「嗅覚受容体」の版間の差分

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 生物は外界からの様々な刺激を感知し、適切に応答することで生存を維持している。様々な感覚のうち、[[嗅覚]]は[[化学物質]]を媒体として外界の情報を感知するシステムであり、食物や配偶者の探索、敵からの逃避、といった生存に必須な行動に重要な役割を果たす。極めて多様なシグナルを感度良く識別できるのが嗅覚システムの特徴であり、嗅覚受容体はその識別の出発点としての役目を果たす。
 生物は外界からの様々な刺激を感知し、適切に応答することで生存を維持している。様々な感覚のうち、[[嗅覚]]は[[化学物質]]を媒体として外界の情報を感知するシステムであり、食物や配偶者の探索、敵からの逃避、といった生存に必須な行動に重要な役割を果たす。極めて多様なシグナルを感度良く識別できるのが嗅覚システムの特徴であり、嗅覚受容体はその識別の出発点としての役目を果たす。


 日本語ではいずれも嗅覚受容体であるが、英語でolfactory receptorは、広義に嗅覚組織に発現している嗅覚受容体全般を指す一方、odorant receptorは狭義に揮発性匂い物質の受容体を指す。脊椎動物では通常olfactory receptorが用いられるが、昆虫では嗅覚受容体ファミリー名がodorant receptorと定められている。また、[[げっ歯類]]において、嗅覚受容体は広義に、[[鋤鼻器]]官に発現する”[[フェロモン受容体]]”も含める場合もあるが、本項目では含めない。[[フェロモン受容体]]の項目を参照。
 「嗅覚受容体」を指す言葉として、英語ではolfactory receptor、または、odorant receptorが用いられる。Olfactory receptorは、広義に嗅覚組織に発現している嗅覚受容体全般を指す一方、odorant receptorは狭義に揮発性匂い物質の受容体を指す。脊椎動物では通常olfactory receptorが用いられるが、昆虫では嗅覚受容体ファミリー名がodorant receptorと定められている。また、[[げっ歯類]]において、嗅覚受容体は広義に、[[鋤鼻器]]官に発現する”[[フェロモン受容体]]”も含める場合もあるが、本項目では含めない。[[フェロモン受容体]]の項目を参照。


== 脊椎動物 ==
== 脊椎動物 ==
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 その後、嗅覚受容体遺伝子によりコードされるタンパク質が匂い物質に応答し、[[嗅神経細胞]]の活性化をもたらすことが実証された<ref name=Touhara1999><pubmed>10097159</pubmed></ref><ref name=Zhao1998><pubmed>9422698</pubmed></ref>。嗅覚受容体遺伝子は脊椎動物全般において、最大の遺伝子ファミリーとして存在し、多重遺伝子ファミリーを形成するが、その数は生物種により大きく異なり、例えば[[マウス]]では約1100、[[ヒト]]では約400存在する<ref name=Niimura2014><pubmed>25053675</pubmed></ref>。嗅覚受容体遺伝子ファミリーは他の遺伝子ファミリーに比べると[[偽遺伝子]]の割合が高く、進化の過程での重複、欠失が多いことも特徴である。さらに、ヒト個人間においても数多くの[[遺伝子多型]]が存在し、特定の匂いへの知覚感度に影響する例も報告されている <ref name=Markt2022><pubmed> 35113854 </pubmed></ref><ref name=Niimura2020>'''Niimura Y, Ihara S, Touhara K (2020).'''<br>3.25 - Mammalian Olfactory and Vomeronasal Receptor Families. In The Senses: A Comprehensive Reference (Second Edition). Edited by Fritzsch B: Elsevier; pp 516-535.</ref><ref name=Sato-Akuhara2023><pubmed> 36625229 </pubmed></ref><ref name=Trimmer2019><pubmed> 31040214 </pubmed></ref>。
 その後、嗅覚受容体遺伝子によりコードされるタンパク質が匂い物質に応答し、[[嗅神経細胞]]の活性化をもたらすことが実証された<ref name=Touhara1999><pubmed>10097159</pubmed></ref><ref name=Zhao1998><pubmed>9422698</pubmed></ref>。嗅覚受容体遺伝子は脊椎動物全般において、最大の遺伝子ファミリーとして存在し、多重遺伝子ファミリーを形成するが、その数は生物種により大きく異なり、例えば[[マウス]]では約1100、[[ヒト]]では約400存在する<ref name=Niimura2014><pubmed>25053675</pubmed></ref>。嗅覚受容体遺伝子ファミリーは他の遺伝子ファミリーに比べると[[偽遺伝子]]の割合が高く、進化の過程での重複、欠失が多いことも特徴である。さらに、ヒト個人間においても数多くの[[遺伝子多型]]が存在し、特定の匂いへの知覚感度に影響する例も報告されている <ref name=Markt2022><pubmed> 35113854 </pubmed></ref><ref name=Niimura2020>'''Niimura Y, Ihara S, Touhara K (2020).'''<br>3.25 - Mammalian Olfactory and Vomeronasal Receptor Families. In The Senses: A Comprehensive Reference (Second Edition). Edited by Fritzsch B: Elsevier; pp 516-535.</ref><ref name=Sato-Akuhara2023><pubmed> 36625229 </pubmed></ref><ref name=Trimmer2019><pubmed> 31040214 </pubmed></ref>。


 嗅覚受容体に加え、2006年、[[嗅上皮]]で発現する[[微量アミン関連受容体]] ([[trace amine-associated receptor]], [[TAAR]])ファミリーも嗅覚受容体として機能することが報告された<ref name=Liberles2006><pubmed>16878137</pubmed></ref>。その後、げっ歯類嗅上皮で発現する[[グアニル酸シクラーゼ D]] ([[guanylyl cyclase D]], [[GCD]]) が呼気中の[[CO2|CO<sub>2</sub>]]、[[CS2|CS<sub>2</sub>]]の受容体としてはたらくことが示された<ref name=Hu2007><pubmed>17702944</pubmed></ref><ref name=Munger2010><pubmed>20637621</pubmed></ref>。
 前述の嗅覚受容体ファミリーに加え、2006年、[[嗅上皮]]で発現する[[微量アミン関連受容体]] ([[trace amine-associated receptor]], [[TAAR]])ファミリーも嗅覚受容体として機能することが報告された<ref name=Liberles2006><pubmed>16878137</pubmed></ref>。その後、げっ歯類嗅上皮で発現する[[グアニル酸シクラーゼ D]] ([[guanylyl cyclase D]], [[GCD]]) が呼気中の[[CO2|CO<sub>2</sub>]]、[[CS2|CS<sub>2</sub>]]の受容体としてはたらくことが示された<ref name=Hu2007><pubmed>17702944</pubmed></ref><ref name=Munger2010><pubmed>20637621</pubmed></ref>。


 さらに2016年、嗅上皮のくぼみに存在する嗅神経細胞に発現する嗅覚受容体として、[[membrane-spanning 4A receptor]] ([[MS4A]])が発見されている<ref name=Greer2016><pubmed>27238024</pubmed></ref>。
 さらに2016年、嗅上皮のくぼみに存在する嗅神経細胞に発現する嗅覚受容体として、[[membrane-spanning 4A receptor]] ([[MS4A]])が発見されている<ref name=Greer2016><pubmed>27238024</pubmed></ref>。