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== 疾患との関わり == | == 疾患との関わり == | ||
=== 家族性パーキンソン病の原因遺伝子として === | === 家族性パーキンソン病の原因遺伝子として === | ||
1997年イタリア起源の優性遺伝形式をとる家族性パーキンソン病の家系で最初のαシヌクレイン遺伝子の点変異(A53T)家系が報告され<ref name=Polymeropoulos1997><pubmed>9197268</pubmed></ref> 、次いでドイツから異なる変異(A30P)を有する第二の家系が見つかりPARK1と命名された<ref name=Kruger1998><pubmed>9462735</pubmed></ref> 。前者は比較的若年発症、後者は中年発症という差があるものの、両者ともレボドパ反応性のパーキンソニズムを呈し神経病理学的にも孤発性パーキンソン病類似の所見を認めたため、αシヌクレインは孤発性パーキンソン病の病態解明に結びつくkey moleculeとして衆目を集めることとなった。 | 1997年イタリア起源の優性遺伝形式をとる家族性パーキンソン病の家系で最初のαシヌクレイン遺伝子の点変異(A53T)家系が報告され<ref name=Polymeropoulos1997><pubmed>9197268</pubmed></ref> 、次いでドイツから異なる変異(A30P)を有する第二の家系が見つかりPARK1と命名された<ref name=Kruger1998><pubmed>9462735</pubmed></ref> 。前者は比較的若年発症、後者は中年発症という差があるものの、両者ともレボドパ反応性のパーキンソニズムを呈し神経病理学的にも孤発性パーキンソン病類似の所見を認めたため、αシヌクレインは孤発性パーキンソン病の病態解明に結びつくkey moleculeとして衆目を集めることとなった。 | ||
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=== αシヌクレインと神経変性 === | === αシヌクレインと神経変性 === | ||
培養細胞および動物モデルを用いた膨大な知見の積み重ねから、異常凝集したαシヌクレインは細胞毒性を有し神経細胞死を惹起することが判っている<ref name=Goedert2017><pubmed>28282814</pubmed></ref> 。具体的には、酸化的ストレス、小胞体ストレス、ミトコンドリア障害、細胞・オルガネラ膜破綻、小胞輸送障害などの経路を介し細胞毒性を獲得すると考えられている。以下順に解説する。 | |||
==== 酸化的ストレス ==== | ==== 酸化的ストレス ==== | ||
活性酸素は細胞内タンパクやオルガネラを傷害することにより細胞死を誘導する。αシヌクレインオリゴマーは金属イオンと結合することで活性酸素種を発生させる<ref name=Deas2016><pubmed>26564470</pubmed></ref> 。あるいは、リソソームやミトコンドリア障害などを誘導し酸化的ストレスを惹起する一因となる<ref name=Luth2014><pubmed>24942732</pubmed></ref><ref name=Freeman2013><pubmed>23634225</pubmed></ref> 。また、ドパミン酸化物のキノン体はαシヌクレインオリゴマーを安定化させる作用をもつことが示されている<ref name=Conway2001><pubmed>11701929</pubmed></ref> 。 | |||
==== 小胞体ストレス ==== | ==== 小胞体ストレス ==== | ||
種々のストレスにより正常な構造をとれず折りたたみ異常(ミスフォールディング)を来したタンパクが小胞体に蓄積すると、小胞体ストレスとよばれるシグナルが誘導され細胞死が誘導される。小胞体ストレスの発現には前述の酸化的ストレスも寄与する。培養細胞を用いた実験結果から、変異型あるいはS129リン酸化αシヌクレインは小胞体ストレスを誘導し、細胞死をもたらすことが示されている<ref name=Smith2005><pubmed>16239241</pubmed></ref><ref name=Sugeno2008><pubmed>18562315</pubmed></ref> 。 | |||
==== ミトコンドリア障害 ==== | ==== ミトコンドリア障害 ==== | ||
パーキンソン病患者脳でミトコンドリア呼吸鎖の障害を認めることや<ref name=Mizuno1998><pubmed>9749580</pubmed></ref> 、ミトコンドリア障害を惹起する薬剤(1-Methyl-4-phenyl- 1,2,3,6-tetrahydropyridine/MPTP、ロテノンなど)がドパミン神経細胞死を誘導すること<ref name=Bhurtel2019><pubmed>30605763</pubmed></ref> 、さらにミトコンドリア品質管理を担うPINK1 (PTEN-induced kinase 1)やParkinなどの遺伝子変異により家族性パーキンソン病が発症することから<ref name=Ge2020><pubmed>32169097</pubmed></ref> 、ミトコンドリア障害はパーキンソン病病態において重要な役割をもつと考えられている。細胞内においてミトコンドリアは活性酸素種の主たる産生部位であり、その障害により酸化的ストレスが増大する。一方、αシヌクレインはミトコンドリアの分裂・融合、凝集に関与すること<ref name=Pozo Devoto2017><pubmed>28883016</pubmed></ref> 、野生型・変異型αシヌクレインの過剰発現はミトコンドリア断片化・機能障害をもたらすことが示されている<ref name=Pozo Devoto2017><pubmed>28698628</pubmed></ref> 。 | |||
