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<font size="+1">[https://researchmap.jp/read_011-8088 古市 貞一]</font><br> | <font size="+1">[https://researchmap.jp/read_011-8088 古市 貞一]</font><br> | ||
''東京理科大学 理工学部 応用生物科学科''<br> | ''東京理科大学 理工学部 応用生物科学科''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2022年3月9日 原稿完成日:2022年3月17日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br> | ||
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略称:Ins(1,4,5)P<sub>3</sub>、1,4,5-IP<sub>3</sub>、InsP<sub>3</sub>、IP<sub>3</sub> <br> | 略称:Ins(1,4,5)P<sub>3</sub>、1,4,5-IP<sub>3</sub>、InsP<sub>3</sub>、IP<sub>3</sub> <br> | ||
同義語:イノシトール3リン酸<br> | 同義語:イノシトール3リン酸<br> | ||
{{box|text= イノシトール1,4,5- | {{box|text= イノシトール1,4,5-三リン酸(IP<sub>3</sub>)は、細胞内二次メッセンジャーとしてはたらく代謝化合物である。IP<sub>3</sub>は、細胞外からの一次メッセンジャーなどの刺激によってイノシトールリン脂質代謝酵素のホスホリパーゼCが活性化されることで産生される。活性化したPLCは、細胞膜の微量成分であるイノシトールリン脂質の一種のホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸の加水分解によってIP<sub>3</sub>を脂質成分から切り離して細胞質へ遊離する。シグナルとしてのIP<sub>3</sub>の標的は、IP<sub>3</sub>受容体である。IP<sub>3</sub>受容体は、IP<sub>3</sub>リガンドによって開口する細胞内Ca<sup>2+</sup>放出チャネルで、細胞内Ca<sup>2+</sup>貯蔵部位(細胞内カルシウムストア、あるいはカルシウムプール)から細胞質へCa<sup>2+</sup>放出する。IP<sub>3</sub>受容体の役割は、シグナルとしては単一の標的しかもたないIP<sub>3</sub>を受容し、次いで、多くの標的をもつ二次メッセンジャーのCa<sup>2+</sup>へとシグナルを変換することにある。このようにIP<sub>3</sub>とCa<sup>2+</sup>の2種類の二次メッセンジャーが、IP<sub>3</sub>受容体を介してシグナルを受け継ぐIP<sub>3</sub>誘導Ca<sup>2+</sup>放出は、細胞内で複雑なCa<sup>2+</sup>動態を生み出すことで下流の多種多様なCa<sup>2+</sup>標的分子の活性を正や負に調節し、発生・代謝・分泌・筋収縮・免疫・神経などの多彩な生命現象に関わる。}} | ||
==イノシトール1,4,5-三リン酸とは== | ==イノシトール1,4,5-三リン酸とは== | ||
イノシトール1,4,5-三リン酸(Ins(1,4,5)P<sub>3</sub>、InsP<sub>3</sub>/IP<sub>3</sub>の中でイノシトール環1,4,5位にリン酸基が結合した種類を定義した名称。[[#化学構造|化学構造]]を参照)が[[カルシウム|Ca<sup>2+</sup>]]動員に関わる[[二次メッセンジャー]]として機能することは、1980年代に明らかになった。 | |||
まず、細胞刺激によって、 | まず、細胞刺激によって、 | ||
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この2つの事象1.と2.がリンクしたのは、膜透過処理をした[[膵臓|膵]][[腺房細胞]]において、µM濃度のIns(1,4,5)P<sub>3</sub>で処理すると[[ミトコンドリア]]ではない[[ATP]]依存的な細胞内ストアからCa<sup>2+</sup>放出が特異的に誘導され(Ins(1,2)P<sub>2</sub>、Ins(1)P、myo-inositolでは誘導されない)、そのCa<sup>2+</sup>ストアが[[カルバコール]]で[[アセチルコリン受容体]]刺激をした際に起きるCa<sup>2+</sup>放出と同じものであることが示されたことによる<ref name=Berridge1984><pubmed>6095092</pubmed></ref><ref name=Streb1983><pubmed>6605482</pubmed></ref> 。 | この2つの事象1.と2.がリンクしたのは、膜透過処理をした[[膵臓|膵]][[腺房細胞]]において、µM濃度のIns(1,4,5)P<sub>3</sub>で処理すると[[ミトコンドリア]]ではない[[ATP]]依存的な細胞内ストアからCa<sup>2+</sup>放出が特異的に誘導され(Ins(1,2)P<sub>2</sub>、Ins(1)P、myo-inositolでは誘導されない)、そのCa<sup>2+</sup>ストアが[[カルバコール]]で[[アセチルコリン受容体]]刺激をした際に起きるCa<sup>2+</sup>放出と同じものであることが示されたことによる<ref name=Berridge1984><pubmed>6095092</pubmed></ref><ref name=Streb1983><pubmed>6605482</pubmed></ref> 。 | ||
次に、膜透過処理した[[肝臓|肝]]細胞を用いた研究において、α | 次に、膜透過処理した[[肝臓|肝]]細胞を用いた研究において、[[αアドレナリン受容体]]刺激でPIP<sub>2</sub>の[[加水分解]]が起きること、その結果遊離したIns(1,4,5)P<sub>3</sub>がATP依存的Ca<sup>2+</sup>ストアからCa<sup>2+</sup>放出を誘導すること、そして[[小胞体]]がそのCa<sup>2+</sup>ストアとしてはたらくことが示された<ref name=Burgess1984><pubmed>6325926</pubmed></ref> 。あわせて、多くの細胞や組織が、様々な細胞外刺激によってPIP<sub>2</sub>を加水分解しイノシトール1,4,5-三リン酸(Ins(1,4,5)P<sub>3</sub>)を産生するはたらきをもつことが明らかにされていった<ref name=Berridge1984><pubmed>6095092</pubmed></ref> 。 | ||
さらに、Ins(1,4,5)P<sub>3</sub>に特異的に結合する膜タンパク質が[[小脳]]から精製され<ref name=Maeda1990><pubmed>2153079</pubmed></ref><ref name=Supattapone1988><pubmed>2826483</pubmed></ref><ref name=Worley1987><pubmed>3040730</pubmed></ref> 、そのタンパク質をコードする遺伝子がクローニングされた<ref name=Furuichi1989><pubmed>2554142</pubmed></ref><ref name=Mignery1989><pubmed>2554146</pubmed></ref> 。発現させた組換えタンパク質が、確かにIns(1,4,5)P<sub>3</sub>に特異的な結合活性(Ins(1,4,5)P<sub>3</sub> > Ins(2,4,5) | さらに、Ins(1,4,5)P<sub>3</sub>に特異的に結合する膜タンパク質が[[小脳]]から精製され<ref name=Maeda1990><pubmed>2153079</pubmed></ref><ref name=Supattapone1988><pubmed>2826483</pubmed></ref><ref name=Worley1987><pubmed>3040730</pubmed></ref> 、そのタンパク質をコードする遺伝子がクローニングされた<ref name=Furuichi1989><pubmed>2554142</pubmed></ref><ref name=Mignery1989><pubmed>2554146</pubmed></ref> 。発現させた組換えタンパク質が、確かにIns(1,4,5)P<sub>3</sub>に特異的な結合活性(Ins(1,4,5)P<sub>3</sub> > Ins(2,4,5)P<sub>3</sub> ≥ Ins(1,3,4,5)P<sub>4</sub> > Ins(1,2)P<sub>2</sub>, InsP)<ref name=Furuichi1989><pubmed>2554142</pubmed></ref><ref name=Miyawaki1991><pubmed>1647021</pubmed></ref> と、IP<sub>3</sub>誘導Ca<sup>2+</sup>放出(IP<sub>3</sub>-induced Ca<sup>2+</sup> release, IICR)活性(Ins(1,4,5)P<sub>3</sub> > [[Ins(2,4,5)P3|Ins(2,4,5)P<sub>3</sub>]] > [[Ins(1,3,4,5)P4|Ins(1,3,4,5)P<sub>4</sub>]])を有したことから<ref name=Miyawaki1990><pubmed>2164403</pubmed></ref> 、このタンパク質がIns(1,4,5)P<sub>3</sub>の[[受容体]]としてはたらくのと同時にIICRチャネルの活性をもつという分子実体([[IP3受容体|Ins(1,4,5)P<sub>3</sub>受容体]]/Ca<sup>2+</sup>放出チャネル)が明らかになった。 | ||
