「受容野」の版間の差分

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 視細胞からの入力を受け取る双極細胞(bipolar cell)や次の段階に位置する網膜神経節細胞(retinal ganglion cell)は、それぞれ次の2つのタイプのものがある。第1のものは、受容野の中心領域(center)に明るい光を照射したときに興奮応答し、暗い光を照射したとき(あるいは明るい光をオフしたとき)に抑制応答するもので、ON中心型(ON-center type)と呼ばれる。第2のものは、暗い光に興奮し明るい光に抑制を受けるものでOFF中心型(OFF-center type)とよばれる。いずれのタイプも、中心領域の周囲に光を照射したときには、中心領域と逆の応答をする。すなわち、ON中心型細胞は周辺部(surround)に明るい光を受けたときに抑制を受け、暗い光を受けたときには興奮応答する。またOFF中心型細胞は、周辺部では明るい光に興奮、暗い光に抑制応答がみられる。そこで、前者の受容野構造をON中心OFF周辺型(ON-center OFF-surround)とよび(図2A)、逆のタイプをOFF中心ON周辺型(OFF-center ON-surround)とも呼んでいる(図2B)。中心領域と周辺領域は同心円状に配置しており、2つの領域が逆の反応を示すことからこのような受容野構造を中心周辺拮抗型(antagonistic center-surround)とぶ。このような構造をもつ細胞は、図2Cのように2次元のサイン波刺激でテストしたとき、明るい光がON領域に、暗い光がOFF領域に入るときには反応するが(図2C上)、光が一様に入るときには(図2C下)ほとんど反応しないことから、明暗コントラストのエッジ幅や位置の情報を伝達していると捉えることができる。  
 視細胞からの入力を受け取る双極細胞(bipolar cell)や次の段階に位置する網膜神経節細胞(retinal ganglion cell)は、それぞれ次の2つのタイプのものがある。第1のものは、受容野の中心領域(center)に明るい光を照射したときに興奮応答し、暗い光を照射したとき(あるいは明るい光をオフしたとき)に抑制応答するもので、ON中心型(ON-center type)と呼ばれる。第2のものは、暗い光に興奮し明るい光に抑制を受けるものでOFF中心型(OFF-center type)とよばれる。いずれのタイプも、中心領域の周囲に光を照射したときには、中心領域と逆の応答をする。すなわち、ON中心型細胞は周辺部(surround)に明るい光を受けたときに抑制を受け、暗い光を受けたときには興奮応答する。またOFF中心型細胞は、周辺部では明るい光に興奮、暗い光に抑制応答がみられる。そこで、前者の受容野構造をON中心OFF周辺型(ON-center OFF-surround)とよび(図2A)、逆のタイプをOFF中心ON周辺型(OFF-center ON-surround)とも呼んでいる(図2B)。中心領域と周辺領域は同心円状に配置しており、2つの領域が逆の反応を示すことからこのような受容野構造を中心周辺拮抗型(antagonistic center-surround)とぶ。このような構造をもつ細胞は、図2Cのように2次元のサイン波刺激でテストしたとき、明るい光がON領域に、暗い光がOFF領域に入るときには反応するが(図2C上)、光が一様に入るときには(図2C下)ほとんど反応しないことから、明暗コントラストのエッジ幅や位置の情報を伝達していると捉えることができる。  


[[Image:RetinalGanglisonCell.png|432px]]<br> 中心周辺拮抗型の受容野構造は2つのガウス関数の差分であるDOG(Difference of Gaussian)関数で表すことができる(図2A, Bの下段)。また線形性をもつために、細胞の応答は入力刺激とDOG関数の線形畳み込みで近似できる。ただし、このような近似が十分に成り立つ細胞とそうでない細胞が存在し、前者をX細胞、後者をY細胞という。  
[[Image:RetinalGanglisonCell.png|600px]]<br> 中心周辺拮抗型の受容野構造は2つのガウス関数の差分であるDOG(Difference of Gaussian)関数で表すことができる(図2A, Bの下段)。また線形性をもつために、細胞の応答は入力刺激とDOG関数の線形畳み込みで近似できる。ただし、このような近似が十分に成り立つ細胞とそうでない細胞が存在し、前者をX細胞、後者をY細胞という。  


