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Yoheiokubo (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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<font size="+1">三上 義礼</font><br> | |||
''東邦大学医学部医学科生理学講座統合生理学分野''<br> | |||
<font size="+1">大久保 洋平</font><br> | |||
''東京大学大学院医学系研究科細胞分子薬理学教室''<br> | |||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年3月12日 原稿完成日:2013年6月6日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | |||
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英語名: intracellular calcium store | |||
{{box|text= | |||
カルシウムイオン(Ca<sup>2+</sup>)は重要な細胞内情報伝達物質の一つであり、さまざまな生理機能の制御や疾患のプロセスに関与している。細胞内小器官の一部は、Ca<sup>2+</sup>をその内腔に貯蔵し一定の条件下でCa<sup>2+</sup>を細胞質に放出する機能を有している。Ca<sup>2+</sup>貯蔵庫および供給源としてCa<sup>2+</sup>シグナルに関与する細胞内小器官を、細胞内カルシウムストアと総称する。本稿ではこの細胞内カルシウムストアについて、その代表的な存在である小胞体とミトコンドリアの機能について解説する。 | カルシウムイオン(Ca<sup>2+</sup>)は重要な細胞内情報伝達物質の一つであり、さまざまな生理機能の制御や疾患のプロセスに関与している。細胞内小器官の一部は、Ca<sup>2+</sup>をその内腔に貯蔵し一定の条件下でCa<sup>2+</sup>を細胞質に放出する機能を有している。Ca<sup>2+</sup>貯蔵庫および供給源としてCa<sup>2+</sup>シグナルに関与する細胞内小器官を、細胞内カルシウムストアと総称する。本稿ではこの細胞内カルシウムストアについて、その代表的な存在である小胞体とミトコンドリアの機能について解説する。 | ||
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==細胞内Ca<sup>2+</sup>シグナル== | ==細胞内Ca<sup>2+</sup>シグナル== | ||
Ca<sup>2+</sup>はさまざまな細胞機能を調節するセカンドメッセンジャーである。神経伝達物質の放出、シナプス可塑性の誘導などの生理機能に関わる一方で、細胞死をはじめとする病態にも関与している。細胞質のCa<sup>2+</sup>濃度は、刺激を受けていない静止状態では数十nM程度に保たれており、刺激に応じて数百nMから数十µMに渡る幅広い濃度範囲で変化する。さらに、Ca<sup>2+</sup>ウェーブやCa<sup>2+</sup>オシレーションといった、細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度の複雑な時空間動態が観察される。細胞内カルシウムストアはCa<sup>2+</sup>の取り込みと放出を通じて、Ca<sup>2+</sup>シグナルの形成を担う。 | Ca<sup>2+</sup>はさまざまな細胞機能を調節するセカンドメッセンジャーである。神経伝達物質の放出、シナプス可塑性の誘導などの生理機能に関わる一方で、細胞死をはじめとする病態にも関与している。細胞質のCa<sup>2+</sup>濃度は、刺激を受けていない静止状態では数十nM程度に保たれており、刺激に応じて数百nMから数十µMに渡る幅広い濃度範囲で変化する。さらに、Ca<sup>2+</sup>ウェーブやCa<sup>2+</sup>オシレーションといった、細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度の複雑な時空間動態が観察される。細胞内カルシウムストアはCa<sup>2+</sup>の取り込みと放出を通じて、Ca<sup>2+</sup>シグナルの形成を担う。 | ||
==小胞体== | ==小胞体== | ||
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IP3Rはイノシトール三リン酸が結合することによって活性化され、また細胞質Ca<sup>2+</sup>によっても活性化される。約2700アミノ酸からなる巨大分子で、IP3R1、IP3R2、IP3R3の3つのサブタイプが存在する<ref><pubmed> 17429043 </pubmed></ref>。IP3R1は主に神経細胞に発現しており、特に小脳のプルキンエ細胞に豊富に存在する<ref><pubmed> 7945203 </pubmed></ref>。IP3R2は主にアストロサイトに豊富に発現している<ref><pubmed> 18463250 </pubmed></ref>。 | IP3Rはイノシトール三リン酸が結合することによって活性化され、また細胞質Ca<sup>2+</sup>によっても活性化される。約2700アミノ酸からなる巨大分子で、IP3R1、IP3R2、IP3R3の3つのサブタイプが存在する<ref><pubmed> 17429043 </pubmed></ref>。IP3R1は主に神経細胞に発現しており、特に小脳のプルキンエ細胞に豊富に存在する<ref><pubmed> 7945203 </pubmed></ref>。IP3R2は主にアストロサイトに豊富に発現している<ref><pubmed> 18463250 </pubmed></ref>。 | ||