これにより、細胞刺激で産生される二次メッセンジャーIns(1,4,5)P<sub>3</sub>/IP<sub>3</sub>が細胞内ストアからCa<sup>2+</sup>放出を誘導する分子機構の理解が進展していった<ref name=Berridge1993><pubmed>8381210</pubmed></ref><ref name=Mikoshiba2007><pubmed>17697045</pubmed></ref>。哺乳類のIns(1,4,5)P<sub>3</sub>/IP<sub>3</sub>受容体には、Ins(1,4,5)P<sub>3</sub>結合親和性や発現組織分布に違いのあるIP<sub>3</sub>R1/IP<sub>3</sub>R2/IP<sub>3</sub>R3の3種類が存在することも明らかになった(遺伝子名はそれぞれ[[ITPR1]]/[[ITPR2]]/[[ITPR3]])<ref name=Furuichi1994><pubmed>7522674</pubmed></ref> 。 | これにより、細胞刺激で産生される二次メッセンジャーIns(1,4,5)P<sub>3</sub>/IP<sub>3</sub>が細胞内ストアからCa<sup>2+</sup>放出を誘導する分子機構の理解が進展していった<ref name=Berridge1993><pubmed>8381210</pubmed></ref><ref name=Mikoshiba2007><pubmed>17697045</pubmed></ref>。哺乳類のIns(1,4,5)P<sub>3</sub>/IP<sub>3</sub>受容体には、Ins(1,4,5)P<sub>3</sub>結合親和性や発現組織分布に違いのあるIP<sub>3</sub>R1/IP<sub>3</sub>R2/IP<sub>3</sub>R3の3種類が存在することも明らかになった(遺伝子名はそれぞれ[[ITPR1]]/[[ITPR2]]/[[ITPR3]])<ref name=Furuichi1994><pubmed>7522674</pubmed></ref> 。 | ||
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'''(a)'''はハース投影式(Haworth projection)による環状構造、'''(b)'''はin vivoで熱力学的に安定と考えられるイス型の構造で示している<ref name=Irvine2016><pubmed>27623846</pubmed></ref> 。'''(c)'''はIUBNCの提案で、Agranoffの亀の頭・手・足・尾の配置を例えとして、6個の炭素の位置を、2位が亀の頭で、1位が右手となるように、反時計回りに1~6位の順で番号を付ける<ref name=Agranoff2009><pubmed>19447884</pubmed></ref> 。<br> | '''(a)'''はハース投影式(Haworth projection)による環状構造、'''(b)'''はin vivoで熱力学的に安定と考えられるイス型の構造で示している<ref name=Irvine2016><pubmed>27623846</pubmed></ref> 。'''(c)'''はIUBNCの提案で、Agranoffの亀の頭・手・足・尾の配置を例えとして、6個の炭素の位置を、2位が亀の頭で、1位が右手となるように、反時計回りに1~6位の順で番号を付ける<ref name=Agranoff2009><pubmed>19447884</pubmed></ref> 。<br> | ||
Ins(1,4,5)P<sub>3</sub>では、イノシトール環の1,4,5位の炭素にリン酸基(図では○Pで示す位置に-OPO<sub>3</sub><sup>2-</sup>)が結合し、2,3,6位の炭素にヒドロキシ基(-OH)が結合している。PIP<sub>2</sub>では白抜き矢印(⇒)で示すイノシトール環1位のリン酸基とジアシルグリセロールのsn-3位のヒドロキシ基がエステル結合しており、この結合をPLCが加水分解することよってIP<sub>3</sub>が細胞膜から細胞質へと遊離する。]] | Ins(1,4,5)P<sub>3</sub>では、イノシトール環の1,4,5位の炭素にリン酸基(図では○Pで示す位置に-OPO<sub>3</sub><sup>2-</sup>)が結合し、2,3,6位の炭素にヒドロキシ基(-OH)が結合している。PIP<sub>2</sub>では白抜き矢印(⇒)で示すイノシトール環1位のリン酸基とジアシルグリセロールのsn-3位のヒドロキシ基がエステル結合しており、この結合をPLCが加水分解することよってIP<sub>3</sub>が細胞膜から細胞質へと遊離する。]] | ||
