「SNARE複合体」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
6行目: 6行目:
</div>
</div>


英語名:Soluble NSF Attachment protein REceptor complex, SNARE complex
英語名:Soluble NSF Attachment protein REceptor complex, SNARE complex, SNARE complex


{{box|text= 
{{box|text= 
13行目: 13行目:


==イントロダクション==  
==イントロダクション==  
 細胞膜での開口放出や細胞内小胞輸送では、小胞膜が標的とする細胞膜や細胞内小胞膜に融合する過程が必須である。脂質膜同士の融合は自然には起こりにくく、効率的に引き起こすためにはタンパク質の助けが必要である。CHO(Chinese Hamster Ovary)細胞を用いた研究から、細胞内小胞輸送に必須なタンパク質としてNSF (N-ethylmaleimide-sensitive factor)とSNAP (Soluble NSF Attachment Protein)が特定された<ref name=ref1><pubmed>8745395</pubmed></ref>。脳からNSF/αSNAP複合体に結合するタンパク質としてシンタキシン1 (syntaxin 1)、SNAP-25およびシナプトブレビン2 (VAMP-2とも呼ばれる)が同定され、SNARE (SNAP Receptor)と総称された<ref name=ref2><pubmed>8455717</pubmed></ref>。SNAREタンパク質は分子内に8回のheptad repeatからなるSNAREモチーフを持ち、coiled-coil複合体を形成する性質がある。リコンビナントタンパク質や脳から調整された内在性のタンパク質を用いた免疫沈降法などで、シンタキシン1、 SNAP-25およびシナプトブレビン2が複合体を形成することが示された<ref name=ref3><pubmed>16912714</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>16038056</pubmed></ref>。X線解析やNMR解析の結果、SNARE複合体はSNAREモチーフを持つ4本のへリックスからなる複合体であることが示された<ref name=ref5><pubmed>9759724</pubmed></ref>。シンタキシン1 、SNAP-25、シナプトブレビン2のノックアウトマウスでは開口放出による同期した神経伝達物質放出が見られないことや<ref name=ref6><pubmed>11753414</pubmed></ref> <ref name=ref7><pubmed>11691998</pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed>24587181</pubmed></ref>、タイプ特異的にSNAREタンパク質を切断する破傷風毒素やボツリヌス毒素を作用させると、神経伝達物質放出が抑制されること<ref name=ref9><pubmed>10195143</pubmed></ref>、リポソームにSNAREタンパク質を組み込むとリポソーム同士の融合が引き起こされることなどから<ref name=ref10><pubmed>9529252</pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed>25997356</pubmed></ref>、SNARE複合体の形成が脂質膜の融合を引き起こすと考えられるようになった<ref name=ref12><pubmed>19164740</pubmed></ref> <ref name=ref13><pubmed>24183019</pubmed></ref> <ref name=ref14><pubmed>23060190</pubmed></ref>。SNAREタンパク質は多くのメンバーを持つファミリータンパク質で、細胞膜での開口放出のみならず、様々な細胞内小胞輸送に関わっている<ref name=ref4 /> <ref name=ref15><pubmed>11001059</pubmed></ref>。更に細胞膜へのタンパク質の組み込みや<ref name=ref16><pubmed>25565955</pubmed></ref>、細胞の大きさや形態変化に伴う細胞膜の伸展などにもSNAREタンパク質が関わっていることも明らかにされている<ref name=ref17><pubmed>19805073</pubmed></ref>。
 細胞膜での開口放出や細胞内小胞輸送では、小胞膜が標的とする細胞膜や細胞内小胞膜に融合する過程が必須である。脂質膜同士の融合は自然には起こりにくく、効率的に引き起こすためにはタンパク質の助けが必要である。Chinese Hamster Ovary(CHO)細胞を用いた研究から、細胞内小胞輸送に必須なタンパク質としてN-ethylmaleimide-sensitive factor(NSF)とSoluble NSF Attachment Protein(SNAP)が特定された<ref name=ref1><pubmed>8745395</pubmed></ref>。脳からNSF/αSNAP複合体に結合するタンパク質としてシンタキシン1(syntaxin 1)、SNAP-25およびシナプトブレビン2(VAMP-2とも呼ばれる)が同定され、SNARE(NAP Receptor)と総称された<ref name=ref2><pubmed>8455717</pubmed></ref>。SNAREタンパク質は分子内に8回のheptad repeatからなるSNAREモチーフを持ち、coiled-coil複合体を形成する性質がある。リコンビナントタンパク質や脳から調整された内在性のタンパク質を用いた免疫沈降法などで、シンタキシン1、 SNAP-25およびシナプトブレビン2が複合体を形成することが示された<ref name=ref3><pubmed>16912714</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>16038056</pubmed></ref>。X線解析やNMR解析の結果、SNARE複合体はSNAREモチーフを持つ4本のへリックスからなる複合体であることが示された<ref name=ref5><pubmed>9759724</pubmed></ref>。シンタキシン1 、SNAP-25、シナプトブレビン2のノックアウトマウスでは開口放出による同期した神経伝達物質放出が見られないことや<ref name=ref6><pubmed>11753414</pubmed></ref> <ref name=ref7><pubmed>11691998</pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed>24587181</pubmed></ref>、タイプ特異的にSNAREタンパク質を切断する破傷風毒素やボツリヌス毒素を作用させると、神経伝達物質放出が抑制されること<ref name=ref9><pubmed>10195143</pubmed></ref>、リポソームにSNAREタンパク質を組み込むとリポソーム同士の融合が引き起こされることなどから<ref name=ref10><pubmed>9529252</pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed>25997356</pubmed></ref>、SNARE複合体の形成が脂質膜の融合を引き起こすと考えられるようになった<ref name=ref12><pubmed>19164740</pubmed></ref> <ref name=ref13><pubmed>24183019</pubmed></ref> <ref name=ref14><pubmed>23060190</pubmed></ref>。SNAREタンパク質は多くのメンバーを持つファミリータンパク質で、細胞膜での開口放出のみならず、様々な細胞内小胞輸送に関わっている<ref name=ref4 /> <ref name=ref15><pubmed>11001059</pubmed></ref>。更に細胞膜へのタンパク質の組み込みや<ref name=ref16><pubmed>25565955</pubmed></ref>、細胞の大きさや形態変化に伴う細胞膜の伸展などにもSNAREタンパク質が関わっていることも明らかにされている<ref name=ref17><pubmed>19805073</pubmed></ref>。


