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(ページの作成:「同義語:脳下垂体 羅:glandula pituitary 英:pituitary gland 独:Hirnanhangsdrüse 仏glande pituitaire 下垂体は、頭蓋骨底部にある蝶形骨のトルコ鞍と呼ばれる凹みに収まるように位置している器官である。下流に存在する多くの内分泌腺の機能を調節する重要な役割を果たすとともに、さまざまな末梢臓器および組織に対して独立した内分泌作用を発揮する…」)
 
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同義語:脳下垂体
<div align="right"> 
[http://researchmap.jp/mayuminishi 西 真弓]</font><br>
''奈良県立医科大学 医学部 医学科''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2023年4月7日 原稿完成日:2023年4月17日<br>
担当編集委員:[https://researchmap.jp/masahikowatanabeo 渡辺 雅彦] (北海道大学大学院医学研究院 解剖学分野 解剖発生学教室)<br>
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同義語:脳下垂体<br>
羅:glandula pituitary 英:pituitary gland 独:Hirnanhangsdrüse 仏glande pituitaire
羅:glandula pituitary 英:pituitary gland 独:Hirnanhangsdrüse 仏glande pituitaire


下垂体は、頭蓋骨底部にある蝶形骨のトルコ鞍と呼ばれる凹みに収まるように位置している器官である。下流に存在する多くの内分泌腺の機能を調節する重要な役割を果たすとともに、さまざまな末梢臓器および組織に対して独立した内分泌作用を発揮する。分泌刺激ホルモンを分泌する下垂体前葉と、オキシトシンやバソプレッシンを分泌する神経終末を持つ下垂体後葉の2つの機能部位から構成される。
{{box|text= 下垂体は、頭蓋骨底部にある蝶形骨のトルコ鞍と呼ばれる凹みに収まるように位置している器官である。下流に存在する多くの内分泌腺の機能を調節する重要な役割を果たすとともに、さまざまな末梢臓器および組織に対して独立した内分泌作用を発揮する。分泌刺激ホルモンを分泌する下垂体前葉と、オキシトシンやバソプレッシンを分泌する神経終末を持つ下垂体後葉の2つの機能部位から構成される。}}


==構造==
==構造==
図1. ヒト下垂体の位置<br>赤い部分が下垂体。BodyParts3D/Anatomographyにより描画
[[ファイル:Nishi pituitary gland1.png|サムネイル|'''図1. ヒト下垂体の位置'''<br>赤い部分が下垂体。BodyParts3D/Anatomographyにより描画]]
図2. 視床下部による下垂体を介したホルモン分泌制御
[[ファイル:Nishi pituitary gland2.jpg|サムネイル|'''図2. 視床下部による下垂体を介したホルモン分泌制御''']]


===解剖===
===解剖===
 大きさは7~8mm、重さ約0.7gで、脳の視床下部につながり脳からぶら下がっている(図1)。ヒトでは、主に分泌刺激ホルモンを分泌する下垂体前葉(腺性下垂体; adenohypophysis)と、オキシトシンやバソプレッシンを分泌する神経終末を持つ下垂体後葉(神経性下垂体; neurohypophysis)の2つの機能部位から構成されている。中間葉は下等脊椎動物では顕著であるが、ヒトや他の哺乳類で明瞭な葉を構成しない(図2)。
 大きさは7~8mm、重さ約0.7gで、[[視床下部]]につながり[[脳]]からぶら下がっている(図1)。[[ヒト]]では、主に分泌刺激[[ホルモン]]を分泌する[[下垂体前葉]]([[腺性下垂体]]; adenohypophysis)と、[[オキシトシン]]や[[バソプレッシン]]を分泌する[[神経終末]]を持つ[[下垂体後葉]]([[神経性下垂体]]; neurohypophysis)の2つの機能部位から構成されている。中間葉は下等脊椎動物では顕著であるが、ヒトや他の[[哺乳類]]で明瞭な葉を構成しない(図2)。
 
