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 一方、転写因子のネットワークが重要だとするモデルも提唱されている(図2B)。神経管の発生初期には神経前駆細胞全体に転写因子の1つ[[Pax6]]が発現している。Pax6の発現自体は、[[神経誘導因子]](細胞に「神経」という運命を与える因子)によって誘導される(図2C, time 1)。次に、Pax6は[[Olig2]]によって発現抑制される関係にあるため、Olig2がShhによって発現誘導されると、Pax6の発現が抑制される(図2C, time 2)。一方、Nkx2.2はOlig2と同じくShhのターゲット遺伝子であるが、初期にはPax6によってその発現が抑制されており、発現しない(図2C, time 2)。しかしOlig2がPax6の発現を抑制するとPax6がNkx2.2を抑制する作用が弱まり、結果的にNkx2.2の発現が開始する(図2C, time 3)。最後にNkx2.2とOlig2の相互抑制関係によって[[pMN]]と[[p3]]の領域が明確に分離し(図2C, time 4)、Pax6、Olig2(pMN領域)、Nkx2.2(p3領域)による神経管のパターン形成が完成するのである<ref name=Balaskas2012><pubmed> 22265416 </pubmed></ref>18。この関係は常微分方程式によって数理モデル化されており、ShhによるOlig2とNkx2.2発現誘導効果が同等であってもパターン形成は成立する<ref name =Balaskas2012 />18。つまり、Gliのアフィニティー(結合力)の違いによる発現誘導とは異なるメカニズムで遺伝子発現が制御されていると言える。
 一方、転写因子のネットワークが重要だとするモデルも提唱されている(図2B)。神経管の発生初期には神経前駆細胞全体に転写因子の1つ[[Pax6]]が発現している。Pax6の発現自体は、[[神経誘導因子]](細胞に「神経」という運命を与える因子)によって誘導される(図2C, time 1)。次に、Pax6は[[Olig2]]によって発現抑制される関係にあるため、Olig2がShhによって発現誘導されると、Pax6の発現が抑制される(図2C, time 2)。一方、Nkx2.2はOlig2と同じくShhのターゲット遺伝子であるが、初期にはPax6によってその発現が抑制されており、発現しない(図2C, time 2)。しかしOlig2がPax6の発現を抑制するとPax6がNkx2.2を抑制する作用が弱まり、結果的にNkx2.2の発現が開始する(図2C, time 3)。最後にNkx2.2とOlig2の相互抑制関係によって[[pMN]]と[[p3]]の領域が明確に分離し(図2C, time 4)、Pax6、Olig2(pMN領域)、Nkx2.2(p3領域)による神経管のパターン形成が完成するのである<ref name=Balaskas2012><pubmed> 22265416 </pubmed></ref>18。この関係は常微分方程式によって数理モデル化されており、ShhによるOlig2とNkx2.2発現誘導効果が同等であってもパターン形成は成立する<ref name =Balaskas2012 />18。つまり、Gliのアフィニティー(結合力)の違いによる発現誘導とは異なるメカニズムで遺伝子発現が制御されていると言える。


上述のパターン形成で議論した細胞はすべて前駆細胞であり、機能的神経細胞に分化するには[[Neurogenin]]などの神経化転写因子が必要である。最近、Olig2が[[Hes1]],[[Hes5]]という転写因子の発現抑制を介してNeurogenin2の発現を誘導するという転写制御システムが提唱されるようになった。
 上述のパターン形成で議論した細胞はすべて前駆細胞であり、機能的神経細胞に分化するには[[Neurogenin]]などの神経化転写因子が必要である。最近、Olig2が[[Hes1]],[[Hes5]]という転写因子の発現抑制を介してNeurogenin2の発現を誘導するという転写制御システムが提唱されるようになった。


== 蓋板(Roof plate; RP)から分泌されるWnt、BMPによる背側神経管細胞の分化方向の決定と、濃度勾配の必要性 ==
== 蓋板(Roof plate; RP)から分泌されるWnt、BMPによる背側神経管細胞の分化方向の決定と、濃度勾配の必要性 ==

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