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{{box|text= オートファジーは主要な細胞内分解機構の一つであり、細胞質成分をリソソーム に輸送し分解する現象である。酵母遺伝学を用いた解析からオートファジー関連分子(Atg分子)が同定されたことで、近年、分子機構の解明が急速に進み、その全貌が明らかになりつつある。元来、オートファジーは非選択的な分解機構だと考えられていたが、ミトコンドリア・リソソーム・小胞体などのオルガネラ、細胞内細菌、p62タンパク質 (sequestosome 1 (SQSTM1))などを、選択的に分解していることが分かってきている。オートファジーの最も基本的な生理的役割として、栄養飢餓におけるアミノ酸供給があげられるが、その他にも、細胞内タンパク質やオルガネラの品質管理、細胞内侵入細菌の分解、発生・分化にお ける細胞内再構築、抗原提示などが知られている。また、病理的観点からも、神経変性疾患やがん、炎症とオートファジーの関連が注目されている。}} | {{box|text= オートファジーは主要な細胞内分解機構の一つであり、細胞質成分をリソソーム に輸送し分解する現象である。酵母遺伝学を用いた解析からオートファジー関連分子(Atg分子)が同定されたことで、近年、分子機構の解明が急速に進み、その全貌が明らかになりつつある。元来、オートファジーは非選択的な分解機構だと考えられていたが、ミトコンドリア・リソソーム・小胞体などのオルガネラ、細胞内細菌、p62タンパク質 (sequestosome 1 (SQSTM1))などを、選択的に分解していることが分かってきている。オートファジーの最も基本的な生理的役割として、栄養飢餓におけるアミノ酸供給があげられるが、その他にも、細胞内タンパク質やオルガネラの品質管理、細胞内侵入細菌の分解、発生・分化にお ける細胞内再構築、抗原提示などが知られている。また、病理的観点からも、神経変性疾患やがん、炎症とオートファジーの関連が注目されている。}} | ||
[[Image:Autophagy Fig1.jpg|thumb|500px|'''図1. オートファジーの過程'''<br>飢餓などによりオートファジーが誘導されると、細胞質に出現した隔離膜が伸張し、細胞質のタンパク質やミトコンドリアを含みながら閉鎖することでオートファゴソームが形成される。オートファゴソームの外膜とリソソームが融合し、オートファゴソームの内膜と取り囲まれた細胞質成分が分解される。オートファジーが生じると、主要な産物として、細胞内タンパク質由来のアミノ酸が供給される。]] | |||
[[Image:Autophagy Fig2.jpg|thumb|500px|'''図2. オートファジーの分子機構'''<br>栄養条件下において, オートファジーは[[Mammalian_target_of_rapamycin|mTORC1]]による負の制御を受けている。飢餓条件下では、このmTORC1による抑制が解除されることにより、ULK複合体が活性化して、小胞体膜上に局在化する。その次に、[[ホスファチジルイノシトール#.E3.83.9B.E3.82.B9.E3.83.95.E3.82.A1.E3.83.81.E3.82.B8.E3.83.AB.E3.82.A4.E3.83.8E.E3.82.B7.E3.83.88.E3.83.BC.E3.83.AB3.E3.82.AD.E3.83.8A.E3.83.BC.E3.82.BC.E3.81.A8PI3.E3.82.AD.E3.83.8A.E3.83.BC.E3.82.BC.E3.82.B7.E3.82.B0.E3.83.8A.E3.83.AB.E4.BC.9D.E9.81.94.E7.B5.8C.E8.B7.AF|クラスIII PI3キナーゼ]](phosphatidylinositol 3-kinase)複合体が小胞体膜上へ局在化し、[[ホスファチジルイノシトール#PI.283.29P|ホスファチジルイノシトール-3-一リン酸]] (phosphatidylinositol 3-phosphate, PI(3)P)を産生することで、下流で機能するPI(3)P結合タンパク質のオートファゴソーム形成起点への局在化を促す。その後、[[w:ATG12|Atg12]]–[[w:ATG5|Atg5]]-[[w:ATG16L1|Atg16L1]]、[[w:MAP1LC3A|LC3]]–[[wj:ホスファチジルエタノールアミン|ホスファチジルエタノールアミン]] (PE)が[[隔離]]膜上に局在化して隔離膜の伸長が促進され、最終的にオートファゴソームが形成される。[[w:Sequestosome_1|p62]] (sequestosome 1; SQSTM1)などの選択的基質はLC3 結合ドメイン(LIR motif)と[[ユビキチン]]結合(UBA)ドメインを有するため、ユビキチン(Ub)化された凝集体やミトコンドリアなどと結合し、オートファゴソームによる分解を促すユビキチン受容体として機能する。mTORC1, mammalian target of rapamycin (mTOR) complex 1; LC3, microtubule-associated protein light chain 3; ULK, UNC-51-like kinase; WIPI, WD repeat protein interacting with phosphoinoside]] | |||
==オートファジーとは== | ==オートファジーとは== | ||
オートファジーは主要な細胞内分解機構の一つであり、細胞質成分をリソソームに輸送し分解する現象である<ref name="ref1"><pubmed> 22078875 </pubmed></ref><ref name="ref2"><pubmed> 21801009 </pubmed></ref> | オートファジーは主要な細胞内分解機構の一つであり、細胞質成分をリソソームに輸送し分解する現象である<ref name="ref1"><pubmed> 22078875 </pubmed></ref><ref name="ref2"><pubmed> 21801009 </pubmed></ref>。オートファジーのメカニズムの発見に対して、2016年[[wj:大隅良典|大隅良典]]博士にノーベル生理学・医学賞が授与された。 | ||
マクロオートファジー、シャペロン介在性オートファジー、マイクロオートファジーの3タイプが報告されている。単に「オートファジー」という場合は、主にマクロオートファジーのことを指す。 | |||
===マクロオートファジー=== | ===マクロオートファジー=== | ||
まず細胞質中に隔離膜( | まず細胞質中に隔離膜(isolation membrane/phagophore)が出現する。この隔離膜が細胞質成分を取り囲み、二重膜の[[オートファゴソーム]]([[autophagosome]])を形成する。その後、オートファゴソームはリソソームと融合し、オートファゴソームの内膜と隔離した細胞質成分はリソソーム由来の酵素により分解され、一重膜のオートリソソームとなる('''図1''')。この一連の過程により産生された[[wj:アミノ酸|アミノ酸]]などの分解産物は、[[wj:タンパク質合成|タンパク質合成]]などに再利用される<ref name="ref1" /><ref name="ref2" />。元来、オートファジーは非選択的な分解機構だと考えられていたが、近年、[[ミトコンドリア]](マイトファジー)や[[wj:ペルオキシソーム|ペルオキシソーム]](ペキソファジー)などの[[wj:オルガネラ|オルガネラ]]、細胞内[[wj:細菌|細菌]](ゼノファジー)、[[w:Sequestosome_1|p62]]タンパク質(sequestosome 1 (SQSTM1))などを、選択的に分解していることが明らかになってきている<ref name="ref3"><pubmed> 20811356 </pubmed></ref>。 | ||
===シャペロン介在性オートファジー=== | ===シャペロン介在性オートファジー=== |