==脂質膜の融合==
==脂質膜の融合==
30行目: 30行目:
 シナプス膜での開口放出に関わるSNAREタンパク質であるシンタキシン1はIle202 –Tyr257、シナプトブレビン2はLeu32 –Lys87、SNAP-25はThr29 –Phe84およびLeu150 –Ser205の2か所にSNAREモチーフが存在し、それぞれheptad repeat が8回繰り返されている。SNAREタンパク質はSNAREモチーフを介して会合し、4本のへリックスからなるヘテロ複合体であるSNARE複合体を形成する<ref name=ref5 />(図3)。
 シナプス膜での開口放出に関わるSNAREタンパク質であるシンタキシン1はIle202 –Tyr257、シナプトブレビン2はLeu32 –Lys87、SNAP-25はThr29 –Phe84およびLeu150 –Ser205の2か所にSNAREモチーフが存在し、それぞれheptad repeat が8回繰り返されている。SNAREタンパク質はSNAREモチーフを介して会合し、4本のへリックスからなるヘテロ複合体であるSNARE複合体を形成する<ref name=ref5 />(図3)。


 SNAREモチーフではaおよびdの位置にくるアミノ酸側鎖は複合体の内側に向いており、疎水性結合で結ばれたレイヤー面を構成する(図4)。SNAREモチーフではaとdの位置にLeu, Ile, Val以外の残基も見られ、Pheのようにかさばる残基がくる場合には、同じレイヤー面の他のへリックスではAlaになる。SNAREモチーフではモチーフの中央付近にある4つ目のheptad repeatのd位は正電荷をもつArgか親水性のGlnであるという顕著な特徴を持っており、これらの残基を含む面を0レイヤーと呼んでいる。0レイヤーにArg (R)を供出するSNAREをR-SNAREと呼び、Gln (Q)を供出するSNAREをQ-SNAREと呼んでいる。シナプス膜ではシナプトブレビン2がR-SNAREで、シンタキシン1とSNAP-25の二つのSNAREモチーフがQ-SNAREである。SNARE複合体ではSNAREモチーフを持つ4つのへリックスのN末端が同じ方向に向くように配置されている(図3)。
 SNAREモチーフではaおよびdの位置にくるアミノ酸側鎖は複合体の内側に向いており、疎水性結合で結ばれたレイヤー面を構成する(図4)。SNAREモチーフではaとdの位置にLeu, Ile, Val以外の残基も見られ、Pheのようにかさばる残基がくる場合には、同じレイヤー面の他のへリックスではAlaになる。SNAREモチーフではモチーフの中央付近にある4つ目のheptad repeatのd位は正電荷をもつArgか親水性のGlnであるという顕著な特徴を持っており、これらの残基を含む面を0レイヤーと呼んでいる。0レイヤーにArg(R)を供出するSNAREをR-SNAREと呼び、Gln(Q)を供出するSNAREをQ-SNAREと呼んでいる。シナプス膜ではシナプトブレビン2がR-SNAREで、シンタキシン1とSNAP-25の二つのSNAREモチーフがQ-SNAREである。SNARE複合体ではSNAREモチーフを持つ4つのへリックスのN末端が同じ方向に向くように配置されている(図3)。


 シナプトブレビン2とシンタキシン1を含む多くのSNAREタンパク質はC末に膜貫通へリックスを持ち脂質膜に組み込まれている。それに対してSNAP-25は膜貫通部位を持たないが、分子の中央付近にパルミトイル化されたシステイン残基クラスターを持ち、細胞膜に係留されている<ref name=ref18><pubmed>8641455</pubmed></ref>(図5)。
 シナプトブレビン2とシンタキシン1を含む多くのSNAREタンパク質はC末に膜貫通へリックスを持ち脂質膜に組み込まれている。それに対してSNAP-25は膜貫通部位を持たないが、分子の中央付近にパルミトイル化されたシステイン残基クラスターを持ち、細胞膜に係留されている<ref name=ref18><pubmed>8641455</pubmed></ref>(図5)。

案内メニュー