 LGNの受容野構造は網膜神経節細胞とほぼ同一であり、中心周辺の同心円構造をもつ。これは個々のLGNニューロンが1つの網膜神経節細胞からのみ投射を受けることで、その反応特性が形成されているためである。  
 LGNの受容野構造は網膜神経節細胞とほぼ同一であり、中心周辺の同心円構造をもつ。これは個々のLGNニューロンが1つの網膜神経節細胞からのみ投射を受けることで、その反応特性が形成されているためである。  
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=== 第一次視覚野(V1野)でみられる受容野構造  ===
=== 第一次視覚野(V1野)でみられる受容野構造  ===


 網膜神経節細胞あるいはLGNの細胞に細長いスリット光を呈示するとき、その向き(方位)を変えても反応は変化しない。このことは、これらの細胞の受容野構造が同心円状であることから予想できる。これにたいし、第一次視覚野の大部分の細胞はスリット光が特定の方位を向くときにのみ選択的に反応する。この方位選択性(orientation selectivity)と呼ばれる特性をもつ細胞の古典的受容野構造は以下の2種類のものがある。1つは明るい光に興奮応答するON領域と暗い光に応答するOFF領域が隣あって同じ向きに並んだ構造であり、このような構造をもつ細胞を単純型細胞(simple cell)と呼ぶ(図3A)。もう1種類はON領域とOFF領域が重なりあった細胞でこれを複雑型細胞(complex cell)と呼ぶ(図3C)。
 網膜神経節細胞あるいはLGNの細胞に細長いスリット光を呈示するとき、その向き(方位)を変えても反応は変化しない。このことは、これらの細胞の受容野構造が同心円状であることから予想できる。これにたいし、第一次視覚野の大部分の細胞はスリット光が特定の方位を向くときにのみ選択的に反応する。この方位選択性(orientation selectivity)と呼ばれる特性をもつ細胞の古典的受容野構造は以下の2種類のものがある。1つは明るい光に興奮応答するON領域と暗い光に応答するOFF領域が隣あって同じ向きに並んだ構造であり、このような構造をもつ細胞を単純型細胞(simple cell)と呼ぶ(図3A)。もう1種類はON領域とOFF領域が重なりあった細胞でこれを複雑型細胞(complex cell)と呼ぶ(図3B)。


[[Image:V1RF.png|500px]]<br>  単純型細胞の古典的受容野は、X細胞の受容野と同様、強い線形性を示し、自身のON領域、OFF領域ともっともよくあった刺激を最適とする。たとえば2次元サイン波を刺激とする場合、その明暗がON領域、OFF領域とマッチするような方位、空間周波数(spatial frequency)(=周期の逆数)、位相(phase)をもつものが最適となる(図3A参照)。この仕組みが単純型細胞の方位選択性、空間周波数選択性、位相選択性の基盤になっている。ON、OFF領域が伸びる軸、大きさ、位置関係は細胞に様々であり(図3B)、したがって単純型細胞は全体として様々な方位、空間周波数、位相に選択性を示す。単純型細胞の古典的受容野は線形性が強く、視覚刺激にたいする応答は、その受容野構造と刺激波形の線形畳み込み(linear convolution)を行った結果に、0以下の信号を出力しない半波整流(half rectification)をとおすことで十分予測できる。  
[[Image:V1RF.png|600px]]<br>  単純型細胞の古典的受容野は、X細胞の受容野と同様、強い線形性を示し、自身のON領域、OFF領域ともっともよくあった刺激を最適とする。たとえば2次元サイン波を刺激とする場合、その明暗がON領域、OFF領域とマッチするような方位、空間周波数(spatial frequency)(=周期の逆数)、位相(phase)をもつものが最適となる(図3A参照)。この仕組みが単純型細胞の方位選択性、空間周波数選択性、位相選択性の基盤になっている。ON、OFF領域が伸びる軸、大きさ、位置関係は細胞に様々であり、したがって単純型細胞は全体として様々な方位、空間周波数、位相に選択性を示す。単純型細胞の古典的受容野は線形性が強く、視覚刺激にたいする応答は、その受容野構造と刺激波形の線形畳み込み(linear convolution)を行った結果に、0以下の信号を出力しない半波整流(half rectification)をとおすことで十分予測できる。  


