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[[Image:Autophagy Fig1.jpg|thumb|350px|'''図1. オートファジーの過程'''<br> | [[Image:Autophagy Fig1.jpg|thumb|350px|'''図1. オートファジーの過程'''<br>飢餓などによりオートファジーが誘導されると、細胞質に出現した隔離膜が伸張し、細胞質のタンパク質やミトコンドリアを含みながら閉鎖することでオートファゴソームが形成される。オートファゴソームの外膜とリソソームが融合し、オートファゴソームの内膜と取り囲まれた細胞質成分が分解される。オートファジーが生じると、主要な産物として、細胞内タンパク質由来のアミノ酸が供給される。]] | ||
オートファジーは主要な細胞内分解機構の一つであり、[[細胞質]]成分を[[リソソーム]]に輸送し分解する現象である<ref name="ref1"><pubmed> 22078875 </pubmed></ref><ref name="ref2"><pubmed> 21801009 </pubmed></ref>。これまでに、マクロオートファジー、シャペロン介在性オートファジー、マイクロオートファジーの3タイプが報告されている。単に「オートファジー」という場合は、主にマクロオートファジーのことを指す。(以下、オートファジーと表記する。) | |||
== オートファジーの過程 == | |||
オートファジーでは、まず細胞質中に隔離膜(isolation membrane/phagophore)が出現する。この隔離膜が細胞質成分を取り囲み、二重膜のオートファゴソーム(autophagosome)を形成する。その後、オートファゴソームはリソソームと融合し、オートファゴソームの内膜と隔離した細胞質成分はリソソーム由来の酵素により分解され、一重膜のオートリソソームとなる(図1)。この一連の過程により産生された[[アミノ酸]]などの分解産物は、[[タンパク質合成]]などに再利用される<ref name="ref1" /><ref name="ref2" />。元来、オートファジーは非選択的な分解機構だと考えられていたが、近年、[[ミトコンドリア]](マイトファジー)や[[ペルオキシソーム]](ペキソファジー)などの[[オルガネラ]]、細胞内[[細菌]](ゼノファジー)、可溶性タンパク質[[p62]] (sequestosome 1 (SQSTM1))などを、選択的に分解していることが明らかになってきている<ref name="ref3"><pubmed> 20811356 </pubmed></ref>。 | |||
シャペロン介在性オートファジーでは、細胞質中のタンパク質が[[熱ショックタンパク質|Hsc70]]シャペロンタンパク質により認識されて、高次構造がほどかれた状態でリソソーム膜を通過し、リソソーム内で分解される。Hsc70の基質認識配列として、KFERQ様モチーフが知られている<ref><pubmed> 20176123 </pubmed></ref>。 | |||
マイクロオートファジーでは、リソソーム膜が内側に陥入して細胞質成分を直接飲み込み、リソソーム内に取り込む。最近では、マイクロートファジーとMultivesicular body 形成との類似点が指摘されている<ref><pubmed> 21238931 </pubmed></ref>。 | マイクロオートファジーでは、リソソーム膜が内側に陥入して細胞質成分を直接飲み込み、リソソーム内に取り込む。最近では、マイクロートファジーとMultivesicular body 形成との類似点が指摘されている<ref><pubmed> 21238931 </pubmed></ref>。 | ||
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== オートファジーの分子機構<ref name="ref2" /><ref><pubmed> 14536056 </pubmed></ref><ref><pubmed> 19491929 </pubmed></ref> == | == オートファジーの分子機構<ref name="ref2" /><ref><pubmed> 14536056 </pubmed></ref><ref><pubmed> 19491929 </pubmed></ref> == | ||
これまでに、[[酵母]]遺伝学を用いた解析から、35の[[オートファジー関連分子]](Atg分子)が同定されている。これらのうち、Atg1-10, 12-14, 16-18, 29, 31がオートファゴソームの形成に必須であり、[[哺乳類]]では、そのほとんどの相同分子が保存されている。Atg分子は機能的な役割から、[[Atg1]]/[[ULK]]複合体、クラスIII [[PI3キナーゼ]](phosphatidylinositol 3-kinase)複合体、[[Atg9]]、[[Atg2]]-18複合体、[[Atg12]]-[[Atg5]]結合体, [[Atg8]]/[[LC3-PE]]結合体に分けられる(図2)。 | |||
=== オートファジーの誘導 === | === オートファジーの誘導 === | ||
