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=== 種類 ===
=== 種類 ===
 本邦にて臨床で汎用されるオピオイドにはモルヒネ、[[オキシコドン]]、[[フェンタニル]]、[[レミフェンタニル]]、[[ヒドロモルフォン]]、[[メサドン]]、[[トラマドール]](非麻薬)、[[タペンタドール]]、[[コデイン]]、[[ペンタゾシン]] (非麻薬)、[[ブプレノルフィン]] (非麻薬)などがある ('''図2''')。
 本邦にて臨床で汎用されるオピオイドにはモルヒネ、[[オキシコドン]]、[[フェンタニル]]、[[レミフェンタニル]]、[[ヒドロモルフォン]]、[[メサドン]]、[[トラマドール]](非麻薬)、[[タペンタドール]]、[[コデイン]]、[[ペンタゾシン]] (非麻薬)、[[ブプレノルフィン]] (非麻薬)などがある ('''図2''')。μ、δおよびκの3つのタイプのオピオイド受容体に対する親和性および鎮痛効果 (potency) は個々の薬物によって異なる ('''表''')。
[[Image:麻薬2.png|thumb|350px|'''図2.代表的な医療用麻薬の化学構造式''']]  
[[Image:麻薬2.png|thumb|350px|'''図2.代表的な医療用麻薬の化学構造式''']]  
==== モルヒネ ====
 モルヒネは数ある強オピオイドのなかでもっとも歴史が古く、もっとも研究されている薬物で、すべてのオピオイドの原点であり基本となる。剤形も多く、内服薬、坐剤、注射薬があり投与経路の変更なども同一薬剤で行いやすい。このモルヒネがあへんに代わって広く使われるようになったのは20世紀に入ってからであるが、依存性の問題などから長い間「危険な薬」として考えられてきた。
 しかし、1986年に[[wj:世界保健機関|世界保健機関]] ([[wj:世界保健機関|WHO]])ががん疼痛治療の成績向上を目指して作成されたモルヒネを主軸とした「[[WHO方式がん疼痛治療法]]」を普及するために、「がんの痛みからの解放」の第1版を発表した。そのため、モルヒネはがんの痛みに積極的に使用すべき有効でかつ、安全な医薬品であると提唱された。臨床において広く使われるようになった一方で、眠気や便秘、悪心・嘔吐などの副作用が臨床上問題となっている。
==== オキシコドン ====
 オキシコドンは、あへんに含まれるアルカロイドの[[テバイン]]から合成される半合成テバイン誘導体であり、強オピオイドに分類される。体内に入ると代謝酵素である[[wj:CYP2D6|CYP2D6]]により[[オキシモルフォン]]へ、[[wj:CYP3A4|CYP3A4]]により[[ノルオキシコドン]](非活性)へとそれぞれ代謝される。オキシモルフォンは活性代謝産物であり、その鎮痛効果はオキシコドンより強力であるが、AUC(<u>編集部コメント:略号の解説をお願いします</u>)はオキシコドンの約1%程度と低いため、臨床上問題とはならない。また、ノルオキシコドンは薬理活性がほとんどない。したがってオキシコドンの代謝物の影響はほとんどないと考えられる。薬理学的評価における臨床所見はオキシコドンの血中濃度と相関し、鎮痛作用はオキシコドンそのものによってもたらされる<ref name="ref10"><pubmed>1982347</pubmed></ref> (Ref. 10)。
==== フェンタニル ====
 フェンタニルは1959年にモルヒネ系薬物とは化学構造の異なる[[4-アニリドピペリジン]] ([[4-anilidopiperidine]])系鎮痛薬として合成された合成麻薬であり、強オピオイドである。フェンタニルの効果は、モルヒネまたはペチジンと比較すると極めて強力な鎮痛作用を有する。また、フェンタニルの安全域はモルヒネやペチジンに比べて大きいのも特徴である。静脈内投与した場合、フェンタニルの鎮痛作用はモルヒネの約50~100 倍である。
 また、フェンタニルは、経皮、皮下、口腔粘膜、静脈内、[[硬膜]]外、[[くも膜下腔]]内と多くの投与経路を持つ。 静脈内投与したフェンタニルが最大鎮痛効果に達する時間は約5分とモルヒネや他のオピオイドと比較して速効性がある。脂溶性が高く比較的分子量が小さいため、皮膚吸収が良好であり、貼付剤としても頻用されている。フェンタニルは肝臓でCYP3A4によってN-脱アルキル化と水酸化によって代謝を受け、ほとんど薬理学的活性のない代謝産物[[ノルフェンタニル]]となり、大部分が尿中に排泄される。活性代謝産物がほとんどないため、腎機能の悪化した患者でも蓄積作用による悪影響を及ぼしにくいとされている。
