「高親和性ニューロトロフィン受容体」の版間の差分

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{{box|text= 高親和性ニューロトロフィン受容体とはニューロトロフィンファミリー(神経成長因子 (nerve growth factor, NGF)、脳由来神経栄養因子 (brain-derived neurotrophic factor, BDNF)、ニューロトロフィン-3 (neurotrophin-3, NT-3)、ニューロトロフィン-4 (neurotrophin-4, NT-4)からなる)の受容体であり、TrkA, B, Cがある。低親和性神経栄養因子受容体(p75)が全てのニューロトロフィンと結合(Kd=10<sup>-9</sup>M)するのに対し、TrkAにはNGFが、TrkBにはBDNFとNT-4が、TrkCにはNT-3がそれぞれ高親和性(Kd=10<sup>-11</sup>M)に結合、作用する。またTrkA, BはNT-3とも低親和性に結合する。<u>(編集部コメント:対応する内容が本文に無いようです。機能などについてもご言及頂ければと思います。)</u>}}
{{box|text= 高親和性ニューロトロフィン受容体とはニューロトロフィンファミリー(神経成長因子 (nerve growth factor, NGF)、脳由来神経栄養因子 (brain-derived neurotrophic factor, BDNF)、ニューロトロフィン-3 (neurotrophin-3, NT-3)、ニューロトロフィン-4 (neurotrophin-4, NT-4)からなる)の受容体であり、TrkA, B, Cがある。低親和性神経栄養因子受容体(p75)が全てのニューロトロフィンと結合(Kd=10<sup>-9</sup>M)するのに対し、TrkAにはNGFが、TrkBにはBDNFとNT-4が、TrkCにはNT-3がそれぞれ高親和性(Kd=10<sup>-11</sup>M)に結合、作用する。またTrkA, BはNT-3とも低親和性に結合する。<u>(編集部コメント:対応する内容が本文に無いようです。機能などについてもご言及頂ければと思います。)</u>}}
<u>(査読者コメント:(1)編集部コメントに賛同します。下記の「生理的機能」の内容を、一文でまとめたような文章を追加されるとよいと思います。例えば、神経細胞の分化、生存維持、神経可塑性などに関与する、とか。(2)最初にTrkA, B, Cとでてくるところは、TrkA, TrkB, TrkCとすると、それぞれの違いがよくわかると思います。)</u>
<u>(査読者コメント:(1)編集部コメントに賛同します。下記の「生理的機能」の内容を、一文でまとめたような文章を追加されるとよいと思います。例えば、神経細胞の分化、生存維持、神経可塑性などに関与する、とか。(2)最初にTrkA, B, Cとでてくるところは、TrkA, TrkB, TrkCとすると、それぞれの違いがよくわかると思います。)</u>