==== 細胞・オルガネラ膜破綻 ==== | ==== 細胞・オルガネラ膜破綻 ==== | ||
シヌクレイン凝集過程で生じるプロトフィブリルは、生体膜上に環状のポア構造を形成することで膜透過性を亢進させ、細胞傷害性をもたらす可能性が推定されている<ref name=Furukawa2006><pubmed>16606366</pubmed></ref><ref name=Ding2002><pubmed>12162735</pubmed></ref> 。実際、凝集したαシヌクレインはリソソーム膜を破壊することでその内容物を細胞質へ漏出させ酸化的ストレスを引き起こすことが示されている<ref name=Freeman2013><pubmed>23634225</pubmed></ref> 。また、細胞外にある凝集αシヌクレインは、エンドサイトーシスにより細胞内へ取り込まれた後にエンドソーム膜を破壊して細胞質へと漏出し、自らが鋳型となって内在性のαシヌクレインを凝集させる現象も報告されている<ref name=Flavin2017><pubmed>28527044</pubmed></ref> 。 | |||
==== 小胞輸送障害 ==== | ==== 小胞輸送障害 ==== | ||
小胞輸送は積荷タンパクのオルガネラ間あるいは細胞内外での輸送を担う普遍的な細胞内ロジスティクスである。パーキンソン病の原因・リスク遺伝子には小胞輸送制御に関与するものが多く、αシヌクレインもRab GTPaseやSNARE構成分子の機能に影響を与えることで小胞輸送系を間接的に制御していると推定されている<ref name=Hasegawa2017><pubmed>28539529</pubmed></ref><ref name=Huang2019><pubmed>30745863</pubmed></ref><ref name=Gundersen2020><pubmed>32044380</pubmed></ref> 。小胞輸送障害はタンパク分解機構の破綻、αシヌクレインの凝集・蓄積、ミトコンドリア障害など様々な機序を介し神経細胞死を誘導する<ref name=Oshima2016><pubmed>27112194</pubmed></ref><ref name=Hasegawa2017><pubmed>28539529</pubmed></ref><ref name=Yoshida2018><pubmed>29309590</pubmed></ref><ref name=Miura2014><pubmed>25107340</pubmed></ref><ref name=Mazzulli2011><pubmed>21700325</pubmed></ref> 。 | |||
==== プリオン様伝播 ==== | ==== プリオン様伝播 ==== | ||
2003年ドイツの神経病理学者Braakは、パーキンソン病患者脳内においてαシヌクレイン/Lewy病理は病初期に延髄迷走神経背側核に出現し、その後中脳から大脳辺縁系・新皮質へ拡大するという病変進展モデル(Braak仮説)を発表した<ref name=Braak2003><pubmed>12498954</pubmed></ref> 。さらに、胎児黒質組織片移植後を受けたパーキンソン病剖検脳において、ドナーである胎児由来の神経細胞内にαシヌクレイン陽性のLewy小体様封入体が確認されたという事実が報告され<ref name=Kordower2008><pubmed>18391962</pubmed></ref> 、αシヌクレインが細胞間を伝播して病変を拡大させる可能性が示された。伝播現象は感染性タンパク粒子であるプリオンと類似性があることからプリオン様伝播とも表現される<ref name=Hasegawa2017><pubmed>28539529</pubmed></ref> 。疫学および病理学的検討から、αシヌクレイン病理は消化管粘膜や心臓交感神経など末梢神経系に出現し、一定の年月を経て中枢神経系に移行する可能性が指摘されている<ref name=Van Den Berge2019><pubmed>31254094</pubmed></ref><ref name=Borghammer2019><pubmed>31498132</pubmed></ref> 。細胞間を伝播するαシヌクレインは、ワクチン・抗体療法などの治療標的としても注目されている<ref name=Castonguay2020><pubmed>33104039</pubmed></ref> 。 | |||
== 関連語 == | == 関連語 == |