「アカシジア」の版間の差分

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=== 中脳辺縁系・中脳皮質系のドパミン機能低下 ===
=== 中脳辺縁系・中脳皮質系のドパミン機能低下 ===
 薬原性アカシジアは薬原性錐体外路症状の1型として位置づけられており、その大多数がドパミン神経系を遮断する抗精神病薬の投与と関連して発現し、その減量・中止により症状は軽減ないし消失することから、中枢ドパミン神経系の機能低下がアカシジア発症の主たる要因と考えられている。急性期に発現する薬原性錐体外路症状に対しては、ドパミン・アセチルコリン不均衡仮説に基づいて抗コリン薬による治療が行われ、その有効性は80~90%と高いのに対して、アカシジアに対する抗コリン薬の反応性は50%程度と、他の薬原性パーキンソニズムに対する80~90%の有効性に比べると明らかに低いことから<ref name=Hirose2003><pubmed>14609248</pubmed></ref>5)、黒質線条体系の機能低下が想定されているパーキンソン症状とは異なり、中脳辺縁系や中脳皮質系の機能低下がアカシジアの発症に関与していると想定されている。パーキンソニズムの運動減退症状とアカシジアの運動亢進症状の併発があること、またパーキンソニズム等の運動減退症状とは異なり、アカシジアでは客観的な運動亢進症状が認められることに加え、主観的な内的不隠症状も有していることから、パーキンソニズムの発症機序と考えられている黒質線条体系のドパミン神経機能の低下以外にも、中脳辺縁系や中脳皮質系のドパミン神経系の低下がアカシジアの発症機序に関与していると想定されている。
 薬原性アカシジアは薬原性錐体外路症状の1型として位置づけられており、その大多数がドパミン神経系を遮断する抗精神病薬の投与と関連して発現し、その減量・中止により症状は軽減ないし消失することから、中枢ドパミン神経系の機能低下がアカシジア発症の主たる要因と考えられている。急性期に発現する薬原性錐体外路症状に対しては、ドパミン・[[アセチルコリン]]不均衡仮説に基づいて[[抗コリン薬]]による治療が行われ、その有効性は80~90%と高いのに対して、アカシジアに対する抗コリン薬の反応性は50%程度と、他の薬原性パーキンソニズムに対する80~90%の有効性に比べると明らかに低いことから<ref name=Hirose2003><pubmed>14609248</pubmed></ref>5)、[[黒質線条体]]系の機能低下が想定されているパーキンソン症状とは異なり、[[中脳辺縁系]]や[[中脳皮質系]]の機能低下がアカシジアの発症に関与していると想定されている。パーキンソン病の運動減退症状とアカシジアの運動亢進症状の併発があること、またパーキンソン病等の運動減退症状とは異なり、アカシジアでは客観的な運動亢進症状が認められることに加え、主観的な内的不隠症状も有していることから、パーキンソン病の発症機序と考えられている黒質線条体系のドパミン神経機能の低下以外にも、中脳辺縁系や中脳皮質系のドパミン神経系の低下がアカシジアの発症機序に関与していると想定されている。