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==高親和性ニューロトロフィン受容体とは==
==高親和性ニューロトロフィン受容体とは==
 Trk(トラックと読む)は大腸癌で見出されたトロポミオシンと受容体型チロシンキナーゼ様の分子の融合遺伝子として同定された癌遺伝子trkの遺伝子産物で、tropomyosin receptor kinaseとして1986年にクローニングされていた<ref name=Martin-Zanca1986><pubmed>2869410</pubmed></ref>  (1)。受容体型チロシンキナーゼと示唆されていたが、同定時にはリガンドは不明であった。Trkが神経系に高発現していることがわかり、1991年になってTrkA, B, Cが相次いでニューロトロフィンの受容体と同定された<ref name=Lamballe1991><pubmed>1844238</pubmed></ref>  (2)。<u>(編集部コメント:高親和性ニューロトロフィン受容体と低親和性受容体の関連についてご言及いただいたうえ、どうして高親和性受容体と言われるようになったのかご説明下さい)</u>
 Trk(トラックと読む)は大腸癌で見出されたトロポミオシンと受容体型チロシンキナーゼ様の分子の融合遺伝子として同定された癌遺伝子trkの遺伝子産物で、tropomyosin receptor kinaseとして1986年にクローニングされていた<ref name=Martin-Zanca1986><pubmed>2869410</pubmed></ref>  (1)。受容体型チロシンキナーゼと示唆されていたが、同定時にはリガンドは不明であった。Trkが神経系に高発現していることがわかり、1991年になってTrkA, B, Cが相次いでニューロトロフィンの受容体と同定された<ref name=Lamballe1991><pubmed>1844238</pubmed></ref>  (2)。<u>(編集部コメント:高親和性ニューロトロフィン受容体と低親和性受容体の関連についてご言及いただいたうえ、どうして高親和性受容体と言われるようになったのかご説明下さい)</u>
<u>(査読者コメント:また、近年はゲノムやトランスクリプトームの研究が大きくなってきていて、TrkA, TrkB, TrkCに対応するNTRK, NTRK2, NTRK3という「遺伝子名」で見かけることも増えていると思います。これらの関係性を一目で見てわかるように4つのニューロトロフィンとの結合性を含めて簡単な表にするとわかりやすくなるのではないかと思います。
<u>(査読者コメント:また、近年はゲノムやトランスクリプトームの研究が大きくなってきていて、TrkA, TrkB, TrkCに対応するNTRK, NTRK2, NTRK3という「遺伝子名」で見かけることも増えていると思います。これらの関係性を一目で見てわかるように4つのニューロトロフィンとの結合性を含めて簡単な表にするとわかりやすくなるのではないかと思います。
TrkA  NTRK  NGF
TrkA  NTRK  NGF
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==分子構造==
==分子構造==
 TrkはA,B,Cともアミノ酸約800個からなり、糖鎖付加を受けて分子量140-145kDaの成熟分子となる。EGF受容体やインシュリン受容体と同じく受容体型チロシンキナーゼであり、細胞内にキナーゼドメインを持つ。細胞外には2つのシステインリッチクラスターとそれに挟まれた3つのロイシンリッチリピート、さらに2つのイムノグロブリン様ドメインがある。2つ目のイムノグロブリン様ドメインにリガンドである各ニューロトロフィンが結合する。2量体リガンドが結合するとTrk自体も2量体化し、細胞内ドメインのチロシン残基を相互にリン酸化する。このリン酸化チロシンに種々の分子が結合し、細胞内にシグナルを伝達する('''図1''')<ref name=Barbacid1994><pubmed>7852993</pubmed></ref><ref name=Barbacid1995><pubmed>7486690</pubmed></ref>  (3)。リガンド結合部位('''図2''')、キナーゼドメイン共に結晶構造解析がなされている。
 TrkはA,B,Cともアミノ酸約800個からなり、糖鎖付加を受けて分子量140-145kDaの成熟分子となる。EGF受容体やインシュリン受容体と同じく受容体型チロシンキナーゼであり、細胞内にキナーゼドメインを持つ。細胞外には2つのシステインリッチクラスターとそれに挟まれた3つのロイシンリッチリピート、さらに2つのイムノグロブリン様ドメインがある。2つ目のイムノグロブリン様ドメインにリガンドである各ニューロトロフィンが結合する。2量体リガンドが結合するとTrk自体も2量体化し、細胞内ドメインのチロシン残基を相互にリン酸化する。このリン酸化チロシンに種々の分子が結合し、細胞内にシグナルを伝達する('''図1''')<ref name=Barbacid1994><pubmed>7852993</pubmed></ref><ref name=Barbacid1995><pubmed>7486690</pubmed></ref>  (3)。リガンド結合部位('''図2''')、キナーゼドメイン共に結晶構造解析がなされている。
<u>(査読者:ここで、EGF受容体やインシュリン受容体以外に、例えばRORファミリーなど関連した受容体との関係、あるいは他の生物、特に無脊椎動物(Drosophilaなど)に見られる類似のレセプター型チロシンキナーゼとの関係が明示されると、分子構造の説明としての視点が広がると思います。)</u>
<u>(査読者:ここで、EGF受容体やインシュリン受容体以外に、例えばRORファミリーなど関連した受容体との関係、あるいは他の生物、特に無脊椎動物(Drosophilaなど)に見られる類似のレセプター型チロシンキナーゼとの関係が明示されると、分子構造の説明としての視点が広がると思います。)</u>


