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英:opioid receptor 独:Opioidrezeptor 仏:récepteur opiacé | 英:opioid receptor 独:Opioidrezeptor 仏:récepteur opiacé | ||
{{box|text= オピオイド受容体とはモルヒネ様物質(オピオイド)の作用発現に関与する細胞表面受容体タンパク質である。少なくとも3種類のサブタイプが存在しているが、いずれもGi/ | {{box|text= オピオイド受容体とはモルヒネ様物質(オピオイド)の作用発現に関与する細胞表面受容体タンパク質である。少なくとも3種類のサブタイプが存在しているが、いずれもGi/Go共役型の7回膜貫通型受容体である。受容体シグナル伝達、受容体クローニング、遺伝子欠損動物作成による表現型解析や結晶構造解析が行われてきた。分子細胞生物学、構造生物学を用いたこれらの研究成果を組み合わせることにより、新しいオピオイド鎮痛薬として、Gタンパク質偏向性オピオイド受容体アゴニストが創出され、臨床適応された。また、受容体の動態解析から、多量体形成の可能性が示唆されることとなり、疼痛をはじめとする各種病態に対する | ||
新規治療標的としてオピオイド受容体ヘテロ二量体の役割も注目されている。}} | |||
== 研究の歴史 == | == 研究の歴史 == | ||
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OPRM1遺伝子には現在までに、19 個の[[エクソン]]に基づく34種類の[[スプライス変異体]]の存在が報告されている <ref name=Pasternak2013><pubmed>24076545</pubmed></ref>。発見された変異体の大部分は,7回細胞膜貫通構造を持つ受容体であるが, 中にはエクソン1が欠損した6回細胞膜貫通構造を持つものも見いだされている。エクソン2および3が欠損する、あるいは、エクソンの途中に[[停止コドン]]が存在することにより結果的に1回細胞膜貫通構造となってしまう変異体も存在するが、これらの生理機能は不明なままである<ref name=Pasternak2013><pubmed>24076545</pubmed></ref>。近年では、特定のスプライス変異体を標的とするリガンドも報告されてきている<ref name=Mizoguchi2013><pubmed>23623932</pubmed></ref><ref name=Mizoguchi2011><pubmed>21047509</pubmed></ref>。 | OPRM1遺伝子には現在までに、19 個の[[エクソン]]に基づく34種類の[[スプライス変異体]]の存在が報告されている <ref name=Pasternak2013><pubmed>24076545</pubmed></ref>。発見された変異体の大部分は,7回細胞膜貫通構造を持つ受容体であるが, 中にはエクソン1が欠損した6回細胞膜貫通構造を持つものも見いだされている。エクソン2および3が欠損する、あるいは、エクソンの途中に[[停止コドン]]が存在することにより結果的に1回細胞膜貫通構造となってしまう変異体も存在するが、これらの生理機能は不明なままである<ref name=Pasternak2013><pubmed>24076545</pubmed></ref>。近年では、特定のスプライス変異体を標的とするリガンドも報告されてきている<ref name=Mizoguchi2013><pubmed>23623932</pubmed></ref><ref name=Mizoguchi2011><pubmed>21047509</pubmed></ref>。 | ||
また薬理学的にはμ受容体がμ1、2、3、またδ受容体がδ1、2に細分されるとされてきたが、クローニングの結果からは、それぞれ単一遺伝子であることがわかっている。これらのサブタイプが生じる仕組みは未だ明らかにされていないが、選択的スプライシング、受容体二量体化、他の受容体/シグナル伝達分子との相互作用、これらの組み合わせなどが考えられる<ref name=Dietis><pubmed> 21613279</pubmed></ref>。 | |||
{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
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| 6q24-q25 || 1p36.1-p34.3 || 8q11.2 || 20q13.33 | | 6q24-q25 || 1p36.1-p34.3 || 8q11.2 || 20q13.33 | ||
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! | ! UniProt | ||
| | | [https://www.uniprot.org/uniprotkb/P35372/entry P35372] || [https://www.uniprot.org/uniprotkb/P41143/entry P41143] || [https://www.uniprot.org/uniprotkb/P41145/entry P41145] || [https://www.uniprot.org/uniprotkb/P41146/entry P41146] | ||
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! mRNAサイズ (kb) | ! mRNAサイズ (kb) | ||
