「時計遺伝子」の版間の差分

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# その因子の増減レベルを一定にすると、表出リズムは消失する。
# その因子の増減レベルを一定にすると、表出リズムは消失する。


[[ファイル:Kon clock genes Fig.png|サムネイル|'''図. 転写翻訳を介したフィードバックループ'''<br>bHLH-PAS型転写因子CLOCK(あるいはNPAS2)はBMAL1とヘテロ二量体を形成し、E-boxと呼ばれるDNAシスエレメントを介してPerやCry遺伝子の転写を活性化する。翻訳されたPERやCRYタンパク質は複合体を形成し、細胞質から核に移行してCLOCK-BMAL1の転写活性化を抑制する。その結果、PerやCry遺伝子の発現レベルは概日リズムを示す(図は文献44を元に改変)。]]
[[ファイル:Kon clock genes Fig.png|サムネイル|'''図. 転写翻訳を介したフィードバックループ'''<br>bHLH-PAS型転写因子CLOCK(あるいはNeuronal PAS Domain Protein 2 (NPAS2))はBasic Helix-Loop-Helix ARNT Like 1 (BMAL1)とヘテロ二量体を形成し、E-boxと呼ばれるDNAシスエレメントを介してPerやCry遺伝子の転写を活性化する。翻訳されたPERやCRYタンパク質は複合体を形成し、細胞質から核に移行してCLOCK-BMAL1の転写活性化を抑制する。その結果、PerやCry遺伝子の発現レベルは概日リズムを示す(図は文献44を元に改変)。]]
==転写翻訳フィードバックループ==
==転写翻訳フィードバックループ==
===コアループ===
===コアループ===
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である。
である。


 これらの遺伝子産物は遺伝的冗長性があるものが多く、PERはPer1, Per2およびPer3遺伝子、CRYはCry1およびCry2遺伝子、class I bHLH-PAS型転写因子はClockおよびNpas2遺伝子、class II bHLH-PAS型転写因子はBmal1 およびBmal2遺伝子にコードされている<ref name=田澤2009 /><ref name=岡村2004/><ref name=海老原2012 /> (1-3)。CLOCK(あるいはNPAS2)はBMAL1とヘテロ二量体を形成し、E-boxと呼ばれるDNAシスエレメントを介してPer1/2やCry1/2遺伝子の転写を活性化する。翻訳されたPER1/2やCRY1/2タンパク質は複合体を形成し、細胞質から核に移行してCLOCK-BMAL1の転写活性化を抑制する。その結果、Per1/2やCry1/2遺伝子の発現レベルは概日リズムを示す ('''図''')。これらの4因子による転写翻訳フィードバック機構をコアループと呼ぶ。
 これらの遺伝子産物は遺伝的冗長性があるものが多く、PERはPer1, Per2およびPer3遺伝子、CRYはCry1およびCry2遺伝子、class I basic helix–loop–helix/Per-ARNT-SIM (bHLH-PAS)型転写因子はClockおよびNpas2遺伝子、class II bHLH-PAS型転写因子はBmal1 およびBmal2遺伝子にコードされている<ref name=田澤2009 /><ref name=岡村2004/><ref name=海老原2012 /> (1-3)。CLOCK(あるいはNPAS2)はBMAL1とヘテロ二量体を形成し、E-boxと呼ばれるDNAシスエレメントを介してPer1/2やCry1/2遺伝子の転写を活性化する。翻訳されたPER1/2やCRY1/2タンパク質は複合体を形成し、細胞質から核に移行してCLOCK-BMAL1の転写活性化を抑制する。その結果、Per1/2やCry1/2遺伝子の発現レベルは概日リズムを示す ('''図''')。これらの4因子による転写翻訳フィードバック機構をコアループと呼ぶ。