==== レミフェンタニル ====
 レミフェンタニルは、超短時間作用型の合成オピオイドであり、フェンタニルと同様、&mu;-オピオイド受容体に対する選択性が非常に高い。作用発現時間が数分と非常に速くかつ非特異的[[エステラーゼ]]により速やかに代謝されるため血中半減期も 3〜10 分と非常に短い。長時間投与後の蓄積性がなく、持続静注が可能なため、術中および術後鎮痛の目的で使用される。
==== ヒドロモルフォン ====
 ヒドロモルフォンは、日本では、2017 年に経口の徐放製剤および即放製剤が、2018 年に注射製剤が承認されたが、海外においては昔から販売されている麻薬性鎮痛剤であり、WHO のがん疼痛治療のためのガイドライン等において疼痛管理の標準薬に位置付けられている。化学構造的にはモルヒネとわずかに異なる構造を持つが、モルヒネよりも強力な効果を示し、従来のオピオイドとは異なる。また、ヒドロモルフォンは主に[[wj:グルクロン酸抱合|グルクロン酸抱合]]により[[ヒドロモルフォン-3-グルクロニド]]に代謝されるが、この代謝物は活性が非常に低いため腎臓への影響が少なく、腎機能が低下した患者でも使用できる。
==== メサドン ====
 メサドンは、合成[[ジフェニルヘプタン]]誘導体の強オピオイドであり、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル等の強オピオイドでは治療困難な疼痛を伴う各種がん疼痛患者に対して使用が可能となっている。また、[[NMDA型グルタミン酸受容体]]拮抗作用、[[セロトニン]]・[[ノルアドレナリン]]再取り込み作用により[[神経障害性疼痛]]にも有用である可能性も示唆されている。一方、他のオピオイドに比べ、呼吸抑制および 心電図上[[QT延長症候群|QT延長]]の副作用が多いと考えられている。本邦においてその処方開始にあたっては、「がん疼痛の治療に精通し、メサドンのリスク等について十分な知識をもつ医師のもとで、適切と判断された症例にのみ投与されること」などのいくつかの制限が設定されている。
==== トラマドール ====
 トラマドール (非麻薬性オピオイド)自体は&mu;-オピオイド受容体に対する親和性は低いが、代謝物のモノ-O-脱メチル化体 ([[O-デスメチルトラマゾール]], M1) が高い親和性を有し、トラマドールの鎮痛作用に寄与している。こうした背景から、トラマドールは、非麻薬性のオピオイドに分類される。また、セロトニンおよびノルアドレナリン再取り込み阻害作用を併せ持つため、その相乗効果により鎮痛作用を発揮すると考えられている。トラマドール自体は精神依存ならびに鎮痛耐性を形成しにくく、セロトニンおよびノルアドレナリン再取り込み阻害作用も有することから、非がん性の慢性疼痛やオピオイド抵抗性を示すような神経障害性疼痛への有効性も期待されている。
==== タペンタドール ====
 タペンタドールは、トラマドールの&mu;-オピオイド受容体活性とノルアドレナリン再取り込み阻害作用を持ち合わせ、セロトニン再取り込み阻害作用はほとんど有さない強オピオイド鎮痛薬である。μオピオイド受容体作動活性は他の強オピオイドに比べやや弱いものの、ノルアドレナリン再取り込み阻害作用を併せ持つため、侵害受容性疼痛だけでなく、神経障害性疼痛への効果も期待されている。
 さらに、モルヒネやオキシコドンに比べて便秘、悪心・嘔吐などの消化器症状の副作用が少ないことが報告されている。また、タペンタドールは、主に肝臓でグルクロン酸抱合により非活性代謝物に代謝された後にほとんどが排泄されることから、腎障害時においてもモルヒネ、オキシコドン、トラマドールと比べて安全に使用できる上に、シトクロムP450 (CYP)による代謝をほとんど受けないため薬物相互作用が少ない。
==== コデイン ====
 コデイン自体の&mu;-オピオイド受容体に対する親和性はモルヒネに比べて低く、約10%が肝臓でCYP2D6により O-脱メチル化されてモルヒネとなることで鎮痛作用を発揮する。一方、コデインは強力な鎮咳作用を有するため中枢性鎮咳薬としてもよく用いられる。


==== ペンタゾシン ====
