「性行動の神経回路」の版間の差分

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== ペプチドホルモンと性行動~GnRHを例として~ ==
== ペプチドホルモンと性行動~GnRHを例として~ ==
[[image:性行動の神経回路3.png|thumb|300px|'''図5.3つのGnRH系の電気生理学的特徴と形態学的特徴およびGnRHのアミノ酸配列'''<br>ここに示すシクリッドの一種ドワーフグーラミーにおいては、進化の過程において3つのGnRHパラログがすべて保存されており、それぞれ異なるニューロン群がそれらのパラログ遺伝子を発現し(赤丸;産物のアミノ酸配列の違いにも注目)、機能も異なっている(GnRH2とGnRH3は脳内で神経修飾作用、GnRH1は脳下垂体Pitに軸索投射をして下垂体の生殖腺刺激ホルモンの放出を促進する)。また、それらは、異なる電気生理学的特徴(電気活動のトレースは自発的活動電位発火パターンを示す;神経修飾作用をもつGnRH2とGnRH3では規則的ペースメーカー活動、神経分泌作用をもつGnRH1は不規則な活動)と軸索投射パターン(GnRH2とGnRH3では脳内への広範な軸索投射、GnRH1では脳下垂体への軸索投射)を示すことがわかっている<ref name=Karigo2013 />。<br>文献<ref name=ref8><pubmed> 7636018 </pubmed></ref><ref name=Karigo2013 /><ref name=Yamamoto1995><pubmed>7636018</pubmed></ref>より改変]]
[[image:性行動の神経回路3.png|thumb|300px|'''図5.3つのGnRH系の電気生理学的特徴と形態学的特徴およびGnRHのアミノ酸配列'''<br>ここに示すシクリッドの一種ドワーフグーラミーにおいては、進化の過程において3つのGnRHパラログがすべて保存されており、それぞれ異なるニューロン群がそれらのパラログ遺伝子を発現し(赤丸;産物のアミノ酸配列の違いにも注目)、機能も異なっている(GnRH2とGnRH3は脳内で神経修飾作用、GnRH1は脳下垂体Pitに軸索投射をして下垂体の生殖腺刺激ホルモンの放出を促進する)。また、それらは、異なる電気生理学的特徴(電気活動のトレースは自発的活動電位発火パターンを示す;神経修飾作用をもつGnRH2とGnRH3では規則的ペースメーカー活動、神経分泌作用をもつGnRH1は不規則な活動)と軸索投射パターン(GnRH2とGnRH3では脳内への広範な軸索投射、GnRH1では脳下垂体への軸索投射)を示すことがわかっている<ref name=Karigo2013 />。<br>文献<ref name=Satou1984><pubmed> 6393162 </pubmed></ref><ref name=Karigo2013 /><ref name=Yamamoto1995><pubmed>7636018</pubmed></ref>より改変]]