 Per1/2二重欠損マウス、Cry1/2二重欠損マウス、Clock/Npas2二重欠損マウス、あるいはBmal1欠損マウスは、行動リズムの消失や遺伝子発現リズムの消失が引き起こされる<ref name=Bunger2000><pubmed>11163178</pubmed></ref><ref name=Zheng2001><pubmed>11389837</pubmed></ref><ref name=DeBruyne2007><pubmed>17417633</pubmed></ref><ref name=vanderHorst1999><pubmed>10217146</pubmed></ref>(8-11)。そのため、これら因子は概日性の生理リズムを生成する必須因子である。転写を介したフィードバックループは動物、菌類、植物において遺伝子発現リズムを生成するメカニズムとして共通している。一方、これらの生物系統の間で、概日リズムの生成に関わる転写関連因子の配列相同性は限定的であるため、転写を介したフィードバックループは各生物界で独立に進化したと考えられている<ref name=岡村2004/> (2)。
 Per1/2二重欠損マウス、Cry1/2二重欠損マウス、Clock/Npas2二重欠損マウス、あるいはBmal1欠損マウスは、行動リズムの消失や遺伝子発現リズムの消失が引き起こされる<ref name=Bunger2000><pubmed>11163178</pubmed></ref><ref name=Zheng2001><pubmed>11389837</pubmed></ref><ref name=DeBruyne2007><pubmed>17417633</pubmed></ref><ref name=vanderHorst1999><pubmed>10217146</pubmed></ref>(8-11)。そのため、これら因子は概日性の生理リズムを生成する必須因子である。転写を介したフィードバックループは動物、菌類、植物において遺伝子発現リズムを生成するメカニズムとして共通している。一方、これらの生物系統の間で、概日リズムの生成に関わる転写関連因子の配列相同性は限定的であるため、転写を介したフィードバックループは各生物界で独立に進化したと考えられている<ref name=岡村2004/> (2)。
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===サブループ===
===サブループ===
 コアループに共役する形でいくつかのサブループが報告されている。
 コアループに共役する形でいくつかのサブループが報告されている。
# RORE配列を介したBmal1遺伝子の制御<br>視交叉上核において主観的夜 (CT16)に発現ピークを示すBmal1などの遺伝子の上流にはRORE配列が存在する<ref name=Ueda2002><pubmed>12152080</pubmed></ref><ref name=Ueda2005><pubmed>15665827</pubmed></ref>(12,13)。RORE配列には転写抑制因子としてREV-ERB&alpha;およびREV-ERB&beta;、転写活性化因子としてROR&alpha;、ROR&beta;、ROR&gamma;が作用することが報告されている。
# ROR-response element (RORE)配列を介したBmal1遺伝子の制御<br>視交叉上核において主観的夜 (circadian time 16; CT16)に発現ピークを示すBmal1などの遺伝子の上流にはRORE配列が存在する<ref name=Ueda2002><pubmed>12152080</pubmed></ref><ref name=Ueda2005><pubmed>15665827</pubmed></ref>(12,13)。RORE配列には転写抑制因子としてREV-ERB&alpha;およびREV-ERB&beta;、転写活性化因子としてRAR Related Orphan Receptor (ROR)&alpha;、ROR&beta;、ROR&gamma;が作用することが報告されている。
# D-boxを介したPer1/2遺伝子の制御<br>Per1/2遺伝子の上流にはD-boxが存在する。D-boxには転写抑制因子としてE4BP4、転写活性化因子としてDBP, HLF, TEFが結合することが報告されている<ref name=Ueda2005 /><ref name=Mitsui2001><pubmed>11316793</pubmed></ref>(13,14)。
# D-boxを介したPer1/2遺伝子の制御<br>Per1/2遺伝子の上流にはD-boxが存在する。D-boxには転写抑制因子としてE4BP4、転写活性化因子としてD-Box Binding PAR BZIP Transcription Factor (DBP), Hepatic leukemia factor (HLF), Thyrotroph embryonic factor (TEF)が結合することが報告されている<ref name=Ueda2005 /><ref name=Mitsui2001><pubmed>11316793</pubmed></ref>(13,14)。
# 転写因子DEC1/2によるE-box配列の制御<br>上記のCLOCK-BMAL1による制御に加え、E-boxには転写抑制因子としてDEC1/2が結合することが報告されている<ref name=Ueda2005 /><ref name=Honma2002><pubmed>12397359</pubmed></ref> (13,15)。
# 転写因子DEC1/2によるE-box配列の制御<br>上記のCLOCK-BMAL1による制御に加え、E-boxには転写抑制因子としてDeleted in esophageal cancer (DEC)1/2が結合することが報告されている<ref name=Ueda2005 /><ref name=Honma2002><pubmed>12397359</pubmed></ref> (13,15)。