イノシトール1,4,5-三リン酸(以下IP<sub>3</sub> | イノシトール1,4,5-三リン酸(以下IP<sub>3</sub>あるいはInsP<sub>3</sub>)は[[イノシトール]]環(inositol ring)に3個のリン酸基が結合した代謝化合物である。イノシトール環がもつ6個の炭素(1~6位)のうち、特別に指定されなければ1、4、5位の3個の炭素にリン酸基が結合したイノシトール1,4,5-三リン酸を指す。InsP<sub>3</sub>/IP<sub>3</sub>間で他の炭素の位置にリン酸基が結合するものと区別する場合には、1,4,5-IP<sub>3</sub>(あるいはIns(1,4,5)P<sub>3</sub>)や、[[1,3,4-IP3|1,3,4-IP<sub>3</sub>]](あるいは[[Ins(1,3,4)P3|Ins(1,3,4)P<sub>3</sub>]])などとリン酸基が付く炭素の位置を明記する必要がある。 | ||
==産生== | ==産生== | ||
[[ファイル:Furuichi IP3 Figure2.png|サムネイル|500px|'''図2. 細胞外刺激で誘導されるPIP<sub>2</sub>の加水分解と二次メッセンジャーIP<sub>3</sub>の産生経路''']] | [[ファイル:Furuichi IP3 Figure2.png|サムネイル|500px|'''図2. 細胞外刺激で誘導されるPIP<sub>2</sub>の加水分解と二次メッセンジャーIP<sub>3</sub>の産生経路''']] | ||
[[ホスホリパーゼC]]([[phospholipase C]]、略称:[[PLC]])によるPIP<sub>2</sub>の加水分解は、[[ホスファチジルイノシトール]]([[phosphatidylinositol]]、[[PtdIns]]あるいはPI)/[[ホスホイノシタイド]]([[phosphoinositide]])の代謝回転(turnover)の一種である。これによって、細胞質性(可溶性)のIP<sub>3</sub>と膜結合性の[[ジアシルグリセロール]]([[sn-1,2-diacylglycerol]] | [[ホスホリパーゼC]]([[phospholipase C]]、略称:[[PLC]])によるPIP<sub>2</sub>の加水分解は、[[ホスファチジルイノシトール]]([[phosphatidylinositol]]、[[PtdIns]]あるいはPI)/[[ホスホイノシタイド]]([[phosphoinositide]])の代謝回転(turnover)の一種である。これによって、細胞質性(可溶性)のIP<sub>3</sub>と膜結合性の[[ジアシルグリセロール]]([[sn-1,2-diacylglycerol]]、[[DAG]]あるいは[[DG]])の2種類の二次メッセンジャーが産生される。膜から遊離するIP<sub>3</sub>は細胞内Ca<sup>2+</sup>シグナル伝達カスケード<ref name=Berridge1993><pubmed>8381210</pubmed></ref><ref name=Berridge1989><pubmed>2550825</pubmed></ref> の、膜成分のDAGは[[プロテインキナーゼC]]([[protein kinase C]]、略称:[[PKC]])リン酸化シグナル伝達カスケード<ref name=Nishizuka1988><pubmed>3045562</pubmed></ref> の、それぞれ引き金となる。 | ||
IP<sub>3</sub>シグナル産生に関わるPIP<sub>2</sub>の加水分解は、細胞外からの一次メッセンジャーによる刺激によって、異なるPLCタイプが活性化される経路がある<ref name=Rhee1997><pubmed>9182519</pubmed></ref> ('''図2''')。 | IP<sub>3</sub>シグナル産生に関わるPIP<sub>2</sub>の加水分解は、細胞外からの一次メッセンジャーによる刺激によって、異なるPLCタイプが活性化される経路がある<ref name=Rhee1997><pubmed>9182519</pubmed></ref> ('''図2''')。 | ||
