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== サブファミリー == | == サブファミリー == | ||
哺乳類のTGF-βにはTGF-β1、-β2、-β3の3つのアイソフォームがある<ref name= | 哺乳類のTGF-βにはTGF-β1、-β2、-β3の3つのアイソフォームがある<ref name=Gentry1990><pubmed>2397217</pubmed></ref><ref name=Schlunegger1992><pubmed>1641027</pubmed></ref><ref name=tenDijke1990><pubmed>2375596</pubmed></ref><ref name=Derynck1985><pubmed>3861940</pubmed></ref><ref name=Clark1998><pubmed>9611771</pubmed></ref><ref name=Wang2023><pubmed>38067167</pubmed></ref>。各アイソフォームは別々の遺伝子の産物である。TGF-β1および-β3前駆体はそれぞれ、390と412個のアミノ酸からなる。一方で、TGF-β2前駆体にはアイソフォーム1と2の2つのアイソフォームが存在し、それぞれ414個と442個のアミノ酸からなる。一般に、これらのTGF-βはそれぞれβ1、β2、β3サブユニットの二量体からなる。 | ||
== 神経系における発現 == | == 神経系における発現 == | ||
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TGF-βシグナルの細胞内伝達様式は古典的伝達経路と非古典的伝達経路に分けられる。神経系におけるTGF-βシグナルの古典的伝達経路の活性とその機能についてはよく調べられている。一方で、非古典的伝達経路が神経系を構成する各細胞で機能しているかについては不明な点が多い。 | TGF-βシグナルの細胞内伝達様式は古典的伝達経路と非古典的伝達経路に分けられる。神経系におけるTGF-βシグナルの古典的伝達経路の活性とその機能についてはよく調べられている。一方で、非古典的伝達経路が神経系を構成する各細胞で機能しているかについては不明な点が多い。 | ||
==== 古典的シグナル伝達経路 ==== | |||
細胞内シグナル分子であるSMADタンパク質を介したシグナル伝達経路で、最終的に遺伝子の新規発現につながる<ref name=Derynck2003><pubmed>14534577</pubmed></ref><ref name=Konig2005><pubmed>15781474</pubmed></ref>。 | |||
哺乳類ではSMADは8種類あることが知られている。これらのSMADはreceptor-regulated SMAD (R-SMAD)}{common-regulated SMAD (Co-SMAD), inhibitory SMAD (I- SMAD)の3タイプに分けられる。R-SMADはTGF-β受容体によるリン酸化を受けるSMADであり、このタイプにはSMAD1、2、3、5あるいは8(9とも呼ばれる)が含まれる。TGF-βの受容体はセリン/スレオニンキナーゼファミリーの受容体に属するI型受容体とII型受容体のサブユニットで構成されている。I型およびII型受容体はそれぞれ二量体を形成する。TGF-βがII型の受容体に結合すると、I型受容体と会合して四量体を形成し、II型受容体がI型受容体のセリン残基をリン酸化することでI型受容体が活性化し、R-SMADのリン酸化を引き起こす。 | |||
TGF-βスーパーファミリータンパク質の受容体として、7種類のI型受容体と5種類のII型受容体がこれまでに同定されているが、そのうち、TGF-β RI/アクチビン様キナーゼ受容体5 (ALK 5)とアクチビン様キナーゼ受容体1 (ALK 1)がI型受容体として、TβRIIがII型受容体としてそれぞれ機能している。神経系におけるほとんどの細胞では、TGF-βはALK 5を介してシグナルを細胞内に伝達するが、ニューロンでは、ALK1を介してシグナルを細胞内に伝達することもある。Co-SMADはリン酸化されたR-SMADと複合体を形成し、R-SMADとともに核内に移行して転写制御因子として働く。Smad4はCo-SMADに分類される。また、I-SMADはR-SMADのI型受容体やCo-SMADへの結合の阻害やI型受容体のダウンレギュレーションなどを介してTGF-βシグナルの伝達を阻害する役割を持つ。I-SMADにはSMAD 6とSMAD 7が含まれる。 | |||
