「オピオイド受容体」の版間の差分

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Compound B, 1-[3R, 4R)-1-cycloctylmethyl-3-hydroxymethyl-4-piperidyl]-3-ethyl-1,3-dihydro-2H-benzimidzol-2one; CTAP, D-Phe-Cys-Tyr-D-Trp-Arg-Thr-Pen-Thr-NH2; DAMGO, [D-Ala2MePhe4,Gly(ol)5]enkephalin.
Compound B, 1-[3R, 4R)-1-cycloctylmethyl-3-hydroxymethyl-4-piperidyl]-3-ethyl-1,3-dihydro-2H-benzimidzol-2one; CTAP, D-Phe-Cys-Tyr-D-Trp-Arg-Thr-Pen-Thr-NH2; DAMGO, [D-Ala2MePhe4,Gly(ol)5]enkephalin.
受容体クローニング
• 1992年に米国とフランスの独立した2つの研究グループが DORの細胞を用いた発現クローニングに成功した<ref name=Evans1992><pubmed>1335167</pubmed></ref><ref name=Kieffer1992><pubmed>1334555</pubmed></ref>。この受容体は他のG蛋白質連関型受容体と同様に細胞膜7回貫通型のものであった。その後、ホモロジーを用いたクローニング研究から MORとKOR のクローニングの成功につながり、三者に約60%の相同性が見いだされた <ref name=Stevens2009><pubmed>19273128</pubmed></ref>。細胞内/細胞外ループや細胞膜貫通領域は相同性が高く、N 末端と C 末端の相同性は低い<ref name=Kieffer1995><pubmed>8719033</pubmed></ref>。マウスとヒトの両方において、各受容体の遺伝子は別々の染色体上に位置していることがわかっている <ref name=Kieffer1995><pubmed>8719033</pubmed></ref>。さらに1994年にはOpioid receptor-like 1 (ORL1)がクローニングされ<ref name=Mollereau1994><pubmed>8137918</pubmed></ref>、1995年にはその内在性リガンドNociceptin/Orphanin FQ (N/OFQ) (ノシセプチン)が単離された <ref name=Meunier1995><pubmed>7566152</pubmed></ref><ref name=Reinscheid1995><pubmed>7481766</pubmed></ref>。
スプライスバリアント
スプライスバリアントとは,遺伝子に含まれる複数のエキソンが、遺伝子転写の過程において、mRNA 前駆体からイントロンが切り落とされてmRNA が産生される際に、同様に切り落とされることにより生じる多様性のことである。OPRM1遺伝子には現在までに、19 個のエキソンに基づく34 種類のMOR-1 スプライスバリアントの存在が報告されている <ref name=Pasternak2013><pubmed>24076545</pubmed></ref>。発見されたMOR-1 スプライスバリアントの大部分は,MOR-1 と同様に7 回細胞膜貫通構造を持つ受容体であるが, MOR-1 スプライスバリアントの中にはエキソン1 が欠損した6 回細胞膜貫通構造を持つものも見いだされている。エキソン2 およびエキソン3 が欠損する、あるいは、エキソンの途中にストップコドンが存在することにより結果的に1 回細胞膜貫通構造となってしまうMOR-1 スプライスバリアントも存在するが、これらの生理機能は不明なままである<ref name=Pasternak2013><pubmed>24076545</pubmed></ref>。近年では、特定のスライスバリアントを標的とするリガンドも報告されてきている<ref name=Mizoguchi2013><pubmed>23623932</pubmed></ref><ref name=Mizoguchi2011><pubmed>21047509</pubmed></ref>。
遺伝子多型
オピオイドの感受性には大きな個人差があることはよく知られており、同じ投与量でも、良好な鎮痛効果が得られる患者もいれば十分な鎮痛効果が得られず悪心などの副作用を生じる患者も見られる。MOR遺伝子 OPRM1 の翻訳領域に存在する A118G多型 (rs1799971) の G アレルの保有者は、オピオイド感受性が低いことが報告されており、IVS3+A8449G 多型(rs9384179)の G アレル保有者は、オピオイド感受性が高いことが報告されている<ref name=Fukuda2009><pubmed>19783098</pubmed></ref><ref name=Fukuda2010><pubmed>21174568</pubmed></ref><ref name=Yoshida2018><pubmed>30106264</pubmed></ref>。


