「攻撃性」の版間の差分

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 また、いったん実戦によって群れの中の順位階層 (dominance hierarchy)が決定すると、下位の個体が譲歩し服従姿勢 (submissive posture)をとることで、相手の攻撃行動を消滅させ、さらなる衝突が避けられる。チンパンジーでは、「臀部を見せる、泣き叫ぶ、身を屈める、お辞儀をする、うずくまる、歩み寄る、キスをする」などの行動で服従を示すという。これによって、お互いを良く知っている個体同士では暴力行為が見知らぬ同士よりもはるかに低く抑えられる。若年の個体(コドモ)も、匂いや声などのシグナルによって、群れの中の成体からの攻撃を押さえていると考えられる。
 また、いったん実戦によって群れの中の順位階層 (dominance hierarchy)が決定すると、下位の個体が譲歩し服従姿勢 (submissive posture)をとることで、相手の攻撃行動を消滅させ、さらなる衝突が避けられる。チンパンジーでは、「臀部を見せる、泣き叫ぶ、身を屈める、お辞儀をする、うずくまる、歩み寄る、キスをする」などの行動で服従を示すという。これによって、お互いを良く知っている個体同士では暴力行為が見知らぬ同士よりもはるかに低く抑えられる。若年の個体(コドモ)も、匂いや声などのシグナルによって、群れの中の成体からの攻撃を押さえていると考えられる。


 さらに実戦となった場合でも、その中には様々な「ルール」が存在する。例えばオスラット同士の攻撃行動(インターネットで<ref><pubmed> 23852258</pubmed></ref>の詳細な実験の紹介動画を視聴できる)では、毛を逆立てて一見激しく興奮した攻撃側の居住オスの攻撃対象は、90%が相手の背中・尻に絞られ、傷つきやすい部位である咽喉や腹部などにはあまり向かわない。侵入者が仰向けになった服従姿勢をとると、攻撃側は腹部や顔面を攻撃できるにも関わらず攻撃せず、かわりに威圧姿勢をとる。[[マウス]]や[[ハムスター]]でも、主に背中が攻撃のターゲットとなる<ref name=Blanchard2003/>。すなわち攻撃行動には儀式的な組織化ritual organizationがあり、秩序だって制御されていると言える。
 さらに実戦となった場合でも、その中には様々な「ルール」が存在する。例えばオスラット同士の攻撃行動(<ref><pubmed> 23852258</pubmed></ref>の詳細な実験の[https://www.jove.com/video/4367/the-resident-intruder-paradigm-standardized-test-for-aggression 動画]を視聴できる)では、毛を逆立てて一見激しく興奮した攻撃側の居住オスの攻撃対象は、90%が相手の背中・尻に絞られ、傷つきやすい部位である咽喉や腹部などにはあまり向かわない。侵入者が仰向けになった服従姿勢をとると、攻撃側は腹部や顔面を攻撃できるにも関わらず攻撃せず、かわりに威圧姿勢をとる。[[マウス]]や[[ハムスター]]でも、主に背中が攻撃のターゲットとなる<ref name=Blanchard2003/>。すなわち攻撃行動には儀式的な組織化ritual organizationがあり、秩序だって制御されていると言える。


 このような観察を強調したローレンツの古典的著書『攻撃』<ref name=Lorenz1963/>の影響もあり、過去には、動物は同種間の闘いで実際に致命傷を受けることはほとんどない、そのような残酷なことをするのは人間だけ、あるいは人間とチンパンジーだけだ、と主張されたこともある。しかしその後の観察では、同種の動物の間で致命傷に至る攻撃行動は決してまれではない。
 このような観察を強調したローレンツの古典的著書『攻撃』<ref name=Lorenz1963/>の影響もあり、過去には、動物は同種間の闘いで実際に致命傷を受けることはほとんどない、そのような残酷なことをするのは人間だけ、あるいは人間とチンパンジーだけだ、と主張されたこともある。しかしその後の観察では、同種の動物の間で致命傷に至る攻撃行動は決してまれではない。