「オピオイド受容体」の版間の差分

105行目: 105行目:
 マクロファージの貪食やTNF-αの分泌への関与が示唆されているが<ref name=Roy1998><pubmed>9795212</pubmed></ref>、脾臓および胸腺細胞数の減少、およびマイトジェン誘導性増殖作用への関与は認められていない。
 マクロファージの貪食やTNF-αの分泌への関与が示唆されているが<ref name=Roy1998><pubmed>9795212</pubmed></ref>、脾臓および胸腺細胞数の減少、およびマイトジェン誘導性増殖作用への関与は認められていない。


== δオピオイド受容体 (Delta-Opioid Receptor/DOP, OP1) ==
=== δオピオイド受容体 ===
DORは、IUPHAR 命名法では δ 受容体または DOP 受容体と表される。げっ歯類の mRNA 分布に従って、ヒトの中枢神経系における DOR は、海馬や扁桃体などの皮質領域と辺縁系構造、および基底核と視床下部で発現している <ref name=Chu Sin Chung2013><pubmed>23764370</pubmed></ref><ref name=Peckys1999><pubmed>10336124</pubmed></ref><ref name=Peng2012><pubmed>22356890</pubmed></ref><ref name=Simonin1994><pubmed>7808419</pubmed></ref><ref name=Smith1999><pubmed>10478647</pubmed></ref>。上述した通り、オピオイド受容体の中で最初にクローニングされた受容体である。エンケファリンに対して強い親和性を持つ受容体として発見されたものであり、中枢神経系に広く分布している。
 エンケファリンに対して強い親和性を持つ受容体として発見されたものであり、中枢神経系に広く分布している。海馬や扁桃体などの皮質領域と辺縁系構造、および基底核と視床下部で発現している <ref name=Chung2013><pubmed>23764370</pubmed></ref><ref name=Peckys1999><pubmed>10336124</pubmed></ref><ref name=Peng2012><pubmed>22356890</pubmed></ref><ref name=Simonin1994><pubmed>7808419</pubmed></ref><ref name=Smith1999><pubmed>10478647</pubmed></ref>


=== 生理作用 ===
====生理作用 ====
DORは抗不安作用、抗うつ作用、身体・精神依存、あるいは、MORより作用が弱いが鎮痛にも関与している事が知られている。DOR作動薬の作用は拮抗薬BNTXにより遮断されるδ1型と拮抗薬NTBによって拮抗されるδ2型の二つに分けられるとする報告はあるが<ref name=Sofuoglu1993><pubmed>8383271</pubmed></ref><ref name=Thorat1997><pubmed>9399992</pubmed></ref>、δ1、δ2受容体が実際に存在するかどうかは明らかになっていない。
 抗不安作用、抗うつ作用、身体・精神依存、あるいは、MORより作用が弱いが鎮痛にも関与している事が知られている。DOR作動薬の作用は拮抗薬BNTXにより遮断されるδ1型と拮抗薬NTBによって拮抗されるδ2型の二つに分けられるとする報告はあるが<ref name=Sofuoglu1993><pubmed>8383271</pubmed></ref><ref name=Thorat1997><pubmed>9399992</pubmed></ref>、実際に存在するかどうかは明らかになっていない。