== シグナル伝達 ==
== シグナル伝達 ==
この研究はNeuroblastoma x glioma hybrid NG108-15細胞におけるDORを介したcyclic AMP (cAMP) 産生抑制の報告を起源として発展してきた<ref name=Law1993><pubmed>8388986</pubmed></ref>。3種類のオピオイド受容体蛋白質はいずれもアミノ基側末端が細胞外、カルボキシル基側末端が細胞内に存在するG蛋白質共役型受容体(GPCR)の一種である。オピオイド受容体にリガンドが結合するとG蛋白質の一種であるGi/Go蛋白質を介してアデニル酸シクラーゼ (AC) の機能を抑える。これによりセカンドメッセンジャーであり、プロテインキナーゼの活性化を促すcAMP の産生が抑制されることになる。さらにはK+チャネルの開口促進やCa2+チャネルの開口抑制、細胞機能の調節を行う。すなわち、グルタミン酸やサブスタンス P などの疼痛伝達に重要な神経伝達物質の放出を抑制することで末梢性鎮痛効果を生じるとされている。
Neuroblastoma x glioma hybrid NG108-15細胞におけるDORを介したcyclic AMP (cAMP) 産生抑制の報告を起源として発展してきた<ref name=Law1993><pubmed>8388986</pubmed></ref>。3種類のオピオイド受容体蛋白質はいずれもアミノ基側末端が細胞外、カルボキシル基側末端が細胞内に存在するG蛋白質共役型受容体(GPCR)の一種である。オピオイド受容体にリガンドが結合するとG蛋白質の一種であるGi/Go蛋白質を介してアデニル酸シクラーゼ (AC) の機能を抑える。これによりセカンドメッセンジャーであり、プロテインキナーゼの活性化を促すcAMP の産生が抑制されることになる。さらにはK+チャネルの開口促進やCa2+チャネルの開口抑制、細胞機能の調節を行う。すなわち、グルタミン酸やサブスタンス P などの疼痛伝達に重要な神経伝達物質の放出を抑制することで末梢性鎮痛効果を生じるとされている。


・オピオイド受容体シグナル伝達の turn off 機構
・オピオイド受容体シグナル伝達の turn off 機構
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図1 シナプス後オピオイド受容体シグナル伝達の概要。アゴニスト刺激は、オピオイド受容体(MOR、KOR、DOR、NOR)とヘテロ三量体Gi/o蛋白質との共役を導き、G蛋白質の活性化とGαおよびGβγサブユニットの解離を引き起こし、これらがそれぞれ別のエフェクター分子を活性化する。Gβγ複合体はCa2+チャネルの阻害とK+チャネルの活性化を担う。一方、Gαはアデニル酸シクラーゼ活性を阻害する。その後、受容体はGRKやPKCなどのキナーゼによってリン酸化され、脱感作、βアレスチンのリクルートメント、そしてこれらの受容体の内在化が起こる。この時点で、受容体は分解されるか、細胞膜へリサイクルされる。 βアレスチン依存性エンドソームは、様々なエフェクター分子にもシグナルを伝達する。GRK:G 蛋白質結合受容体キナーゼ、PKC:プロテインキナーゼC、 MAPK:マイトジェン活性化プロテインキナーゼ、P:リン酸化。(文献 12 Figure 1から改変)<ref name=Coutens2023><pubmed>36584882</pubmed></ref>
図1 シナプス後オピオイド受容体シグナル伝達の概要。アゴニスト刺激は、オピオイド受容体(MOR、KOR、DOR、NOR)とヘテロ三量体Gi/o蛋白質との共役を導き、G蛋白質の活性化とGαおよびGβγサブユニットの解離を引き起こし、これらがそれぞれ別のエフェクター分子を活性化する。Gβγ複合体はCa2+チャネルの阻害とK+チャネルの活性化を担う。一方、Gαはアデニル酸シクラーゼ活性を阻害する。その後、受容体はGRKやPKCなどのキナーゼによってリン酸化され、脱感作、βアレスチンのリクルートメント、そしてこれらの受容体の内在化が起こる。この時点で、受容体は分解されるか、細胞膜へリサイクルされる。 βアレスチン依存性エンドソームは、様々なエフェクター分子にもシグナルを伝達する。GRK:G 蛋白質結合受容体キナーゼ、PKC:プロテインキナーゼC、 MAPK:マイトジェン活性化プロテインキナーゼ、P:リン酸化。(文献 12 Figure 1から改変)<ref name=Coutens2023><pubmed>36584882</pubmed></ref>


受容体クローニング
 
• 1992年に米国とフランスの独立した2つの研究グループが DORの細胞を用いた発現クローニングに成功した<ref name=Evans1992><pubmed>1335167</pubmed></ref><ref name=Kieffer1992><pubmed>1334555</pubmed></ref>。この受容体は他のG蛋白質連関型受容体と同様に細胞膜7回貫通型のものであった。その後、ホモロジーを用いたクローニング研究から MORとKOR のクローニングの成功につながり、三者に約60%の相同性が見いだされた <ref name=Stevens2009><pubmed>19273128</pubmed></ref>。細胞内/細胞外ループや細胞膜貫通領域は相同性が高く、N 末端と C 末端の相同性は低い<ref name=Kieffer1995><pubmed>8719033</pubmed></ref>。マウスとヒトの両方において、各受容体の遺伝子は別々の染色体上に位置していることがわかっている <ref name=Kieffer1995><pubmed>8719033</pubmed></ref>。さらに1994年にはOpioid receptor-like 1 (ORL1)がクローニングされ<ref name=Mollereau1994><pubmed>8137918</pubmed></ref>、1995年にはその内在性リガンドNociceptin/Orphanin FQ (N/OFQ) (ノシセプチン)が単離された <ref name=Meunier1995><pubmed>7566152</pubmed></ref><ref name=Reinscheid1995><pubmed>7481766</pubmed></ref>。