一般に、核内に移行したR-SMADとCo-SMADの複合体はSMAD binding elements (SBEs)と呼ばれる遺伝子DNA上の塩基配列(5’-AGAC-3’)に結合して、その下流に位置する遺伝子のmRNAへの転写を促進する。 | |||
==== 非古典的シグナル伝達経路 ==== | |||
SMAD非依存的シグナル伝達経路である。TGF-βはextracellular signal-regulated kinase (Erk) 1/2、c-Jun N-terminal kinase (JNK)、p38 MAPKを含むmitogen-activated protein kinases (MAPKs)、nuclear factor-kappa B (NF-κB)、Rho-like GTPases、phosphatidylinositol-3-kinase (PI3K)/AKTも活性化させる<ref name=Mu2012><pubmed>21701805</pubmed></ref><ref name=Choi2012><pubmed>22835455</pubmed></ref><ref name=Freudlsperger2013><pubmed>22641218</pubmed></ref>。これらのシグナル伝達分子のうち、JNKとp38 MAPKはセリン/スレオニンキナーゼであるTGF-β-activated kinase1 (TAK1) 活性の経路によって活性化される。TAK1はTAK1-binding protein (TAB) 2およびUbiquitin ligase tumor necrosis factor receptor associated factor (TRAF) 6との複合体を形成することでTβRIと結合しているが、TGF-β1の受容体への結合によってTAK1はTβRIから遊離される。遊離したTAK1はTAB1と相互作用することで自己リン酸化を引き起こし、活性状態となる。活性化したTAK1はMKK3-p38やMKK4-JNKカスケードなどの下流のシグナル伝達経路を活性化することで、細胞内にTGF-βの刺激を伝達する<ref name=Mu2012><pubmed>21701805</pubmed></ref>。 | |||
このように、TAK1の活性を起点とするMAPKs経路の活性化はSMAD依存経路とは異なり、TGF-β受容体であるTβRIキナーゼ活性に依存せずに生じる。TGF-βによるTAK1の活性はIκB kinase (IKK)を介してNF-κBシグナル伝達を活性化し、IκBαのリン酸化、NF-κBサブユニットp65の核移行およびリン酸化、ならびにNF-κB下流標的の活性化をもたらす<ref name=Freudlsperger2013><pubmed>22641218</pubmed></ref>。 | |||
=== 神経細胞での機能 === | === 神経細胞での機能 === | ||
TGF-βの神経細胞における細胞増殖/細胞生存への影響がいくつかの研究グループによって評価されている。ウズラ神経堤細胞を用いたin vitro実験では、TGF-βは神経堤細胞の増殖を阻害する一方で、神経新生を著しく増加することが報告されている<ref name=Freudlsperger2013><pubmed>22641218</pubmed></ref>。発達中のマウスの海馬および大脳皮質由来の初代培養神経細胞を用いた研究では、TGF-βは神経前駆細胞に対して増殖抑制効果を発揮することが報告されている<ref name=Vogel2010><pubmed>19587023</pubmed></ref>。また、ニワトリ胚由来培養運動ニューロンを用いた研究では、TGF-βは塩基性線維芽細胞増殖因子と相乗的に作用して運動ニューロンの生存を助けることが報告されている<ref name=Gouin1996><pubmed>8699531</pubmed></ref>。 | |||
=== グリア細胞での機能 === | === グリア細胞での機能 === | ||
In vitroの研究によって、グリア細胞の細胞増殖、細胞生存、貪食能、遺伝子発現を含む様々な細胞機能に対するTGF-βの影響が報告されている。 | In vitroの研究によって、グリア細胞の細胞増殖、細胞生存、貪食能、遺伝子発現を含む様々な細胞機能に対するTGF-βの影響が報告されている。 | ||