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==分布==
==分布==
 TrkA,B,Cとも末梢神経系の神経細胞に広く発現している。脳内ではTrkB, Cは幅広く分布し、ほとんどの神経細胞に発現している。一方、TrkAの発現はほぼ前脳基底野のアセチルコリン作働性神経細胞に限られておりNGFの作用も限定されている。細胞内局在では末梢系では主に前シナプスに発現し、ニューロトロフィンの標的由来/逆行性作用を受けている。TrkAは中枢でも逆行性作用が主と考えられており前シナプスに発現しているのに対し、TrkBは主に後シナプスに発現して、前シナプスから活動依存的に放出されるBDNFを受容して機能している<ref name=Nawa2001><pubmed>11718853</pubmed></ref>  (6)。
 TrkA,B,Cとも末梢神経系の神経細胞に広く発現している。脳内ではTrkB, Cは幅広く分布し、ほとんどの神経細胞に発現している。一方、TrkAの発現はほぼ前脳基底野のアセチルコリン作働性神経細胞に限られておりNGFの作用も限定されている。細胞内局在では末梢系では主に前シナプスに発現し、ニューロトロフィンの標的由来/逆行性作用を受けている。TrkAは中枢でも逆行性作用が主と考えられており前シナプスに発現しているのに対し、TrkBは主に後シナプスに発現して、前シナプスから活動依存的に放出されるBDNFを受容して機能している<ref name=Nawa2001><pubmed>11718853</pubmed></ref>  (6)。
<u>(査読者:
<u>(査読者:
(1)発現、分布、局在という単語の使い分けが曖昧と感じられる箇所がありますので、ご確認ください。
(1)発現、分布、局在という単語の使い分けが曖昧と感じられる箇所がありますので、ご確認ください。
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== 生化学的機能 ==
== 生化学的機能 ==
 受容体型チロシンキナーゼに共通の仕組みとして、リガンドの結合によって受容体分子が2量体化し、キナーゼドメインによって相手側のチロシン残基がリン酸化される。リン酸化チロシンにアダプター分子が結合し、リン酸化カスケードが駆動され、様々なシグナルが細胞内に伝わる('''図3''')<ref name=Chao2003><pubmed>12671646</pubmed></ref><ref name=Huang2003><pubmed>12676795</pubmed></ref>  (7,8)。Trkの特徴として、下流シグナルも含めて、活性化の時間経過がEGF受容体などに比べて長く持続することが知られている。TrkAではリン酸化したY496 (TrkBはY532、TrkCはY516)にShcあるいはFRS2が結合し、Ras-MAPK系とPI3K-Akt系が活性化される('''図3''')。
 受容体型チロシンキナーゼに共通の仕組みとして、リガンドの結合によって受容体分子が2量体化し、キナーゼドメインによって相手側のチロシン残基がリン酸化される。リン酸化チロシンにアダプター分子が結合し、リン酸化カスケードが駆動され、様々なシグナルが細胞内に伝わる('''図3''')<ref name=Chao2003><pubmed>12671646</pubmed></ref><ref name=Huang2003><pubmed>12676795</pubmed></ref>  (7,8)。Trkの特徴として、下流シグナルも含めて、活性化の時間経過がEGF受容体などに比べて長く持続することが知られている。TrkAではリン酸化したY496 (TrkBはY532、TrkCはY516)にShcあるいはFRS2が結合し、Ras-MAPK系とPI3K-Akt系が活性化される('''図3''')。
<u>(査読者コメント:Y496などと言った場合、ヒトのものでしょうか。種を限定する必要があるかもです。)</u>
 
