻(disruption)」<ref name=ref1>American Psychiatric Association Diagnostic and statistical manual of mental disorders (4th ed.), Text Revision (DSM-IV-TR)<br>Washington, DC, 1994<br>('''高橋三郎、大野裕、染矢俊幸訳'''<br>DSM-Ⅳ-TR精神疾患の診断・統計マニュアル 新訂版<br>''医学書院''、2004)</ref>と定義していたが、[[DSM-5]]は、解離症群の特徴を「意識、記憶、同一性、[[情動]]、知覚、[[身体表象]]、[[運動制御]]、行動の正常な統合における破綻(disruption)および/または不連続(discontinuity)」としている<ref name=ref2>American Psychiatric Association Diagnostic and statistical manual of mental disorders (5th ed.)<br> Washington, DC, 2013<br>('''高橋三郎、大野 裕監訳'''<br>DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル<br>医学書院、2014)</ref>。[[ICD-10]]では、運動機能や[[感覚]]の喪失、[[けいれん]]などの身体症状も解離症状に含め、解離性(転換性)障害は[[転換性障害]]を含んでより広い概念となっている。またDSM-5の日本語版では、それまでの解離性障害が解離症にすることが提案され、従来の解離性障害と併記されている。以下では解離症と表記するが、特にDSM-5以前の解離性障害ないしはその下位分類に言及するときは解離性障害とする。 | ||
DSM-Ⅳ-TRとDSM-5の記載を比較すると、DSM- | DSM-Ⅳ-TRとDSM-5の記載を比較すると、DSM-5では以下のように2つの点で変化をみることができる。 | ||
1つは解離の定義についてである。DSM-Ⅳ-TRの「意識、記憶、同一性、または周囲の知覚」からDSM-5の「意識、記憶、同一性、情動、知覚、身体表象、運動制御、行動」へと、解離をより広範囲の領域に拡大し、心理機能のあらゆる領域において破綻が生じる可能性があるとした。このことはICD-10の解離の定義である「過去の記憶、同一性と直接的感覚の意識、そして身体運動のコントロールの間の正常な統合が部分的にあるいは完全に失われること」を若干[[取り入れ]]たかたちになっている。「身体表象、運動制御、行動」などの追加記載が解離症の診断に今後どのような影響を与えるかについては不明であるが、解離にみられる身体症状の多くを取り込んでおり、臨床の実際に沿った変更であるといえよう。ただし変換症/転換性障害との関係については曖昧さを残すことになるかもしれない。 | |||
(<u>編集部コメント:DSM-Ⅳ-TRとDSM-5の比較は重要でしょうか?</u>) | |||
もう1つは解離の症候学についてである。DSM-Ⅳ-TRまでの解離の定義である「統合の破綻」から、DSM-5では「統合の破綻と不連続性、またはそのどちらか」となっており、破綻よりもより穏当な表現である「不連続性」が付け加えられたことになる。「破綻」がより客観的な解離の機能を表わしているとするならば、「不連続性」はより主観的で微細な解離体験を表わしているように思われる。今回の「不連続性」についての変更は、解離の主観的体験や微細な症候をより明確に解離の症候に取り入れたことを示している。実際、DSM-5では解離の主観的体験がより詳細に記述されている。 | もう1つは解離の症候学についてである。DSM-Ⅳ-TRまでの解離の定義である「統合の破綻」から、DSM-5では「統合の破綻と不連続性、またはそのどちらか」となっており、破綻よりもより穏当な表現である「不連続性」が付け加えられたことになる。「破綻」がより客観的な解離の機能を表わしているとするならば、「不連続性」はより主観的で微細な解離体験を表わしているように思われる。今回の「不連続性」についての変更は、解離の主観的体験や微細な症候をより明確に解離の症候に取り入れたことを示している。実際、DSM-5では解離の主観的体験がより詳細に記述されている。 | ||
28行目: | 34行目: | ||
また解離症状は、a) 主観的体験の連続性喪失を伴った、意識と行動へ意図せずに生じる侵入(すなわち、同一性の断片化、[[離人感]]、[[現実感]]消失といった「陽性」の解離症状)、および/または、b) 通常は容易であるはずの情報の利用や精神機能の制御の不能(例:健忘のような「陰性」の解離症状)に分けられる。離人感や現実感消失を陽性とし健忘を陰性の解離症状とすることの妥当性については、今後の課題であろう。 | また解離症状は、a) 主観的体験の連続性喪失を伴った、意識と行動へ意図せずに生じる侵入(すなわち、同一性の断片化、[[離人感]]、[[現実感]]消失といった「陽性」の解離症状)、および/または、b) 通常は容易であるはずの情報の利用や精神機能の制御の不能(例:健忘のような「陰性」の解離症状)に分けられる。離人感や現実感消失を陽性とし健忘を陰性の解離症状とすることの妥当性については、今後の課題であろう。 | ||
表1にDSM-5の解離症の診断・分類をあげる。すべての診断において、症状は臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしていることが条件である。 | |||
{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
|+表1 解離症群の分類(DSM-5) | |+表1 解離症群の分類(DSM-5) | ||
|- | |- | ||
|[[解離性健忘]] | |'''[[解離性健忘]]''' | ||