オートファジーは、主に栄養飢餓により誘導される。細胞内の栄養シグナルはmammalian target of rapamycin([[mTOR]])を介した[[リン酸化]]シグナルにより厳密に制御されており、豊栄養条件下では[[インスリン]]やアミノ酸によりmTORが活性化され、タンパク合成や細胞成長が促進されている。一方で、mTORによりオートファジー活性は低い状態に抑制されている。栄養飢餓時には、このmTORシグナルが減弱することによりオートファジーが活性化される。mTOR阻害剤である[[ラパマイシン]]は、オートファジーを誘導する薬剤としてよく用いられる。 | |||
=== 隔離膜の形成=== | === 隔離膜の形成=== | ||
オートファジーの最も初期のステップでは、タンパク質リン酸化酵素であるAtg1/ULK複合体(哺乳類では[[ULK]]-[[Atg13]]-[[FIP200]]-[[Atg101]]で構成される)が重要な役割を果たす。このULK複合体は栄養依存的にmTORに結合し、[[リン酸化]]を受け、負に制御されている。栄養飢餓条件下では、ULK複合体がmTORから外れることにより活性化し、[[小胞体]]膜上に局在化する。 | |||
クラスIII | クラスIII PI3キナーゼ複合体(哺乳類では[[Beclin1]]-[[Atg14]]-[[Vps15]]-[[Vps34]]で構成される)は、ULK複合体依存的に小胞体膜上へ局在化する。クラスIII PI3キナーゼ複合体は、[[ホスファチジルイノシトール3-リン酸]](phosphatidylinositol 3-phosphate(PI (3) P))を産生することで、下流で機能するPI (3) P結合タンパク質[[Atg18]](哺乳類では[[WIPI]])などのオートファゴソーム形成起点への局在化を促す。このクラスIII PI3キナーゼ複合によるPI (3) Pの産生は、オートファゴソームの前駆体である隔離膜の形成に必須である。 オートファジーを阻害することで知られている[[ワルトマニン]]や[[3-メチルアデニン]]は、このPI3キナーゼ活性を阻害することにより、オートファジーを抑制する。 | ||
=== 隔離膜の伸長、およびオートファゴソームの形成=== | === 隔離膜の伸長、およびオートファゴソームの形成=== | ||
隔離膜の伸長には, 2つのユビキチン様結合システムが必要である。1つは、Atg12とAtg5が共有結合するAtg12-Atg5システムである。もう1つは、Atg8 (哺乳類ではLC3) | 隔離膜の伸長には, 2つのユビキチン様結合システムが必要である。1つは、Atg12とAtg5が共有結合するAtg12-Atg5システムである。もう1つは、Atg8 (哺乳類ではLC3) と[[リン脂質]]である[[ホスファチジルエタノールアミン]] (PE) が共有結合するLC3-PEシステムである。 | ||
Atg12は[[E1酵素]][[Atg7]]、[[E2酵素]][[Atg10]]を介して、Atg5と共有結合しAtg12—Atg5を形成する。その後、Atg12-Atg5結合体は[[Atg16L1]]と大きな複合体を形成し、隔離膜の外側に局在する。隔離膜が閉じてオートファゴソームになるとき、Atg12-Atg5-Atg16L1は膜から離脱する。 | |||
一方、LC3はホスファチジルエタノールアミン化されることにより、膜に局在化するようになる。前駆体LC3は合成後、まず、[[システインプロテアーゼ]]である[[Atg4]](A-Dの4種類存在する)によりC末端が切断され、[[グリシン]]残基を露出したLC3-I formになる。LC3-IはE1酵素Atg7、E2酵素[[Atg3]]を介して、最終的にはPEと共有結合し、LC3-PE(LC3-II form)になる。このとき、Atg12-Atg5はE3様の働きをして、LC3-PE形成に必須な役割を果たしている。 | |||
LC3-PE は、隔離膜の伸長および閉じる過程に必須の役割を果たしており、隔離膜だけでなく、オートファゴソーム膜にも局在する。そのため、オートファゴソームマーカーとして頻用されている。オートファジーが誘導される条件下では細胞質中におけるLC3を含む小構造体の増加が観察される。しかし、オートファゴソームの蓄積はリソソームの阻害によっても引き起こされるため、オートファジー誘導とリソソーム阻害のどちらに起因するのかを区別する必要がある。 | LC3-PE は、隔離膜の伸長および閉じる過程に必須の役割を果たしており、隔離膜だけでなく、オートファゴソーム膜にも局在する。そのため、オートファゴソームマーカーとして頻用されている。オートファジーが誘導される条件下では細胞質中におけるLC3を含む小構造体の増加が観察される。しかし、オートファゴソームの蓄積はリソソームの阻害によっても引き起こされるため、オートファジー誘導とリソソーム阻害のどちらに起因するのかを区別する必要がある。 | ||
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=== 選択的基質認識<ref name="ref3" />=== | === 選択的基質認識<ref name="ref3" />=== | ||
