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細胞内では[[DNA]]の[[修復]]や、[[遺伝子]]の[[転写]]、タンパク質への[[翻訳]]、[[シグナル伝達]]の制御、[[自然免疫]]の応答、機能の区画化や基質の貯蔵、環境の変化への応答など、生命科学においても重要な機能が液-液相分離と関連していることが2019年頃までに次々に明らかにされてきてきた<ref name= | 細胞内では[[DNA]]の[[修復]]や、[[遺伝子]]の[[転写]]、タンパク質への[[翻訳]]、[[シグナル伝達]]の制御、[[自然免疫]]の応答、機能の区画化や基質の貯蔵、環境の変化への応答など、生命科学においても重要な機能が液-液相分離と関連していることが2019年頃までに次々に明らかにされてきてきた<ref name=白木2019>'''白木賢太郎 (2019).'''<br>『相分離生物学』東京化学同人</ref>。その結果、[[翻訳後修飾]]のようにごくわずかな[[化学修飾]]がなぜ遺伝子の転写などの生命現象を引き起こすのか、なぜ危険なプリオンが種を超えて存在しているのか、固有の構造を形成しない天然変性領域を持つ天然変性タンパク質がなぜこれだけたくさん存在するのか、細胞内にはATPがなぜmMのオーダーで存在しているのか、代謝の連続的な反応はどのように生じるのかなど、分子を研究するだけでは理解が困難だった現象に対して解答を与えられるようになった<ref name=白木2019 />。 | ||
これから生命科学の液-液相分離の研究を進めるにあたり、計測機器の発展と、既存の理論との整合が期待される<ref name= | これから生命科学の液-液相分離の研究を進めるにあたり、計測機器の発展と、既存の理論との整合が期待される<ref name=白木2021>'''白木賢太郎編 (2021).'''<br>『相分離生物学の全貌』東京化学同人</ref>。これまでの生命科学は、分子を対象とした研究が主流であり、タンパク質の立体構造を高精度に測定し、どのような分子種が細胞内に存在するのかを網羅的に分析するという手法が発達してきた。一方、今後は分子集合物をターゲットにした計測手法や、細胞の中にある分子の非破壊での計測手法の開発が期待されている。現在、細胞内の液-液相分離の研究で最も広く使われている計測技術は、[[蛍光タンパク質]]ラベルによる[[超高解像度蛍光顕微鏡]]での観察だが、非染色・非破壊で計測できる[[ラマン散乱法]]や[[赤外分光法]]などの計測技術の技術革新が期待される。 | ||
理論としては、細胞内に起こるいわゆる生物学的な液-液相分離が、試験管の中で観察できるポリマーなどの液-液相分離とどのような点で類似しており、どのような点で相違するのかについて、まだ明確でない点が多い。液-液相分離が起こることによってタンパク質がどのように活性化されたり不活化されたりするのか、または基質となる物質の蓄積がタンパク質の機能にどのような影響を及ぼすのかについても、明確には理解されていない。 | 理論としては、細胞内に起こるいわゆる生物学的な液-液相分離が、試験管の中で観察できるポリマーなどの液-液相分離とどのような点で類似しており、どのような点で相違するのかについて、まだ明確でない点が多い。液-液相分離が起こることによってタンパク質がどのように活性化されたり不活化されたりするのか、または基質となる物質の蓄積がタンパク質の機能にどのような影響を及ぼすのかについても、明確には理解されていない。 |