「成長円錐」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
1,032 バイト追加 、 2012年4月11日 (水)
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
89行目: 89行目:
=== 成長円錐の旋回運動を制御する細胞内シグナル経路  ===
=== 成長円錐の旋回運動を制御する細胞内シグナル経路  ===


成長円錐の運動性は細胞骨格や接着分子により規定されることは上述したが、成長円錐の前進速度に空間的な非対称性が生じれば、成長円錐は全体として旋回運動を呈することになる。実際に、軸索ガイダンス因子が制御する成長円錐の旋回運動にもRhoファミリー低分子量Gタンパク質、ADF/cofilin、Ena/Vasp、APCなどによる細胞骨格制御、CalpainやFAK、Srcチロシンキナーゼなどによる細胞接着制御が関与することが明らかにされている。
成長円錐の運動性は細胞骨格や接着分子により規定されることは上述したが、成長円錐の前進速度に空間的な非対称性が生じれば、成長円錐は全体として旋回運動を呈することになる。実際に、軸索ガイダンス因子が制御する成長円錐の旋回運動にもRhoファミリー低分子量Gタンパク質、ADF/cofilin、Ena/Vasp、APCなどによる細胞骨格制御、CalpainやFAK、Srcチロシンキナーゼなどによる細胞接着制御が関与することが明らかにされている。  


<br>=== 誘引-反発応答を制御する分子メカニズム


=== 誘引-反発応答を制御する分子メカニズム
軸索ガイダンスの分子メカニズムの研究の多くは、Pooのグループによって開発されたターニングアッセイと呼ばれる実験系を用いて行われている。この手法は、培養条件下でガラスピペットから分泌性ガイダンス因子をパルス状に放出し、成長円錐近傍にガイダンス因子の濃度勾配を人工的に作り出し、それに対する成長円錐の挙動を観察するものである。この手法は、軸索ガイダンス因子が誘導する誘引性-反発性旋回運動を一つの実験系で評価できるという点で優れている。
 
このターニングアッセイを用いた解析では、しばしば特定のシグナルカスケードを遮断すると誘引-反発の応答が逆転する現象が見られる。例えば、ネトリン-1及びBDNFの濃度勾配に対する成長円錐の誘引は、cAMPのアンタゴニストであるRp-cAMPsの投与により反発へと逆転する。このように、成長円錐の旋回運動の方向は様々な細胞内シグナル伝達経路が協調的に働き、複雑なクロストークの結果決定されると予想される。これは、生体内で成長円錐が様々な軸索ガイダンス因子のシグナルを受容しながらそのシグナルを統合し進行する経路を選択することを反映していると考えられる。ここでは、誘引-反発応答を制御するメカニズムについて概説する。  
軸索ガイダンスの分子メカニズムの研究の多くは、Pooのグループによって開発されたターニングアッセイと呼ばれる実験系を用いて行われている。この手法は、培養条件下でガラスピペットから分泌性ガイダンス因子をパルス状に放出し、成長円錐近傍にガイダンス因子の濃度勾配を人工的に作り出し、それに対する成長円錐の挙動を観察するものである。この手法は、軸索ガイダンス因子が誘導する誘引性-反発性旋回運動を一つの実験系で評価できるという点で優れている。このターニングアッセイでは特定のシグナルカスケードを遮断すると誘引-反発の応答が逆転する現象が見られ、成長円錐の旋回運動の方向は様々な細胞内シグナル伝達経路が協調的に働き、複雑なクロストークの結果決定されると予想される。これは、生体内で成長円錐が様々な軸索ガイダンス因子のシグナルを受容しながらそのシグナルを統合し進行する経路を選択することを反映していると考えられる。ここでは、誘引-反発応答を制御するメカニズムについて概説する。  


<br>
<br>
102行目: 102行目:
===== 環状ヌクレオチド  =====
===== 環状ヌクレオチド  =====


成長円錐内のcAMPおよびcGMPシグナルは、同一軸索ガイダンス因子に対する成長円錐の誘引-反発応答性を規定するものとして報告例が多い。  
成長円錐内のcAMPおよびcGMPシグナルは、同一軸索ガイダンス因子に対する成長円錐の誘引-反発応答性を規定するものとして報告例が多い。 上述のようにネトリン-1及びBDNFの濃度勾配に対する成長円錐の誘引は、cAMPシグナルの抑制により反発へと逆転する。また、軸索再生阻害因子として知られ軸索反発を誘導するMAGの濃度勾配に対する反発は、cAMPアゴニストであるsp-cAMPsの投与により誘引へと逆転する。逆に、cGMPのアゴニストである8-Br-cGMPの投与によりネトリン-1による誘引が反発へと逆転する報告もあり、多くの軸索ガイダンス因子に共通する現象としてcAMP/cGMPシグナルにより成長円錐の旋回方向が決定されると考えられている。
cAMPやcGMPの濃度は細胞が接着する基質によって変化するが、
 
cAMP/cGMP濃度比は様々な条件で決定される。


===== 細胞内カルシウムシグナル  =====
===== 細胞内カルシウムシグナル  =====


ケージドカルシウム光解離法を用いて、成長円錐内に局所的なカルシウムシグナルを励起すると、成長円錐の旋回運動を誘導することができる。また、様々な軸索ガイダンス因子の濃度勾配に遭遇した成長円錐内で非対称なカルシウムイオン濃度上昇が観察されること、成長円錐内のカルシウムシグナルを遮断すると成長円錐の誘引-反発応答が消失することから、局所的なカルシウムシグナルは誘引性、反発性を問わず軸索ガイダンスシグナルの中心的役割を担っていると考えられている。  
ケージドカルシウム光解離法を用いて、成長円錐内に局所的なカルシウムシグナルを励起すると、成長円錐の旋回運動が誘導される。また、様々な軸索ガイダンス因子の濃度勾配に遭遇した成長円錐内で非対称なカルシウムイオン濃度上昇が観察されること、成長円錐内のカルシウムシグナルを遮断すると成長円錐の誘引-反発応答が消失することから、局所的なカルシウムシグナルは誘引性、反発性を問わず軸索ガイダンスシグナルの中心的役割を担っていると考えられている。  


成長円錐の誘引、反発という全く逆の応答の両方にカルシウムシグナルが関与することは非常に興味深く、カルシウムシグナルによる誘引-反発の決定機構として、現在2つのモデルが提唱されている。  
成長円錐の誘引、反発という全く逆の応答の両方にカルシウムシグナルが関与することは非常に興味深く、カルシウムシグナルによる誘引-反発の決定機構として、現在2つのモデルが提唱されている。  
161

回編集

案内メニュー