=== セロトニン神経系(5-HT2A 受容体)の機能亢進 ===
=== セロトニン神経系(5-HT2A 受容体)の機能亢進 ===
 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)でアカシジアの発症例が報告されていること、セロトニン5-HT2A受容体遮断作用を有する非定型抗精神病薬では薬原性錐体外路症状の発現頻度が低いこと、またセロトニン5-HT2A 受容体遮断作用を有する抗うつ薬の一群がアカシジアの治療に有効であることから、アカシジアの発症要因にセロトニン5-HT2A 受容体の機能亢進が想定されている<ref name=Poyurovsky2015><pubmed>26488676</pubmed></ref><ref name=Poyurovsky2010><pubmed>20118449</pubmed></ref><ref name=Laoutidis2014><pubmed>24286228</pubmed></ref><ref name=Poyurovsky2006><pubmed>16497273</pubmed></ref>19, 21, 37, 43)。セロトニン神経系5-HT2A 受容体の機能亢進が、腹側被蓋野から中脳辺縁系と中脳皮質系のドパミン神経系に対して抑制的に働くことでアカシジアが発症すると考えられている。
 選択的セロトニン再取り込み阻害薬でアカシジアの発症例が報告されていること、[[セロトニン]][[5-HT2A受容体]]遮断作用を有する非定型抗精神病薬では薬原性錐体外路症状の発現頻度が低いこと、またセロトニン5-HT2A受容体遮断作用を有する抗うつ薬の一群がアカシジアの治療に有効であることから、アカシジアの発症要因にセロトニン5-HT2A 受容体の機能亢進が想定されている<ref name=Poyurovsky2015><pubmed>26488676</pubmed></ref><ref name=Poyurovsky2010><pubmed>20118449</pubmed></ref><ref name=Laoutidis2014><pubmed>24286228</pubmed></ref><ref name=Poyurovsky2006><pubmed>16497273</pubmed></ref>19, 21, 37, 43)。セロトニン神経系5-HT2A受容体の機能亢進が、[[腹側被蓋野]]から中脳辺縁系と中脳皮質系のドパミン神経系に対して抑制的に働くことでアカシジアが発症すると考えられている。


=== γアミノ酪酸(GABA)神経系の機能低下 ===
=== γアミノ酪酸神経系の機能低下 ===
 GABA作動薬であるジアゼパムやロラゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬剤がアカシジアの症状を軽減することから、アカシジアの発症にγアミノ酪酸(GABA)神経系の機能低下が想定されている<ref name=妹尾2004></ref>7)。
 [[γアミノ酪酸]] ([[GABA]])作動薬である[[ジアゼパム]]や[[ロラゼパム]]などの[[ベンゾジアゼピン]]系薬剤がアカシジアの症状を軽減することから、アカシジアの発症にGABA神経系の機能低下が想定されている<ref name=妹尾2004></ref>7)。


=== ノルアドレナリン系の機能亢進 ===
=== ノルアドレナリン系の機能亢進 ===
 プロプラノロールなどのβ遮断薬がアカシジアの治療に有効であること、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬でアカシジアの発症例がみられること、アカシジア患者において単核白血球上のβ2受容体密度の高くなっているという報告がみられること等の知見から、中枢あるいは末梢におけるノルアドレナリン系の機能亢進がアカシジアの発症に関与していると考えられている<ref name=妹尾2004 />7)。
 [[プロプラノロール]]などのβ遮断薬がアカシジアの治療に有効であること、[[セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬]]でアカシジアの発症例がみられること、アカシジア患者において単核白血球上の[[β2受容体]]密度の高くなっているという報告がみられること等の知見から、中枢あるいは末梢におけるノルアドレナリン系の機能亢進がアカシジアの発症に関与していると考えられている<ref name=妹尾2004 />7)。


=== 鉄欠乏===
=== 鉄欠乏===
 血清鉄の低下がドパミン受容体機能の低下を引き起こしアカシジアが発症するという仮説であり、症候学的に類似性の高いムズムズ脚症候群の患者に鉄欠乏性貧血がしばしば併発していることやドパミンD2受容体に鉄が含まれていることなどから想定された<ref name=Gold1995><pubmed>7559375</pubmed></ref>
 血清鉄の低下がドパミン受容体機能の低下を引き起こしアカシジアが発症するという仮説であり、症候学的に類似性の高いムズムズ脚症候群の患者に[[鉄欠乏性貧血]]がしばしば併発していることやドパミン[[D2受容体]]に鉄が含まれていることなどから想定された<ref name=Gold1995><pubmed>7559375</pubmed></ref><ref name=Horiguchi1991><pubmed>1683097</pubmed></ref>32,33)。鉄欠乏はアカシジア発症の危険因子だという見方もある。
<ref name=Horiguchi1991><pubmed>1683097</pubmed></ref>32,33)。鉄欠乏はアカシジア発症の危険因子だという見方もある。


== 治療 ==
== 治療 ==

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