「解離症」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
125行目: 125行目:
 解離の治療原則は、安全な環境の場で、解離のためにうまく調整されていない患者のなかの情動を、耐えられる分量だけふたたび経験できるようにすることである。その結果、圧倒的な外傷部分が患者のなかで統合される。以下に示す「段階的治療(phase-oriented treatment)」が有名である。その基本的枠組みについてはすでにジャネが提出している。治療者はつねに患者の安定性やペースに注意を払うべきであり、患者が不安定になればときに前の段階に戻ることも必要である。
 解離の治療原則は、安全な環境の場で、解離のためにうまく調整されていない患者のなかの情動を、耐えられる分量だけふたたび経験できるようにすることである。その結果、圧倒的な外傷部分が患者のなかで統合される。以下に示す「段階的治療(phase-oriented treatment)」が有名である。その基本的枠組みについてはすでにジャネが提出している。治療者はつねに患者の安定性やペースに注意を払うべきであり、患者が不安定になればときに前の段階に戻ることも必要である。


==段階的治療==
===段階的治療===
#安心・安全と症状低減
 以下に述べる段階的治療の基本は、[[自我状態療法]](ego state therapy)<ref name=ref16>'''Watkins JG, Watkins HH'''<br>Ego-state theory and therapy. <br>New York, ''W.W. Norton''. 1997</ref>や[[感覚運動心理療法]](sensorimotor psychotherapy)<ref name=ref17>'''Ogden P, Minton K, Pain C''' (Eds.)<br>Trauma and the body: A sensorimotor approach to psychotherapy.<br>New York, ''W.W. Norton''. 2006</ref>、[[眼球運動による脱感作および再処理法]](eye movement desensitization and reprocessing:EMDR)<ref name=ref18>'''Shapiro F'''<br>Eye movement desensitization and reprocessing: Basic principles, protocols, and procedures. <br>New York, ''Guilford Press''.1995</ref>などの治療にもおいても基本となっている。今後は[[マインドフルネス]]やAcceptance & Commitment Therapy([[ACT]])などの効果なども期待される<ref name=ref19>'''Neziroglu F, Donnelly K, Simeon D'''<br>Overcoming Depersonalization Disorder: A Mindfulness and Acceptance Guide to Conquering Feelings of Numbness and Unreality. <br>Oakland: ''New Harbinger Publications'', 2010</ref>。
#外傷記憶の統合
#人格の統合とリハビリテーション


==== 安心・安全と症状低減 ====
 安心・安全と症状低減の段階では、治療に対する[[恐怖]]、特に治療者に対する[[アタッチメント]]やその喪失に対する恐怖、心的体験に対する恐怖、解離的人格部分に対する恐怖などさまざまな恐怖の解消と安心・安全の確保を目的とする。この段階は統合する能力を育てる土台となる。活動を適度に行なうことで余裕を持ち、エネルギーの消耗を防ぐ。行動の低下がみられるときにはむしろ活動を増やす必要がある。安心・安全が過度であるのもよくない。問題行動については明確に制限を設ける。
 安心・安全と症状低減の段階では、治療に対する[[恐怖]]、特に治療者に対する[[アタッチメント]]やその喪失に対する恐怖、心的体験に対する恐怖、解離的人格部分に対する恐怖などさまざまな恐怖の解消と安心・安全の確保を目的とする。この段階は統合する能力を育てる土台となる。活動を適度に行なうことで余裕を持ち、エネルギーの消耗を防ぐ。行動の低下がみられるときにはむしろ活動を増やす必要がある。安心・安全が過度であるのもよくない。問題行動については明確に制限を設ける。
 
====外傷記憶の統合 ====
 外傷記憶の治療の段階では、加害者に関するアタッチメントの恐怖、解離性人格部分に対する恐怖など、外傷記憶に関連するさまざまな恐怖の解消を目的とし、外傷記憶を[[自伝的記憶]]と自己感に取り入れ統合する段階である。
 外傷記憶の治療の段階では、加害者に関するアタッチメントの恐怖、解離性人格部分に対する恐怖など、外傷記憶に関連するさまざまな恐怖の解消を目的とし、外傷記憶を[[自伝的記憶]]と自己感に取り入れ統合する段階である。
 