 これらのサブループは多くの遺伝子に対してさまざまな位相のリズムを生み出していると考えられている。
 これらのサブループは多くの遺伝子に対してさまざまな位相のリズムを生み出していると考えられている。
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==翻訳後修飾酵素の役割と進化的保存性==
==翻訳後修飾酵素の役割と進化的保存性==
 ハムスターの行動リズムの短周期化を引き起こすtau変異の原因遺伝子として、カゼインキナーゼ1&epsilon;(CK1&epsilon;)が報告されている<ref name=Lowrey2000><pubmed>10775102</pubmed></ref>(25)。CK1&epsilon;はCK1&delta;とともに、概日リズムの周期制御や温度補償性に関わり、CK1&epsilon;/&delta;の低分子阻害剤は培養細胞における転写リズムの周期を延長する(26)。CK1&epsilon;/&delta;のin vitroの基質としては、PER2がよく解析されている<ref name=Lowrey2000 /><ref name=Isojima2009><pubmed>19805222</pubmed></ref> (25,26)。 また、CK1&epsilon;によるPER2のリン酸化は、ユビキチンE3リガーゼ &beta;-TrCP に認識され、PER2はユビキチン化された後にプロテアソームによって分解される<ref name=田澤2009 /><ref name=岡村2004/><ref name=海老原2012 /> (1-3)。
 ハムスターの行動リズムの短周期化を引き起こすtau変異の原因遺伝子として、カゼインキナーゼ1&epsilon;(CK1&epsilon;)が報告されている<ref name=Lowrey2000><pubmed>10775102</pubmed></ref>(25)。CK1&epsilon;はCK1&delta;とともに、概日リズムの周期制御や温度補償性に関わり、CK1&epsilon;/&delta;の低分子阻害剤は培養細胞における転写リズムの周期を延長する(26)。CK1&epsilon;/&delta;のin vitroの基質としては、PER2がよく解析されている<ref name=Lowrey2000 /><ref name=Isojima2009><pubmed>19805222</pubmed></ref> (25,26)。 また、CK1&epsilon;によるPER2のリン酸化は、ユビキチンE3リガーゼ &beta;-transducin repeat containing (&beta;-TrCP) に認識され、PER2はユビキチン化された後にプロテアソームによって分解される<ref name=田澤2009 /><ref name=岡村2004/><ref name=海老原2012 /> (1-3)。


 CRYタンパク質レベルはユビキチンリガーゼFBXL3やFBXL21により制御されている<ref name=Hirano2013><pubmed>23452856</pubmed></ref><ref name=Yoo2013><pubmed>23452855</pubmed></ref>(27,28)。FBXL3の欠損マウスは約28時間の行動リズムを示し、FBXL3とFBXL21の二重欠損マウスは行動リズムが消失する。
 CRYタンパク質レベルはユビキチンリガーゼF-box/LRR-repeat protein 3 (FBXL3)やF-box and leucine rich repeat protein 21 (FBXL21)により制御されている<ref name=Hirano2013><pubmed>23452856</pubmed></ref><ref name=Yoo2013><pubmed>23452855</pubmed></ref>(27,28)。FBXL3の欠損マウスは約28時間の行動リズムを示し、FBXL3とFBXL21の二重欠損マウスは行動リズムが消失する。


 Casein Kinase 2 (CK2) はショウジョウバエにおいて、長周期性を示す変異体として同定され<ref name=Lin2002><pubmed>12447397</pubmed></ref>(29)、哺乳類の培養細胞においてもリズム周期や振幅の制御に関わることが報告されている<ref name=Tamaru2009><pubmed>19330005</pubmed></ref><ref name=Tsuchiya2009><pubmed>19491384</pubmed></ref> (30,31)。CK2の基質としては、BMAL1やPER2が報告されている。
 Casein Kinase 2 (CK2) はショウジョウバエにおいて、長周期性を示す変異体として同定され<ref name=Lin2002><pubmed>12447397</pubmed></ref>(29)、哺乳類の培養細胞においてもリズム周期や振幅の制御に関わることが報告されている<ref name=Tamaru2009><pubmed>19330005</pubmed></ref><ref name=Tsuchiya2009><pubmed>19491384</pubmed></ref> (30,31)。CK2の基質としては、BMAL1やPER2が報告されている。

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