RyRは細胞質Ca<sup>2+</sup>によって活性化される。また、一酸化窒素により活性化される機構も報告されている<ref name=kakizawa><pubmed> 22036948 </pubmed></ref> | RyRは細胞質Ca<sup>2+</sup>によって活性化される。また、一酸化窒素により活性化される機構も報告されている<ref name=kakizawa><pubmed> 22036948 </pubmed></ref>。約5000アミノ酸からなる巨大分子で、RyR1、RyR2、RyR3の3つのサブタイプがある。RyR1は骨格筋や小脳プルキンエ細胞、RyR2は心筋や脳、膵臓に、RyR3は平滑筋や脳などに優位に発現が見られる<ref><pubmed> 7876312 </pubmed></ref>。 | ||
===小胞体の細胞内カルシウムストアとしての意義=== | ===小胞体の細胞内カルシウムストアとしての意義=== | ||
細胞内カルシウムストアとしての小胞体機能の著名例として、骨格筋や心筋における興奮収縮連関が挙げられるが、中枢神経系においても多様な機能を担っている <ref><pubmed> 9697848 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 15618481 </pubmed></ref>。疾患との関係に着目すると、脊髄小脳変性症15型(SCA15)ではIP3R1遺伝子に欠失やミスセンス変異が見つかっている<ref><pubmed> 18579805 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 12828938 </pubmed></ref>。小胞体を細胞膜に近接させることでRyR機能に関与するジャンクトフィリン3については、ハンチントン病類縁疾患2型において当該遺伝子でのトリプレット伸長が報告されている<ref><pubmed> 11694876 </pubmed></ref>。また、一酸化窒素によって活性化されたRyR1を通じたCa<sup>2+</sup>放出が脳虚血時等の神経細胞死に関与することも示されている<ref name=kakizawa />。 | 細胞内カルシウムストアとしての小胞体機能の著名例として、骨格筋や心筋における興奮収縮連関が挙げられるが、中枢神経系においても多様な機能を担っている <ref><pubmed> 9697848 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 15618481 </pubmed></ref>。疾患との関係に着目すると、脊髄小脳変性症15型(SCA15)ではIP3R1遺伝子に欠失やミスセンス変異が見つかっている<ref><pubmed> 18579805 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 12828938 </pubmed></ref>。小胞体を細胞膜に近接させることでRyR機能に関与するジャンクトフィリン3については、ハンチントン病類縁疾患2型において当該遺伝子でのトリプレット伸長が報告されている<ref><pubmed> 11694876 </pubmed></ref>。また、一酸化窒素によって活性化されたRyR1を通じたCa<sup>2+</sup>放出が脳虚血時等の神経細胞死に関与することも示されている<ref name=kakizawa />。 | ||
==ミトコンドリア== | ==ミトコンドリア== | ||
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ミトコンドリアはmitofusin2などの因子を介して、小胞体と近接して局在する<ref><pubmed> 19052620 </pubmed></ref>。これにより、小胞体から放出されたCa<sup>2+</sup>がミトコンドリアに効率的に取り込まれる<ref><pubmed> 9624056 </pubmed></ref>。このような小胞体とミトコンドリアの連関は、局所的なATP合成の活性化などを促す役割があると考えられる<ref><pubmed> 20655468 </pubmed></ref>。 | ミトコンドリアはmitofusin2などの因子を介して、小胞体と近接して局在する<ref><pubmed> 19052620 </pubmed></ref>。これにより、小胞体から放出されたCa<sup>2+</sup>がミトコンドリアに効率的に取り込まれる<ref><pubmed> 9624056 </pubmed></ref>。このような小胞体とミトコンドリアの連関は、局所的なATP合成の活性化などを促す役割があると考えられる<ref><pubmed> 20655468 </pubmed></ref>。 | ||
==その他の細胞内カルシウムストア== | ==その他の細胞内カルシウムストア== | ||
ゴルジ体は内腔のCa<sup>2+</sup>濃度がmMオーダーとされる報告もあり、細胞内カルシウムストアとして働いている可能性がある<ref><pubmed> 8195154 </pubmed></ref>。イノシトール三リン酸依存的な経路を介してCa<sup>2+</sup>を放出すると考えられているが、さらなる研究が必要である<ref><pubmed> 9736609 </pubmed></ref>。 | ゴルジ体は内腔のCa<sup>2+</sup>濃度がmMオーダーとされる報告もあり、細胞内カルシウムストアとして働いている可能性がある<ref><pubmed> 8195154 </pubmed></ref>。イノシトール三リン酸依存的な経路を介してCa<sup>2+</sup>を放出すると考えられているが、さらなる研究が必要である<ref><pubmed> 9736609 </pubmed></ref>。 | ||
==関連項目== | ==関連項目== | ||
*[[カルシウム]] | |||
カルシウム | *[[カルシウムドメイン]] | ||
*[[イノシトール三リン酸受容体]] | |||
カルシウムドメイン | *[[リアノジン受容体]] | ||
*[[滑面小胞体]] | |||
イノシトール三リン酸受容体 | *[[ミトコンドリア]] | ||
リアノジン受容体 | |||
滑面小胞体 | |||
ミトコンドリア | |||
==参考文献== | ==参考文献== | ||
<references/> | <references/> |