==== 人格の統合とリハビリテーション ====
 人格統合およびリハビリテーションの段階では、正常な生活を営むことに対する恐怖、健康な範囲での危険なことへ立ち向かう恐怖、身体イメージの恐怖、性愛を含む親密性に対する恐怖などの解消を目的とする。そして新たな対処スキルによって世界と関わり合う段階である。日常生活の目標を立て、自信をつけて人格の発達を促していくことが重要である。
 人格統合およびリハビリテーションの段階では、正常な生活を営むことに対する恐怖、健康な範囲での危険なことへ立ち向かう恐怖、身体イメージの恐怖、性愛を含む親密性に対する恐怖などの解消を目的とする。そして新たな対処スキルによって世界と関わり合う段階である。日常生活の目標を立て、自信をつけて人格の発達を促していくことが重要である。
 
=== 薬物療法 ===
 こうした段階的治療の基本は、[[自我状態療法]](ego state therapy)<ref name=ref16>'''Watkins JG, Watkins HH'''<br>Ego-state theory and therapy. <br>New York, ''W.W. Norton''. 1997</ref>や[[感覚運動心理療法]](sensorimotor psychotherapy)<ref name=ref17>'''Ogden P, Minton K, Pain C''' (Eds.)<br>Trauma and the body: A sensorimotor approach to psychotherapy.<br>New York, ''W.W. Norton''. 2006</ref>、[[眼球運動による脱感作および再処理法]](eye movement desensitization and reprocessing:EMDR)<ref name=ref18>'''Shapiro F'''<br>Eye movement desensitization and reprocessing: Basic principles, protocols, and procedures. <br>New York, ''Guilford Press''.1995</ref>などの治療にもおいても基本となっている。今後は[[マインドフルネス]]やAcceptance & Commitment Therapy([[ACT]])などの効果なども期待される<ref name=ref19>'''Neziroglu F, Donnelly K, Simeon D'''<br>Overcoming Depersonalization Disorder: A Mindfulness and Acceptance Guide to Conquering Feelings of Numbness and Unreality. <br>Oakland: ''New Harbinger Publications'', 2010</ref>。
 状態像に合わせて適宜処方する。[[緩和精神安定剤]]や[[睡眠薬]]は漫然と使用しない。緊張、興奮、[[衝動性]]が目立つときは[[バルプロ酸]]などの[[気分安定剤]]や[[抗精神病薬]]を処方することもある。「頭が騒がしい」などの思考促迫、周囲に対する過敏性、幻覚などがみられるときには、[[リスペリドン]]や[[クエチアピン]]など[[非定型抗精神病薬]]を少量処方するのもよい。抑うつ状態が目立つときには[[抗うつ剤]]を適宜処方するが、攻撃性の亢進や軽躁状態がみられることがあるので注意を要する。睡眠薬や[[抗不安薬]]はときに解離を悪化させるため、使用は最小限にとどめる。
 
 薬物療法については状態像に合わせて適宜処方する。[[緩和精神安定剤]]や[[睡眠薬]]は漫然と使用しない。緊張、興奮、[[衝動性]]が目立つときは[[バルプロ酸]]などの[[気分安定剤]]や[[抗精神病薬]]を処方することもある。「頭が騒がしい」などの思考促迫、周囲に対する過敏性、幻覚などがみられるときには、[[リスペリドン]]や[[クエチアピン]]など[[非定型抗精神病薬]]を少量処方するのもよい。抑うつ状態が目立つときには[[抗うつ剤]]を適宜処方するが、攻撃性の亢進や軽躁状態がみられることがあるので注意を要する。睡眠薬や[[抗不安薬]]はときに解離を悪化させるため、使用は最小限にとどめる。


==疫学==
==疫学==

案内メニュー