=== 細胞内局在 ===
====細胞内局在 ====
DOR の細胞内局在については、細胞膜に加えて細胞内部位にも存在するとの議論がある<ref name=Cahill2001><pubmed>11745608</pubmed></ref><ref name=Gendron2006><pubmed>16421315</pubmed></ref><ref name=Scherrer2009><pubmed>19524516</pubmed></ref><ref name=Wang2001><pubmed>11312309</pubmed></ref>。いくつかの報告では、慢性的なモルヒネ処置によってラット脊髄後角の細胞表面のDOR の発現が増加することが示されており<ref name=Cahill2001><pubmed>11567050</pubmed></ref>、この効果は MOR 受容体の活性に依存し、MOR阻害により遮断される <ref name=Cahill2001><pubmed>11567050</pubmed></ref>。また、MORと同様に、DOR リガンドによる刺激後、DORのリン酸化およびアレスチンのリクルートによって脱感作される<ref name=Coutens2023><pubmed>36584882</pubmed></ref><ref name=Hasbi1998><pubmed>9572300</pubmed></ref><ref name=Law2000><pubmed>10893226</pubmed></ref>。DOR のリン酸化のうち、C 末端リン酸化がオピオイド受容体の調節に重要であることが示されている。DOR では、Ser363 残基が重要なリン酸化部位である <ref name=Bradbury2009><pubmed>19344370</pubmed></ref><ref name=Guo2000><pubmed>11040053</pubmed></ref>。G 蛋白質結合受容体キナーゼ 2 (GRK2) によって媒介されるこのリン酸化イベントは、脱感作の初期イベントになる<ref name=Guo2000><pubmed>11040053</pubmed></ref><ref name=Pei1995><pubmed>7651349</pubmed></ref>。他のアミノ酸残基も DOR の調節に関与しており、例えば、Thr353 は [D-Ala2、D-Leu5]-エンケファリン (DADLE) を介した DOR のダウンレギュレーションに重要であることがわかっている。また、Leu245 と Leu246 を削除することにより、アゴニスト結合 DOR のリソソームへの輸送が遅延することから、これらは、リソソーム標的化モチーフとして機能していると考えられている <ref name=Cvejic1996><pubmed>8626742</pubmed></ref><ref name=Trapaidze1996><pubmed>8910588</pubmed></ref><ref name=Varga2004><pubmed>15567186</pubmed></ref>。
 細胞内局在については、細胞膜に加えて細胞内部位にも存在するとの議論がある<ref name=Cahill2001a><pubmed>11745608</pubmed></ref><ref name=Gendron2006><pubmed>16421315</pubmed></ref><ref name=Scherrer2009><pubmed>19524516</pubmed></ref><ref name=Wang2001><pubmed>11312309</pubmed></ref>。いくつかの報告では、慢性的なモルヒネ処置によってラット脊髄後角の細胞表面のDOR の発現が増加することが示されており<ref name=Cahill2001b><pubmed>11567050</pubmed></ref>、この効果は MOR 受容体の活性に依存し、MOR阻害により遮断される <ref name=Cahill2001b><pubmed>11567050</pubmed></ref>。また、MORと同様に、DOR リガンドによる刺激後、DORのリン酸化およびアレスチンのリクルートによって脱感作される<ref name=Coutens2023><pubmed>36584882</pubmed></ref><ref name=Hasbi1998><pubmed>9572300</pubmed></ref><ref name=Law2000><pubmed>10893226</pubmed></ref>。DOR のリン酸化のうち、C 末端リン酸化がオピオイド受容体の調節に重要であることが示されている。DOR では、Ser363 残基が重要なリン酸化部位である <ref name=Bradbury2009><pubmed>19344370</pubmed></ref><ref name=Guo2000><pubmed>11040053</pubmed></ref>。G 蛋白質結合受容体キナーゼ 2 (GRK2) によって媒介されるこのリン酸化は、脱感作の初期イベントになる<ref name=Guo2000><pubmed>11040053</pubmed></ref><ref name=Pei1995><pubmed>7651349</pubmed></ref>。


=== ・細胞内シグナル伝達 ===
 他のアミノ酸残基も DOR の調節に関与しており、例えば、Thr353 は [D-Ala2、D-Leu5]-エンケファリン (DADLE) を介した DOR のダウンレギュレーションに重要であることがわかっている。また、Leu245 と Leu246 を削除することにより、アゴニスト結合 DOR のリソソームへの輸送が遅延することから、これらは、リソソーム標的化モチーフとして機能していると考えられている <ref name=Cvejic1996><pubmed>8626742</pubmed></ref><ref name=Trapaidze1996><pubmed>8910588</pubmed></ref><ref name=Varga2004><pubmed>15567186</pubmed></ref>。
DOR の活性化により Gi/Go活性化、cAMP 生成の抑制、ERK などのシグナル伝達キナーゼの活性化、電位依存性Ca2+チャネルの抑制、内向き整流性 K+ チャネルの開口などが生じる<ref name=Buzas1998><pubmed>9422352</pubmed></ref><ref name=Childers1991><pubmed>1851914</pubmed></ref><ref name=Kovoor1997><pubmed>9346897</pubmed></ref><ref name=Pei1995><pubmed>7651349</pubmed></ref><ref name=Shahabi1999><pubmed>10376935</pubmed></ref><ref name=Zhang1999><pubmed>10501195</pubmed></ref>。その後、受容体C末端側のリン酸化とβアレスチンのリクルートを経て<ref name=Al-Hasani2011><pubmed>22020140</pubmed></ref><ref name=Cen2001><pubmed>11259507</pubmed></ref>、 DOR はMORと同様に内在化し、リサイクルまたはリソソームで分解される<ref name=Ko1999><pubmed>10366739</pubmed></ref><ref name=Tsao2000><pubmed>10753919</pubmed></ref>。
 
