「近赤外線スペクトロスコピー」の版間の差分

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 時間分解計測法(time-resolved spectroscopy、TRS)では、ピコ秒オーダーの極短パルス光を生体に照射し、照射部位から数センチメートル離れた体表に現れた光を時間分解計測することによって、時間に対する検出光の強度分布(検出された[[wikipedia:JA:光子|光子]]数の時間プロファイル)をもとめる(図3)。比較的直進に近い状態で生体内を透過した光子は早い時間成分になり、散乱を強く受けた光子は遅い時間成分になる。つまり、図3は光子の飛行時間分布で、ここから平均飛行時間(t<sub>m</sub>:時間プロファイルの重心に対応する時間)が決まり、生体内における光速をt<sub>m</sub>で乗ずることによって平均総光路長を求めることができる。また、この時間プロファイルに生体における光伝搬モデルとしてしばしば用いられる光拡散方程式の解析解から得られた検出光強度分布をカーブフィッティングして吸収係数を決定し、吸収係数からHb濃度を算出することができる。このようにして求めたHb濃度は、CW計測に比べてより選択的に脳内Hb濃度変化を計測することができる。しかし、この方法を用いても脳外組織の影響を完全に取り除くことはできない。
 時間分解計測法(time-resolved spectroscopy、TRS)では、ピコ秒オーダーの極短パルス光を生体に照射し、照射部位から数センチメートル離れた体表に現れた光を時間分解計測することによって、時間に対する検出光の強度分布(検出された[[wikipedia:JA:光子|光子]]数の時間プロファイル)をもとめる(図3)。比較的直進に近い状態で生体内を透過した光子は早い時間成分になり、散乱を強く受けた光子は遅い時間成分になる。つまり、図3は光子の飛行時間分布で、ここから平均飛行時間(t<sub>m</sub>:時間プロファイルの重心に対応する時間)が決まり、生体内における光速をt<sub>m</sub>で乗ずることによって平均総光路長を求めることができる。また、この時間プロファイルに生体における光伝搬モデルとしてしばしば用いられる光拡散方程式の解析解から得られた検出光強度分布をカーブフィッティングして吸収係数を決定し、吸収係数からHb濃度を算出することができる。このようにして求めたHb濃度は、CW計測に比べてより選択的に脳内Hb濃度変化を計測することができる。しかし、この方法を用いても脳外組織の影響を完全に取り除くことはできない。


=== 拡散光トモグラフィ(Diffuse optical tomography、 DOT)<ref name=ref12><pubmed>18163810</pubmed></ref> ===  
=== 拡散光トモグラフィ===  


 NIRSの最大の課題である選択的・定量的脳内Hb濃度計測に対して、最も有望視されているのがDOTである。DOTは光CTとも呼ばれ、多チャンネル装置を用いて複数の領域を計測し、光の生体伝播現象を記述する光拡散方程式あるいは輻射輸送方程式に基づいて順問題・逆問題を解いて、脳内Hb濃度などの分布を[[wikipedia:ja:トモグラフィー|断層]]画像として示す技術である。CWやPRSを用いるDOTも開発されているが、逆問題を解くために必要な情報をより多く与えるTRSがDOTには適しており、Hb以外にもcyt. ox.など生理機能指標候補物質の濃度分布を示す断層画像の取得を目指した研究が進められている。
 NIRSの最大の課題である選択的・定量的脳内Hb濃度計測に対して、最も有望視されているのが拡散光トモグラフィ(Diffuse optical tomography、DOT)<ref name=ref12><pubmed>18163810</pubmed></ref> である。DOTは光CTとも呼ばれ、多チャンネル装置を用いて複数の領域を計測し、光の生体伝播現象を記述する光拡散方程式あるいは輻射輸送方程式に基づいて順問題・逆問題を解いて、脳内Hb濃度などの分布を[[wikipedia:ja:トモグラフィー|断層]]画像として示す技術である。CWやPRSを用いるDOTも開発されているが、逆問題を解くために必要な情報をより多く与えるTRSがDOTには適しており、Hb以外にもcyt. ox.など生理機能指標候補物質の濃度分布を示す断層画像の取得を目指した研究が進められている。


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==

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