一部のタンパク質は、オートファゴソームにより選択的に認識される。選択的基質のうち、p62(sequestosome 1 (SQSTM1))は最も解析が進んでいるものの一つである。p62はLC3 結合ドメイン(LIR motif)とユビキチン結合(UBA) | 一部のタンパク質は、オートファゴソームにより選択的に認識される。選択的基質のうち、p62(sequestosome 1 (SQSTM1))は最も解析が進んでいるものの一つである。p62はLC3 結合ドメイン(LIR motif)とユビキチン結合(UBA)ドメインを有するため、ユビキチン化された凝集体やミトコンドリアなどと結合し、オートファゴソームによる分解を促すユビキチン受容体としての役割が明らかになりつつある。p62はオートファジー阻害により、細胞内に蓄積することから、オートファジー活性の指標としても用いられる。p62と同様にアダプター分子としての役割を果たしているものとして、[[NBR1]]、[[NDP52]]、[[optineurin]]なども報告されている。 | ||
=== タンパク質の分解とオートファジーの収束=== | === タンパク質の分解とオートファジーの収束=== | ||
以上の一連の反応により、形成されたオートファゴソームは、速やかにリソソームと融合し、オートファゴソームの内膜とともに隔離した細胞質成分が分解される。[[バフィロマイシン]]や[[クロロキン]]は、リソソームの機能阻害により、オートファジー依存的なタンパク質の分解を阻害する。オートファジーが生じると、主要な産物として、細胞内タンパク質由来のアミノ酸が供給される。細胞質中に十分量のアミノ酸が供給されると、mTORが活性化され、オートファジーは不活化する。このように、オートファジーはアミノ酸シグナルを介して、負の[[フィードバック制御]]を受けている。 | |||
== オートファジーの生理学的意義と病理学的意義 == | == オートファジーの生理学的意義と病理学的意義 == | ||
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=== 栄養飢餓におけるアミノ酸供給<ref name="ref1" />=== | === 栄養飢餓におけるアミノ酸供給<ref name="ref1" />=== | ||
''Atg''遺伝子欠損マウス(''Atg3<sup>-/-</sup>、Atg5<sup>-/-</sup>、Atg7<sup>-/-</sup>、Atg9<sup>-/-</sup>、Atg16L1''<sup>''-/-''</sup>)は、生後まもなく死亡する。''Atg5'' | ''Atg''遺伝子欠損マウス(''Atg3<sup>-/-</sup>、Atg5<sup>-/-</sup>、Atg7<sup>-/-</sup>、Atg9<sup>-/-</sup>、Atg16L1''<sup>''-/-''</sup>)は、生後まもなく死亡する。''Atg5''遺伝子欠損[[マウス]]を用いた解析では、組織、および血漿中のアミノ酸レベルが減少しており、出生直後の飢餓状態では、オートファジーによるアミノ酸供給が生存に必須であることが示唆されている。飢餓応答としての役割は、これまで調べられたモデル生物([[酵母]]、[[線虫]]、[[ショウジョウバエ]]、マウス)において共通に報告されており、オートファジーの最も基本的な生理的役割と考えられる。 | ||
=== 細胞内タンパク質の品質管理<ref name="ref1" /><ref><pubmed> 21087849 </pubmed></ref>=== | === 細胞内タンパク質の品質管理<ref name="ref1" /><ref><pubmed> 21087849 </pubmed></ref>=== | ||
栄養が豊富な条件下においても、基底状態レベルのオートファジーが生じており、不要なタンパク質を分解している。実際、組織特異的オートファジー不全マウスを用いた解析では、ほとんどの組織でp62や[[ユビキチン]]陽性の凝集体が観察される。特に、あまり細胞分裂しない神経細胞や肝細胞では、オートファジーを介したタンパク質分解の役割が大きく、神経特異的オートファジー不全マウスでは神経変性が生じ、肝特異的オートファジー不全マウスでは肝肥大や[[肝炎]]、[[腫瘍]](良性)が観察されるようになる。興味深いことに、ヒト神経疾患([[アルツハイマー病]]、[[パーキンソン病]]、[[ハンチントン病]]、[[筋萎縮性側索硬化症]]など)の多くで、構造的に類似した凝集体が観察されている。そのため、ラパマイシン誘導体などのオートファジー活性化剤による凝集体蓄積の抑制、[[神経変性疾患]]の発症抑制に期待が集まっている。しかしながら、オートファジーの異常がこれらの疾患の直接の原因であるかどうか、直接的な証拠は得られていない。 | |||
=== 不良ミトコンドリアの分解 (細胞内オルガネラの品質管理)<ref><pubmed> 21179058 </pubmed></ref>=== | === 不良ミトコンドリアの分解 (細胞内オルガネラの品質管理)<ref><pubmed> 21179058 </pubmed></ref>=== |