 ペンタゾシン (麻薬拮抗性鎮痛薬; µオピオイド受容体[[部分作動薬]]、非麻薬であり第2種向精神薬)は κオピオイド受容体に対しては[[作動薬]]として作用すると考えられているが、µオピオイド受容体に対しては部分作動薬として作用するため、麻薬拮抗性鎮痛薬とも呼ばれる。その鎮痛作用は、主に µオピオイド受容体を介して発現するが、一部は κオピオイド受容体も介している可能性がある。µオピオイド受容体に対しての部分作動薬としての性質から、鎮痛作用においては有効限界 (天井効果) を有し、また、モルヒネなどの完全作動薬からの切り替え時に退薬症候を誘発する可能性がある。
==== ブプレノルフィン ====
 ププレノルフィン(麻薬拮抗性鎮痛薬; µオピオイド受容体部分作動薬、非麻薬であり第2種向精神薬)は、μオピオイド受容体に対してほぼ不可逆的に結合性を有する部分作動薬であり、κオピオイド受容体に対しても部分作動薬として作用するため、麻薬拮抗性鎮痛薬とも呼ばれる。低用量から強い鎮痛効力を持つが、[[天井効果]]を有する。両オピオイド受容体に対して高親和性を有し、受容体からの解離が遅いため、長時間の作用を示す。注射剤および坐剤、テープ剤が用いられる。
=== 対象疾患 ===
 手術中の痛み、術後痛、外傷痛、がん疼痛、神経障害性疼痛などに見られる、長期間続く慢性痛に対して鎮痛薬として用いられている。
=== 鎮痛効果発現機序 ===
 μオピオイド受容体、δオピオイド受容体およびκオピオイド受容体は、すべて[[GTP結合タンパク質]]([[Gタンパク質]])と共役する[[7回膜貫通型受容体]]([[GPCR]])である。これらオピオイド受容体タイプ間の相同性は高く(全体で約60%)、特に細胞膜貫通領域では非常に高い。いずれの受容体も基本的に[[Gi]]/[[Goタンパク質|o]]タンパク質と共役しており、オピオイド受容体の活性化後、さまざまな[[細胞内情報伝達系]]が影響を受け、[[神経伝達物質]]の遊離や[[神経細胞体]]の[[興奮性]]が低下するために神経細胞の活動が抑制される。
 μ、δおよびκの3つのタイプのオピオイド受容体に対する親和性および鎮痛効果 (potency) は個々の薬物によって異なる ('''表''')。これらの中で鎮痛作用に関して最も重要な役割を果たすのが µオピオイド受容体である。μオピオイド受容体を介する鎮痛効果発現機序には下記の3つの経路が知られている('''図3''')。
[[Image:麻薬3.png|thumb|500px|'''図3.オピオイドによる鎮痛作用部位''']]
{| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1"
{| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1"
|+'''表.オピオイド受容体に対するpotency'''
|+'''表.オピオイド受容体に対するpotency'''
187行目: 140行目:
+++: 強 agonist、 ++: 弱 agonist、 +: 部分 agonist ( ) 可能性<br>
+++: 強 agonist、 ++: 弱 agonist、 +: 部分 agonist ( ) 可能性<br>
SSRI: [[選択的セロトニン再取り込み阻害薬]]、SNRI: [[セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬]]
SSRI: [[選択的セロトニン再取り込み阻害薬]]、SNRI: [[セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬]]
==== モルヒネ ====
 モルヒネは数ある強オピオイドのなかでもっとも歴史が古く、もっとも研究されている薬物で、すべてのオピオイドの原点であり基本となる。剤形も多く、内服薬、坐剤、注射薬があり投与経路の変更なども同一薬剤で行いやすい。このモルヒネがあへんに代わって広く使われるようになったのは20世紀に入ってからであるが、依存性の問題などから長い間「危険な薬」として考えられてきた。
 しかし、1986年に[[wj:世界保健機関|世界保健機関]] ([[wj:世界保健機関|WHO]])ががん疼痛治療の成績向上を目指して作成されたモルヒネを主軸とした「[[WHO方式がん疼痛治療法]]」を普及するために、「がんの痛みからの解放」の第1版を発表した。そのため、モルヒネはがんの痛みに積極的に使用すべき有効でかつ、安全な医薬品であると提唱された。臨床において広く使われるようになった一方で、眠気や便秘、悪心・嘔吐などの副作用が臨床上問題となっている。
==== オキシコドン ====