各受容体サブタイプの特徴
各受容体サブタイプの特徴
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標識受容体を導入した細胞における共免疫沈降法によりNORは MORとヘテロ二量体を形成することが明らかにされている<ref name=Evans2010><pubmed>19887453</pubmed></ref><ref name=Wang2005><pubmed>15748148</pubmed></ref>。おそらく細胞内領域の C 末端側が相互作用に重要と考えられている<ref name=Wang2005><pubmed>15748148</pubmed></ref>。加えて最近、蛍光標識された、MOR および NOR特異的リガンドを用いた解析により、両者が相互作用することが証明された<ref name=Bird2022><pubmed>35061679</pubmed></ref>。ヘテロ二量体化することによって、MORアゴニストの結合親和性、アデニル酸シクラーゼ活性、ERK1/2 のリン酸化の程度などが正方向に増加するなど、薬理学的特性に影響する。しかし、二量体化はMOR の交差脱感作を誘導し、DAMGO のアデニル酸シクラーゼ阻害作用を弱めたり、ERK1/2 リン酸化作用を強めたりする<ref name=Wang2005><pubmed>15748148</pubmed></ref>。一方で、NOR 単独発現細胞とヘテロ二量体発現細胞の間でN/OFQ の作用に有意な変化は認められていない。ただし、G蛋白質活性化作用の低下傾向と、ERK1/2 リン酸化作用の遅延傾向は示されている<ref name=Bird2022><pubmed>35061679</pubmed></ref>。
標識受容体を導入した細胞における共免疫沈降法によりNORは MORとヘテロ二量体を形成することが明らかにされている<ref name=Evans2010><pubmed>19887453</pubmed></ref><ref name=Wang2005><pubmed>15748148</pubmed></ref>。おそらく細胞内領域の C 末端側が相互作用に重要と考えられている<ref name=Wang2005><pubmed>15748148</pubmed></ref>。加えて最近、蛍光標識された、MOR および NOR特異的リガンドを用いた解析により、両者が相互作用することが証明された<ref name=Bird2022><pubmed>35061679</pubmed></ref>。ヘテロ二量体化することによって、MORアゴニストの結合親和性、アデニル酸シクラーゼ活性、ERK1/2 のリン酸化の程度などが正方向に増加するなど、薬理学的特性に影響する。しかし、二量体化はMOR の交差脱感作を誘導し、DAMGO のアデニル酸シクラーゼ阻害作用を弱めたり、ERK1/2 リン酸化作用を強めたりする<ref name=Wang2005><pubmed>15748148</pubmed></ref>。一方で、NOR 単独発現細胞とヘテロ二量体発現細胞の間でN/OFQ の作用に有意な変化は認められていない。ただし、G蛋白質活性化作用の低下傾向と、ERK1/2 リン酸化作用の遅延傾向は示されている<ref name=Bird2022><pubmed>35061679</pubmed></ref>。


スプライスバリアント
スプライスバリアントとは,遺伝子に含まれる複数のエキソンが、遺伝子転写の過程において、mRNA 前駆体からイントロンが切り落とされてmRNA が産生される際に、同様に切り落とされることにより生じる多様性のことである。OPRM1遺伝子には現在までに、19 個のエキソンに基づく34 種類のMOR-1 スプライスバリアントの存在が報告されている <ref name=Pasternak2013><pubmed>24076545</pubmed></ref>。発見されたMOR-1 スプライスバリアントの大部分は,MOR-1 と同様に7 回細胞膜貫通構造を持つ受容体であるが, MOR-1 スプライスバリアントの中にはエキソン1 が欠損した6 回細胞膜貫通構造を持つものも見いだされている。エキソン2 およびエキソン3 が欠損する、あるいは、エキソンの途中にストップコドンが存在することにより結果的に1 回細胞膜貫通構造となってしまうMOR-1 スプライスバリアントも存在するが、これらの生理機能は不明なままである<ref name=Pasternak2013><pubmed>24076545</pubmed></ref>。近年では、特定のスライスバリアントを標的とするリガンドも報告されてきている<ref name=Mizoguchi2013><pubmed>23623932</pubmed></ref><ref name=Mizoguchi2011><pubmed>21047509</pubmed></ref>。
遺伝子多型
オピオイドの感受性には大きな個人差があることはよく知られており、同じ投与量でも、良好な鎮痛効果が得られる患者もいれば十分な鎮痛効果が得られず悪心などの副作用を生じる患者も見られる。MOR遺伝子 OPRM1 の翻訳領域に存在する A118G多型 (rs1799971) の G アレルの保有者は、オピオイド感受性が低いことが報告されており、IVS3+A8449G 多型(rs9384179)の G アレル保有者は、オピオイド感受性が高いことが報告されている<ref name=Fukuda2009><pubmed>19783098</pubmed></ref><ref name=Fukuda2010><pubmed>21174568</pubmed></ref><ref name=Yoshida2018><pubmed>30106264</pubmed></ref>。


受容体遺伝子欠損マウス
受容体遺伝子欠損マウス