====細胞内シグナル伝達 ====
 DOR の活性化により Gi/Go活性化、cAMP 生成の抑制、ERK などのシグナル伝達キナーゼの活性化、電位依存性Ca2+チャネルの抑制、内向き整流性 K+ チャネルの開口などが生じる<ref name=Buzas1998><pubmed>9422352</pubmed></ref><ref name=Childers1991><pubmed>1851914</pubmed></ref><ref name=Kovoor1997><pubmed>9346897</pubmed></ref><ref name=Pei1995><pubmed>7651349</pubmed></ref><ref name=Shahabi1999><pubmed>10376935</pubmed></ref><ref name=Zhang1999><pubmed>10501195</pubmed></ref>。その後、受容体C末端側のリン酸化とβアレスチンのリクルートを経て<ref name=Al-Hasani2011><pubmed>22020140</pubmed></ref><ref name=Cen2001><pubmed>11259507</pubmed></ref>、 DOR はMORと同様に内在化し、リサイクルまたはリソソームで分解される<ref name=Ko1999><pubmed>10366739</pubmed></ref><ref name=Tsao2000><pubmed>10753919</pubmed></ref>。
 
====KOマウス ====
 マウスDOR-1のエクソン2を欠損させた変異マウスでは、3H-[D-Pen2,D-Pen5]エンケファリン(3H-DPDPE)および3H-[D-Ala2,D-Glu4]デルトルフィン(3H-デルトルフィン-2)への結合が完全に消失することから、DOR-1がδ1およびδ2受容体サブタイプの両方をコードしていることが示されている <ref name=Zhu1999><pubmed>10677041</pubmed></ref>。
 
===== モルヒネ感作に対する感受性の向上 =====
 モルヒネの反復投与後に形成される感作が増強する。その一方で、モルヒネの運動作用に対する耐性形成は低下し、モルヒネの条件付け報酬効果が大幅に減少することも示された<ref name=Chefer2009><pubmed>18704097</pubmed></ref>。
 
===== 炎症性疼痛に対する感受性の向上 =====
 炎症性疼痛に対する感受性の増加を示し、DORが炎症性疼痛経路の調節に役割を果たしていることが示唆されている。完全フロイントアジュバント誘発性の炎症性痛覚過敏は、DOR KO マウスにおいて機械的異痛症および温熱性痛覚過敏のいずれも増強する。さらに、デルタ選択的作動薬SNC80による抗痛覚過敏作用は、DOR KO マウスで消失する。補足として、KOR KO では機械的異痛症の増強は認められるが、温熱性痛覚過敏は影響を受けず、MOR KO ではいずれも影響を受けないことが報告されている<ref name=Gaveriaux-Ruff2008><pubmed>18513322</pubmed></ref>。
 
===== その他 =====
 DORは、報酬、依存、さらには低酸素性虚血性脳損傷に対する神経保護など、様々なプロセスに関与する <ref name=Chefer2009><pubmed>18704097</pubmed></ref><ref name=Nitsche2002><pubmed>12486185</pubmed></ref>。DOR KO や、内因性リガンドであるプロエンケファリンAの機能遺伝子欠損マウスでは、モルヒネ鎮痛耐性を発現しない。その一方、モルヒネ鎮痛耐性を欠くNMDA受容体欠損近交系マウス129S6系統は、naltrexone 拮抗薬誘発性オピオイド離脱症状を呈する <ref name=Chefer2009><pubmed>18704097</pubmed></ref><ref name=Nitsche2002><pubmed>12486185</pubmed></ref>。


== κオピオイド受容体 (Kappa-Opioid Receptor/KOP, OP2) ==
== κオピオイド受容体 (Kappa-Opioid Receptor/KOP, OP2) ==