===下垂体前葉===
===下垂体前葉===
 内分泌細胞で構成され、胎生期の咽頭膨出(ラトケ囊;Rathke’s pouch)から発生する。一方、下垂体後葉の大部分は視床下部の視索上核と室傍核に細胞体を有するニューロンの軸索末端からなり、これらの核の延長として発生する。下垂体中葉がよく発達した生物種においては、中葉は胎生期にラトケ嚢の背側半分から作られるが、成熟すると下垂体後葉と密着する。
 内分泌細胞で構成され、胎生期の[[咽頭膨出]]([[ラトケ囊]];Rathke’s pouch)から発生する。一方、下垂体後葉の大部分は視床下部の[[視索上核]]と[[室傍核]]に[[細胞体]]を有する[[ニューロン]]の[[軸索]]末端からなり、これらの核の延長として発生する。[[下垂体中葉]]がよく発達した生物種においては、中葉は胎生期にラトケ嚢の背側半分から作られるが、成熟すると下垂体後葉と密着する。


 1950年代にGeoffrey Harrisによって下垂体前葉は視床下部小細胞生神経内分泌ニューロンによって間接的に制御されていると唱えられた<ref name=Raisman1997><pubmed>9056724</pubmed></ref> 。視床下部正中隆起から下垂体前葉へ血液を運ぶ下垂体門脈は、下垂体前葉ホルモン分泌を制御する視床下部ニューロンから分泌されるシグナルを輸送する(図2)。下垂体漏斗部における毛細血管網を一次毛細血管網、前葉におけるものを二次毛細血管網と呼び、両者をつなぐ下垂体門静脈を含め、このような血管系を下垂体門脈系hypophyseal portal systemと呼ぶ。
 1950年代に[[w:Geoffrey_Harris_(neuroendocrinologist)|Geoffrey Harris]]によって下垂体前葉は視床下部小細胞生神経内分泌ニューロンによって間接的に制御されていると唱えられた<ref name=Raisman1997><pubmed>9056724</pubmed></ref> 。視床下部正中隆起から下垂体前葉へ血液を運ぶ[[下垂体門脈]]は、下垂体前葉ホルモン分泌を制御する視床下部ニューロンから分泌されるシグナルを輸送する(図2)。[[下垂体漏斗部]]における毛細血管網を一次毛細血管網、前葉におけるものを二次毛細血管網と呼び、両者をつなぐ下垂体門静脈を含め、このような血管系を[[下垂体門脈系]][[hypophyseal portal system]]と呼ぶ。


====下垂体後葉====
====下垂体後葉====
 細胞体を視床下部にもつ軸索からなる。視床下部の視索上核や室傍核の大細胞性ニューロンはペプチドホルモンであるオキシトシンやバソプレッシンを合成し、それらホルモンは分泌顆粒に含まれ、視床下部―下垂体路を軸索流によって運ばれ下垂体後葉に至り、軸索末端に蓄えられ、血中に放出される。光学顕微鏡で下垂体後葉に向かう神経軸索を観察すると、ところどころにヘリング小体Herring bodyと呼ばれる数珠状の構造が認められる。
 細胞体を視床下部にもつ軸索からなる。視床下部の視索上核や室傍核の[[大細胞性ニューロン]]は[[ペプチドホルモン]]であるオキシトシンやバソプレッシンを合成する。それらホルモンは分泌顆粒に含まれ、視床下部―下垂体路を軸索流によって運ばれ下垂体後葉に至り、軸索末端に蓄えられ、血中に放出される。光学顕微鏡で下垂体後葉に向かう神経軸索を観察すると、ところどころに[[ヘリング小体]][[Herring body]]と呼ばれる数珠状の構造が認められる。


===組織===
===組織===
下垂体前葉は細胞列が交錯し、その間に洞様毛細血管が発達して存在する。洞様毛細血管の内皮は他の内分泌器官と同様な有窓構造をしている。前葉細胞にはホルモンを貯蔵する顆粒が存在し、そのホルモンはエキソサイトーシスによって細胞外に放出され、毛細血管に取り込まれ、血流にのって標的器官へ運ばれる。
 下垂体前葉は細胞列が交錯し、その間に洞様毛細血管が発達して存在する。洞様毛細血管の[[内皮]]は他の内分泌器官と同様な[[有窓構造]]をしている。前葉細胞にはホルモンを貯蔵する顆粒が存在し、そのホルモンは[[エキソサイトーシス]]によって細胞外に放出され、毛細血管に取り込まれ、血流にのって標的器官へ運ばれる。


