246
回編集
Masahitoyamagata (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
Masahitoyamagata (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
||
9行目: | 9行目: | ||
{{box|text= | {{box|text= | ||
シングルセルRNAシーケンシング(single cell RNA sequencing, 以下scRNA-seq)は、次世代シーケンシング (next generation sequencing、以下NGS)技術を使用して個々の細胞が発現しているmRNA全体、つまりトランスクリプトームを質的、量的に網羅的に調べ、細胞ごとの違いを高解像度で検出、分類することで、細胞の分類を行うことができる分子生物学的、コンピュータ生物学的技術である。また、刺激、発生など細胞の状況に応じて、個々の細胞のトランスクリプトームの情報を得ることで、病態や細胞系譜などの解析も可能である。特に多様なニューロンが存在する神経系では、この方法により、神経細胞の分類や状態についての知見が深まり、更に新しいバイオマーカー(biomarker) | シングルセルRNAシーケンシング(single cell RNA sequencing, 以下scRNA-seq)は、次世代シーケンシング (next generation sequencing、以下NGS)技術を使用して個々の細胞が発現しているmRNA全体、つまりトランスクリプトームを質的、量的に網羅的に調べ、細胞ごとの違いを高解像度で検出、分類することで、細胞の分類を行うことができる分子生物学的、コンピュータ生物学的技術である。また、刺激、発生など細胞の状況に応じて、個々の細胞のトランスクリプトームの情報を得ることで、病態や細胞系譜などの解析も可能である。特に多様なニューロンが存在する神経系では、この方法により、神経細胞の分類や状態についての知見が深まり、更に新しいバイオマーカー(biomarker)の発見などが網羅的に行われるようになった。}} | ||
==scRNA-seqとその開発史== | ==scRNA-seqとその開発史== | ||
66行目: | 65行目: | ||
==神経科学への応用== | ==神経科学への応用== | ||
=== | ===ニューロンのタイプ=== | ||
様々な神経・精神疾患について理解しその診断や治療に役立てるためには、ニューロン、グリア細胞を中心にした神経系にある細胞の「タイプ」を識別し、それぞれの細胞における分子的な変化を観察することが重要である <ref><pubmed>28775344</pubmed></ref><ref><pubmed>29738987</pubmed></ref>。近年、中枢神経系のグリア細胞にも、多様なアストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアの存在が報告されてきている。一方で、ニューロンは著しく多様であり、このニューロンの多様性こそが、神経系を特徴づけており、その多彩で複雑な機能の発現に必須であることは疑う余地がない。 | 様々な神経・精神疾患について理解しその診断や治療に役立てるためには、ニューロン、グリア細胞を中心にした神経系にある細胞の「タイプ」を識別し、それぞれの細胞における分子的な変化を観察することが重要である <ref><pubmed>28775344</pubmed></ref><ref><pubmed>29738987</pubmed></ref>。近年、中枢神経系のグリア細胞にも、多様なアストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアの存在が報告されてきている。一方で、ニューロンは著しく多様であり、このニューロンの多様性こそが、神経系を特徴づけており、その多彩で複雑な機能の発現に必須であることは疑う余地がない。 | ||
解剖学的な視点から言えば、すべてのニューロンの存在する位置は異なるので、すべてのニューロンは異なるという見方もできる。しかし、これは極論であり、従来の神経科学では、ニューロンの多様性は、それぞれのニューロンの解剖学的な位置、発現している分子、電気生理学、結合性、形態、神経伝達物質、神経伝達物質受容体とシグナル伝達によって識別されてきた。こうしたニューロンの多様性を便宜的に記述するのに、タイプ(type)、クラス(class)、サブクラス(subclass)、サブタイプ(subtype) というような用語が用いられてきた。しかし、本稿では混乱を防ぐため、Masland(2004)<ref><pubmed>15242626</pubmed></ref>が提唱し、広く受けいれられている「クラス」と「タイプ」という単語を用いることとする。タイプは、これ以上分類することができないとされる階層である。例えば、大脳皮質の錐体細胞、網膜神経節細胞といった大雑把な識別は「クラス」と呼ぶ。大脳皮質の錐体細胞というクラスは、層や領野によって「タイプ」が異なるし、網膜神経節細胞には視覚情報によって応答が異なる「タイプ」が存在する。この分類は、免疫組織化学、形態、電気生理学などの技術により識別可能である暫定的なものに過ぎない。本稿で解説するscRNA-seqの技術は、その網羅性からそれぞれのニューロンについてこれまでにないビッグデータを提供することで、このニューロンのタイプの理解に確実な根拠を与えつつある。 | 解剖学的な視点から言えば、すべてのニューロンの存在する位置は異なるので、すべてのニューロンは異なるという見方もできる。しかし、これは極論であり、従来の神経科学では、ニューロンの多様性は、それぞれのニューロンの解剖学的な位置、発現している分子、電気生理学、結合性、形態、神経伝達物質、神経伝達物質受容体とシグナル伝達によって識別されてきた。こうしたニューロンの多様性を便宜的に記述するのに、タイプ(type)、クラス(class)、サブクラス(subclass)、サブタイプ(subtype) というような用語が用いられてきた。しかし、本稿では混乱を防ぐため、Masland(2004)<ref><pubmed>15242626</pubmed></ref>が提唱し、広く受けいれられている「クラス」と「タイプ」という単語を用いることとする。タイプは、これ以上分類することができないとされる階層である。例えば、大脳皮質の錐体細胞、網膜神経節細胞といった大雑把な識別は「クラス」と呼ぶ。大脳皮質の錐体細胞というクラスは、層や領野によって「タイプ」が異なるし、網膜神経節細胞には視覚情報によって応答が異なる「タイプ」が存在する。この分類は、免疫組織化学、形態、電気生理学などの技術により識別可能である暫定的なものに過ぎない。本稿で解説するscRNA-seqの技術は、その網羅性からそれぞれのニューロンについてこれまでにないビッグデータを提供することで、このニューロンのタイプの理解に確実な根拠を与えつつある。 | ||
72行目: | 71行目: | ||
===大脳=== | ===大脳=== | ||
=== | ===その他の神経系=== | ||
===疾患=== | ===疾患=== | ||
79行目: | 78行目: | ||
==展望== | ==展望== | ||
=== | ===他の動物種と進化=== | ||
=== | ===データベースと統合=== | ||
Human Cell Atlas | Human Cell Atlas | ||
Human Brain Transcriptome project | Human Brain Transcriptome project | ||
87行目: | 86行目: | ||
統合 LIGER, MetaNeighbor | 統合 LIGER, MetaNeighbor | ||
=== | ===空間トランスクリプトミクス=== | ||
===マルチモーダルなオミクス=== | ===マルチモーダルなオミクス=== |