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== 立体構造 == | == 立体構造 == | ||
Gsおよび Gi タンパク質との相互作用様式やシグナル伝達の構造的基盤が、X線結晶構造解析<ref name=Rasmussen2011><pubmed>21772288</pubmed></ref>やクライオ電子顕微鏡(cryo-EM)<ref name=Liang2017><pubmed>28437792</pubmed></ref><ref name=Zhang2017><pubmed>28538729</pubmed></ref>による解析によって明らかにされた。DAMGO を用いた研究から、MOR-Gi複合体形成は、膜貫通受容体の6番目のヘリックスと、Gタンパク質のαサブユニットα5へリックスとの間の相互作用で特徴付られると報告された<ref name=Koehl2018><pubmed>29899455</pubmed></ref>。さらに、内因性オピオイドペプチドを用いた研究から、βエンドルフィンおよびエンドモルフィン結合 MOR、デルトルフィン結合 DOR、ダイノルフィン結合KOR、ノシセプチン結合NORを含む5つのオピオイド受容体-Gi複合体の構造も明らかにされている <ref name=Wang2023><pubmed>36638794</pubmed></ref>。δ受容体の結晶構造解析では、Gi機能に連関する領域とβ-アレスチン活性に連関する領域が明らかにされ、Giを特異的に活性化するバイアスド アゴニストによる構造変化が明らかにされた <ref name=Cheng2024><pubmed>39333070</pubmed></ref>。 | Gsおよび Gi タンパク質との相互作用様式やシグナル伝達の構造的基盤が、X線結晶構造解析<ref name=Rasmussen2011><pubmed>21772288</pubmed></ref>やクライオ電子顕微鏡(cryo-EM)<ref name=Liang2017><pubmed>28437792</pubmed></ref><ref name=Zhang2017><pubmed>28538729</pubmed></ref>による解析によって明らかにされた。DAMGO を用いた研究から、MOR-Gi複合体形成は、膜貫通受容体の6番目のヘリックスと、Gタンパク質のαサブユニットα5へリックスとの間の相互作用で特徴付られると報告された<ref name=Koehl2018><pubmed>29899455</pubmed></ref>。さらに、内因性オピオイドペプチドを用いた研究から、βエンドルフィンおよびエンドモルフィン結合 MOR、デルトルフィン結合 DOR、ダイノルフィン結合KOR、ノシセプチン結合NORを含む5つのオピオイド受容体-Gi複合体の構造も明らかにされている <ref name=Wang2023><pubmed>36638794</pubmed></ref>。δ受容体の結晶構造解析では、Gi機能に連関する領域とβ-アレスチン活性に連関する領域が明らかにされ、Giを特異的に活性化するバイアスド アゴニストによる構造変化が明らかにされた <ref name=Cheng2024><pubmed>39333070</pubmed></ref>。 | ||
[[ファイル:Ueda opioid receptor Fig.png|サムネイル|400px|'''図. シナプス後オピオイド受容体シグナル伝達の概要'''<br>アゴニスト刺激は、オピオイド受容体(MOR、KOR、DOR、NOR)とヘテロ三量体Gi/oタンパク質との共役を導き、Gタンパク質の活性化とGiαおよびGβγサブユニットの解離を引き起こし、これらがそれぞれ別のエフェクター分子を活性化する。Gβγ複合体はCa<sup>2+</sup>チャネルの阻害とK<sup>+</sup>チャネルの活性化を担う。一方、Giαはアデニル酸シクラーゼ活性を阻害する。その後、受容体はGRKやPKCなどのキナーゼによってリン酸化され、脱感作、βアレスチンのリクルートメント、そしてこれらの受容体の内在化が起こる。この時点で、受容体は分解されるか、細胞膜へリサイクルされる。 βアレスチン依存性エンドソームは、様々なエフェクター分子にもシグナルを伝達する。GRK:G タンパク質結合受容体キナーゼ、PKC:プロテインキナーゼC、 MAPK:マイトジェン活性化プロテインキナーゼ、P:リン酸化。文献<ref name=Coutens2023><pubmed>36584882</pubmed></ref>から改変]] | |||
== シグナル伝達 == | == シグナル伝達 == | ||