=== PLC-βタイプによるIP<sub>3</sub>産生経路 === | === PLC-βタイプによるIP<sub>3</sub>産生経路 === | ||
[[PLC-β]]タイプの活性化経路<ref name=Taylor1991><pubmed>1707501</pubmed></ref> ('''図2'''➊~➍):古典的[[神経伝達物質]]や[[神経ペプチド]]などの一次メッセンジャーが、[[ヘテロ三量体型Gタンパク質]](heterotrimeric G protein; α/β/γサブユニットの複合体)のGαq/ | [[PLC-β]]タイプの活性化経路<ref name=Taylor1991><pubmed>1707501</pubmed></ref> ('''図2'''➊~➍):古典的[[神経伝達物質]]や[[神経ペプチド]]などの一次メッセンジャーが、[[ヘテロ三量体型Gタンパク質]](heterotrimeric G protein; α/β/γサブユニットの複合体)のGα<sub>q/11</sub>タイプに共役した[[Gタンパク質共役型受容体]](G protein-coupled receptor、略称:[[GPCR]];あるいは[[代謝型受容体]]〔metabotropic receptor〕とも呼ぶ)(➊)に作用することで、GTP結合型Gαサブユニット(➋)がβγサブユニットと解離し、次いでエフェクター酵素であるPLC-βタイプ(➌)が解離したGTP結合型Gαサブユニット(GTP-Gα)と結合することで活性化され、PIP<sub>2</sub>の加水分解が起きる(➍)。 | ||
=== PLC-γタイプによるIP<sub>3</sub>産生経路 === | === PLC-γタイプによるIP<sub>3</sub>産生経路 === | ||
[[PLC-γ]]タイプの活性化経路<ref name=Kim1991><pubmed>1708307</pubmed></ref><ref name=Wahl1988><pubmed>2457254</pubmed></ref> ('''図2'''①~④):[[神経栄養因子]]、[[成長因子]]、[[サイトカイン]]などの一次メッセンジャーが、[[受容体型チロシンキナーゼ]] | [[PLC-γ]]タイプの活性化経路<ref name=Kim1991><pubmed>1708307</pubmed></ref><ref name=Wahl1988><pubmed>2457254</pubmed></ref> ('''図2'''①~④):[[神経栄養因子]]、[[成長因子]]、[[サイトカイン]]などの一次メッセンジャーが、[[受容体型チロシンキナーゼ]]([[receptor tyrosine kinase]]、[[RTK]])(①)に作用することで、細胞内ドメインの[[チロシンキナーゼ]]が活性化されて自己[[チロシンリン酸化]]が起き(②)、次いでエフェクター酵素であるPLC-γタイプがRTKのリン酸化チロシン(Y-P)に結合することで(PLC-γはY-Pと特異的に結合する[[SH2ドメイン]]をもつ)、PLC-γもチロシンリン酸化を受けて活性化され(③)、PIP<sub>2</sub>の加水分解が起きる(④)。 | ||
PIP<sub>2</sub>の加水分解から先の経路はPLC-βとPLC-γで共通しており('''図2'''の⓹~⓽)、2つの二次メッセンジャーIP<sub>3</sub>(⓹)とDAG(⓺)が産生される。遊離するIP<sub>3</sub>はCa<sup>2+</sup>ストア膜上のIP<sub>3</sub>R(⓻)を活性化してストア内腔のCa<sup>2+</sup>を細胞質へ放出させて細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度([Ca<sup>2+</sup>]i)(⓼)を上昇させる。一方、細胞膜のDAGはPKC(⓽)を活性化する。 | PIP<sub>2</sub>の加水分解から先の経路はPLC-βとPLC-γで共通しており('''図2'''の⓹~⓽)、2つの二次メッセンジャーIP<sub>3</sub>(⓹)とDAG(⓺)が産生される。遊離するIP<sub>3</sub>はCa<sup>2+</sup>ストア膜上のIP<sub>3</sub>R(⓻)を活性化してストア内腔のCa<sup>2+</sup>を細胞質へ放出させて細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度([Ca<sup>2+</sup>]i)(⓼)を上昇させる。一方、細胞膜のDAGはPKC(⓽)を活性化する。 | ||
=== その他のPLCタイプによるIP<sub>3</sub>産生経路 === | === その他のPLCタイプによるIP<sub>3</sub>産生経路 === | ||