 下垂体前葉は神経系と内分泌系間に介在するインターフェイスとしての機能を有している<ref name=井上1996><pubmed>1997107374</pubmed></ref> 。視床下部の小細胞性神経分泌細胞からのシグナルは下垂体門脈系という複雑な毛細血管網により下垂体前葉に流入する。下垂体前葉から分泌されるホルモン、分泌する細胞のタイプ、分泌細胞中に占める割合、染色性、および分泌顆粒の直径を 表1にまとめて示す。
 下垂体前葉は神経系と内分泌系間に介在するインターフェイスとしての機能を有している<ref name=井上1996><pubmed>1997107374</pubmed></ref> 。視床下部の小細胞性神経分泌細胞からのシグナルは下垂体門脈系という複雑な毛細血管網により下垂体前葉に流入する。下垂体前葉から分泌されるホルモン、分泌する細胞のタイプ、分泌細胞中に占める割合、染色性、および分泌顆粒の直径を 表1にまとめて示す。


 細胞によっては複数のホルモンをもつ場合もある。FSH, LH, TSHは糖タンパク質ホルモンである。ヘマトキシリン-エオジン染色でよく染まる色素好性細胞chromophilic cellには酸好性細胞acidophilic cellと塩基好性細胞basophilic cellがある。前者はさらにオレンジ好性細胞(GH産生細胞)とカルミン好性細胞(PRL産生細胞)がある。後者にはアルデヒドフクシンによく染まるβcell(TSH産生細胞)とアルデヒドフクシンにあまり染まらないδcell(FSH/LH産生細胞)がある。また、HE染色でほとんど染まらない小型の色素嫌性細胞が細胞索の中心部に存在し、一般に未分化の細胞で、色素好性細胞を分裂によって補充する役割をもつものと考えられている(幹細胞)。しかし、特に大型の色素嫌性細胞はACTHの分泌に関わるという説もある。
 細胞によっては複数のホルモンをもつ場合もある。[[卵胞刺激ホルモン]]([[follicle stimulating hormone]]; [[FSH]]), [[黄体形成ホルモン]]([[luteinizing hormone]], [[LH]]), [[甲状腺刺激ホルモン]]([[thyroid stimulating hormone]], [[TSH]])は[[糖タンパク質ホルモン]]である。[[ヘマトキシリン-エオジン染色]]でよく染まる[[色素好性細胞]]chromophilic cellには[[酸好性細胞]]acidophilic cellと[[塩基好性細胞]]basophilic cellがある。前者はさらに[[オレンジ好性細胞]]([[成長ホルモン]](growth hormone, GH)産生細胞)と[[カルミン好性細胞]](PRL産生細胞)がある。後者にはアルデヒドフクシンによく染まるβcell(TSH産生細胞)とアルデヒドフクシンにあまり染まらないδcell(FSH/LH産生細胞)がある。また、HE染色でほとんど染まらない小型の色素嫌性細胞が細胞索の中心部に存在し、一般に未分化の細胞で、色素好性細胞を分裂によって補充する役割をもつものと考えられている(幹細胞)。しかし、特に大型の色素嫌性細胞はACTHの分泌に関わるという説もある。


一方、下垂体前葉には無顆粒性の濾胞星状細胞folliculostellate cellsが存在し、分泌細胞の間に突起を伸ばし、濾胞星状細胞間にはよく発達したギャップ結合が認められる<ref name=Allaerts1990><pubmed>2198180</pubmed></ref>  <ref name=Soji1989><pubmed>2782632</pubmed></ref> 。濾胞星状細胞はS-100タンパク質やグリア酸性線維タンパク質を有することから、脳のアストロサイトに似る細胞である。
一方、下垂体前葉には無顆粒性の濾胞星状細胞folliculostellate cellsが存在し、分泌細胞の間に突起を伸ばし、濾胞星状細胞間にはよく発達したギャップ結合が認められる<ref name=Allaerts1990><pubmed>2198180</pubmed></ref>  <ref name=Soji1989><pubmed>2782632</pubmed></ref> 。濾胞星状細胞はS-100タンパク質やグリア酸性線維タンパク質を有することから、脳のアストロサイトに似る細胞である。

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