 オキシコドンは、あへんに含まれるアルカロイドの[[テバイン]]から合成される半合成テバイン誘導体であり、強オピオイドに分類される。体内に入ると代謝酵素である[[wj:CYP2D6|CYP2D6]]により[[オキシモルフォン]]へ、[[wj:CYP3A4|CYP3A4]]により[[ノルオキシコドン]](非活性)へとそれぞれ代謝される。オキシモルフォンは活性代謝産物であり、その鎮痛効果はオキシコドンより強力であるが、AUC(<u>編集部コメント:略号の解説をお願いします</u>)はオキシコドンの約1%程度と低いため、臨床上問題とはならない。また、ノルオキシコドンは薬理活性がほとんどない。したがってオキシコドンの代謝物の影響はほとんどないと考えられる。薬理学的評価における臨床所見はオキシコドンの血中濃度と相関し、鎮痛作用はオキシコドンそのものによってもたらされる<ref name="ref10"><pubmed>1982347</pubmed></ref> (Ref. 10)。
==== フェンタニル ====
 フェンタニルは1959年にモルヒネ系薬物とは化学構造の異なる[[4-アニリドピペリジン]] ([[4-anilidopiperidine]])系鎮痛薬として合成された合成麻薬であり、強オピオイドである。フェンタニルの効果は、モルヒネまたはペチジンと比較すると極めて強力な鎮痛作用を有する。また、フェンタニルの安全域はモルヒネやペチジンに比べて大きいのも特徴である。静脈内投与した場合、フェンタニルの鎮痛作用はモルヒネの約50~100 倍である。
 また、フェンタニルは、経皮、皮下、口腔粘膜、静脈内、[[硬膜]]外、[[くも膜下腔]]内と多くの投与経路を持つ。 静脈内投与したフェンタニルが最大鎮痛効果に達する時間は約5分とモルヒネや他のオピオイドと比較して速効性がある。脂溶性が高く比較的分子量が小さいため、皮膚吸収が良好であり、貼付剤としても頻用されている。フェンタニルは肝臓でCYP3A4によってN-脱アルキル化と水酸化によって代謝を受け、ほとんど薬理学的活性のない代謝産物[[ノルフェンタニル]]となり、大部分が尿中に排泄される。活性代謝産物がほとんどないため、腎機能の悪化した患者でも蓄積作用による悪影響を及ぼしにくいとされている。
==== レミフェンタニル ====
 レミフェンタニルは、超短時間作用型の合成オピオイドであり、フェンタニルと同様、&mu;-オピオイド受容体に対する選択性が非常に高い。作用発現時間が数分と非常に速くかつ非特異的[[エステラーゼ]]により速やかに代謝されるため血中半減期も 3〜10 分と非常に短い。長時間投与後の蓄積性がなく、持続静注が可能なため、術中および術後鎮痛の目的で使用される。
==== ヒドロモルフォン ====
 ヒドロモルフォンは、日本では、2017 年に経口の徐放製剤および即放製剤が、2018 年に注射製剤が承認されたが、海外においては昔から販売されている麻薬性鎮痛剤であり、WHO のがん疼痛治療のためのガイドライン等において疼痛管理の標準薬に位置付けられている。化学構造的にはモルヒネとわずかに異なる構造を持つが、モルヒネよりも強力な効果を示し、従来のオピオイドとは異なる。また、ヒドロモルフォンは主に[[wj:グルクロン酸抱合|グルクロン酸抱合]]により[[ヒドロモルフォン-3-グルクロニド]]に代謝されるが、この代謝物は活性が非常に低いため腎臓への影響が少なく、腎機能が低下した患者でも使用できる。
==== メサドン ====
 メサドンは、合成[[ジフェニルヘプタン]]誘導体の強オピオイドであり、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル等の強オピオイドでは治療困難な疼痛を伴う各種がん疼痛患者に対して使用が可能となっている。また、[[NMDA型グルタミン酸受容体]]拮抗作用、[[セロトニン]]・[[ノルアドレナリン]]再取り込み作用により[[神経障害性疼痛]]にも有用である可能性も示唆されている。一方、他のオピオイドに比べ、呼吸抑制および 心電図上[[QT延長症候群|QT延長]]の副作用が多いと考えられている。本邦においてその処方開始にあたっては、「がん疼痛の治療に精通し、メサドンのリスク等について十分な知識をもつ医師のもとで、適切と判断された症例にのみ投与されること」などのいくつかの制限が設定されている。
==== トラマドール ====