<u>(査読者コメント:Y496などと言った場合、番号はヒトのものでしょうか。種を限定する必要があるかもです。)</u>


 ShcあるいはFRS2を介してGrb2-Sosから、癌遺伝子rasの産物で、低分子GTP結合蛋白質であるRasを活性化する。さらにRaf、MEK (MAPキナーゼキナーゼ, MAPKKとも呼ばれる)を介しErk1,2 (Extracellular regulated kinase 1, 2、あるいはmitogen activated protein kinase (MAPK)とも呼ばれる)を活性化する経路であり、転写調節などメインとして多くの細胞応答を引き起こす。
 ShcあるいはFRS2を介してGrb2-Sosから、癌遺伝子rasの産物で、低分子GTP結合蛋白質であるRasを活性化する。さらにRaf、MEK (MAPキナーゼキナーゼ, MAPKKとも呼ばれる)を介しErk1,2 (Extracellular regulated kinase 1, 2、あるいはmitogen activated protein kinase (MAPK)とも呼ばれる)を活性化する経路であり、転写調節などメインとして多くの細胞応答を引き起こす。
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 各種Trkの発現は末梢神経系に幅広く見られ、末梢神経細胞の分化、生存維持に必須の役割をはたしている。そのためTrkノックアウトマウスは生後まもなく死亡する。表現型としてはリガンドであるニューロトロフィンのノックアウトより重篤である。このため、中枢神経系で研究はコンディショナルノックアウトを用いる必要がある。中枢神経系での機能としては、BDNF-TrkB系が神経可塑性に特に重要であることが示されている。TrkB自体の関与としては、活動依存性に神経細胞の膜表面に移行して(やはり活動依存性に発現、放出が増強されるBDNFとともに)、神経活動とリンクして働くことがわかっている<ref name=Andreska2020><pubmed>32556728</pubmed></ref>  (12)。またBDNF-TrkBは中枢性の摂食/代謝にも関与している<ref name=Takei2014><pubmed>25309497</pubmed></ref>  (13)。TrkCは広く発現しているものの、NT-3の中枢作用はあまり認められていない。TrkCはシナプスオーガナイザーの働きがあることも報告されており<ref name=Naito2017><pubmed>27697534</pubmed></ref>  (14)、Trkはニューロトロフィン受容体としての働き以外にも機能がある可能性もある。
 各種Trkの発現は末梢神経系に幅広く見られ、末梢神経細胞の分化、生存維持に必須の役割をはたしている。そのためTrkノックアウトマウスは生後まもなく死亡する。表現型としてはリガンドであるニューロトロフィンのノックアウトより重篤である。このため、中枢神経系で研究はコンディショナルノックアウトを用いる必要がある。中枢神経系での機能としては、BDNF-TrkB系が神経可塑性に特に重要であることが示されている。TrkB自体の関与としては、活動依存性に神経細胞の膜表面に移行して(やはり活動依存性に発現、放出が増強されるBDNFとともに)、神経活動とリンクして働くことがわかっている<ref name=Andreska2020><pubmed>32556728</pubmed></ref>  (12)。またBDNF-TrkBは中枢性の摂食/代謝にも関与している<ref name=Takei2014><pubmed>25309497</pubmed></ref>  (13)。TrkCは広く発現しているものの、NT-3の中枢作用はあまり認められていない。TrkCはシナプスオーガナイザーの働きがあることも報告されており<ref name=Naito2017><pubmed>27697534</pubmed></ref>  (14)、Trkはニューロトロフィン受容体としての働き以外にも機能がある可能性もある。
<u>(査読者コメント:「シナプスオーガナイザー」はわかりますが、説明せずに使っても理解しにくい読者が多い可能性があります。シナプス形成に関与するなどとした方が無難であると思います。)</u>


==疾患との関連==
==疾患との関連==
 遺伝性感覚ニューロパチーの患者においてNTRK1(ヒトTrkAをコード)のloss of function変異を認めている<ref name=Indo1996><pubmed>8696348</pubmed></ref> (15)。感覚神経にTrkAが発現していることから関与が強く示唆されている。またNTRK2(TrkB)のloss of function変異では摂食異常、肥満、発達遅滞が認められいる<ref name=Yeo2004><pubmed>15494731</pubmed></ref>  (16)。これも動物実験の結果と一致している<ref name=Takei2014><pubmed>25309497</pubmed></ref> (13)。疾患に関して近年最も注目を集めているのはNTRK融合遺伝子である。Trkのキナーゼドメインと他の分子との融合遺伝子が癌のドライバーとなることが多くの癌種で明らかになっている <ref name=Cocco2018><pubmed>30333516</pubmed></ref> (17)。Trk発見の経緯も癌における融合遺伝子によることから、驚くことではないが、シークエンス技術の向上により多く見出されるようになってきた。Trk阻害剤が抗癌剤として開発されており、日本でもエヌトレクチニブが抗癌剤として承認されている。(ちなみに副作用として認知障害や運動失調が報告されており、Trkの正常作用を考えるとうなずける。)
 遺伝性感覚ニューロパチーの患者においてNTRK1(ヒトTrkAをコード)のloss of function変異を認めている<ref name=Indo1996><pubmed>8696348</pubmed></ref> (15)。感覚神経にTrkAが発現していることから関与が強く示唆されている。またNTRK2(TrkB)のloss of function変異では摂食異常、肥満、発達遅滞が認められいる<ref name=Yeo2004><pubmed>15494731</pubmed></ref>  (16)。これも動物実験の結果と一致している<ref name=Takei2014><pubmed>25309497</pubmed></ref> (13)。疾患に関して近年最も注目を集めているのはNTRK融合遺伝子である。Trkのキナーゼドメインと他の分子との融合遺伝子が癌のドライバーとなることが多くの癌種で明らかになっている <ref name=Cocco2018><pubmed>30333516</pubmed></ref> (17)。Trk発見の経緯も癌における融合遺伝子によることから、驚くことではないが、シークエンス技術の向上により多く見出されるようになってきた。Trk阻害剤が抗癌剤として開発されており、日本でもエヌトレクチニブが抗癌剤として承認されている。(ちなみに副作用として認知障害や運動失調が報告されており、Trkの正常作用を考えるとうなずける。)
<u>(査読者コメント:最後のちなみにの文章のカッコは必要でしょうか。)</u>


==阻害剤とアゴニスト==
==阻害剤とアゴニスト==

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