「液-液相分離」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
11行目: 11行目:
 液-液相分離とは、単一の均質な液体が、特定の条件下で二つの異なる液相に分かれ、それらが共存する現象を指す。液-液相分離によって成分の濃度が異なる二つの相が形成されるが、それぞれの相の成分は内部でよく混ざり、液体の性質を示すことが特徴である。液-液相分離は材料科学や化学工業の分野で研究されてきた現象であったが、2015年頃から生命科学において研究が盛んになっている<ref name=Molliex2015><pubmed>26406374</pubmed></ref><ref name=Nott2015><pubmed>25747659</pubmed></ref><ref name=Brangwynne2013><pubmed>24368804</pubmed></ref>[1-3]。
 液-液相分離とは、単一の均質な液体が、特定の条件下で二つの異なる液相に分かれ、それらが共存する現象を指す。液-液相分離によって成分の濃度が異なる二つの相が形成されるが、それぞれの相の成分は内部でよく混ざり、液体の性質を示すことが特徴である。液-液相分離は材料科学や化学工業の分野で研究されてきた現象であったが、2015年頃から生命科学において研究が盛んになっている<ref name=Molliex2015><pubmed>26406374</pubmed></ref><ref name=Nott2015><pubmed>25747659</pubmed></ref><ref name=Brangwynne2013><pubmed>24368804</pubmed></ref>[1-3]。


 細胞内の構造は、主に脂質二重層によって形成されるオルガネラ(ミトコンドリア、リソソーム、ゴルジ体など)であると考えられていた。しかし、細胞質や細胞核内には膜を持たない細胞内構造(Membrane-less Organelles, MLOs)が多数存在するという見方が広がり、それらの形成メカニズムの解明が求められていた。その契機となったのは、2009年のAnthony Hymanの研究チームのClifford Brangwynneらによる論文であった<ref name=Brangwynne2009><pubmed>19460965</pubmed></ref>[4]。彼らは線虫の生殖細胞に存在するP顆粒が流動性を持った液体であることを報告した。P顆粒が液-液相分離によって形成されることを指摘し、液-液相分離が物質の動的な区画化の仕組みとして重要な役割を担っていることが示唆された。
 細胞内の構造は、主に[[脂質二重層]]によって形成される[[オルガネラ]]([[ミトコンドリア]]、[[リソソーム]]、[[ゴルジ体]]など)であると考えられていた。しかし、[[細胞質]]や[[細胞核]]内には膜を持たない細胞内構造(membrane-less organelles, MLOs)が多数存在するという見方が広がり、それらの形成メカニズムの解明が求められていた。その契機となったのは、2009年の[[w:Anthony A. Hyman|Anthony Hyman]]の研究チームの[[wj:クリフォード・ブラングウィン|Clifford Brangwynne]]らによる論文であった<ref name=Brangwynne2009><pubmed>19460965</pubmed></ref>[4]。彼らは[[線虫]]の[[生殖細胞]]に存在する[[P顆粒]]が流動性を持った液体であることを報告した。P顆粒が液-液相分離によって形成されることを指摘し、液-液相分離が物質の動的な区画化の仕組みとして重要な役割を担っていることが示唆された。


 2011年にはBrangwynneらが、核小体が液-液相分離によって形成されることを報告し、多くの生体分子凝集体が液-液相分離の原理によって制御されていることが示唆された<ref name=Brangwynne2011><pubmed>21368180</pubmed></ref>[5]。2012年には、米国テキサス大学サウスウェスタン・メディカルセンターに所属するMichael Rosenらの研究チームによるネイチャー誌への論文や<ref name=Li2012><pubmed>22398450</pubmed></ref>[6]、Steven McKnightらの研究チームによるセル誌への論文が<ref name=Kato2012><pubmed>22579281</pubmed></ref>[7]、タンパク質の液滴に関する報告しており、これらの報告をきかっけに液-液相分離が細胞内の機能の基本原理として認識されるようになった。
 2011年にはBrangwynneらが、[[核小体]]が液-液相分離によって形成されることを報告し、多くの生体分子凝集体が液-液相分離の原理によって制御されていることが示唆された<ref name=Brangwynne2011><pubmed>21368180</pubmed></ref>[5]。2012年には、米国テキサス大学サウスウェスタン・メディカルセンターに所属するMichael Rosenらの研究チームによるネイチャー誌への論文や<ref name=Li2012><pubmed>22398450</pubmed></ref>[6]、[[w:Steven McKnight|Steven McKnight]]らの研究チームによるセル誌への論文が<ref name=Kato2012><pubmed>22579281</pubmed></ref>[7]、タンパク質の液滴に関する報告しており、これらの報告をきかっけに液-液相分離が細胞内の機能の基本原理として認識されるようになった。


 生命科学の分野では、ストレス顆粒や生殖顆粒、核小体などのMLOsが液-液相分離によるものであるとされている<ref name=Brangwynne2013 /> [3]。しかし、このような名前が付けられている明確な細胞内構造物だけでなく、一時的に形成されるもっと小さな液-液相分離による集合物も存在するとされ、細胞内でのタンパク質の動的な振る舞いを統合するメカニズムとして注目されている[8]。また、異常な液-液相分離がタンパク質凝集を引き起こし、筋萎縮性側索硬化症やパーキンソン病などの神経変性疾患の原因となる可能性が示唆されている<ref name=Shin2017><pubmed>28935776</pubmed></ref>[9]。
 生命科学の分野では、[[ストレス顆粒]]や[[生殖顆粒]]、核小体などのMLOsが液-液相分離によるものであるとされている<ref name=Brangwynne2013 /> [3]。しかし、このような名前が付けられている明確な細胞内構造物だけでなく、一時的に形成されるもっと小さな液-液相分離による集合物も存在するとされ、細胞内でのタンパク質の動的な振る舞いを統合するメカニズムとして注目されている<ref name=Banani2017><pubmed>28225081</pubmed></ref>[8]。また、異常な液-液相分離がタンパク質凝集を引き起こし、[[筋萎縮性側索硬化症]]や[[パーキンソン病]]などの[[神経変性疾患]]の原因となる可能性が示唆されている<ref name=Shin2017><pubmed>28935776</pubmed></ref>[9]。


== 原理 ==
== 原理 ==

案内メニュー