Neuroblastoma x glioma hybrid NG108-15細胞におけるDORを介したcyclic AMP (cAMP) 産生抑制の報告を起源として発展してきた<ref name=Law1993><pubmed>8388986</pubmed></ref>。オピオイド受容体にリガンドが結合するとGタンパク質の一種であるGi/Goタンパク質を介してアデニル酸シクラーゼ (AC) の機能を抑える。これによりセカンドメッセンジャーであり、プロテインキナーゼの活性化を促すcAMP の産生が抑制されることになる。さらにはK<sup>+</sup>チャネルの開口促進やCa<sup>2+</sup>チャネルの開口抑制、細胞機能の調節を行なうことでグルタミン酸やサブスタンスPなどの疼痛伝達に重要な神経伝達物質の放出を抑制することで末梢性鎮痛効果を生じるとされている。 | Neuroblastoma x glioma hybrid NG108-15細胞におけるDORを介したcyclic AMP (cAMP) 産生抑制の報告を起源として発展してきた<ref name=Law1993><pubmed>8388986</pubmed></ref>。オピオイド受容体にリガンドが結合するとGタンパク質の一種であるGi/Goタンパク質を介してアデニル酸シクラーゼ (AC) の機能を抑える。これによりセカンドメッセンジャーであり、プロテインキナーゼの活性化を促すcAMP の産生が抑制されることになる。さらにはK<sup>+</sup>チャネルの開口促進やCa<sup>2+</sup>チャネルの開口抑制、細胞機能の調節を行なうことでグルタミン酸やサブスタンスPなどの疼痛伝達に重要な神経伝達物質の放出を抑制することで末梢性鎮痛効果を生じるとされている。 | ||
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精製 MORと精製GiやGoタンパク質との再構成研究から、アゴニストの受容体への結合親和性は、Gタンパク質非存在下では低いが、Gタンパク質との再構成により上昇することが示された<ref name=Ueda1988><pubmed>2842801</pubmed></ref><ref name=Ueda1990><pubmed>2154551</pubmed></ref>。この事実はオピオイド受容体がアゴニストにより活性化されると、Gタンパク質が受容体から乖離することでアゴニストの受容体親和性が低下し、結果としてオピオイド受容体シグナル伝達のturn offが生じると理解される。一方、細胞内シグナル伝達におけるturn off機構としてはオピオイド受容体がCキナーゼや受容体キナーゼによりリン酸化を受けることにおいても観察される。後者におけるリン酸化はβアレスチンにより固定される。すなわち、リクルートされたβアレスチンがリン酸化受容体に結合することにより、オピオイド受容体とGタンパク質との相互作用が阻害される。 | 精製 MORと精製GiやGoタンパク質との再構成研究から、アゴニストの受容体への結合親和性は、Gタンパク質非存在下では低いが、Gタンパク質との再構成により上昇することが示された<ref name=Ueda1988><pubmed>2842801</pubmed></ref><ref name=Ueda1990><pubmed>2154551</pubmed></ref>。この事実はオピオイド受容体がアゴニストにより活性化されると、Gタンパク質が受容体から乖離することでアゴニストの受容体親和性が低下し、結果としてオピオイド受容体シグナル伝達のturn offが生じると理解される。一方、細胞内シグナル伝達におけるturn off機構としてはオピオイド受容体がCキナーゼや受容体キナーゼによりリン酸化を受けることにおいても観察される。後者におけるリン酸化はβアレスチンにより固定される。すなわち、リクルートされたβアレスチンがリン酸化受容体に結合することにより、オピオイド受容体とGタンパク質との相互作用が阻害される。 | ||
さらに、βアレスチンはオピオイド受容体の内在化および脱感作を促すとともに、それ自身によりc-Src、Akt、ERKなどのいくつかのシグナル伝達分子の足場となり、Gタンパク質非依存性の、あるいは、Gタンパク質機能を抑制するシグナル伝達機構が存在することも報告されている(''' | さらに、βアレスチンはオピオイド受容体の内在化および脱感作を促すとともに、それ自身によりc-Src、Akt、ERKなどのいくつかのシグナル伝達分子の足場となり、Gタンパク質非依存性の、あるいは、Gタンパク質機能を抑制するシグナル伝達機構が存在することも報告されている('''図''')。こうした G タンパク質非依存性シグナルが副作用に関わるという知見から、Gタンパク質偏向性アゴニストが副作用の少ない治療薬開発のために重要であるという考え方(バイアスドアゴニスト仮説)がある。しかしながら、βアレスチンを介するシグナルの生理的意義については、未だ議論の渦中である。<ref name=Bruchas2010><pubmed>20401607</pubmed></ref><ref name=Che2023><pubmed>37995655</pubmed></ref><ref name=Coutens2023><pubmed>36584882</pubmed></ref><ref name=Ju2025><pubmed>40076488</pubmed></ref><ref name=Kelly2023><pubmed>36170657</pubmed></ref><ref name=Lefkowitz2005><pubmed>15845844</pubmed></ref><ref name=Martyn2019><pubmed>30673555</pubmed></ref><ref name=Shukla2011><pubmed>21764321</pubmed></ref>。 | ||
== 各受容体サブタイプの特徴 == | == 各受容体サブタイプの特徴 == | ||