 トラマドール (非麻薬性オピオイド)自体は&mu;-オピオイド受容体に対する親和性は低いが、代謝物のモノ-O-脱メチル化体 ([[O-デスメチルトラマゾール]], M1) が高い親和性を有し、トラマドールの鎮痛作用に寄与している。こうした背景から、トラマドールは、非麻薬性のオピオイドに分類される。また、セロトニンおよびノルアドレナリン再取り込み阻害作用を併せ持つため、その相乗効果により鎮痛作用を発揮すると考えられている。トラマドール自体は精神依存ならびに鎮痛耐性を形成しにくく、セロトニンおよびノルアドレナリン再取り込み阻害作用も有することから、非がん性の慢性疼痛やオピオイド抵抗性を示すような神経障害性疼痛への有効性も期待されている。
==== タペンタドール ====
 タペンタドールは、トラマドールの&mu;-オピオイド受容体活性とノルアドレナリン再取り込み阻害作用を持ち合わせ、セロトニン再取り込み阻害作用はほとんど有さない強オピオイド鎮痛薬である。μオピオイド受容体作動活性は他の強オピオイドに比べやや弱いものの、ノルアドレナリン再取り込み阻害作用を併せ持つため、侵害受容性疼痛だけでなく、神経障害性疼痛への効果も期待されている。
 さらに、モルヒネやオキシコドンに比べて便秘、悪心・嘔吐などの消化器症状の副作用が少ないことが報告されている。また、タペンタドールは、主に肝臓でグルクロン酸抱合により非活性代謝物に代謝された後にほとんどが排泄されることから、腎障害時においてもモルヒネ、オキシコドン、トラマドールと比べて安全に使用できる上に、シトクロムP450 (CYP)による代謝をほとんど受けないため薬物相互作用が少ない。
==== コデイン ====
 コデイン自体の&mu;-オピオイド受容体に対する親和性はモルヒネに比べて低く、約10%が肝臓でCYP2D6により O-脱メチル化されてモルヒネとなることで鎮痛作用を発揮する。一方、コデインは強力な鎮咳作用を有するため中枢性鎮咳薬としてもよく用いられる。
==== ペンタゾシン ====
 ペンタゾシン (麻薬拮抗性鎮痛薬; µオピオイド受容体[[部分作動薬]]、非麻薬であり第2種向精神薬)は κオピオイド受容体に対しては[[作動薬]]として作用すると考えられているが、µオピオイド受容体に対しては部分作動薬として作用するため、麻薬拮抗性鎮痛薬とも呼ばれる。その鎮痛作用は、主に µオピオイド受容体を介して発現するが、一部は κオピオイド受容体も介している可能性がある。µオピオイド受容体に対しての部分作動薬としての性質から、鎮痛作用においては有効限界 (天井効果) を有し、また、モルヒネなどの完全作動薬からの切り替え時に退薬症候を誘発する可能性がある。
==== ブプレノルフィン ====
 ププレノルフィン(麻薬拮抗性鎮痛薬; µオピオイド受容体部分作動薬、非麻薬であり第2種向精神薬)は、μオピオイド受容体に対してほぼ不可逆的に結合性を有する部分作動薬であり、κオピオイド受容体に対しても部分作動薬として作用するため、麻薬拮抗性鎮痛薬とも呼ばれる。低用量から強い鎮痛効力を持つが、[[天井効果]]を有する。両オピオイド受容体に対して高親和性を有し、受容体からの解離が遅いため、長時間の作用を示す。注射剤および坐剤、テープ剤が用いられる。
=== 対象疾患 ===
 手術中の痛み、術後痛、外傷痛、がん疼痛、神経障害性疼痛などに見られる、長期間続く慢性痛に対して鎮痛薬として用いられている。
=== 鎮痛効果発現機序 ===
[[Image:麻薬3.png|thumb|500px|'''図3.オピオイドによる鎮痛作用部位''']]
 μオピオイド受容体、δオピオイド受容体およびκオピオイド受容体は、すべて[[GTP結合タンパク質]]([[Gタンパク質]])と共役する[[7回膜貫通型受容体]]([[GPCR]])である。これらオピオイド受容体タイプ間の相同性は高く(全体で約60%)、特に細胞膜貫通領域では非常に高い。いずれの受容体も基本的に[[Gi]]/[[Goタンパク質|o]]タンパク質と共役しており、オピオイド受容体の活性化後、さまざまな[[細胞内情報伝達系]]が影響を受け、[[神経伝達物質]]の遊離や[[神経細胞体]]の[[興奮性]]が低下するために神経細胞の活動が抑制される。


 これらの中で鎮痛作用に関して最も重要な役割を果たすのが µオピオイド受容体である。μオピオイド受容体を介する鎮痛効果発現機序には下記の3つの経路が知られている('''図3''')。


==== 一次知覚神経からの痛覚伝達の抑制 ====
==== 一次知覚神経からの痛覚伝達の抑制 ====

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