「攻撃性」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
202 バイト除去 、 2018年4月12日 (木)
91行目: 91行目:


=== セロトニンと攻撃性 ===
=== セロトニンと攻撃性 ===
 攻撃行動に関わる神経伝達物質として最もよく研究されているのが、セロトニン(5-HT)である。衝動的・暴力的な行動を示す個体において、血中や脳内のセロトニンが低下していることが様々な動物において観察されたことから、セロトニンが欠損すると攻撃性が昂進するという仮説が一般的に広く受け入れられているが、実はそう単純な関係ではないことが徐々に認識されてきている(de Boer and Koolhaas, 2005, Olivier 2004)<ref><pubmed>16310183 </pubmed></ref><ref><pubmed> 15817750 </pubmed></ref>。
 攻撃行動に関わる神経伝達物質として最もよく研究されているのが、セロトニン(5-HT)である。衝動的・暴力的な行動を示す個体において、血中や脳内のセロトニンが低下していることが様々な動物において観察されたことから、セロトニンが欠損すると攻撃性が昂進するという仮説が一般的に広く受け入れられているが、実はそう単純な関係ではないことが徐々に認識されてきている<ref><pubmed>16310183 </pubmed></ref><ref><pubmed> 15817750 </pubmed></ref>。


 実際、セロトニン合成([[トリプトファン水酸化酵素2]] (tryptophan hydroxylase 2; [[Tph2]])や、セロトニン神経発達に関わる遺伝子([[Pet-1]])を欠損させたり、[[5-HT1B]]受容体を欠損させた[[ノックアウトマウス]]において、攻撃行動が多くみられることは、セロトニン系の阻害が攻撃行動を昂進させることを示している(Hendricks et al. 2003, Saudou et al. 1994, Alenina et al. 2009)<ref><pubmed> 12546819 </pubmed></ref><ref><pubmed> 8091214 </pubmed></ref><ref><pubmed>19520831</pubmed></ref>。その一方で、[[モノアミン酸化酵素]][[MAOA]]が欠損したヒトやマウスにおいて、過剰な攻撃性が観察され、それらの個体ではセロトニン量が増加している(Brunner et al. 1993, Cases et al. 1995)<ref><pubmed> 8211186</pubmed></ref><ref><pubmed>7792602</pubmed></ref>。また、[[選択的セロトニン再取り込み阻害薬]]([[SSRI]])は攻撃行動を減らすという報告と増加させるという報告が混在している(Sharma et al 2016, Carrillo et al 2009)<ref><pubmed>26819231</pubmed></ref><ref><pubmed> 19404614</pubmed></ref>。このことから、セロトニンは受容体のサブタイプや、作用する脳部位によって、攻撃行動に異なる作用をもたらしており、更に攻撃行動のタイプ(offensive, defensive, 母親攻撃行動など)や、攻撃の特性(trait)と状態(state)によっても、セロトニンと攻撃行動の関係は異なる可能性が示唆されている。
 実際、セロトニン合成([[トリプトファン水酸化酵素2]] (tryptophan hydroxylase 2; [[Tph2]])や、セロトニン神経発達に関わる遺伝子([[Pet-1]])を欠損させたり、[[5-HT1B]]受容体を欠損させた[[ノックアウトマウス]]において、攻撃行動が多くみられることは、セロトニン系の阻害が攻撃行動を昂進させることを示している<ref><pubmed> 12546819 </pubmed></ref><ref><pubmed> 8091214 </pubmed></ref><ref><pubmed>19520831</pubmed></ref>。その一方で、[[モノアミン酸化酵素]][[MAOA]]が欠損したヒトやマウスにおいて、過剰な攻撃性が観察され、それらの個体ではセロトニン量が増加している<ref><pubmed> 8211186</pubmed></ref><ref><pubmed>7792602</pubmed></ref>。また、[[選択的セロトニン再取り込み阻害薬]]([[SSRI]])は攻撃行動を減らすという報告と増加させるという報告が混在している<ref><pubmed>26819231</pubmed></ref><ref><pubmed> 19404614</pubmed></ref>。このことから、セロトニンは受容体のサブタイプや、作用する脳部位によって、攻撃行動に異なる作用をもたらしており、更に攻撃行動のタイプ(offensive, defensive, 母親攻撃行動など)や、攻撃の特性(trait)と状態(state)によっても、セロトニンと攻撃行動の関係は異なる可能性が示唆されている。


== 参考文献  ==
== 参考文献  ==
<references />
<references />

案内メニュー