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4. 依存症の脳内メカニズム<br>4.1. 依存性物質と報酬系<br>依存性物質はシナプスの神経伝達に影響を与える特異的な標的、たとえばモノアミントランスポーター、オピオイド受容体、カンナビノイド受容体、セロトニン受容体、NMDA受容体、GABA受容体、ニコチン性アセチルコリン受容体、アデノシン受容体などに作用する(図1)。これらの作用が次の標的分子へ作用するといった連鎖の結果、最終的に快情動(報酬効果)を発現させる。依存性薬物が共通に作用する部位として腹側被蓋野のドーパミン神経細胞から辺縁系、特に側坐核に投射する神経回路がある<ref><pubmed>9768834</pubmed></ref><ref><pubmed>11252991</pubmed></ref><ref><pubmed>15102958</pubmed></ref>。快情動を伴う体験をするときに、中脳の腹側被蓋野から前脳の側坐核へむかってのびているドーパミンニューロンがドーパミンを放出し、ドーパミンを受け取った側坐核のニューロンで反応が起きることによって快情動が生じる。通常ドーパミンニューロンは抑制性ニューロンによって働きが抑えられているが、依存性物質が抑制性ニューロンの働きを抑えることなどによって、ドーパミンニューロンからドーパミンが大量に放出される。依存症では、その快情動の再体験を求めて依存性物質の使用と快情動の体験が繰り返されることで、依存性物質の使用が強化される。<br>また、側坐核にはモルヒネやヘロインなどの麻薬の受容体が存在することから、依存性物質の報酬効果にはドーパミン系に加えてオピオイド系も重要である<ref><pubmed>1346804</pubmed></ref>。オピオイド受容体以外にも依存性物質の標的分子は側坐核や腹側被蓋野に投射する神経細胞に多数存在する。<br>近年では分界条床核、扁桃体中心核、側坐核内側移行帯などの拡張扁桃体と呼ばれる辺縁系の脳部位が、依存性物質の報酬に関わっていることも知られている。前頭前野皮質に投射する神経回路は薬物誘発性の薬物再摂取に関与し、依存性物質に対する渇望感において重要な役割を担っていると考えられる。 | 4. 依存症の脳内メカニズム<br>4.1. 依存性物質と報酬系<br>依存性物質はシナプスの神経伝達に影響を与える特異的な標的、たとえばモノアミントランスポーター、オピオイド受容体、カンナビノイド受容体、セロトニン受容体、NMDA受容体、GABA受容体、ニコチン性アセチルコリン受容体、アデノシン受容体などに作用する(図1)。これらの作用が次の標的分子へ作用するといった連鎖の結果、最終的に快情動(報酬効果)を発現させる。依存性薬物が共通に作用する部位として腹側被蓋野のドーパミン神経細胞から辺縁系、特に側坐核に投射する神経回路がある<ref><pubmed>9768834</pubmed></ref><ref><pubmed>11252991</pubmed></ref><ref><pubmed>15102958</pubmed></ref>。快情動を伴う体験をするときに、中脳の腹側被蓋野から前脳の側坐核へむかってのびているドーパミンニューロンがドーパミンを放出し、ドーパミンを受け取った側坐核のニューロンで反応が起きることによって快情動が生じる。通常ドーパミンニューロンは抑制性ニューロンによって働きが抑えられているが、依存性物質が抑制性ニューロンの働きを抑えることなどによって、ドーパミンニューロンからドーパミンが大量に放出される。依存症では、その快情動の再体験を求めて依存性物質の使用と快情動の体験が繰り返されることで、依存性物質の使用が強化される。<br>また、側坐核にはモルヒネやヘロインなどの麻薬の受容体が存在することから、依存性物質の報酬効果にはドーパミン系に加えてオピオイド系も重要である<ref><pubmed>1346804</pubmed></ref>。オピオイド受容体以外にも依存性物質の標的分子は側坐核や腹側被蓋野に投射する神経細胞に多数存在する。<br>近年では分界条床核、扁桃体中心核、側坐核内側移行帯などの拡張扁桃体と呼ばれる辺縁系の脳部位が、依存性物質の報酬に関わっていることも知られている。前頭前野皮質に投射する神経回路は薬物誘発性の薬物再摂取に関与し、依存性物質に対する渇望感において重要な役割を担っていると考えられる。 | ||
