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細 (→エストロゲンとは) |
細 (→合成) |
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== 合成 == | == 合成 == | ||
卵巣におけるエストロゲンの合成は、脳によって調節されている。視床下部から分泌された性腺刺激ホルモン放出ホルモン(gonadotropin-releasing hormone; GnRH)が下垂体前葉に作用し、性腺刺激ホルモン(gonadotropins)の分泌が促進される。そして、性腺刺激ホルモンである卵胞刺激ホルモン(follicle-stimulating hormone; FSH)と黄体形成ホルモン(luteinizing hormone; LH)が卵巣におけるエストロゲン合成を促進する。 | 卵巣におけるエストロゲンの合成は、脳によって調節されている。視床下部から分泌された性腺刺激ホルモン放出ホルモン(gonadotropin-releasing hormone; GnRH)が下垂体前葉に作用し、性腺刺激ホルモン(gonadotropins)の分泌が促進される。そして、性腺刺激ホルモンである卵胞刺激ホルモン(follicle-stimulating hormone; FSH)と黄体形成ホルモン(luteinizing hormone; LH)が卵巣におけるエストロゲン合成を促進する。 | ||
ステロイドホルモン合成経路を'''図1'''に示す。コレステロールを起点とした複数の経路が存在する<ref name=Samavat2015><pubmed>24784887</pubmed></ref>。コレステロールの側鎖が切断されて産生したプレグネノロンがプロゲステロンまたは17α-ヒドロキシプレグネノロンに変換され、17α-ヒドロキシプロゲステロンが合成される。そして、17α-ヒドロキシプロゲステロンからアンドロステンジオンが生成された後にエストロンが合成される。さらに、エストロンは17β-エストラジオールに変換される。また、シトクロムP450アロマターゼを介した経路では、アンドロステンジオンからテストステロンに、テストステロンから17β-エストラジオールがそれぞれ合成される。シトクロムP450アロマターゼは、3分子のNADPHと酸素を消費し、1分子の17β-エストラジオールを生成する<ref name=Ryan1959><pubmed>13630892</pubmed></ref>。 | |||
=== 脳におけるステロイドホルモン合成酵素 === | === 脳におけるステロイドホルモン合成酵素 === | ||
副腎と生殖腺に存在するステロイドホルモン合成に関与する酵素のほとんどが脳でも発現している<ref name=Compagnone2000><pubmed>10662535</pubmed></ref><ref name=DoRego2009><pubmed>19505496</pubmed></ref>。例えば、steroidogenic acute regulatory protein(StAR)、translocator protein(TSPO)、シトクロムP450scc、シトクロムP450 17α、シトクロムP450アロマターゼ、および3β-ヒドロキシ-Δ⁵-ステロイドデヒドロゲナーゼ (3β-hydroxy-Δ5-steroid dehydrogenase, 3β-HSD)と17β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ (17β-hydroxysteroid dehydrogenases, 17β-HSD)の複数のサブタイプがヒトおよびげっ歯類の脳で検出されている<ref name=Compagnone2000><pubmed>10662535</pubmed></ref><ref name=DoRego2009><pubmed>19505496</pubmed></ref><ref name=Munetsuna2009><pubmed>19497980</pubmed></ref>。転写産物の相対数は、StAR ではウシ副腎の 1/100 ~ 1/200 程度、シトクロムP450sccでは 1/200,000 未満、シトクロムP450 17αおよび 3β-HSD では 1/10,000 ~ 1/20,000 程度である <ref name=Yamazaki2005><pubmed>16038956</pubmed></ref>。 | |||
コルチコイド合成に必要であるシトクロムP450c21、シトクロムP450 11β-1、およびシトクロムP450 11β-2も少量ではあるが脳で検出されている<ref name=Higo2011><pubmed>21829438</pubmed></ref>。脳内に豊富に発現するシトクロムP450 2Dアイソフォームは<ref name=Hiroi1998><pubmed>9555068</pubmed></ref><ref name=McFadyen1998><pubmed>9586955</pubmed></ref>、ステロイド骨格の21位を水酸化することから<ref name=Kishimoto2004><pubmed>14563706</pubmed></ref>、シトクロム P450 2Dアイソフォームはコルチコイド合成に寄与している可能性がある。雄ラットの海馬で発現している転写産物の相対数は、シトクロムP450c21では副腎の1/20,000 程度、P450 2D4では肝臓の1/20,000 程度、シトクロムP450 11β-1およびP450 11β-2では副腎の1/5,000 ~ 1/10,000程度である<ref name=Higo2011><pubmed>21829438</pubmed></ref>。 | |||
5α-還元酵素は、プロゲステロン、テストステロン、および 11-デオキシコルチコステロンをそれぞれの 5α-ジヒドロステロイドに変換する酵素である。一部の5α-ジヒドロステロイドは、3α-ヒドロキシステロイド脱水素酵素 (3α-HSD) によってさらに代謝される。5α-還元酵素と3α-HSD のアイソフォームが脳内で検出されている <ref name=Compagnone2000><pubmed>10662535</pubmed></ref><ref name= | 5α-還元酵素は、プロゲステロン、テストステロン、および 11-デオキシコルチコステロンをそれぞれの 5α-ジヒドロステロイドに変換する酵素である。一部の5α-ジヒドロステロイドは、3α-ヒドロキシステロイド脱水素酵素 (3α-HSD) によってさらに代謝される。5α-還元酵素と3α-HSD のアイソフォームが脳内で検出されている <ref name=Compagnone2000><pubmed>10662535</pubmed></ref><ref name=DoRego2009><pubmed>19505496</pubmed></ref>。Baulieuらは、ステロイドホルモンの硫酸エステルもニューロステロイドに含まれると主張している<ref name=Baulieu1997><pubmed>9238846</pubmed></ref>。げっ歯類の脳にプレグネノロン硫酸エステルが存在するかどうかについては議論の余地があるが、ヒトの脳には相当量のプレグネノロン硫酸エステルとDHEA硫酸エステルが存在する <ref name=Schumacher2008><pubmed>18068870</pubmed></ref>。脳内ではsteroid sulfotransferaseとsteroid sulfataseが検出されている <ref name=Compagnone2000><pubmed>10662535</pubmed></ref><ref name=DoRego2009><pubmed>19505496</pubmed></ref><ref name=Schumacher2008><pubmed>18068870</pubmed></ref>。 | ||
図1. ステロイドホルモン合成経路(文献<ref name=Yamazaki2014>< | 図1. ステロイドホルモン合成経路(文献<ref name=Yamazaki2014>'''Yamazaki T., Ishihara Y. (2014).'''<br>Y. Chapter 9 Neurosteroids: Regional Steroidogenesis. In: H Y, editor. Fifty Years of Cytochrome P450 Research. Tokyo: Springer; 2014. p. 153 - 73.</ref>より引用) | ||
典型的なニューロステロイドを太線の四角で示す。破線矢印は、ヒトにおけるback-door pathwayである。estrone-S, estrone sulfate; P4502D, cytochrome P450 2D4 in rats and cytochrome P450 2D6 in human; RDH, retinol dehydrogenase. | 典型的なニューロステロイドを太線の四角で示す。破線矢印は、ヒトにおけるback-door pathwayである。estrone-S, estrone sulfate; P4502D, cytochrome P450 2D4 in rats and cytochrome P450 2D6 in human; RDH, retinol dehydrogenase. | ||