 脳内の代表的なペプチドホルモンとして、視床下部ニューロンで産生され、脳底の[[正中隆起]]とよばれる部位の[[脳下垂体門脈]]血中に放出され、[[脳下垂体前葉]]に運ばれて[[脳下垂体ホルモン]]放出を促進・抑制する、いわゆる[[向下垂体ホルモン]](hypophysiotropic hormone)とよばれる一群のホルモンがある。
 脳内の代表的なペプチドホルモンとして、視床下部ニューロンで産生され、脳底の[[正中隆起]]とよばれる部位の[[脳下垂体門脈]]血中に放出され、[[脳下垂体前葉]]に運ばれて[[脳下垂体ホルモン]]放出を促進・抑制する、いわゆる[[向下垂体ホルモン]](hypophysiotropic hormone)とよばれる一群のホルモンがある。
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 この中で、性行動の神経回路と最も深い関わりを持つのが3)の終神経GnRH3ニューロンである。Okaらは図5に示すドワーフグーラミーやGFPトランスジェニックメダカを用いてこれらのニューロンの形態学的・電気生理学的特徴の解析を行うと同時に、これらのニューロンの細胞塊を破壊した熱帯魚の行動学的解析を行い、これらのニューロンが作るGnRH3ペプチドが、脳内に極めて広く張り巡らされた軸索から放出されて引き起こされる神経修飾作用が、熱帯魚の性行動レパートリーの一つである巣作り行動などの行動の動機付けを調節している、と言う説を提唱している<ref name=Karigo2013><pubmed> 24312079 </pubmed></ref><ref name=Yamamoto1997><pubmed>9208402</pubmed></ref>。最近、遺伝子改変メダカを用いた行動学的実験や電気生理学的実験を組み合わせた研究により、この作業仮説を支持するような実験結果が得られ、今後のさらなる研究が期待されている<ref><pubmed> 24385628 </pubmed></ref>。GnRH2とGnRH3は視床下部外GnRH系とも呼ばれるが、それらの機能については、文献を参照のこと<ref name=Umatani2019><pubmed>31367467</pubmed></ref>。ラットやウシガエルの交感神経節には、これらのGnRHの一部が投射していて、後期の遅いシナプス後電位(late slow synaptic potential)を発生させている、ということが知られており、同様の神経修飾作用が脳内でもはたらいているのではないかと考えられる。
 この中で、性行動の神経回路と最も深い関わりを持つのが3)の終神経GnRH3ニューロンである。Okaらは図5に示すドワーフグーラミーやGFPトランスジェニックメダカを用いてこれらのニューロンの形態学的・電気生理学的特徴の解析を行うと同時に、これらのニューロンの細胞塊を破壊した熱帯魚の行動学的解析を行い、これらのニューロンが作るGnRH3ペプチドが、脳内に極めて広く張り巡らされた軸索から放出されて引き起こされる神経修飾作用が、熱帯魚の性行動レパートリーの一つである巣作り行動などの行動の動機付けを調節している、と言う説を提唱している<ref name=Karigo2013><pubmed> 24312079 </pubmed></ref><ref name=Yamamoto1997><pubmed>9208402</pubmed></ref>。最近、遺伝子改変メダカを用いた行動学的実験や電気生理学的実験を組み合わせた研究により、この作業仮説を支持するような実験結果が得られ、今後のさらなる研究が期待されている<ref><pubmed> 24385628 </pubmed></ref>。GnRH2とGnRH3は視床下部外GnRH系とも呼ばれるが、それらの機能については、文献を参照のこと<ref name=Umatani2019><pubmed>31367467</pubmed></ref>。ラットやウシガエルの交感神経節には、これらのGnRHの一部が投射していて、後期の遅いシナプス後電位(late slow synaptic potential)を発生させている、ということが知られており、同様の神経修飾作用が脳内でもはたらいているのではないかと考えられる。


図6. マウスにおいて、性特異的に社会的な信号を処理して行動を引き起こすのに関与する神経回路。
[[ファイル:Oka Sexual Behavior Fig6.jpg|サムネイル|'''図6.マウスにおいて、性特異的に社会的な信号を処理して行動を引き起こすのに関与する神経回路'''<br>
(a) 性特異的な社会的信号および社会行動の制御に関わる脳部位。主に鋤鼻神経回路と神経修飾系より成る。(b) オス(青)とメス(赤)における本能的社会行動の制御神経回路。攻撃行動、性行動、および子育て行動は、それぞれ異なる視床下部神経核によって制御される。腹内側核腹外側部(VMHvl)、内側視索前野(MPOA)等は雌雄で同じような社会性行動を、メスのVMHvll(VMHvlの外側部)やAVPVは雌雄で異なる行動を、それぞれ引き起こすことが知られている。それぞれの視床下部神経核は鋤鼻神経系(扁桃体内側核、分界条床核)からの入力を受け、異なる神経修飾物質(ホルモンや神経ペプチド)によって、性特異的な調節を受ける。略語:AOB副嗅球、AVPV前腹側室周囲核、BNST分界条床核、DR背側縫線核、MeA扁桃体内側核、MPOA内側視索前野、PVN室傍核、VMHvl視床下部腹内側核腹外側部、VMHvllおよびVMHvm VMHvlの外側部と内側部、VNO鋤鼻器官、VTA腹側被蓋野
'''(a)'''性特異的な社会的信号および社会行動の制御に関わる脳部位。主に鋤鼻神経回路と神経修飾系より成る。<br>'''(b)'''オス(青)とメス(赤)における本能的社会行動の制御神経回路。攻撃行動、性行動、および子育て行動は、それぞれ異なる視床下部神経核によって制御される。腹内側核腹外側部(VMHvl)、内側視索前野(MPOA)等は雌雄で同じような社会性行動を、メスのVMHvll(VMHvlの外側部)やAVPVは雌雄で異なる行動を、それぞれ引き起こすことが知られている。それぞれの視床下部神経核は鋤鼻神経系(扁桃体内側核、分界条床核)からの入力を受け、異なる神経修飾物質(ホルモンや神経ペプチド)によって、性特異的な調節を受ける。略語:AOB副嗅球、AVPV前腹側室周囲核、BNST分界条床核、DR背側縫線核、MeA扁桃体内側核、MPOA内側視索前野、PVN室傍核、VMHvl視床下部腹内側核腹外側部、VMHvllおよびVMHvm VMHvlの外側部と内側部、VNO鋤鼻器官、VTA腹側被蓋野。文献<ref name=Li2018 />より[http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/ CC BY license]に基づき引用]]


== フェロモンと性行動 ==
== フェロモンと性行動 ==

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