この他に、PLC-β2/3はGタンパク質のβγサブユニットとの結合によって(PLC-β1も弱く結合)<ref name=Rhee1997><pubmed>9182519</pubmed></ref> | この他に、PLC-β2/3はGタンパク質のβγサブユニットとの結合によって(PLC-β1も弱く結合)<ref name=Rhee1997><pubmed>9182519</pubmed></ref> 、[[PLC-δ]]タイプは細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度([Ca<sup>2+</sup>]i)の増加によって<ref name=Allen1997><pubmed>9359428</pubmed></ref> 、[[PLC-ε]]タイプは[[低分子量GTPase]]のGTP結合型Ras/Rap<ref name=Kelley2001><pubmed>11179219</pubmed></ref><ref name=Song2001><pubmed>11022048</pubmed></ref> やGTP結合型Rho<ref name=Seifert2004><pubmed>15322077</pubmed></ref> によって、それぞれ活性化される。[[PLC-η]]の活性化機構は未定であるが、Ca<sup>2+</sup>感受性が高く、Gβγサブユニットとの結合によって活性化すると推測されている<ref name=Nakahara2005><pubmed>15899900</pubmed></ref> 。[[PLC-ζ]]は[[精子]]に含まれ、Ca<sup>2+</sup>感受性が高く、[[受精卵]]内でのCa<sup>2+</sup>振動に関与する<ref name=Saunders2002><pubmed>12117804</pubmed></ref> 。 | ||
==IP<sub>3</sub>とイノシトールリン酸の代謝== | ==IP<sub>3</sub>とイノシトールリン酸の代謝== | ||
113行目: | 113行目: | ||
==== シグナルとしての細胞内濃度 ==== | ==== シグナルとしての細胞内濃度 ==== | ||
IP<sub>3</sub>シグナルが標的のIP<sub>3</sub>Rに作用する有効濃度は、細胞・組織やIP<sub>3</sub>Rのタイプによるが、例えば発現させたIP<sub>3</sub>結合ドメインのIP<sub>3</sub>結合親和性(Kd)が10~100 nMオーダー<ref name=Iwai2007><pubmed>17327232</pubmed></ref><ref name=Iwai2005><pubmed>15632133</pubmed></ref> であることや、精製したIP<sub>3</sub>R1タンパク質や発現させたIP<sub>3</sub>R1タンパク質の[[単一チャネル記録]]での[[開口確率]](open probability)から推定されるIP<sub>3</sub> | IP<sub>3</sub>シグナルが標的のIP<sub>3</sub>Rに作用する有効濃度は、細胞・組織やIP<sub>3</sub>Rのタイプによるが、例えば発現させたIP<sub>3</sub>結合ドメインのIP<sub>3</sub>結合親和性(Kd)が10~100 nMオーダー<ref name=Iwai2007><pubmed>17327232</pubmed></ref><ref name=Iwai2005><pubmed>15632133</pubmed></ref> であることや、精製したIP<sub>3</sub>R1タンパク質や発現させたIP<sub>3</sub>R1タンパク質の[[単一チャネル記録]]での[[開口確率]](open probability)から推定されるIP<sub>3</sub>感受性(kInsP<sub>3</sub>)が、それぞれ220 nM <ref name=Michikawa1999><pubmed>10482245</pubmed></ref> と100~400 nM <ref name=Tu2005><pubmed>15533917</pubmed></ref> との報告から、おおよそsub-micromolarのIP<sub>3</sub>濃度が十分にIICRを引き起こすシグナル濃度に相当すると考えられる。但し、[[アフリカツメガエル]]卵母細胞では、数pMのIP<sub>3</sub>注入で要素的なIICRが起きるとの報告もあり<ref name=Demuro2015><pubmed>26344104</pubmed></ref> 、in vitroとin vivoのアッセイ方法、あるいは細胞によって違いがある可能性はある。 | ||
==== 細胞内におけるシグナルとしての寿命と局所性 ==== | ==== 細胞内におけるシグナルとしての寿命と局所性 ==== |