|重要な自伝的情報で、通常、心的外傷的または[[ストレス]]の強い性質をもつものの[[想起]]が不可能であり、通常の物忘れでは説明ができない。[[解離性遁走]]を伴う場合、目的をもった旅行や道に迷った放浪のように見え、同一性または他の重要な自伝的情報の健忘を伴う。(DSM-5ではそれまでの解離性遁走が解離性健忘に吸収された) | |重要な自伝的情報で、通常、心的外傷的または[[ストレス]]の強い性質をもつものの[[想起]]が不可能であり、通常の物忘れでは説明ができない。[[解離性遁走]]を伴う場合、目的をもった旅行や道に迷った放浪のように見え、同一性または他の重要な自伝的情報の健忘を伴う。(DSM-5ではそれまでの解離性遁走が解離性健忘に吸収された) | ||
|- | |- | ||
|[[解離性同一症]] | |'''[[解離性同一症]]''' | ||
|2つまたはそれ以上の、他とははっきりと区別される[[パーソナリティ]]状態によって特徴づけられた同一性の破綻である。文化によっては[[憑依体験]]と記述される。症候は他の人によって観察される場合もあれば、本人から報告される場合もある。解離性健忘を伴う。 | |2つまたはそれ以上の、他とははっきりと区別される[[パーソナリティ]]状態によって特徴づけられた同一性の破綻である。文化によっては[[憑依体験]]と記述される。症候は他の人によって観察される場合もあれば、本人から報告される場合もある。解離性健忘を伴う。 | ||
|- | |- | ||
|離人感・現実感消失症 | |'''離人感・現実感消失症'''(<u>編集部コメント:一つの用語でしょうか?</u>) | ||
|自らの考え、感情、感覚、身体、または行為について、非現実、離脱、または外部の傍観者であると感じる体験(離人感)や、周囲に対して非現実または離脱の体験(現実感消失)が持続的または反復的にみられる。[[現実検討]]は正常に保たれている。 | |自らの考え、感情、感覚、身体、または行為について、非現実、離脱、または外部の傍観者であると感じる体験(離人感)や、周囲に対して非現実または離脱の体験(現実感消失)が持続的または反復的にみられる。[[現実検討]]は正常に保たれている。 | ||
|- | |- | ||
|他の特定される解離症 | |'''他の特定される解離症''' | ||
|解離症状が優勢であるが、上記の診断分類のいずれの基準も完全に満たさない場合に診断される。 | |解離症状が優勢であるが、上記の診断分類のいずれの基準も完全に満たさない場合に診断される。 | ||
#[[混合性解離]]症の慢性および反復性症候群 | #[[混合性解離]]症の慢性および反復性症候群 | ||
49行目: | 55行目: | ||
#[[解離性トランス]]。 | #[[解離性トランス]]。 | ||
|- | |- | ||
|特定不能の解離症 | |'''特定不能の解離症''' | ||
|解離症状が優勢であるが、以上の特定の解離症の診断基準を満たさない場合に分類される | |解離症状が優勢であるが、以上の特定の解離症の診断基準を満たさない場合に分類される | ||
|- | |- | ||
68行目: | 74行目: | ||
|[[情動麻痺]]、離人感・現実感消失、[[体外離脱体験]]、[[自己像視]]([[気配過敏]]、[[被注察感]]) | |[[情動麻痺]]、離人感・現実感消失、[[体外離脱体験]]、[[自己像視]]([[気配過敏]]、[[被注察感]]) | ||
|- | |- | ||
|B.区画化 | |B. 区画化 | ||
|健忘、[[遁走]]、[[人格交代]]、一部の転換症状 | |健忘、[[遁走]]、[[人格交代]]、一部の転換症状 | ||
|- | |- | ||
|C.精神病様症状 | |C. 精神病様症状 | ||
|[[思考促迫]]、[[幻聴]]、[[幻視]]、一部の[[一級症状]] | |[[思考促迫]]、[[幻聴]]、[[幻視]]、一部の[[一級症状]] | ||
|- | |- | ||
126行目: | 132行目: | ||
===段階的治療=== | ===段階的治療=== | ||
[[自我状態療法]](ego state therapy)<ref name=ref16>'''Watkins JG, Watkins HH'''<br>Ego-state theory and therapy. <br>New York, ''W.W. Norton''. 1997</ref>や[[感覚運動心理療法]](sensorimotor psychotherapy)<ref name=ref17>'''Ogden P, Minton K, Pain C''' (Eds.)<br>Trauma and the body: A sensorimotor approach to psychotherapy.<br>New York, ''W.W. Norton''. 2006</ref>、[[眼球運動による脱感作および再処理法]](eye movement desensitization and reprocessing:EMDR)<ref name=ref18>'''Shapiro F'''<br>Eye movement desensitization and reprocessing: Basic principles, protocols, and procedures. <br>New York, ''Guilford Press''.1995</ref>などの治療にもおいても基本となっている。今後は[[マインドフルネス]]やAcceptance & Commitment Therapy([[ACT]])などの効果なども期待される<ref name=ref19>'''Neziroglu F, Donnelly K, Simeon D'''<br>Overcoming Depersonalization Disorder: A Mindfulness and Acceptance Guide to Conquering Feelings of Numbness and Unreality. <br>Oakland: ''New Harbinger Publications'', 2010</ref>。 | |||
==== 安心・安全と症状低減 ==== | ==== 安心・安全と症状低減 ==== |