 複雑型細胞も、単純型細胞と同程度の強い方位選択性や空間周波数選択性を示す。しかし、複雑型細胞は位相に感受性を示さず、受容野内部に入る刺激なら位置によらず同じ方位選択性、空間周波数選択性を示す。このような性質は複雑型細胞が単純型細胞から入力を受け取ることで出来上がると考えられている。この仕組みについては後述する。  
 複雑型細胞も、単純型細胞と同程度の強い方位選択性や空間周波数選択性を示す。しかし、複雑型細胞は位相に感受性を示さず、受容野内部に入る刺激なら位置によらず同じ方位選択性、空間周波数選択性を示す。このような性質は複雑型細胞が単純型細胞から入力を受け取ることで出来上がると考えられている。この仕組みについては後述する。  
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=== 単純型細胞の時空間受容野構造と運動方向選択性、両眼受容野構造  ===
=== 単純型細胞の時空間受容野構造と運動方向選択性、両眼受容野構造  ===


 単純型細胞の大半は物体の動きを検出するのに適した受容野構造をもつ。図5はそのような例である(元来時空間受容野構造は空間2次元+時間1次元の合計3次元の構造であるが、紙面で表すために、細胞の最適方位に沿って空間受容野を1次元につぶし横軸にとり、時空間の2次元で表している)。現在に向かって(図では下方に向かって)、実線で表すON領域、点線が表すOFF領域ともに左へとずれている。このような受容野構造は、線分状の刺激がその軸と直交する軸上で左へ動くとき多くの入力信号を受けることができ細胞を興奮させるが、右向きに動くときや、止まっているときにはあまり信号を受け取ることはできない。一方、このようなON領域、OFF領域の動きがみられない受容野構造も存在し、そのような細胞は方向選択性をもたない。運動方向選択性のある時空間受容野は、それをもたない受容野を適当に足し合わせることで作り出せることが知られている。
 単純型細胞の大半は物体の動きを検出するのに適した受容野構造をもつ。図5はそのような例(模式図)である(元来時空間受容野構造は空間2次元+時間1次元の合計3次元の構造であるが、紙面で表すために、細胞の最適方位に沿って空間受容野を1次元につぶし横軸にとり、時空間の2次元で表している)。現在に向かって(図では下方に向かって)、実線で表すON領域、点線が表すOFF領域ともに左へとずれている。このような受容野構造は、線分状の刺激がその軸と直交する軸上で左へ動くとき多くの入力信号を受けることができ細胞を興奮させるが、右向きに動くときや、止まっているときにはあまり信号を受け取ることはできない。一方、このようなON領域、OFF領域の動きがみられない受容野構造も存在し、そのような細胞は方向選択性をもたない。運動方向選択性のある時空間受容野は、それをもたない受容野を適当に足し合わせることで作り出せることが知られている。


 第一次視覚野細胞では視覚伝導路において左右両眼からの情報がはじめて収斂するため、多くの細胞が両眼に受容野をもつ。単純型細胞の左右眼の受容野構造は、向きや空間周波数は同じであるが、位相あるいは位置が異なる場合が多い。この位相あるいは位置のずれかたは細胞により様々である。単純型細胞は、このずれにより、奥行き知覚の手がかりとなる網膜上の両眼視差(binocular disparity)に感受性をもつことが知られており、この知覚に重要な役割を担っている。  
 第一次視覚野細胞では視覚伝導路において左右両眼からの情報がはじめて収斂するため、多くの細胞が両眼に受容野をもつ。単純型細胞の左右眼の受容野構造は、向きや空間周波数は同じであるが、位相あるいは位置が異なる場合が多い。この位相あるいは位置のずれかたは細胞により様々である。単純型細胞は、このずれにより、奥行き知覚の手がかりとなる網膜上の両眼視差(binocular disparity)に感受性をもつことが知られており、この知覚に重要な役割を担っている。  
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