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! タンパク質サイズ (アミノ酸) | ! タンパク質サイズ (アミノ酸) | ||
| 398 (齧歯類) <br> | | 398 (齧歯類) <br>400 (ヒト) ||372 ||380 ||367 (齧歯類)<br>370 (ヒト) | ||
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! 内在性リガンド | ! 内在性リガンド | ||
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中枢神経系全体および末梢臓器に存在する神経や[[侵害受容線維]]である[[C線維]]終末部に局在する。リガンドの結合による[[膜電位]]依存性のカルシウムチャネルの機能抑制、疼痛伝達物質(サブスタンスPなど)の放出抑制によって鎮痛効果を示す。[[中脳水道周囲灰白質]]、[[青斑核]]、[[延髄吻側腹内側部]]にも高濃度で存在する <ref name=Valentino2018><pubmed>30250308</pubmed></ref>。一方、[[Tリンパ球]]などの[[免疫]]系細胞の細胞表面にも発現することが知られており、免疫調節への関与も示唆されている。 | 中枢神経系全体および末梢臓器に存在する神経や[[侵害受容線維]]である[[C線維]]終末部に局在する。リガンドの結合による[[膜電位]]依存性のカルシウムチャネルの機能抑制、疼痛伝達物質(サブスタンスPなど)の放出抑制によって鎮痛効果を示す。[[中脳水道周囲灰白質]]、[[青斑核]]、[[延髄吻側腹内側部]]にも高濃度で存在する <ref name=Valentino2018><pubmed>30250308</pubmed></ref>。一方、[[Tリンパ球]]などの[[免疫]]系細胞の細胞表面にも発現することが知られており、免疫調節への関与も示唆されている。 | ||
====生理作用 ==== | ====生理作用 ==== | ||
MORの活性化は激しい痛みを強力に抑制することから、術後および[[癌性疼痛]]管理の主なターゲットとされている <ref name=Zollner2007><pubmed>17087119</pubmed></ref>。オピオイド性の鎮痛薬の多くはMORに対して強く結合するものである。また、MORは[[報酬]]処理でも中心的な役割を果たし<ref name=LeMerrer2009><pubmed>19789384</pubmed></ref>、[[依存性行動]]における主な要因となるなど、臨床的に有用なオピオイドと乱用されるオピオイドの鎮痛特性と依存性の両方を媒介すると考えられている。受容体の中でもさらに鎮痛や[[多幸感]]などに関与する[[μ1受容体]]と[[呼吸]]抑制や[[掻痒]]感、鎮静、依存性形成などに関与する[[μ2受容体]] | MORの活性化は激しい痛みを強力に抑制することから、術後および[[癌性疼痛]]管理の主なターゲットとされている <ref name=Zollner2007><pubmed>17087119</pubmed></ref>。オピオイド性の鎮痛薬の多くはMORに対して強く結合するものである。また、MORは[[報酬]]処理でも中心的な役割を果たし<ref name=LeMerrer2009><pubmed>19789384</pubmed></ref>、[[依存性行動]]における主な要因となるなど、臨床的に有用なオピオイドと乱用されるオピオイドの鎮痛特性と依存性の両方を媒介すると考えられている。受容体の中でもさらに鎮痛や[[多幸感]]などに関与する[[μ1受容体]]と[[呼吸]]抑制や[[掻痒]]感、鎮静、依存性形成などに関与する[[μ2受容体]]が存在するが、分子生物学的な説明はついていない。[[μ3受容体]]というものも報告されているが <ref name=Cadet2003><pubmed>12734358</pubmed></ref>、その機能はよく分かっていない。 | ||
====細胞内動態 ==== | ====細胞内動態 ==== | ||
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====生理作用 ==== | ====生理作用 ==== | ||
[[抗不安作用]]、[[抗うつ作用]]、身体・精神依存、あるいは、MORより作用が弱いが鎮痛にも関与している事が知られている。DOR作動薬の作用は拮抗薬[[7-ベンジリデンナルトレキソン]]([[BNTX]])により遮断される[[δ1型]]と拮抗薬[[ナルトリンドール]]([[NTB]])によって拮抗される[[δ2型]]の二つに分けられるとする報告はあるが<ref name=Sofuoglu1993><pubmed>8383271</pubmed></ref><ref name=Thorat1997><pubmed>9399992</pubmed></ref> | [[抗不安作用]]、[[抗うつ作用]]、身体・精神依存、あるいは、MORより作用が弱いが鎮痛にも関与している事が知られている。DOR作動薬の作用は拮抗薬[[7-ベンジリデンナルトレキソン]]([[BNTX]])により遮断される[[δ1型]]と拮抗薬[[ナルトリンドール]]([[NTB]])によって拮抗される[[δ2型]]の二つに分けられるとする報告はあるが<ref name=Sofuoglu1993><pubmed>8383271</pubmed></ref><ref name=Thorat1997><pubmed>9399992</pubmed></ref>、分子生物学的な説明はなされていない。 | ||
====細胞内局在 ==== | ====細胞内局在 ==== | ||