[[Image:Fig.1.png]] | [[Image:Fig.1.png|RTENOTITLE]] | ||
4. 2.依存症におけるGIRKチャネルと報酬系の関連<br>G蛋白質活性型内向き整流性カリウムチャネル(G protein-activated inwardly rectifying potassium channel: | 4. 2.依存症におけるGIRKチャネルと報酬系の関連<br>G蛋白質活性型内向き整流性カリウムチャネル(G protein-activated inwardly rectifying potassium channel: GIRKチャネル)は依存性物質のシグナル伝達において重要な役割を果たしている。様々なG<sub>i/o</sub>蛋白質共役型受容体に神経伝達物質が作用することによってG<sub>i/o</sub>蛋白質が活性化され、G蛋白質αサブユニットから遊離したG蛋白質βγサブユニットがGIRKチャネルを直接開口する<ref><pubmed>10997585</pubmed></ref><ref><pubmed>17168757</pubmed></ref>。また、エタノールはGIRKチャネルを直接開口することも見出されている<ref><pubmed>10570486</pubmed></ref><ref><pubmed>10570485</pubmed></ref>。GIRKチャネルの開口によって細胞膜は過分極化し、神経細胞の興奮性を調節する。哺乳類において4つのGIRKチャネルサブユニットが知られている<ref><pubmed>8355805</pubmed></ref><ref><pubmed>7877685</pubmed></ref><ref><pubmed>7499385</pubmed></ref>。GIRK2サブユニットに1つのアミノ酸変異(カリウムイオンだけでなくナトリウムイオンも透過させ、G蛋白質制御も消失している)を持つウィーバーミュータントマウスでは、小脳顆粒細胞や黒質ドーパミン神経細胞、橋核神経細胞における神経細胞死が生じており、モルヒネおよびエタノールによる鎮痛が減弱している<ref name="ref8" /><ref><pubmed>12354627</pubmed></ref>。したがって、GIRKチャネルがモルヒネやエタノールの鎮痛効果において決定的な役割を果たすと考えられる。さらに、GIRKチャネル欠損マウスでは、コカインの自己投与が消失することも示されている<ref><pubmed>12637950</pubmed></ref>。また、開腹手術の患者を対象にした研究では、GIRK2サブユニットのA1032G多型がA/Aタイプの場合、脳内のGIRK2サブユニットのメッセンジャーRNA量が減少することによって、GIRKサブユニット蛋白質量も減少して、オピオイド感受性が低下するために、術後の疼痛に対して必要なオピオイド投与回数が増加している可能性が示唆されている<ref><pubmed>19756153</pubmed></ref>。 | ||
4.3. 各依存性物質の脳神経画像研究<br>ポジトロンCT(positron emission tomography: PET)を用いた脳画像研究の発展に伴い、ヒト脳内の受容体、トランスポーターなどを定量評価することが可能になり、依存症の病態が解明されつつある<ref>'''橋本謙二(著)、福居顯二(編)'''<br>III章 物質依存の神経生物学的基盤 物質依存の神経画像(脳とこころのプライマリケア(8)依存)<br>''株式会社シナジー''、2011</ref>。近年の依存症の脳神経画像研究の成果を以下に示す。 | 4.3. 各依存性物質の脳神経画像研究<br>ポジトロンCT(positron emission tomography: PET)を用いた脳画像研究の発展に伴い、ヒト脳内の受容体、トランスポーターなどを定量評価することが可能になり、依存症の病態が解明されつつある<ref>'''橋本謙二(著)、福居顯二(編)'''<br>III章 物質依存の神経生物学的基盤 物質依存の神経画像(脳とこころのプライマリケア(8)依存)<br>''株式会社シナジー''、2011</ref>。近年の依存症の脳神経画像研究の成果を以下に示す。 |
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